【星の行方 8】
乞われるように見つめられて、レンリは困り果ててしまった。
結界が張られるということが、対抗策がないことの表われであることは分かっていた。
セレシェイラはあの正体不明な生物に対して、現時点において為す術なしと判断したのだ。
しかも、ホセの言うように不死の騎士になってしまったからこそ、ここが今とても危険な場所に成り果てたのだということも十分理解していた。
だからこそ、アルデラは脅威を外に出さないために早期の判断を下したのだ。
万が一にも国民を危険に晒すわけにはいかないから。
今後アルデラがどのような決断をするかはアルデラから直に教育を受けたレンリには少しだけ想像が付いた。
その中に、自分が逃げる選択は無い。
「……それは、できません」
ホセの失望したような顔を見たくなくて、レンリはアランに目を向けた。
「ただ、アラン様達がここを離れることには賛成です。ホセはお二人が安全に外へ出られるように支援してあげてください」
アランは衝撃を受けた様子でレンリとホセを交互に見つめた。
結界が発動することを知った時よりもホセがレンリに逃げるよう告げたことの方が、現在セレシェイラが置かれている状況についての彼の理解を深めたようである。
結界が発動されるまでにある僅かな時間的猶予は、ここを離れる決断をした者のためにある。
それはアラン達のような要人や、そもそも戦う術がない者を危険に巻き込まないために用意された最大限の譲歩の時間でもある。
無論、誰かを逃がすために時間を稼ぐと言うことは、その為に影で尽力する者がいるということでもある。
騎士達は結界が発動されるその時までアレが結界の外に出ないように対峙してくれているはずであり、レンリがその者達を置いて率先して逃げることは絶対にあり得ないことだった。
「……レンリ様」
「お願いします、ホセ」
ホセは微妙な表情を浮かべるのみで、なかなか返事をしようとはしなかった。
その心意を読み取りながらも、レンリとてホセの意見に従うわけにはいかない。
視界の端でロクスが青白い顔で小さく声を発した。
「でも、残ったら危険なんですよね」
「あの生き物の生態が分からないままならば、そうかもしれません」
「じゃあ、レンリ様もホセさんの言うとおり一緒にここを離れましょうよ。アルデラ陛下がいらっしゃるのだし、外から様子を見る者も必要なのでは?」
優しい人だと思った。
理由を付けてレンリを安置へと導こうとしてくれている。
しかし、アランが口を閉ざしたままでいることには気付かないようだ。
アランのように王に連なる者であれば、その判断の危うさを理解できるのであろう。
「ロクス様、色々考えてくださってありがとうございます。しかし、アルデラ様に万が一のことがあった場合、指揮権は私に移ることになりますからやはり離れるわけにはいきません。それに――」
レンリは無意識に左腕の紋章を撫でた。
レンリは自分の生死が国にとって然程重要ではないことを知っていた。
自分がいなくなったとしても、この紋章が次の者に引き継がれるだけなのだから。
紋章によって王が選ばれるとはそういうことなのだ。
引き継がれた者が成長するまでは現状のままアルデラが王政を行うだけであり、今と何ら変わりはない。
寧ろ、王政を長く続けている分まだ即位もしていないレンリの命よりも優先されるべきはアルデラの命である。
アルデラもレンリも守られるべき存在なのは違いないが、そのどちらかしか生きられないとしたら、選ばれるのは間違いなくアルデラだ。
「――有能な者も多いですから、今は策が無くても悲観することはありません」
レンリは安心させるように微笑んで見せた。
ロクスは少しだけその表情に色を戻したように見えたが、アランの表情は固いままだった。
「とにかく、お二人は早く外へ、」
時間は今こうしている間にも刻々と過ぎようとしている。
レンリが急かすように扉の方に向かって歩みを進めると、突然手が掴まれぐいっと後ろに引かれた。
予想だにしないことにそのまま倒れてしまうかと思ったが、その身体は引っ張られた時と同じくらいの強さでしっかりと支えられている。
目を丸くして振り向くと、泣きそうな顔のホセと目が合った。
「ホセ?」
「……お叱りなら、後でしっかり受けますから」
――今はただ、全てを忘れて
懇願する声色を聞きながら、レンリは少しの衝撃と共に真っ暗に染まる視界に抗えないまま意識を落とした。




