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魔法使いの世界を旅する一年(改訂版)  作者: Zezilia Hastler
旅のはじまり
14/23

1日目 穏やかな夜

 部屋に戻ってきたホステルの同室者たちも交えて、お酒を飲んで、美味しい料理を食べて騒いだ後。落ち着いてきたところで、マークくんとビルギッタちゃんはノエルさんに身を寄せて、すやすやと眠りだした。

 他のベッドの宿泊客たちも、眠りについている。

 窓の外が暗くなるに連れて、ぼくたちの話し声も小さくなっていった。

 空はすっかり夜になっていたが、表の大通りは、大通りというだけあって、店の明かりや街灯が光っていた。

 ノエルさんは、幼い2人の肩をさすりながら、暖炉を見た。「ちょっと寒いわね。ソラ平気?」

「確かに、少し……」

 ノエルさんは指を振るった。暖炉の周りに積んであった薪がふわりと上がり、暖炉の中に入っていった。

「じゃあ、2人はあっちの世界から来たんだな」と、ユアンさん。

 ゾーイさんはぼくを見た。

 ぼくは頷いた。「来たばかりですけどね」

「良いね。異世界のニホニアンか」と、フィリップさんは言った。

「元の世界では、ニホニアンは日本人って言うんですよ。ニホニアは日本です」

 ノエルさんは頷いた。「あっちの世界って、話には聞いたことがあるけど、行ったことないなー」

 先ほどまでは静かだった暖炉の中の薪が、今は、先ほどよりも少しだけ大きな音を立てて、パチパチと、心地良い音とともに燃えていた。それにつれて、部屋の中も暖かく、明るくなってくる。

 凍えそうになっていたぼくの体から、力が抜けていった。

 ムカつくくらいあざといが、ノエルさんは多分良い人だ。

 ぼくは、ノエルさんに向かって微笑んだ。「良いところですよ」

「ちょっと良い?」ノエルさんはぼくの髪に触れた。その優しい手つきで確信を持てたが、彼女は、スタイルが良くて美人で可愛げもあって思わず毒を盛ってやりたくなるほどにあざといが、良い人だった。なんだか、インスタントラーメンのフィルムやらゼリー状の防腐剤やら乾燥剤やら割り箸を食べさせようとしたことが申し訳なく思えてくる。「わー、髪すっごいサラサラだね」

 ぼくは笑った。「シャンプーとかリンスとか化粧品とか、結構色んなのがあるんです。ぼくはあんまり興味ないですけど」

「大人になればわかるけど、女にはメイクを極める義務があるのよ」ノエルさんは、暖かく微笑んで、ぼくの鼻をツンっ、と、優しく突いた。

「わかりたくないですね……、ぼくは男に媚びるつもりがないので」

「違うわ。男に媚びるんじゃなくて、男を利用するのよ」

 そのセクシーな目と艶かしい声色に、ぼくの背筋がゾワっとした。

 ユアンさんはため息を吐き、フィリップさんは失笑を漏らした。

「ソラ、こういう話題の時は、ノエルの言うことはまともに聞かなくて良いんだぞ。こいつは」ユアンさんは、言葉を探すように唸った。「恋愛には向かないタイプなんだ」

 ぼくは首を傾げた。「女が好きなんですか?」どうしてそういう言葉がぼくの口から漏れたのかというと、ぼく自身が女性が好きだからだった。ひょっとすると、ノエルさんもトランスジェンダーなのかもしれない。

 ゾーイさんとユアンさんとフィリップさんは暖かいながらもどこか悲しげな微笑みを浮かべ、ノエルさんはぼくを抱きしめた。良いのかいノエルさん? そんなことしたらその気になっちまうぜ? そんなことを思いながらも、ぼくに出来ることといえばもじもじしながら柔らかな幸せに心を傾けることくらいだった。

「ユアン、ご結婚は?」ゾーイさんが言った。

「おぉ、してるぞ。アテリア人の美人で、1か月に1回は帰ってる。1ヶ月冒険をして、地図を売って、1ヶ月休んで、また1ヶ月の冒険に出て、そんな毎日だ。人生の半分が休日なんだから、恵まれている方さ」

「俺も来月結婚する」フィリップさんは言った。

「こんな良い女がそばにいるのに手を出さないのは、そういうことなのよね」ノエルさんは赤ワインを啜った。「2人とも、奥さんと彼女さんを愛しちゃってるのよね」

「お前に手を出さないのは、そそられないからさ」と、ユアンさん。

「なんてゆーか、恋愛対象じゃないんだよな。友達タイプって感じ」フィリップさんは笑った。

「屁とかもクセェしよー」

 ぼくは小さく笑った。

「音もデケェしっ」フィリップさんも笑った。「前はお前の目も見れなかったけど、今じゃアレだ、手のかかる妹って感じだな」

 ノエルさんは、むぅ、っと、あざとくほっぺを膨らませた。

 ゾーイさんはふふふっ、と、微笑んだ。「みんな、本当に長い間一緒に旅をしてるのね」ゾーイさんはぼくを一瞥した。「わたしたちは、これから旅するのよねー」

 ぼくは頷いた。

「そうなんだー」ノエルさんは優しく微笑んだ。「どこに行きたいの?」

 ぼくは頷いた。「ラシアに行こうと思うんですけど、良ければ、色々教えて欲しくて。綺麗な街とか自然とか、美味しいご飯とか教えてください」

「そりゃー、やっぱりマスクヴァだな。過ごしやすい」と、ユアンさん。「ウォッカも美味いしな」

「サンクト・フローレンスブルグは街が綺麗よ」と、ノエルさんは、大きなオナラをしながら言った。「うぉっと、失礼」

「クセェんだよっ!」フィリップさんは吠えた。

「あんたのシャツよりはマシよ」ノエルさんは、鼻にシワを寄せて、すんっ、と鼻先を鳴らした。

 ぼくたちは笑った。

「たくっ、君たちどう思うよ」フィリップさんは、楽しそうな顔で、ぼくとゾーイさんを見た。

「確かに、少し匂うわね。あなたのシャツ」と、ゾーイさん。

 ぼくは頷いて、鼻をすんっ、と鳴らした。「フィリップさんのベッドどこですか? 隣は嫌ですよ」

 ユアンさんとノエルさんは笑った。

 フィリップさんは悲しそうな顔をして、いじけて見せた。「わかったよっ。このシャツは処分するって。たくっ、お気に入りだったのによー」

 そう言われると、なんだか申し訳なくなってしまう。

「ごめんなさい。冗談です」ぼくは頭を下げた。

「いやいや、謝んなよっ。俺もだよ」フィリップさんは優しく笑った。

 ユアンさんも楽しそうに笑い、ゾーイさんは、ぼくの肩を抱いた。

 ドミトリールームが楽しい笑いに包まれた。

 笑い疲れたぼくたちは、各々の酒を取って飲んだ。

 ノエルさんは、唇を舐めながら、ビールのグラスを置いた。「まあ、わたしはマジだけどね」ノエルさんは、顔をしかめて、自分の鼻をつまみ、フィリップさんを見て、ニヤリとした。

 ユアンさんは、ノエルさんの肩を優しく叩いた。

 ぼくは笑った。

 その晩は、一晩中話をして過ごした。

 朝、マークくんと、ビルギッタちゃんが起きたところで、ぼくたちはもう1泊分の宿賃を払って、眠りについたのだった。

少しでも楽しんで頂けましたら、評価やブックマークをお願いします!(*´∀`*)


この物語はフィクションです。実在する如何なる人物、団体、出来事と本作品は関係ありません。物語内では未成年が飲酒喫煙をしてますが、彼らは人間ではなく魔法族です。本作品には未成年者の飲酒喫煙を推奨する意図はありません。自分の心と体を大事にしましょう:)

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