奇跡の名の下に―④―
暗人もそうだが司は当事者だ。故に2人も『ピュアレッド』に任せておけば安心だと思っていた。
ところが想像以上に苦戦する姿を見ていた司はポリンを抱きしめながら固唾を飲んでいる。
「つ、強いね。流石は『ピュアダーク』だ。」
「・・・そういえば5人の中だと誰が一番強いとかあるんですか?」
自身の恋人であり花嫁の勝利を疑わない暗人は余裕もあるからか、軽い気持ちで尋ねてみるが彼女の方は気が気ではないらしい。
何故なら素人目から見ても『ピュアダーク』が終始圧しているから。『ピュアレッド』の拳と彼女の蹴りが相殺し合っていても体勢を大きく崩しているのは『ピュアレッド』の方ばかりなのだ。
「わ、わからない。そんなの試した事もないし・・・でも当時から剣道を習ってた私が一番強かったんじゃないかって自負はある・・・あっ?!」
どむんっ!!!!
マンションのベランダから2人の戦いを見守っていたが遂にその均衡が破れたのか。『ピュアダーク』のヒールキックが『ピュアレッド』の鳩尾に深く突き刺さると彼女の体が道路に叩きつけられた。
しかしバーサーカーじみた『ピュアダーク』が攻撃の手を休める事は無い。すぐに自身も急降下するとまるで以前の状況を再現するかのように再び倒れ込んでいる『ピュアレッド』を何度も何度も何度も何度も踏みつけるのだ。
「あっ!あっ?!あぁっ?!ちょ、ちょっと?!『ピュアレッド』!!早く立ち上がって!!早く!!」
いつの間にか叫ぶような声援を送っていたのはやはり共に戦ってきた仲間だからだろう。司が悲痛な叫びにも似た声を送るが彼女が立ち上がってくる気配は無い。
「・・・司さん。これは不味いです。お願いします。翔子先輩を助けてくれませんか?」
「へっ?!い、いや、だって私にはもう変身が・・・」
突然の提案に困惑した様子だったが暗人は用意していた例の薬を彼女に差し出す。
「このままでは再び希望の光が摘み取られてしまう。司さんなら、『ピュアパープル』なら『ピュアダーク』にも対抗できるのではないでしょうか?」
「・・・・・で、でも・・・・・」
そんなまどろっこしいやり取りの中でも2人の戦う音、正確には『ピュアダーク』が一方的に痛めつける悲劇は一向に収まっていない。
今は周囲に上官もいないので彼女の蛮行を止めるにはもはや力尽くしか方法が無いのだ。
「僕にはその力が無いのです。どうか、お願いします。」
後は司の意思次第だろう。暗人も落ち着く素振りこそ見せていたが内心はとても焦っていた。その様子は薬を置く手の平が小刻みに震える所からも窺える。
「・・・・・わかった。やってみるよ。でも・・・出来なかったら・・・」
「いいから早く!」
彼女は昔から大人びていたが決して心が強い訳ではない。だから包容力のある年上の男性を好む傾向があったりするのだろう。
そして今も誰かに背中を押してもらいたくてあと一歩が踏み出せなかった。今回は年下である暗人に檄を飛ばされた事で驚きはしたものの覚悟を決めると司はそれを迷わず飲み込んだ。
「・・・うわわわっ?!こ、こんなに縮むの?!あっ?!ホップン!!あと・・・フェニコだっけ?は、初めまして。」
14年前の自分の体など誰も覚えてはいないはずだ。だから余計に身長や体重に大きな変化が起こった事実は直感で理解出来るらしい。
妖精達の姿も確認出来たという事はその資格は十分満たしている。後はガジェット関係にある余計なプログラムを削除してしまえば行けるだろう。
ちなみにそれは既に完了していた。何故ならここまでは全て翔子が仕組んだ計画だから。
紫堂 司と一緒に戦いたい。
そんな純粋な気持ちをこっそりメッセージで受け取っていた暗人はここに来るまでの間やりとりをしてこの作戦が立てられた。
つまりわざと劣勢状態を作って司本人に再び目覚めてもらう、という流れだったのだが見ている側からすればそれが本当に演技なのかどうかわからなくなってくる。
司が2人の戦いに気を取られているお蔭で根回しはスムーズに行えたが今はさっさと変身して助けに行って欲しいというのが暗人の嘘偽りない本心なのだ。
「では、お願いします!」
「うん!チェンジプリピュアッ!!」
ぱぁぁぁあぁぁっ!!
あっさりと変身を遂げた『ピュアパープル』に達成感よりもあっけなさを覚えたが本人は一瞬だけ大いに喜んだ後急いで救援に駆け付けてくれる。
「そこまでよっ!『ピュアダーク』!いえ!『ピュアブルー』!!」
それにしても演技風な登場と台詞は文字通り中二心から来るものなのか、伝説の戦士のしきたりか何かだろうか?
びしっと指を指してポーズをとっている暇があるのなら不意打ちでも放ってさっさと『ピュアレッド』を助けて欲しいと思うのは暗人が汚れた大人だからだろうか?
「・・・『ピュアパープル』・・・」
「仲間にこんな酷い仕打ちをするなんて・・・絶対許せない!行くわよ!!プリピュア!!バンブーブレードッ!!」
おかしいな?確か彼女は『ダイエンジョウ』から貸与されたブレスレットを使い『バイオレットジェネラル』として仲間達を蹴散らかしていたような・・・
これも14歳に退行した影響なのだろうか?それとも汚れた大人は黙って見守るべきだろうか?
とにかく彼女は自身の必殺技であり武器でもあるバンブーブレードを構えると一気に攻め込む。と、同時に『ピュアレッド』も元気に飛び起きると一気に形勢は逆転した。
・・・いや、そうではない。
これは『ピュアダーク』の戦意が著しく喪失しているのだ。可能性として考えられるのは美麗のスマホから悪さをするアプリを除去した事が考えられるがそれは一番最初に行っていた。
だとすれば少しタイムラグが過ぎる。今更何か変化が起こるとは考えにくかったのだがその答えは彼女の心にあった。
「・・・いいな・・・私も・・・『ピュアブルー』に、なりたい、な・・・」
「?!」
「『ピュアダーク』?!あなたまさか・・・意識があるのね?!」
未だに洗脳がはっきり解けてはいないものの、懐かしい戦友の姿を見た『ピュアダーク』の様子は明らかにおかしい。いや、その光亡き双眸からは大粒の涙が零れ落ちている。
「・・・もう、終わりにして・・・」
「『ピュアブルー』!!諦めないで!!いくよ『ピュアパープル』!!」
「うんっ!!プリピュアッ!!ツインハートブレイィクッ!!スキュアーッ!!」
どうやら先程と同じように戦闘を終わらせる為の必殺技らしいが、無防備に立ち尽くす戦友の胸元目掛けて片方が拳を、もう片方が紫色に光るバンブーブレードで突きを放つ絵面は一瞬目を疑ってしまう。
だがこれこそが彼女達のやり方なのだろう。
またまたド派手な爆音に爆風、まばゆい光で周囲が包み込まれると煙幕で視界が遮られる。
しかし今回は2人が変身の解けた美麗を担いでこちらの部屋に戻ってくると3人はすぐにぐったりして動かない彼女の看病から始めるのだった。
「あ、あれ?!ちょっと美麗?!目を覚ましなさいよ?!司!!久しぶりに変身出来たからって全力で必殺技撃ち込んだでしょ?!」
「えぇっ?!そ、そんな訳ないでしょ?!むしろいつも全力で戦ってる翔子が原因じゃないの?!」
目を覚まさない美麗を囲って2人が不毛な争いを始めたのでまずは現在最年長になった暗人が仲裁に入る。それからすぐに呼吸や脈を計ってみたが特に問題はなさそうだ。
「・・・相変わらずね。あなた達。」
「「あっ?!よ、よかったぁ・・・」」
いつの間に目を覚ましたのか。美麗も横になりながら2人を白い目で眺めている所を見るにもう安心だろう。
「すみませんでした。まさかあの薬が原因で貴女が『闇落ち』、いえ、洗脳されてしまうとは知らなくて・・・」
そして正気に戻った瞬間暗人はまず謝り倒す。本来の目的はあくまで翔子だけだったので美麗がこんな状態に陥るのは想定外であり誰よりも罪悪感に苛まれていたのだ。
「いいわよもう。それに2回目の中学校生活は本当に楽しかったし。そういえば翔子や司まで薬を飲んじゃったの?それこそ大丈夫?」
その件に関しては推論だが改めて3人にシステムを説明すると各々はぽかんとした様子だったが一応納得してくれたらしい。
というのも彼女達の興味は既に違う所へと向けられていたのだ。
「それより司、そのぶかぶかの服は良くないわね?私のでサイズが合えばいいんだけど・・・あ、暗人君は隣の部屋に移動してね?」
どうやら多感な御年頃に戻った彼女達は何よりもまず身嗜みを整える事を最重要項目として考えているようだ。
翔子の時もそうだったが首を通す部分から肩や鎖骨が丸見えでスカートもずれ堕ちない様に手で握っている姿は滑稽であると同時に自然と目を逸らしてしまう。
「わかりました。」
こうして少女達の随分と長いコーディネートタイムを待ち続ける中、暗人は残る2人『ピュアイエロー』と『ピュアグリーン』の洗脳を解除して次に『ピュアクリムゾン』達をと考えていたのだが1つだけ失念していた部分がある。
それが時間だった。
翔子達は元々28歳なので薬の制限時間もしっかり考えて戦いに挑まないと途中で体が大人に戻り変身が解けたりすれば目も当てられない。
故に暗人はある程度長期戦を見越していたのだがそこは14年ぶりに変身したリーダー『ピュアレッド』が許すはずが無かったのだ。
「よし!とりあえず次は来夢ね!張り切っていきましょう!」
隣の部屋からそんな掛け声が聞こえてくると驚いてドアを開けるが彼女達の決意は既に助走を超えて全力疾走真っただ中だ。
「・・・それは明日赴かれるのですよね?」
「何言ってるの?!今からよ!さぁ行きましょう!あ、暗人君、車の運転はお願いね?」
こうなると止めるタイミングが難しい。確かに薬の効果時間もたっぷり残っているしお昼も過ぎた所だがまさかまだ連戦を重ねるつもりか?
「・・・わかりました。しかし連戦でお疲れでしょうから途中に昼食を摂りますよ。」
仕方がないのでせめて栄養補給をと考えて提案するが3人は心身が14歳に戻っている。つまり体力的な部分も若さで十分カバー出来ているのかもしれない。
とても元気にはしゃいでいる姿に水を差す訳にもいかず、まさか彼女達を引率する立場になるとはと悩みながらも4人はマンションを後にすると暗人の運転する車はハンバーガーショップに入るのだった。
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