奇跡の名の下に―③―
本来同じ時代に別世代の『プリピュア』が存在する事などない為比べるのは難しいが少なくとも『ピュアレッド』はやはり他とは格が違うらしい。
初めて生で見るその必殺技は『バイオレットジェネラル』の心臓を消滅させそうな勢いで叩きつけていたがこうなってくると司の方が心配だ。
どっかぁぁぁぁぁんんっ!!!
派手な光と爆音が辺りを包み込み、後から爆風が襲ってくるとこちらもたまらず姿勢を低くする。そして全てが終わると損傷していた建物も綺麗に元通りになっていた。
少しして身体の内側から爆発した『バイオレットジェネラル』が白煙から姿を現すとその場に倒れ込む。
(・・・・やっぱりやり過ぎでは?)
もしかすると自分が花嫁に選んだ恋人は殺人罪を犯したのかもしれない。そんな不安に襲われた暗人だったが変身が解けて司の姿に戻ると彼女はゆっくりと体を転がして仰向けになった。
「・・・やっぱり凄いね。翔子は。」
「今は『ピュアレッド』ね?」
どうやら戦いは無事に幕を下ろしたらしい。『ピュアレッド』が差し伸ばした右手を司がしっかり掴んで立ち上がると同時に彼女のブレスレットは粉々に砕け散る。
この時誰よりも喜んでいたのは他でもない暗人だったのかもしれない。
嬉しくて急いで駆けよるとつい小さな体を思い切り抱きしめてしまったが『ピュアレッド』もその気持ちを十分理解してくれたのだろう。
歳の差にして12歳近く離れている2人が抱きしめ合うのが全世界に公開されているとも知らずに感無量だった2人だが司はいち早く周囲の眼から逃れるよう車へと移動する。
「やれやれ。まさか本当に変身するなんて・・・投治さんはもう無理だって言ってたんだけどな。」
完敗を認めた司からは既に敵対心は無く、後部座席で幼い親友と談笑ムードだ。
よかった。本当によかったが戦いは始まったばかりだ。とにかく今は司から現在の『ダイエンジョウ』や叔父、そして気になる甥っ子について色々と聞き出したい。
「投治さんは『闇落ち』したプリピュアを使って国家転覆を目論んでいるわ。」
「「へっ?!」」
さらりと答えてくれた事にもびっくりしたがその内容が想像の斜め上を行っていた事にも驚きを隠せない。
まさか堅物寄りの叔父がそんな大それた事を考えているなんて・・・意外過ぎて言葉が出てこない暗人の代わりに中学生姿の翔子が根掘り葉掘り聞くと司はすらすらと答えてくれる。
「だって投治さんのお兄さん、ホープレスエンペラーも国家からの辞令でその椅子に座ってただけだし彼からしても仇は『プリピュア』じゃなくて国家なのよ。」
その内容は未だショックを引きずっている翔子には堪えたのか、悲痛な表情で黙り込んでしまうが今度は暗人が代わりに激昂し始める。
「でしたら猶更除け者扱いするなんて酷いですね。ホープレスエンペラーは僕の父なんですよ?何故その当事者を遠ざけるのでしょう?」
「それは君が大切だからよ。大切な兄の忘れ形見をこれ以上危険な目に合わせたくないからわざと突き放してるの。」
何て勝手なのだ。今まで『ダイエンジョウ』の一員として働いてたのに勝手すぎる。より腹が立って来た暗人はイライラが収まらなかったがそんな感情は翔子の一言で霧散した。
「・・・まるでさっきの暗人君みたいね?」
「・・・・・」
「ほう?私が訪ねる前にいちゃいちゃしてたんだ?いいな~私も投治さんと早く結婚したいな~。」
変身ブレスレットを破壊されて完膚なきまでの惨敗を受け入れた司は少し感情を素直に表現しすぎな気もするがこれからどう動くつもりなのだろう。
「司が年上好みってそういう事だったんだ・・・それじゃ今からは一緒に戦いましょうね?!」
「・・・私が変身出来るとも思えないし止めておくわ。」
「何言ってるの?あの薬を使って14歳に戻ればいけるわよ!ね?暗人君?」
「どうでしょう?正直翔子先輩が変身出来た事自体が奇跡のようにも思えますから・・・ホップンさんとフェニコさんの見解をお聞きしたいですね。」
行きと違って帰りはとても車内が楽しい雰囲気に包まれている。ただ今は目標の1つを超えただけでこの先まだまだやらなければならない事が山積みなのだ。
「ふむふむ。多分不可能ではないけどやってみないとわからないプン、なるほど。じゃあやってやろうじゃないの!」
ラグ無しでやり取りできる翔子は早々に結論付けると司も嬉しそうな苦笑いを零すしかない。
「でしたら継続して『アツイタマシー』を集める必要はありますね。後は『闇落ち』したプリピュア達を全員元に戻してこちらの陣営に加えていきましょう。」
「おや?私を危険な目に合わせたくないって言ってたのに随分乗り気ね?・・・も、もしかして司とキスしたから、わ、私捨てられた?!」
「そんな訳ないでしょう。先程の『ピュアレッド』の強さと今後は司さんも協力してくれるようなので容認しただけです。」
「・・・・・ちょっと。私は投治さんと敵対するつもりはないわよ?」
「おや?いいんですか?僕と叔父はほぼ親子みたいな関係ですよ?それに追人も僕に懐いているのでちょっと司さんの悪評を流せば結婚を阻止する事くらい・・・」
「暗人君・・・流石にそのやり方はどうかと思うけど?」
司が唖然としていたので翔子が代わりにフォローを入れるも彼女達はまたまた暗人について大事な事を忘れている。
「やり方としては真っ当でしょう?だって僕も『ダイエンジョウ』の一員なのですから。」
先程までと違ってあらゆる意味で形勢逆転していた暗人はそれらしい根暗な笑顔を浮かべると翔子は呆れた表情を浮かべていた。
あれから3人はそのまま美麗のマンションへ向かうと暗人が彼女に接触を試みる事から始まった。
「美麗さん。少しお話があって参りました。お部屋に上がってもよろしいでしょうか?」
「・・・・・どうぞ。」
この時隠れて翔子と司も見守っていたのだが入口が開くと2人も滑り込んでエレベーターに乗る。
「・・・美麗のマンションには頻繁に来ていたの?」
「翔子、重すぎる女は嫌われるわよ?」
「いえ、大丈夫です。ここには3回程しか来ていませんし翔子先輩が思うような事も一切ありませんから。」
暗人にとって初めて向けられた嫉妬の心はむしろ嬉しささえ感じたのでしっかり返答すると彼女も納得したのか安堵の表情を浮かべていた。
『バイオレットジェネラル』との戦いの後、鉄は熱いうちに打てという事で3人はそのまま美麗を『闇落ち』から救う為にここに足を運んだのだ。
翔子と同じパターンが使えるのなら『ピュアレッド』に引き付けて貰っている間にスマホを拝借して例のアプリを完全削除すれば光が見えるかもしれない。
いくつか気になる点もあったが敵対勢力とぶつかり合うのなら各個撃破の方がいいだろうというのは司の意見だった。
「「「おじゃまします。」」~。」
来客はてっきり1人だけだと思っていたのだろう。『闇落ち』して以降滅多な事でその表情を崩さなかった美麗が目を見開いて驚いている。
当然視線の先に捕えているのは同い年の姿になっている翔子だ。
「やっほ!久しぶりね。まさか氷山さんが美麗だったとは思わなかったけど『闇落ち』してるんだって?」
「・・・・・翔子。そうか、あなたも薬を使って・・・という事は無事に全員『ダイエンジョウ』の傘下に降ったのね?」
「違うよ美麗。私はもう『ピュアレッド』にやられちゃってさ。今はこっち側の人間なんだ。」
どうやら自身の知らない所で計画は相当進んでいるらしい。だが司が『バイオレットジェネラル』に変身出来なくなった事を告げると美麗は無表情のまま小首を傾げている。
「・・・じゃあこの状況って・・・?どういう事なの?」
「うん!美麗!私があなたを『光落ち』させに来たの!正気に戻してあげるから一緒に国家をぶっ潰しましょう!!」
台詞だけ聞いていると完全にテロリストのそれだが実際国家が悪事を重ねて今に至るので今回ばかりは暗人もつっこまないでおく。
「・・・無理でしょ?だって私は『ピュアダーク』よ?一度戦い出したら理性を失っちゃう・・・翔子、逃げて。」
これはプログラムの都合なのか、美麗が辛うじて理性的な言葉を告げた後は体が闇に覆われると一瞬で『ピュアダーク』に変身した。すると愛犬ポリンが激しく吠えだしたので彼女は窓から外に飛び出して翔子を誘う。
「美麗の『闇落ち』は洗脳も相当強いはず。翔子、大丈夫?」
「多分大丈夫!任せて!!」
とても頼りになる言葉を受け取った2人は美麗の愛犬をなだめる司にスマホのデータを除去する暗人と早速役割を果たし始める。
そして本日二戦目を開始した『ピュアレッド』は先程と比べ物にならないくらいの激戦を繰り広げるのだった。
いつもご愛読いただきありがとうございます。
本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。
あと登場人物を描いて上げたりしています。
よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)
https://twitter.com/@yoshioka_garyu




