奇跡の名の下に―⑤―
女子中学生3人がハンバーガーを頬張りとても嬉しそうにおしゃべりをする横でくつろげるほど暗人は達観していない。
そもそもその中の1人が本来年上の恋人というのもあっておかしな感覚に囚われるといつも以上に無口になっていたが彼女達は楽しい会話の中に今後の計画もしっかりと織り込んでいたようだ。
「来夢の所にいくのも連絡は入れない方が良いんじゃない?私もそれですごく驚かされてすぐに対応出来なかったし。」
「だね。じゃあここも暗人君が先に入って貰って私達はまた隠れた状態から飛び込もうか。」
「・・・えーっとね。前から気になってたんだけど暗人君は私の恋人だから名前で呼ぶのは止めて欲しいな~・・・」
そんな中1人だけとても私的な発言をしていたので暗人はつい翔子の顔を見つめてしまうが彼女は普段見せないような仕草で頬を赤らめると俯いてしまった。
(・・・これはこれで可愛いな。いや、決してロリコンとかではなくて。)
誰に聞かれた訳でもない自身の心に自分でツッコミを入れた後、4人はお店を後にすると今度こそ三森 来夢のアパートへ向かう。
そして打ち合わせ通り、まずは暗人が1人でインターホンを押すと中から来夢の声が聞こえて来た。
『・・・あれ?暗人君?どうしたの?』
意外なほど普通に対応されたので本当に『闇落ち』しているのかわからなくなるが司の話だと彼女と一緒に戦って『ピュアイエロー』を『ダイエンジョウ』に拉致したというのだから間違いはないはずだ。
「少しお話がありまして。お邪魔させて頂いてもよろしいでしょうか?」
そう伝えると来夢はすぐに鍵を開けてくれる。順調すぎて怖いくらいだがここで影から見守っていた少女達が駆け寄ってくると一気に玄関へなだれ込み、しっかり靴を揃えて脱いだ後奥の部屋に走っていった3人は各々が決めポーズを取りながら来夢に言い放った。
「お待たせ!あなたを迎えに来たわ!さぁ『闇落ち』から解放してあげるから変身して?!」
「・・・おお~?!もしかして翔子と美麗と司?どうしてそんな姿になってるの?」
感情の読みにくい来夢は小さな拍手をしながら目を輝かせて若返った友人に尋ねると完全に覚醒した美麗が口を開いた。
「ちょっとした薬のお蔭でね。どうする?来夢も飲んじゃう?」
滅茶苦茶軽いノリで勧める姿に暗人もややドン引きしていたが元を正せばその薬を進めた本人にその資格はないのかもしれない。
「暗人君、何やってるの。早く来夢のスマホから例のアプリを削除して。」
そこに司がこっそり近づいてきて耳打ちしてくれると本来の目的を思い出した暗人は急いで行動を開始する。ただ来夢の持つスマホは自前の物なのでロックを解除するまでに若干手間取りそうだ。
その時間稼ぎをこっそりお願いすると司も来夢の前に戻って3人は『プリピュア』へと変身した。
「おおお~。いいなぁ・・・私もその薬もらっていい?」
「いいわよ。ただし、私達に勝てたらね?!」
ショッピングモールの戦いから思っていたのだが中身が28歳のせいか、『ブラッディジェネラル』としての活躍が身に染みているせいか彼女の台詞が所々敵役っぽいのは何なんだろう。
「・・・よ~し。負けないよ?」
しかし当事者達からすると些細な問題らしい。特に誰かがつっこむ様子も無く来夢も大人の姿で露出度が上がっている黒い『ピュアグリーン』姿に変身するとやはり先程と同じように窓から飛び出して外で戦い始める。
本当なら戦いの行く末を見守りたいが今は来夢を正気に戻す事が先決だ。
暗人も彼女達の熱い魂に負けぬよう己を鼓舞してスマホの解除に挑み始めるがここで1つ問題が起こった。
(・・・・・うん?特に怪しげなアプリは入っていないな。)
今までのも全て非表示だったので恐らく隠れた場所から起動しているかと思ってくまなく調べたがそれらしいプログラムは一切見当たらない。
そうこうしているうちに外での戦いもいよいよクライマックスを迎えているのか。『プリピュア』の3人が合体技を放とうとし始めると暗人は焦らず急いで他の可能性について考える。
何かあるはずなのだ。洗脳の為に使われているツールが。
仕方なく来夢の部屋を空き巣の如く漁り始めると外では眩い光と大きな爆音が鳴り響き、アパートも激しい揺れに襲われた。
どうやら決着はついたらしい。先程の美麗と同じように来夢が抱えられて部屋に戻ってくると4人は荒れ果てた部屋の惨状を見て言葉を失う。
「・・・・・暗人君?何してるの?」
未だ『ピュアレッド』姿の彼女からは憤怒の声が漏れているが今は洗脳の根源をさっさと処理せねばならないのだ。確かに様々な場所を漁っていたので多少部屋の中が汚くなっていたがそこは恋人として一番最初に理解してもらいたかった。
「はい。来夢さんを洗脳しているツールが見当たらなかったので色々と調べていました。」
そもそも暗人が出来る仕事で唯一皆の役に立つのがそれなのだから家探しくらいでそこまで目くじらを立てなくても、と少しの不満を覚えたがそうではない。
どうやら怒りの原因はその手に握られた来夢の下着にあったようだ。
丁度それらが収納しているタンスを漁っていた為、変質者のように見えたかもしれないが暗人は下着よりもしっかり中身に欲情するタイプなのでこれを特別視する事は無い。
にも拘わらず翔子がやきもちらしい感情をぶつけてくると反応に困ってしまう。彼女が28歳の姿形なら何とでも取り繕えるのだが今は14歳でしかも『ピュアレッド』のままなのだ。
言い訳をするにしても未成年になってしまった彼女にかける言葉など存在するのか?考えれば考える程ドツボに嵌る暗人だったが青ざめて困惑した様子から『ピュアブルー』が助け舟を出してくれた。
「来夢を洗脳していたのってネックレスっぽかったわ。必殺技を当てた時それだけが砕け散ったからもう大丈夫だと思うわよ。」
「そうでしたか。」
それならもう家探しするような真似も必要ないだろう。暗人は静かに手に握ったものをタンスに仕舞おうとしたが変身を説いた翔子が急いでそれをとり上げると無言で片付け始める。
触らぬ神に祟りなしという事で暗人も他の物を片付けていくと今回来夢は意識を失う程のダメージを受けなかったのか『プリピュア』達が加減したのか。元の姿に戻った彼女はベッドに座って小さく溜息をつくと美麗や司を手招きして抱きしめていた。
「・・・ありがとう。これで後は『ピュアイエロー』を助け出せばまた皆で戦えるね。」
「だね!でもただ戦うだけじゃ駄目だよ。妖精の国に干渉している政府をしっかり懲らしめないと。」
燃滓 投治から詳しい事情を聞いている司が最終目的を伝えると部屋の片づけを終えた翔子や暗人も力強く頷く。
『プリピュアプロジェクト』にどこまでの人間が関わっているのかは未だ不明な点が多い。だからこそこちらも万全の体勢で臨むべきだと思うのだが翔子は鼻息を荒くして次の戦場へ赴く事を止めようとしなかった。
「翔子先輩。皆を助けたい気持ちはわかりますが今日は既に3戦もこなしているんです。集めた『アツイタマシー』の消費量も考えると一度体制を整え直すべきではありませんか?」
自身だけが未だ妖精とのやり取りが出来ないのでやや憶測の入った意見だが決して間違いではない筈だ。
ところが彼女にも急ぐ理由があるらしく、こちらの意見に頷きはするも決してその歩みを止めようとはしない。
「暗人君の言いたい事もわかるわ。でも今は時間が無いの。」
「何故です?確かに薬の効果時間は20時間程ですがまだ数も残っていますし体力の消費も考えるとここは無理をすべきではないと思います。」
来夢が皆に温かい紅茶を用意してくれる中、話し合いで互いが一歩も譲らない状況に陥っていたがそこに美麗や司が口を挟む事はなかった。というのも彼女達も考えは同じだからだ。
「翔子は愛美が心配なのよ。彼女だけは日本政府に捕えられているんでしょ?」
「ああ。だから翔子はまず元『プリピュア』の再覚醒を優先したんだ。戦力を十分整えてから少しでも早く愛美を救いたくてね。」
「・・・・・」
「暗人君、心配をかけてごめんね。でも私、私達の為に戦ってくれた愛美を一刻も早く助け・・・」
ごくりっ!!
砂糖もミルクも入れずに紅茶を一気に飲み干した暗人は喉と舌に焼けるような熱さを感じたがこれは大事な事を忘れていた自身への気付け薬だと思えばいい。
「行きましょう!」
そうだ。クリスマスの夜、あれ程素敵な経験をプレゼントしてもらった恩人を何故すぐに助けなかったのか。それは翔子なりの考えがあったからなのだ。
なのに自分は恋人の事ばかり考えていた。彼女を大切にするのは将来を誓い合った仲だから当然として、彼女が大切にしている親友の事を一緒に考えるのもまた夫の務めだろう。
「うん!行こう!司、『ダイエンジョウ』の本部って国会議事堂なのよね?」
「ああ。その地下には誰も知らない空間が広がっているんだ。そこに『プリピュアプロジェクト』に関わっている政府本部もあるはずだ。」
彼女が言うには核シェルターのような頑強な空間があってそこに地下へ伸びる建物がいくつか建造されているらしい。正に国家の暗部といった光景を想像するがここまで戦力を揃えた彼女達ならばどんな激しい迎撃も突破出来るはずだ。
こうして心を1つにした5人は早速暗人の車に乗り込んで出発したのだが感情が読みにくい来夢も皆と同じ姿には憧れていたらしい。
途中美麗のマンションに立ち寄って薬を服用した彼女は中学生の私服に着替えると引率の先生感がより強くなってきた。しかし暗人も3か月以上臨時講師として教壇に立ってきたのだから今更臆する必要はないだろう。
「皆さん、忘れ物はないですか?念の為チョコレートくらいは忍ばせておきましょう。」
「・・・それって登山とかで使う知識じゃないの?」
翔子が少し呆れるような表情を浮かべていたが実際今から足を踏み入れる場所は実在するどの山々よりも危険な場所なのだ。
「後は愛美さんを助け出したら無理はしない事。『アツイタマシー』の残量もしっかり頭に入れて立ち回って下さい。皆さん、翔子先輩をお願いします。」
「うん、任せて!」
「・・・がんばる。」
「・・・・・暗人君って本当に投治さんと被る時があるね。」
時々向けられる司からの言動がやや気になっていたがこちらもエンジンがかかっているので細かい事など気にしていられない。
こうして夕方前には敵の本拠地手前で車を停めると4人は狭い空間で変身してから車外に飛び出し、『ピュアパープル』の案内で一瞬で建物の中に入って行くと暗人も戦闘服に着替えて後を追うのだった。
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