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【婚約 1】

こんにちは、あらかわです。

こちらは前作「神聖国 ―竜の名を冠する者―」の続きとなっていますが、前作を読んでいなくても分かるようにはしているつもりです。

それでも、もしかしたら途中で前作の登場人物の名前が出てしまうこともあるかもしれませんので、その時はどうぞなんとなくで読み進めてください。

今作を読んでもし、前作も気になる!と言う方がいらしたら、読んでくださったら喜びます。

「――縁談、ですか?」

「そなたももう十六だ。二年後には王位を継承するのだから、早めに相手を決めて身を固めなければならない。それは分かっているであろう」


 セレシェイラ国現王アルデラの問いかけに、レンリは是と返事をして頷いた。


「相手はストラトスの第二王子だ。あちらは血縁で王位を継ぐ故、既に第一王子の継承が決まっているそうだ。第二王子であれば、王政にも詳しい上に年の頃も同じだという。そなたの相手としてこれ以上相応しい者はない」


 向こうの国王とは既に話しがついている、と続けられればレンリに意見する余地など残っていなかった。

 できることと言えば、ただ深く頭を下げるのみである。


「第二王子のみの来訪になるだろうが、一ヶ月後にここで顔合わせを行う。その折に話がまとまれば、そなたが向こうへ訪問する日取りもある程度決めなければいけないだろう」

「はい、アルデラ様」


 アルデラはその壮年の顔に彫刻のような完璧な笑みを浮かべて一つ頷いた。

 その表情から、此度の呼び出しはこの縁談話の共有であったのだと察し、レンリは再度深く礼をしてから執務室を退出した。


 部屋の前には一年前にレンリの騎士となったホセが控えていた。

 自国に所属する他の騎士よりも若く、また体格も細身な青年だが、その実力は国一番と言っても過言ではない。

 それもそのはず、彼は優秀な兵士を数多輩出する軍事大国エジダイハに留学し、その中で尤も難関である軍事養成高等機関を卒業した実力者なのだ。


 自分の髪色とは正反対の真っ白な髪色を持つそんな彼が、しかし、自分と同じ紫色の瞳にやや緊張感を滲ませながら忠誠を捧げてくれたあの日のことはレンリの記憶にも新しい。


 ホセはレンリの姿を見留めた途端、真顔から一転柔和な笑みを浮かべた。


「随分と早いですね」

「えぇ」

「……内容は、お伺いしても大丈夫なものですか?」


 自室への道を辿りながら、レンリは数瞬考えた。

 人払いこそされていたが、口止めはされていない。

 一ヶ月後に相手方が来訪するのであれば、自分の騎士には伝えておくに然るべきであろう。


 レンリは軽く周囲を見回した。

 人影はない。

 歩く足音は自分とホセの分だけであるように思える。

 と言ってもレンリは気配に鋭いわけではないので、その判断が正しいかは分からない。


 レンリは徐に立ち止まり、少し後ろを歩いていたホセの方を振り返った。

 ホセは柔らかな表情のままレンリが話し出すのを待っている。


「縁談のお話を、いたしました」


 小さな声で告げたそれはきちんと彼の耳に届いたようで、レンリの目の前でホセは目を丸くした。


「それは……どなたの?」

「ふふ、私を呼んで他の方のお話はしないかと」


 聡いホセが動揺を見せるのが可笑しくて、レンリは口元を抑えて笑った。

 踵を返して歩き出すと、追いかけるような足音の後にすぐ真横から抑えた声が聞こえた。


「早急ではありませんか? 即位までまだ二年もあるというのに……」

「アルデラ様も即位前に前王からツェリ様を紹介されたとお伺いしました」

「それは、」

「それに、まだ正式に決まった訳ではありません。一ヶ月後に私とお相手の方の顔合わせを行い、それによって最終的な決定をなさるそうです」

「そんな他人事な、」


 彼の言葉を遮り、だから他言無用に、と告げるとホセは微妙な表情を浮かべた。

 自分よりも深刻に捉えている様子のホセが可笑しくてまた笑うと、ホセは何を思ったのか更に表情を苦くした。


「笑っている場合ですか? 御身のことですよ」

「私はアルデラ様が決めたことに従うだけですから」

「ご自分で選ぶことも可能でしょうに」


 レンリが困ったように見つめると、ホセは口を閉ざした。


 レンリは無意識に右手で自分の左腕を握った。

 そこには紋章が刻まれている。

 セレシェイラ国の王を選定するための紋章だ。


 竜が人間と決別したのは、一世紀程前の話だ。

 その際先祖である竜の一族達は大地を捨て、空に八つの国を作り、それぞれの国に独自の方法で王を据えたという。


 八つの国の内の一つであるここセレシェイラでは、身体に紋章が現れた者が次の王となるように定められていた。

 ただ、無知のままでは勿論国の運営などできないため、王位を継承する十八の齢まで俗世を離れて王城に籠もり運営を学ぶ決まりであった。


 レンリは生まれた時からその左腕に紋章を宿していた。

 故に、生まれてすぐに王城に連れて来られたレンリは自分の家族というものを知らない。

 たとえ、ある程度年齢を重ねてから紋章が現れたとしても、それまでの記憶は不要なものとして消されてしまうらしいので、それ自体は紋章に選ばれた時点で仕方のないことだと考えていた。


 国王は俗世と断った天上人でなければいけない、というのがこの国の考え方だからだ。

 現王アルデラを始め王城の者は皆レンリを次期国王として扱うし、現王アルデラも同じような道を歩んだと知れば、それが当然のことなのだと認識していた。


 しかし、ホセだけは何故かレンリに対する態度が他の者と違った。

 少しばかり過保護な騎士は、レンリの歩む道の選択肢を増やそうとしきりに語りかけてくる。

 王には不要だと言われた感情を呼び起こすような彼の言動は、嬉しいけれど困りもするというのが本音であった。


「……もし、お相手を受け入れられないようでしたらいつでも言ってください。貴女一人連れて逃げるぐらい、造作もありませんから」


 本気なのか冗談なのか、判断に困るほどの真剣な声音にレンリはどう返すべきか思案した。

 ホセは時折自分を試すような発言をする。

 逃げ道と呼ぶには過激な表現だが、それでもレンリはホセが優しいことは知っていた。

 だからこそ、レンリはそれを受け流した。


「そうならないのが一番だけれど」

 もしもの時はお願いと続けると、ホセは強張った顔を少しだけ緩めたように見えた。


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