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継ぐは気高き心

挿絵(By みてみん)

 この夜『ブラッディジェネラル』は他の関係財閥、実業家達の家屋や建物も根こそぎ破壊して回り、彼らの資産も全て消去した。


『プリピュアプロジェクト』というのはそれほどまでに数多の権力者が関わっており、完全なる壊滅にはここまでしなければならなかったのだ。

最後は残る全ての力を放出すると世界中から『プリピュアプロジェクト』の僅かな記憶すら忘却の彼方へ葬り去る。

こうして激動の一日を終えた『ブラッディジェネラル』は仲間達の下へ戻ってくると元プリピュア達全員と熱く抱き合って連絡先を交換した。これはもしまた何か起こった時の為と今まで交流して来なかった後悔から是非にと自分から進んで提案したのだ。

それからマンションに戻った翔子は待っていた暗人と合流すると軽いハイタッチの後、部屋に戻って祝杯を挙げる。そこで先程までの戦いが全て世界中に配信されていた事を初めて聞かされると酔いもあってかお互いが大笑いしていた。




翌日、ほとんど関係のなかった一般の人達はプリピュアの熱い戦いの余韻だけを胸に普段と変わらない朝を迎えると出勤したり年越しの準備で慌ただしい。

そんな中ごく一部の大企業だけはとんでもない損失を被っていたが経営者はもちろん、関係者の誰もがその理由はわからないまま対応に追われていたそうだ。

「しかし最後に『ブラッディジェネラル』に変身するとは、流石翔子さんですね。」

「まぁ消去法だと思うんだけどね。大人の姿に戻ってたから他に選択肢がなかったのよ。でもよかった~これで心置きなく年を越せるわ。」

テレビやネットでは昨夜の戦いを何度も何度も流していたがその理由をわかっている人間はごく僅かだろう。2人は朝食を済ませた後当たり前のように街へくり出すとてきぱきと食糧を買い込んでいく。


「・・・そういえば暗人君、私30日に実家に帰るんだけど一緒に来てもらえる、かな?」


プリピュアとこの世界を救う為に奔走しててすっかり忘れていたが翔子は暗人の事を一切両親に話していなかった。丁度年末年始も近いのでだったらこのタイミングで紹介したいと考えたのだが突然過ぎただろうか?

「ええ。構いませんよ。」

しかし思っていた以上に軽く答えてくれたので喜びや安堵以上に驚きで足を止めてしまう。もしかして意味が通じていないのでは?とも考えたが彼はどちらかと言えば察しの良い方だ。

「えっとね。私の両親に紹介したいんだけど・・・」

「はい。僕も是非お会いしてご挨拶したいと思っていました。」

どうやら意図はしっかり伝わっているらしい。こちらに向かって微笑みながら手を繋いでくるので翔子も嬉しさのあまり体ごと身を寄せてしまう。




ただ結婚となるとやはり仕事は必要だろう。


まさかプリピュアの敵対組織『ダイエンジョウ』に務めていますとは口が裂けても言えないし今後の事を考えると年が明けてからすぐに就職活動を行うべきだ。

そう考えると現在無職な彼との結婚はもちろん、両親は付き合っている事すら反対してくるかもしれない。

(は、早まっちゃったかな?!)

あれから同棲生活を送っていたので幸せから思考も麻痺していた翔子は前日になって焦りを感じていたが隣で眠っていた年下の恋人は彼女を優しく抱きしめて頭に手を回す。

言葉こそ交わさなかったものの愛情だけはしっかり伝わって来たので彼女も全力で身を寄せて温もりを感じていると案の定翌朝は仲良く寝坊していた。


といっても実家は電車での移動も含めて30分強の場所なので焦る事は無い。


それよりも暗人が落ち着いたスーツ姿にいつもは隠れている目元をしっかりと見せるよう髪を整えていたので思わず感心の溜息を漏らしてしまう。

「へぇ~・・・あんまり気にしてなかったけど暗人君って結構イケメンなのね。」

「ありがとうございます。」

それなりに面食いな自覚はあったものの彼に関しては一緒にいて苦にならなかった事や自然と傍にいてくれた事から惹かれていったので、浴室以外で改めてはっきり顔を見た翔子は不思議そうにまじまじと眺めていると少しだけ不敵な表情を浮かべた暗人は静かにキスをしてきた。

だが彼も初めての恋人が翔子であり、翔子もこの先彼がいない人生など考えられないと感じているくらいお互いが深く想い合っている。

「い、いけない!い、急ぎましょ!!」

思わず雰囲気に流されかけた気持ちを勢いで跳ね除けると少し残念そうな、そして子供のように笑う暗人も忘れ物がないよう最終確認を行って2人はマンションを後にした。




「翔子さんとは結婚を前提にお付き合いさせて頂いてます。」


元々落ち着いた性格の彼は身嗜みもきっちり整えてしっかり挨拶をこなすと自分の両親は感涙を浮かべながら3秒で快諾してしまう。

「まさか翔子にこんないい人が見つかるなんて・・・これからも末永く付き合ってやってください!!」

(まぁ反対されるよりは全然いいか。)

あまりにもあっさり受け入れられたので肩透かしを食らっていたが彼の家族について話題が移ると翔子の方が焦りを見せてしまった。

「僕の両親は幼い頃に他界しておりまして。それからは叔父の家で弟のような従弟と一緒に暮らしてきました。」

しかし彼の中では既に整理が出来ているのだろう。すらすらと説明する様子から悲壮感は一切無く、そのまま現在は教師をしている事まで話すと翔子の両親はより深く頷きながら土下座する勢いで娘を頼みます!と何度も頭を下げ続ける。


むしろ問題はその後だった。


実家でお酒を飲む事を控えていた為まさか娘の泥酔姿がこんなにも酷いとは想像すらしてなかったのだろう。

嬉しさもあってか両親の前だというのに思わず情事に発展しそうだったのを暗人が必死に抑え込むと翔子は自身の部屋に運び込まれて懐かしい母の子守歌で無理矢理眠らされる。その間彼は父と深く交流して親睦を深めたのだと後日教えて貰った。




そんな波乱の年末年始を終えて新学期が始まると翔子は暗人と一緒に出勤する。どうやら彼は本当にこの先も教師として生きていく事を決めたらしい。

「ご両親にもそう説明しちゃいましたしね。」

「なるほど!」

だとすれば残すは挙式や婚姻届けなどの手続きくらいだろうか。久しぶりの現場復帰なのに表情がゆるみきったまま正門を潜るとやはり誰よりも望んでいた生徒がこちらの胸に飛び込んできた。

「ピュ!真宝使先生!!あけましておめでとうございます!!おかえりなさい!!お元気でしたか?!」

「あ、あらぁ・・・蒼炎さんおはよう。まぁ随分と明るくなっちゃって・・・」

『ピュアレッド』を愛して止まない彼女はその正体を知っただけでなく一緒に戦えたのだからこちらへの態度が変わるのも十分理解出来る。しかしイメージががらりとかわったりんかへ物珍しい視線が向けられている点には注意してもらいたいものだ。

「おっす!先生!あれ?燃滓先生って代講だったんじゃないの?」

「ええ。しかし人手不足だそうで継続してこの学校で働く事になりました。よろしくお願いしますね。」

「よ、よろしくお願いします。あの、真宝使先生、その、麗美ちゃんはどうなっちゃぅ・・・」


「おはよう皆!!あら~?先生達は真冬なのに熱そうねぇ?」


最後はあかねの心配を払拭するかのようにこれまた元気な姿で駆け寄って来た氷山 麗美がこちらを茶化して来たので思わず赤面してしまう。

「こらこら、先生をからかうものじゃありません。」

「ああっ?!そ、それは私が先生になって言いたかったトップ3のセリフなのに・・・」

そうなのだ。美麗も旦那さんとの話し合いが全く進んでおらず折角皆と仲良くなれたのもあり3月までは薬を服用しながら生徒として学校に通う事を選んだのだ。

これには火橙 あかねだけでなく現役世代も喜んで彼女を迎え入れる。

この光景もあと少しで見れなくなると思うと残念な気もするが皆の成長を見届けるのも教師としての義務だろう。こうして翔子は決意を新たに教え子であり後輩でもある彼女達の肩を軽く叩くと揃って校内へと入って行くのだった。




そして一月が終わる一週間前の日曜日、遂に『ピュアクリムゾン』達の最終決戦が歓楽街駅前で大々的に行われた。


「『ネンリョウ=トウカ閣下』!!!いくらあたし達から、皆から『アツイタマシー』を奪っても無駄だぜ?!これは生きている限り、胸に希望と勇気がある限り無限に湧いて来るんだからな!!」


どうやら今期の敵対組織『ダイエンジョウ』の目的は国民のやる気を奪う事で奴隷のような国を作る事だったらしい。

「それは知らなかったわ。」

「僕も叔父にはそこまで知らされてませんでしたし。」

「プリピュアの敵対組織ってそういう所あるわよね。超独裁的というか、幹部にすら最終的なビジョンを見せずに戦ってるところ。」

こればかりは生で見届けなければと翔子は暗人と中学生姿の美麗を誘って物陰から顔を覗かせる。正確には去年の戦い以降『ピュアレッド』にも『ブラッディジェネラル』にも変身出来なくなっただけなのだが未練は微塵も無かった。

(がんばれ・・・がんばって・・・ああ!そこはキックでしょ?!マグマはもっと前に出ていいのよ!)

ただし心の中では応援しつつも突っ込んでしまうのはある種の職業病だろう。




『プリピュアプロジェクト』を破壊すると決めたあの日、『ネンリョウ=トウカ閣下』に道を譲ってもらった理由は全てここに帰結させる為だった。




彼の敵はあくまで『ピュアクリムゾン』達であって『ピュアレッド』でも他のプリピュアでもない。

現役である彼女達と『アツイタマシー』を巡って一年間敵対し続けて来た彼らにはその戦いに決着を付ける理由とつけなければならない使命がある。これは自分の経験からもよくよく理解していた。

そして今、お互いが死力を振り絞って強大な必殺技同士をぶつけ合う。本当なら『ブラッディジェネラル』として閣下と一緒に戦う道もあったかもしれない。息子である『ネンリョウ=ツイカ』も、特に『バイオレットジェネラル』は強くそう思っているだろうがこれもまた彼らを信じた結果なのだ。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁあぁぁ!!!!!」


最終的には3人の力が合わさった超必殺技、『プリピュアフェニックススピリットフォーエヴァー』の前に全てが灰燼と化した。

後は回収されていた『アツイタマシー』を世界に還元すればいよいよ今期の戦いにも幕が下りる。プリピュア達も大いに喜んだ後その場から風のように去っていったので翔子達は『ネンリョウ=トウカ閣下』が超必殺技を受けた場所にこっそり移動するとそこには彼を抱きしめる司の姿があった。

「・・・大丈夫そうね。」

「いいなぁ。私もああいう人と結婚したかった・・・暗人君、翔子に飽きたら私に声を掛けてみてね?」

最後の最後にとんでもない爆弾を落とした親友に思わずげんこつを落としてしまうと悲鳴から彼らに気が付かれてしまい、結局5人は笑い合って合流するとその夜は燃滓 投治の家で盛大なパーティが開催される事となった。








これまでの敵対組織で働いていた人間は妖精界やプリピュアの力や繋がりを解析する為、戦いが終わった後は回収されて死ぬまで実験体として扱われてきたのを『プリピュアプロジェクト』の全容に触れた翔子は知っていた。いや、今では彼女しか知らないと言った方が良いだろう。


だがそれでいい。こんな薄汚れた計画など金輪際二度と立ちあげられてはいけないし皆の記憶からは抹消されるべきなのだ。


そう、真に語り継ぐべきは・・・・・








「えっ?!け、結婚式のご案内?!」


『ピュアクリムゾン』達の最終決戦が終わってフェニコとホップンが自分達の世界に帰るのを見届けた翌日、学校からの帰宅時に告げられた突然の報告に翔子は混乱で頭がおかしくなりそうだった。

暗人が言葉を間違えたのだろう。最初はそう考えていたのだが話を聞いて行くとやはり勘違いの類ではないらしい。

「はい。叔父が紫堂さんと式を挙げるので来週末の予定は開けておいて欲しい、だそうです。」

まさか親友に先を越されるとは・・・いや、聞くところによると彼女達は既に付き合って3年以上は経過している。であれば素直に祝福すべきだろうがそれにしても見事に時期が被ってしまった。

実は翔子達も『ピュアクリムゾン』達の戦いを見届けた後に結婚するという話をしていたのだ。

「う、う~ん。じゃあ私達の式はどれくらいずらせばいいかな?」

「その事なんですが翔子さん。叔父がちょっとだけ権力を使えば大きな会場で合同も可能だと言ってきています。もちろん費用は全て叔父が持つそうで。」


「・・・・・だったら乗るしかないわね!!そのビッグウェーヴに!!!」


元警視総監の肩書は伊達ではないらしい。文字通り降って湧いた挙式の話に翔子も暗人の腕を引っ張っていつもの居酒屋に入るとまずは乾杯。それから友人達に報告すると彼女達はぞくぞくと集まって来る。

「まさかそんなおめでたい話で吞む事になるなんてね~もしかしてこの世の終わりが近づいているんじゃない~?」

「愛美酷くない?!」

「うんうん。ていうか司と翔子が親戚になるのよね。何だか不思議よね~。」

「・・・めでたいがいっぱい。」

「・・・あれ?!私って姑になるの?!」

「実際養子縁組はしてもらっているのでその認識で間違いないかと。」

片や年下の、片や親子ほど離れた男性との結婚に話は盛り上がっていく一方だ。しかし案の定翔子が酔いつぶれる事だけは避けられず、翌日は二日酔いの中ほむら達から質問攻めにあうのだった。




ちなみに結婚式では元プリピュアを全員招待してしまった為男女比や低年齢化がえげつない事になっていたが燃滓 投治はこれを笑って流してくれる。


「ピュアレ・・・真宝使先生!!司さん!!お幸せに~!!」


「ありがと~!」

『ピュアレッド』の正体を知ってからの蒼炎 りんかだけは相変わらず危なっかしくてどきどきさせられるが祝福の気持ちにはしっかり応えたい。

最後は2人の花嫁が同時にブーケを投げるとその意味をよく知らなかったのだろう。紅蓮 ほむらが身体能力を使って高く跳ぶと彼女の両手にしっかりと収まって笑いを誘っていた。

思えば長い戦いだった。いや、戦い自体は14年も前に決着がついていた筈なのに大人になりきれなかったせいで随分遠回りをしたが今やっと一区切りがついた。

「・・・これからも大事にしてね?」

「ええ、もちろん。」

優しい伴侶と短く言葉を交わすとつい唇まで近づけそうになるが未成年の参加者が多い為ここは控えておこう。それよりも急な挙式だった為新婚旅行の事が何も決まっていないのだ。

これは春休みに間に合うよう2人で相談しながら探したい。その時間もきっと良い思い出になるだろう。人生の新たな一歩をしっかり感じていた翔子は喜びと希望で胸を弾ませていると突然会場が大きく揺れる。


「皆!慌てないで批難しましょ!!」


その場にいる半数以上が元プリピュアなだけあって慣れた様子で皆が出入口を確保しながら誘導する中、天井が大きく崩れるとそこには見た事の無いモンスターが現れたではないか。

これも彼女達にはすぐ理解出来た。間違いなくプリピュアに関係する組織のものだと。

「あっはっは~!何という幸せなエネルギー!!妬ましい、妬ましいわぁぁぁ?!?!」

そして可愛いブラックコスチュームを身に纏った女の子がこちらに向かって攻撃するよう命令すると大きな蜘蛛のモンスターが糸を吐いてきたのだ。

誰もがまずいと思い、誰もが変身しようとポーズを決めるが既に自分達は過去の戦士。つまりこれは・・・・・


しゃきぃぃんっ!!


「な、何ぃっ?!」

「・・・結婚式は女の子の人生で最も幸せな瞬間なの。それを邪魔しようだなんて許せないわね。」

同時に放たれた鋭い刃のような攻撃がそれらを切り刻むと敵対組織の幹部らしい女の子と同じく破壊された天井から舞い降りて来た漆黒の長い髪を持つ少女が堂々と対峙する。

「き、貴様何者だっ?!」

「私はピュアエンヴィ。全ての憧れを守る伝説の戦士よ。」








そう。これからもプリピュアは如何なる策謀にも欲望にも決して負ける事は無いだろう。純粋な少女の気高き心は永遠に引き継がれるのだから。


ここまでお読み頂いた皆様へ、誠にありがとうございました。

書き手としてはやりたい事をほぼ書ききる事が出来たのである程度満足しているのですが最後までお楽しみいただけましたか?

まだまだ未熟ではございますがこれからも精進して参りますのでよろしければ別作品も方も一度ご覧になって頂ければ幸いです。

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