最終決戦―①―
皆で力を合わせて『ホープレスエンペラー』を倒した後、翔子の青春は止まったままだった。
進学しても、恋に落ちてもフラれても本当に心が滾る事は無かった。コスプレにも走ったしお酒もかなり飲むようになった。
辛うじて見出した教師という道に進みはしたものの、気を緩めれば『プリピュア』として戦った日々がまるで昨日のように思い返されてしまう。
わかっていた。自分があれから一歩も進めていない事は。
それでも縋らずにいられなかった。輝かしい栄光の日々、想像以上の賛美と誇りは脳裏に深く深く刻まれ、気が付けば居酒屋で宣う中年サラリーマンのような人生に染まっていった。
「昔はよかった。あの頃はよかった。」
人としてこれを言葉に表す事がどれ程愚かで後ろ向きなのかは十分理解していたはずなのに止められなかったのだ。それは下手な麻薬よりも中毒性が高く、逃避して思い返す事だけに生きる日々。
そしてふと我に返ると後悔に苛まれるのだ。もうあの頃には戻れないのだと何度も何度も自身に言い聞かせて、二度と口に出さないと、考えないと誓いつつ反省した素振りを見せながら。
そんな人生を送って来た翔子は今、念願の夢を叶えたのだ。これで乾ききった心が一気に満たされるはず。そう信じていたのに一向に心の変化を感じないのは何故だ?
がしゃんっ!!
力技で無理矢理エレベーターの扉を叩き壊すと最下層であるはずなのに穴は真っ暗な底へ続いていた。
「ここだ。ここからいけるはずだよ。」
「よし!行きましょう!」
特殊な認証がないと動かない仕組みらしいのでこの器物破損は致し方ないだろう。
国民の意識を逸らす為、自分達の私腹を肥やす為に利用された妖精達や純粋な少女達を守る為、自分達は何としてでも『プリピュアプロジェクト』なるものを完全に破壊しなければならないのだから。
だが流石は国家の中心だ。
そのエレベーターが直通という訳ではなく、いくつかのフロアを駆け回っては更に別のエレベーターで下に降りねば最深部へ辿り着けない仕様になっているらしい。
「う~ん。手が込んでるわね。」
「つまりそこまでして隠しておきたいものなのさ。」
「・・・闇が深そう。」
今まで定期的に会っていた友人達との会話も14歳の姿で、しかも皆が『プリピュア』だと少し感慨深いものがある。
「・・・だからこそ私達の手で決着を付けなきゃね!」
ばっこぉぉん!!
『ピュアレッド』が次のエレベーターを思い切り殴って破壊すると皆も笑みすら浮かべて地下へと潜っていく。
そしてやっと違和感のあるフロアに出ると『ピュアブルー』が大きな窓ガラスに向かって歩き出した。
「・・・ここ、地下だよね?」
外には薄暗いながらも広大な空間が広がっている。彼女達は屋内にいた為全容はつかめていなかったが『ピュアレッド』が再び拳を放つと厚さ300ミリはある窓は粉々に砕け散った。
そこから躊躇なく飛び出したのは生来の性格からか愛美を助けたい一心からか。しかし他の仲間達もリーダーである彼女の行動を誰一人咎める事はなく、むしろ3人も良く分からない場所へ飛び出すと次にその高さに驚いた。
フロアにして地下5階くらいには到達していた筈だがそこから更に下への空間があるとは。
しばらく落下してやっと地面に着地した4人は再び辺りを見回すと、どうやら国会議事堂と直結して地下に伸びていた建物はビルのような形になっていたらしい。
ただ天井と繋がっているのでまるで地下空間を支える柱のようにも見えたが他に気になったのはやはりドーム型の建物だ。
「恐らくあれよ。」
『ピュアパープル』が言うにはこの核シェルターの中にはいくつかの建物が点在しており、その中の1つで『プリピュアプロジェクト』が行われているという。
「それじゃぱぱっとやっつけちゃいましょうか!」
『ピュアブルー』も昔と変わらず凛々しい笑顔で皆を鼓舞するがここを破壊されて一番困るのは国家だ。
今までも散々卑怯な手段を躊躇せずに実行してきた彼らがこうもやすやすと侵入を許す事自体にもう少し疑問を持つべきだったがそれは直後に分からされた。
「おおっと~!そこまでだぜ?!偽の『プリピュア』さん!!」
その声を聞き間違える筈がない。
かつて『ブラッディジェネラル』として何度も対戦してきた自身の教え子でもある紅蓮 ほむら、いや、『ピュアクリムゾン』が姿を見せるその左右から『ピュアフレイム』と『ピュアマグマ』もこちらを睨みつける様に現れる。
「・・・・・?!」
「み、皆!目を覚ますッピヨ!!」
新旧『プリピュア』の敵対する構図にこらえきれずフェニコが姿を見せてしまうが今の彼女達は洗脳されている為近づかせる訳にはいかない。
小さな羽をぱたぱたさせて近づこうとしたので両手で優しく包み込むと彼も少しだけ冷静さを取り戻してくれたらしい。
「・・・なるほど、偽物扱いされてる訳か。じゃあ早速試してみる?」
暗人も気が付いていた事だがどうやら『ピュアレッド』は『ブラッディジェネラル』として長く戦い過ぎたらしく、意識しないと言動が敵対組織のように偏ってしまうらしい。
それを戦いたくてうずうずしているように受け取ったのか、血の気の多い『ピュアクリムゾン』はニヤリと笑いながら一気に距離を詰めてその拳を放って来た。
「ふんっ!!」
ばっちぃぃんんん・・・っ!!!
お互いの右拳が衝突すると広大な地下空間には衝撃が走り、建物も激しく揺れるが崩れることはなさそうだ。
「へぇぇ?!偽物にしてはやるじゃねぇか!!『ピュアフレイム』!!『ピュアマグマ』!!いくぞ!!」
「それじゃ私達も・・・ってあれ?!」
『ピュアブルー』が助太刀に入ろうとした瞬間、素っ頓狂な声を漏らしたのは理由があった。何故なら洗脳されているはずの『ピュアフレイム』が静かにこちらの前に立つと両腕を真横に伸ばして仲裁するような形で割り込んできたからだ。
「・・・『ピュアフレイム』、あなたまさか?」
「・・・だ、だめ・・・『ピュアレッド』さま、と、戦う、なんて・・・」
やはりそうだ。幼い時から大ファンだった『ピュアレッド』の姿を見て深層心理が戦う事を拒絶しているのか。洗脳されても尚その強い心が体を突き動かしたのか。
『ピュアクリムゾン』の号令に従わず、言葉も動きもたどたどしいが『ピュアフレイム』は今、何かに必死で抗っているようだ。
「へぇ~?あたし達を裏切るってのか?!」
その行動は大いに彼女を激昂させたらしい。『ピュアクリムゾン』が怒り任せに炎の翼を纏うとそれに合わせて『ピュアマグマ』も地面から活火山を顕現する。そしてその中に飛び込み、フェニックスの力を纏った一撃は仲間であり大切な友人である『ピュアフレイム』を巻き込む形で放たれたのだ。
「プリピュア!!フェニックスボルーケーノ!!」
洗脳というのは大切な仲間や友人をも忘却の彼方へと追いやるのか。避けたり必殺技で防ぐ素振りを見せない『ピュアフレイム』は何を見て、何を感じているのだろうか。
「・・・いい加減に目を覚ましなさ~~~~いっ!!!」
そんな後輩達を、可愛い生徒達を正せるのは教師であり『プリピュア』の先輩でもある『ピュアレッド』以外にあり得ない。
『ピュアフレイム』を守るように前に飛び出した彼女は不死鳥を背負って突っ込んでくる『ピュアクリムゾン』目掛けて再び本気の拳を放つと激しい衝撃が周囲を襲う。
「ぐぎぎぎ・・・な、何だとっ?!」
2人の合体技をただの拳で相殺されれば驚愕も当然だろう。しかしこれこそが長年皆の心を掴んで離さなかった初代『プリピュア』の力なのだ。
どっごおぉぉぉおおんん・・・・・っ!!
最後は『ピュアクリムゾン』が押し負けて柱のようなビルに吹き飛ぶがまだまだ余力のある『ピュアレッド』は涼しい顔でそれを見届けた後『ピュアフレイム』の方に振り向いて優しく抱きしめる。
「待たせちゃってごめんね。でももう大丈夫。」
「・・・は、はいっ!!」
熱い魂が篭った一撃は食らった本人より先に守られた『ピュアフレイム』を正気に戻したらしい。彼女は頬を染めて双眸に涙を溜めていたがまだ始まってもいないのだ。
「いっ、ぃ痛てて・・・や、やりやがったなぁ?!」
未だ『闇落ち』とも呼べる状態から回復していない『ピュアクリムゾン』が崩れ落ちた瓦礫の中からゆっくり立ち上がると『ピュアレッド』は『ピュアフレイム』の右手を強く握りしめてファイティングポーズを取る。
「さぁ『ピュアフレイム』!あなたの仲間達も正気に戻すわよ!!手伝ってくれるよね?」
「は、はいっ!!も、もちろんですっ!!」
その純粋さを学校でも見せてくれたらいいな。
そう願いながら世代を超えた共闘の意思を見せると『ピュアマグマ』はたじろいでたが『ピュアクリムゾン』は負の熱い魂を放出させて最終形態である『ピュアクリムゾンバースト』に変身する。
「わ、私の・・・大事な友達を、活躍を奪おうってのか・・・ぜ、絶対に、許さねぇぞっ?!」
まるで『アオラレン』のような気配に仲間達も反応して構えを見せたが『ピュアレッド』はそれを制止ながら振り向いて断言した。
「大丈夫!彼女達は2人の力で正気に戻すから!」
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