最終決戦―③―
「『ネンリョウ=トウカ閣下』・・・」
その姿を見て最初に声を漏らしたのはやはり『ピュアパープル』だ。
「おや?随分可愛らしい姿になって・・・そうか、やはり私達の力では太刀打ち出来ないという事か。」
彼も恋人がプリピュアを選んだ事に少なからずショックを受けているのか、視線を落としたまま動く素振りは一切見せなかった。
だが諦めるという訳にもいかないらしい。『ネンリョウ=トウカ閣下』が拳を作って構えると『ピュアパープル』の双眸から大粒の涙が零れ落ちそうになる。
「待って。私は貴方と戦う気は無いの。」
そこに待ったをかけられるのはリーダー的存在の『ピュアレッド』しかいないだろう。事情を一切考慮せず間に割って入った後堂々と宣言すると2人は目を丸くして彼女を凝視していた。
「しかし私も君達を通す訳にはいかないのでね。否が応でも戦うしかないだろう?」
「いいえ、私達の目的は『ピュアイエロー』を助け出す事と『プリピュアプロジェクト』をぶっ潰す事だけ。貴方とは戦う選択肢すらないわ。」
眼中にないとも捉えかねない発言に温和そうな『ネンリョウ=トウカ閣下』も流石に激高する様子を見せるがこれには真意がある。
「つまり私と戦わずに・・・説得でもしようというのかね?」
「そうね。説得になるかはわからないけど、貴方にはちゃんと戦うべき存在がいるでしょ?」
「・・・ふむ。だとすれば間違いなく君達と・・・」
「いいえ、私達はもう14年も前にその活動に幕を下ろしているの。『ネンリョウ=トウカ閣下』、今の貴方の敵は『ピュアクリムゾン』達の筈よ?」
全てを受け入れたからこその発言に今度は仲間からも熱い眼差しが送られてきた。
これにはやっと過去を乗り越えられたという強い意志も込められていたのだが果たして『ネンリョウ=トウカ閣下』には届いただろうか。
「・・・この茶番を続けろというのかね?」
「いいえ、決して茶番では終わらせない。プリピュアを、妖精達を、人間達を利用した存在には必ず引導を渡して見せる。だから信じて貰えないかしら?私達と、貴方を愛する人を。」
『ピュアレッド』の熱い思いは周囲にも伝播したらしい。精神も幼くなっていた『ピュアパープル』からは嗚咽のような泣き声が聞こえて来る。
彼女も恋人と敵対する立場を選んでしまったがどうしても最後の一線を超える覚悟だけは出来なかったようだ。
「・・・・・信じる、か。久しぶりに聞いた言葉だな。」
溜息のように呟いた『ネンリョウ=トウカ閣下』も『ピュアレッド』の純粋過ぎる希望に何かを感じたのか、先程までの闘気は消えて軽く天井を仰いでいる。
「今の日本はこの地下空間のように澄み渡った空も希望もない。そんな状態を君達だけで打破しようというのかね?それが可能だと思っているのかね?」
「いいえ、私達だけじゃ不可能です。でも皆が、これからを担う若い希望やこれまでを支え続けて来た切望達が上を向けば絶対に可能です。もちろん貴方も含まれますよ?」
熱い魂と希望に満ちた『ピュアレッド』の脳裏に不可能などが入る余地はない。それは過去の偉業が全てを物語っている。
淡々と断言する彼女に最後は軽く笑みを浮かべた『ネンリョウ=トウカ閣下』だったがそれからの行動は早かった。まるで紳士のようにすっと横に体を寄せるとプリピュアの4人に軽く頭を下げてその奥に手を向けたのだ。
「そういえば君達は希望のプリピュアだったね。いいだろう。私も今一度、私の望みと愛する人を信じてみようじゃないか。」
やっと緊張から解放されると泣きじゃくる『ピュアパープル』はすぐさま駆け出して彼の胸に飛び込む。
「か、必ず・・・必ずお兄さん達の仇は討って来ますから・・・!!」
後から詳しく聞いた話ではどうやら『ネンリョウ=トウカ閣下』も自身の家族達を失った『プリピュアプロジェクト』を自らの手で潰そうと画策していたらしい。
その為に現存しているプリピュア達を洗脳して一緒に戦うつもりだったようだが計画はとある一因によって既に崩壊していたのだ。
「・・・『プリピュアプロジェクト』とはその全てを支配する計画だ。プリピュア達も、敵対組織さえも彼らのシナリオに過ぎない。気を付けて、必ず生きて帰って来るんだぞ。」
最後の最後に中々重たい事実を教えてくれるが例えどのような相手であろうと『ピュアレッド』の決意を止める事は出来ない。
「はい!それじゃ行ってきます!!」
こうして4人の初代プリピュア達は大きな扉を潜って更に奥へと進んでいくとそこには彼の忠告以上の光景が広がっていたので皆が言葉を失った。
「こ、これって・・・」
辛うじて声を上げたのは『ピュアブルー』だったが『ピュアレッド』も他のシリーズをほとんど視聴していなかったものの何となく理解は出来る。
そこには培養液みたいなものが一杯に入っている円柱型のカプセルが多数並んでおり、その面々は間違いなく歴代のプリピュアだろう。
「あ、やっと来た~遅いよ~」
なのに能天気な声が聞こえてくると安堵よりも違和感から皆が警戒態勢を取る。
すると中央の大きなデスクに座る黄崎 愛美が白衣に眼鏡姿という格好でこちらに不敵な笑みを浮かべていたのだ。
「ま、愛美?!探してたんだよ?!よかった・・・無事だったのね?!」
「無事、かどうかはわからないけどぴんぴんはしてるね~さて~私の使命は『プリピュアプロジェクト』を邪魔する者を排除するの~覚悟は良い~『ピュアレッド』?」
想定していた事だがやはり黄崎 愛美も洗脳されているらしい。しかも彼女だけは『ネンリョウ=トウカ閣下』の指揮下には置かれていないようだ。それにしても各々の実力が拮抗しているのに一対四で戦おうというのだろうか?まともにぶつかり合っても勝ち目はないはずだが何を考えているのだろう?
「えっと、とりあえずあなたの洗脳を解いて『ピュアイエロー』に戻って貰えばいよいよ5人が揃って戦える、って認識でいい?」
『ピュアブルー』が確認すると黄崎 愛美も不敵な笑みを浮かべながら深く頷く。となれば話は早い。『ピュアレッド』も闘気を高めると一気に間合いを詰めてその拳を叩き込もうとしたが次の瞬間、『プリピュアプロジェクト』の力を目の当たりにすると4人は一瞬で後方に吹っ飛ばされた。
あまりにも刹那すぎて何が何だかわからなかったがダメージはさほどなかったようだ。
他の3人も壁に大きく叩きつけられてはいたものの強い気持ちは一切陰りを見せなかった。
それよりもいつの間に変身したのか、黄崎 愛美が黒い『ピュアイエロー』姿に変身していたのだがここにはもっと驚愕すべき事実とシステムが隠されていたらしい。
「さ~て、それじゃ~本領発揮といきましょ~!」
洗脳されていても間延びする喋り方には激しい違和感を覚えたが黒い『ピュアイエロー』が瞳を強く輝かせると周囲の培養液に浸されていた少女達が目に見えて苦しみだしたのだ。
そしてそれと比例するかのように彼女の力が増幅されたので『ピュアレッド』達は慌てて防御重視の構えに切り替えるがその力は強大過ぎて次の瞬間周囲は眩い光に包まれる。
かっ!!!!!
激しい衝撃波の後に大きな音が届くとそれら培養液のカプセル周辺以外を全て吹き飛ばしてしまった。
「どわぁぁぁぁあぁ?!」
「きゃあああぁぁぁ?!」
「ふえぇぇぇぇええん?!」
こちらの4人だけでなく裏手から回り込んでいた『ピュアクリムゾン』達も訳が分からないまま攻撃を受けると各々が情けない叫び声を上げながら壁や天井に叩きつけられる。
これもまた『プリピュアプロジェクト』の力なのだろうか。まさか歴代プリピュアの力を自身の体内に取り込んで戦うとは夢にも思わなかった。
「さぁさぁ、お楽しみはこれからだよ~?皆もこの『プリピュアプロジェクト』の一端に加えてあげるからね~?」
冗談ではない。『ピュアレッド』は暴風が吹き荒れる中すぐさま体勢を立て直すと地面を割りながら駆けて洗脳されている仲間に突進していく。
ばっちぃぃぃんんん・・・っ!!!
そこから渾身の力で繰り出された拳は『ダークピュアイエロー』と呼べばいいのだろうか。彼女が生み出した衝撃波以上のものを周囲に発生させたので後輩達は重ねてころころと転がっていた。
「あははははっ!!さすが『ピュアレッド』!!やっぱりあなたは歴代で最高のプリピュアよ!!」
「でしょ?!だからその力であなたも元に戻してあげるからね!!」
お互いの拳がぶつかり合うも数多のプリピュアエネルギーを吸収している『ダークピュアイエロー』の方が力は断然上らしい。
すぐに『ピュアレッド』の手首を強く握るとそのまま3回程横に振り回した後地下の天井向かって放り投げる。
ずどぉぉぉぉおおんん!!
激しい音と共に上から数多の粉塵と大きなコンクリートの塊が落ちてくるがしっかり受け身を取った『ピュアレッド』が急降下すると同時に仲間達も一斉に攻撃を合わせた。
いくら単体で強化されていようとも数では勝っているのだ。しかもこちらは全員が伝説の名にふさわしい強さを持っている。
「全ての希望をその胸に!!プリピュアッ!!トライアングル!!ピュリフィケーションッ!!」
4人で使える必殺技が丁度浄化専用だったのも功を奏したのか。位置取りも完璧に4人の合体技が決まるとピラミッド型の眩い光に包まれた『ダークピュアイエロー』は正気を取り戻す、はずだった。
「うわぁ~これが私達の技か~浄化技なのに寿命も縮まりそう~」
しかしその中からは相変わらず能天気な声が聞こえてくると光にみるみる亀裂が入り、合体技を打ち破った彼女は余裕の表情で再び皆の前に姿を現すのだった。
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