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最終決戦―⑤―

 「・・・あれぇ?もう終わり~?流石に口だけ過ぎない~?」


指先さえ動かなくなった『ピュアレッド』の上に座ったまま『ダークピュアイエロー』が嗜虐的な笑みを浮かべて尋ねるが答えは返って来なかった。

「よ、よくも・・・よくも『ピュアレッド』様をっ!!!」

しかし周囲もただ黙ってみていた訳ではない。何度も何度も立ち向かい、その蛮行を止めようとしたのだが絵にかいたような鎧袖一触で全く歯が立たなかったのだ。

その悔しさは一番ぼろぼろになってもまだ近づこうとする『ピュアフレイム』が最も感じていたのだろう。

涙と鼻水と、そして特殊な力で守られているにも関わらず鼻血や腫れ、口元からは血を零しながらもそれを止めに入ろうとしている。


後輩プリピュアのこんな姿を見て奮起しない訳がない。


友人達も体中に痣や出血が見られる中、再び止めに入ろうと動き始めるが既に『ダークピュアイエロー』は人形遊びに飽きた少女のように興味を失っており静かに立ち上がって『ピュアレッド』を冷たい目で見降ろしていた。

「さようなら。私の憧れ・・・さて、次に私を楽しませてくれるのは『ピュアブルー』かな?それとも『ピュアパープル』?」

それも彼女の本心なのかもしれない。ぽつりと呟いた言葉には全員が寂しそうな感情を読み取る。

恐らく『ピュアレッド』の眩しい存在にもっとも憧れていたのは一番傍で戦っていた『ピュアイエロー』だったのだろう。

その羨望が拗れてしまい、憧れから妬みに変化するという話は現実でも良くあるのだ。希望の光とも呼べる存在を前に自身は陰鬱な闇に飲み込まれる。

ただ『ピュアイエロー』はその感情を一切表に表さなかった。発散もしなかった。結果洗脳から『プリピュアプロジェクト』に利用されるとそれが一気に大爆発を起こした訳だ。


既に他の戦士達もぼろぼろでまともにぶつかり合うのはおろか戦いにすら発展しないのかもしれない。それでも諦める者は誰一人いなかった。何故なら彼女達が希望の『プリピュア』であり、熱い魂を持つ『プリピュア』だったからだ。


「・・・私だって色々憧れてたんだよ?」


そこに一番激しい攻撃を受け続けた『ピュアレッド』から反応が返ってくると誰もが息を呑んで視線を送る。

ゆっくり体を起こしはしたがその傷では絶対に戦えない。むしろよく死ななかったと皆が驚愕していたのだが『ピュアレッド』は誰に言うでもなく語り続けた。

「だって美麗や司は昔から綺麗でさ。男子達がいっつも噂してたし愛美だってそうだよ。可愛くて評判だった。大学時代なんて毎日告白かデートに誘われてたんでしょ?」

フラフラしながら立ち上がりはしたもののそんな状態でよく口が動くものだ。見かねた『ピュアフレイム』が自身の怪我を忘れて肩を貸す為に駆け寄るが『ピュアレッド』の話は終わらない。

「私は昔から不器用だったから。来夢みたいに勉強が凄くできる訳でもなかったし。それでもプリピュアに選ばれた事だけが自慢で、嬉しくて、夢中で戦い続けた。でもね・・・」

その双眸には確かな希望が宿っている。最後は『ピュアフレイム』から離れるとしっかり両手で握り拳を作って大きく息を吸った。


「戦う事で相手を傷つけていた事実には真っ直ぐ向き合っていた。間違っても戦いに喜びを見出だした事はなかったよ。」


それは『ホープレスエンペラー』が暗人の父だった事実を知ってからより強く感じるようになっていた。大人になって、過去の過ちに気が付いて、歴代プリピュア達の存在を受け入れて。

この数日で目まぐるしい成長を遂げた『ピュアレッド』が今まで培ってきた人生も重ねるとその胸の内にはより強大な希望に満ち溢れ始めたのだ。

すると周囲を満たし始めた希望の光が川のような流れとなり地面を、元プリピュア達を閉じ込めていたカプセルを包み込み始める。

「ねぇ『ピュアイエロー』、今までのプリピュア達が何を胸に秘めて戦っていたか知ってる?」

「・・・・・興味ないわね。」


「そうよね。わたしもそうだった。だから一緒に知りましょう。それは希望、夢、愛、お料理、喜び、未来、家族、地球、動物、宇宙、音楽、海、自然、そして熱い魂よ!」


歴代プリピュアが司っていた全ての根源を言い終えると『ピュアレッド』の大きすぎる希望の力は後輩達を捕えていた頑丈なガラスの檻を一瞬で粉々に破壊した。

同時に現状と彼女の意思を瞬時に理解した元プリピュア達も全員が変身するとその力を全て『ピュアレッド』に託したのだ。

最終的に虹色の光が大きな流れとなって彼女を包み込むと今までになかった新しい姿に変身した『ピュアレインボー』は自身だけでなく仲間達の怪我も完治させる。

「・・・やっぱり『ピュアレッド』は本当に、本当に特別なんだね。」

『それは違うわ。私は特別なんかじゃない。私を支えてくれた皆が私に希望を託してくれた。ただそれだけよ。」

未だ『ダークピュアイエロー』としての力を残してはいるものの、覚醒した歴代プリピュア達の思いを得た『ピュアレインボー』と戦いになるのだろうか。全てのプリピュア達の中でも一番純粋な心を持つ彼女に勝てる者など存在するのだろうか。


その疑問には一瞬で答えが出た。


どっごぉぉおおおおおおんんん・・・・・っ!!!


双方が熱い想いを込めて放った拳は確かにお互いの頬に突き刺さったのだが文字通り威力が桁違いで一方的に吹っ飛ばされた『ダークピュアイエロー』の方向にあった建物は全て跡形も無く消し飛ぶ。

それどころか地下空間以上の大きな穴が開いてしまったので今度はこちらが彼女の心配をしなくてはならなくなった。

絶対にやり過ぎたと慌てて真っ暗な闇の中に身を投じるが『プリピュアプロジェクト』の力もまた尋常ならざるものなのだ。

「・・・さ、流石『ピュアレッド』ね・・・」

「『ピュアイエロー』?!よ、よかった・・・あ、今は『ピュアレインボー』ね?」

命に別状はないのだとわかると『ピュアレインボー』も訂正を願い出たが『ダークピュアイエロー』の憎悪と洗脳はまだ収まりを見せていない。


「ピュ、『ピュアレインボー』・・・あなたを倒せば・・・今度こそ私は・・・本当の戦士になれる・・・なれるんだか、ら・・・」


どれ程のダメージを負っているのかわからなかったが震える声と震えながら伸ばして来る拳にもはや力は残されていなかった。

だから『ピュアレインボー』は懐に飛び込んでその体を優しく抱きしめる。今は年齢差があるので彼女の成熟した柔らかい体に顔が埋まるような形になったが気持ちは十分伝わる筈だ。

「大丈夫。あなたはあの時から、私達と一緒に選ばれた時から優しい本物の戦士だったわ。」

憧れの存在が眩しすぎて、近すぎた故の劣等感を払拭出来る時は来るのだろうか。こればかりは本人次第なのだがきっと大丈夫だろう。何故なら5人全員が希望のプリピュアなのだから。


こうして意識を失い、やっと元の『ピュアイエロー』姿に戻ったのを確認した『ピュアレインボー』はいよいよ最終目的である『プリピュアプロジェクト』の壊滅に動き出す。


といっても地下空間は見る影もない程ぼろぼろで施設は跡形も無く消し飛んでいる。もしかすると既に決着はついたのだろうか?

友人をお姫様抱っこしながら一先ず光の指す場所へ移動した『ピュアレインボー』はそこが国会議事堂の地下エリアだと気が付くと覚醒した歴代プリピュア達に協力を要請する。

「・・・まだね。まだ終わっていないわ。皆、この建物も跡形も無く破壊しましょう!!」

構造的に地下が大きく開けているのでこれ以上は崩落の危険もあったが国家の悪行を黙って見過ごす訳にはいかない。

歴代のプリピュア達も拉致監禁の被害者達なのだから共に戦う理由は十分すぎる程内包していた。全員が世代毎に超必殺技を方々に放つといよいよ大きな地鳴りと共に天井が崩れ出す。


「プリピュア!レインボーシューティングッ!!」


最後は真上に向かって『ピュアレインボー』が新しく手に入れた虹色の必殺技で国会議事堂は跡形も無く吹き飛ぶが夜空に掛かった眩しい虹の橋は一瞬で日本を、世界を魅了した。

後はその光に導かれて全員が脱出する事に成功したが地面に大きく開いた深く暗い穴のように未だ終わりが見えない。

何故だ?自分の考えすぎか?14年越しに新しい力も手に入れた『ピュアレインボー』は皆がフィナーレを迎えたような雰囲気を漂わせる中、胸騒ぎで辺りをきょろきょろと伺っていたが悪い予感は的中したらしい。


ぽぽぽんっ!!


突然変身が解けたのは自分だけではない。現役プリピュアである『ピュアクリムゾン』達以外が全員元の姿、つまり実年齢の姿に戻ってしまったので驚いて顔を見合わせていたがこれこそ本来の姿なのだ。


「・・・やれやれぇ。随分好き勝手に暴れてくれましたねぇ?」


やはりそうだ。施設を破壊するだけじゃない。主犯と計画そのものを倒さなければ意味が無いのだ。

やっと姿を見せた黒幕とも言うべき人物は黒服のボディーガードに守られながら黒塗りの車から降りてきた所らしい。というか流石に翔子以外もその人物は知っていたので皆が言葉を失っている。

「・・・国家が関わっているって聞いてたけどまさかあなたが?」

「私だけじゃぁありません。我が自由主民党及び全ての政治家、権力者達の夢のシステムをよくも破壊してくれましたねぇ。この代償は高くつきますよぉ?」

ねっとりとした小さな声だが全て聞き取れたのは周辺に規制が入って誰も近寄れなかったからだろう。

目の前にいる国家の首相、岩破茂は丸く肥えた顔と体でずんずん近づいてくると彼を守る黒服達も軍隊のようにこちらへ迫って来た。


「チェンジプリピュアッ!!」


「無駄ですよぉ。あの薬は誰が開発したと思っているのですかぁ?」

変身が解けたのは何らかの方法で無理矢理薬の効果を打ち消されてたのが原因のようだ。

後は国家権力を使い翔子達を亡き者にするのか、それとも社会から抹消するのか。絶対に倒さねばならない相手を前に28歳の体に戻った翔子は妖精の力を得る事が出来ない歯痒さから歯を食いしばる。

「諦めんな先生っ!!まだあたし達がいるだろっ!!いくぜ2人共っ!!!」

そうだ。現代には現代を担うプリピュア達がまだ残っているではないか。

ついさっき歴代のプリピュア達への敬意と継承の心が目覚めたばかりの翔子は彼女達を真っ直ぐ見つめて応援する側に立つが欲望に塗れた権力者の力というのを見誤っていたようだ。


「プリピュアァ!!自由主民党総裁ぱーんちっ!!」


何とも締まらない必殺技の名前と声に羞恥から顔を覆いたくなったが気が付けばその声の主を二度見したあと三度見て体と頭が動きを止めてしまった。

それから感情だけが再起動すると強い憤りと怒りで目の前の光景に疑問を抱く。何故身も心も醜い彼が、既に初老の年齢である岩破首相がプリピュアに変身して必殺技を放っているのだ?!


ばきんっ!!!


「ぐっはぁっ?!な、何だ・・・と?!」

しかもそれがしっかり『ピュアクリムゾン』に当たって彼女が吹き飛んでいる。ちなみに首相の格好は下手なコスプレイヤーの方が幾分マシだと思える程酷い・・・いや、コスチュームにはその力と可愛さが備わっているので中身が酷くてそう見えるだけか。

とにかくおへそ周りがシュークリームからはみ出たカスタードみたいになっているのは本能から嫌悪感を感じずにはいられない。

「ぐふっ。これこそが『プリピュアプロジェクト』の真骨頂ぅ!誰もが、誰しもが可愛く変身出来るのだぁ!」

今更性別に言及するつもりはないが可愛さとは人類が、歴史が培ってきたものだ。それを全て冒涜、いや、それこそ破壊されたような気持ちに激昂した翔子はいつの間にか大声で叫んでいた。


いつもご愛読いただきありがとうございます。

本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。

あと登場人物を描いて上げたりしています。

よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)


https://twitter.com/@yoshioka_garyu

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