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4.  協力要請 1

 中に出現した怪物の情報が各騎士に共有され、準備は着々と進められた。

 それでも、レンリの中から不安は消えなかった。


 それは、あの怪物が倒せないということに寄るものが大きい。

 攻撃して一時的に動きを止めることは可能だが、それは相手の数を増やす要因にもなってしまう。

 そうして増えた敵が、更に取り込んだ者の動きを真似るとなっては、最悪中には騎士の動きを摸倣した敵が群を成して存在している可能性すらある。

 そこに突入することは、悪戯に命を散らすことと同義ではないか。

 本当に自分達だけの力で足りるのか。

 中を確認できない以上全て非現実的な議論ではあるが、無視することは憚られた。


 故に、レンリはオルフェと再度話し合う時間を作った。


「――エジダイハに援助を?」

「はい。エジダイハの騎士の力を借りることが出来れば、これ以上に心強いことはありません」

「それは、そうですが……」

「貴方方のことを頼りないと思っているわけではないのです。ただ、不安なのです。アレを見ているのは現状私しかいませんし、その生態を全て理解してお伝えできているわけでもありません。情報不足が原因で不測の事態が起こった時に、私が耐えられないのです」


 レンリは今になってテイトの不安を切に理解した。

 彼がどれだけの重圧に耐えて指導者としてあの場に立っていたのか。

 上に立つ教育を受けてきた自分でさえ、死と隣り合わせの状況に直面して、一つの決断に慎重にならざるを得ないと言うのに、彼は一般家庭の出身であったにも関わらず、遺憾なくそのリーダーシップを発揮していたように思う。

 レンリには彼のように決断する勇気は備わっていない。

 況してや、難しい選択をする勇気もない。


「確かに、エジダイハの騎士の力を借りられれば、それに越したことはないでしょうが」

「エジダイハの現王はツェリ様の弟君であらせられます。ツェリ様も結界の中に取り残されていることを知れば、きっと協力をしていただけるはずです」

「なるほど」


 レンリは背後に控えるリーシェに視線を送った。

 それを受けて、リーシェは一枚の紙をオルフェの手元へと差し出した。


「既に援助を依頼する文はしたためております。必要あらば城内に潜む者の詳細を伝えに私が出向く旨も記載しております。……オルフェ、どうか私に貴方方の安全を確かなものとさせてください」


 オルフェは難しい表情で文に目を通していたが、やがて眦を緩めてレンリを見つめた。


「レンリ様にそのように祈られて断れる者はおりません。急ぎ、騎士の一人に文を届けさせましょう」

「ありがとう、オルフェ」

「我々のことを思ってのことでしょう。お礼を言わなければいけないのはこちらの方です」


 レンリはホッと息を吐き出した。

 他国を巻き込むのは褒められたことではないが、ツェリがいるため全く無関係な国というわけでもない。

 ツェリを王妃に迎えてからは交流が盛んであるし、アルデラやツェリと共にエジダイハには何度も訪れているため、レンリにとっても顔見知りが多い国である。

 アランも巻き込まれているため援助先としてストラトスも考えはしたが、婚約者という立場なだけで成立はしていないし、そもそもこのような状況下においては婚約の継続すら危ぶまれる。

 結果、軍事力的に信頼に足るエジダイハに天秤は傾いたのだ。


「ストラトスにも文を書いております。アラン様の無事を確かめるために、結界の中への侵入を試みますという内容です。こちらもお願いできますか」

「勿論です」


 オルフェはリーシェからもう一枚の封筒を預かると、丁重な動作で胸にしまい込んだ。


 何故客人であるアランを結界の外に出さなかったのか。

 アルデラのことだから何か理由があるのだろうが、レンリにはまだ何も分からなかった。

 前向きに考えるのであれば、出入り口までアレが歩き回っているという情報は得たため、無理して結界の外に出るよりも、立て籠もって解決を待つ方が安全だと判断したのかも知れない。

 幸いなことに、城の地下には備蓄がたっぷりとあるため、暫く衣食住に困ることもないだろう。

 ただ、アレは扉の隙間さえ通り抜けると聞いていたが、その辺りは大丈夫なのだろうか。


「レンリ様がおいでになって良かった。やっと問題解決の兆しが見えそうです」


 その言葉はレンリの胸に重たくのしかかった。

 自分が記憶を失いさえしなければ、これほどまでに状況は悪化しなかったのではないだろうか。

 いや、それは過大評価か。

 結局権利譲渡まで待つのであれば、結果は変わらないはずである。


 悶々と考えたところで、全ては過ぎ去ったこと。

 調べる術などありはしない。


 そうしてエジダイハまで急ぎ届けて貰った書簡だが、驚くべき事に次の日にはもう返事が送られてきたのであった。


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