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奇策は聖なる夜に―③―

 3人と2匹の妖精は大満足のプレゼントと休息を手に入れた後、最後の締めであるディナーの予定を確認するとここで予想外の事態になった。

「やっぱりクリスマスっぽい場所と食事がいいんでしょうか?」

「そうね。私達の考えてた所でいいんじゃない?」

「お、いいわねぇ~。でもごめ~ん。私夜は仕事なの。」

『アツイタマシー』を集める為に最後まで一日を過ごすものだとばかり思っていた2人は顔を見合わせる。どうやら今日という日は全て愛美に踊らされていたようだ。


「だから皆は19時に予約してるここで食事してきて~。あとお部屋も取ってあるからご自由に~。」


鞄から取り出された優待券には超が3つほど付く一流ホテルの名前と愛美のサインが入っており、最初からそのつもりだったのだろう。

「えっ?!こ、こんな場所行った事もないし・・・正直お値段が・・・」

「いいよ~これは私から2人へのプレゼント~。でも来年は実費で行ってね?」

「・・・ありがとうございます。」

翔子は受け取って良いのかどうか戸惑っていたが暗人はその言葉の重みからより強い責任感が生まれて来た。

そうだ。自分達は何としてでも日本政府からプリピュア達や侵略されている妖精界を助け出し、そして打ち倒さなければならないのだ。

国家を敵に回しても、それを達成した後も2人は今日のような楽しい日々を過ごせるのだろうか?そう考えると遠慮などしていられない。


「行きましょう。まだ時間はありますのでぎりぎりまで『アツイタマシー』を集めるのです。」


まだ16時を過ぎた所なのでデートを仕切り直す時間は十分ある。暗人は愛美に深く頭を下げて再び感謝を述べると翔子の手を引いて店を後にした。

それから2人で予定していた場所に足を運んだりおしゃべりをしたり光る妖精達と戯れながら時間を過ごし、目一杯楽しんだ後愛美の用意してくれた最後の舞台に登壇するのだった。




叔父がそれなりの身分を持つ人物なのである程度の場所には慣れていたが翔子は完全な庶民なのだ。彼女は初めてのドレスコードをとても心配していたがそこは愛美もしっかり考えていたのだろう。

特に何の問題もなく夜景の見える席へ案内されると翔子の椅子を静かに引いて先に座らせた。

「あ、ありがとう・・・何か慣れてる感じがするわね。もしかして暗人、他の女の子ともこういう場所に?」

「そんな訳ないでしょう?デートどころか手をつなぐのも翔子先輩が初めてです。」

少し素直に答え過ぎたか。そう聞くと彼女も気恥ずかしさから目を逸らし、それでいてまんざらでもない笑顔で頬を緩めている。

だが妖精達の手前、あまりいちゃつくのも良くないな・・・と自制心に言い聞かせて周囲を見渡した暗人はここですぐに異変を感じた。

「む?そういえば光が1つ足りない・・・ホップンさん、フェニコさん、どちらかが傍から離れてますか?」

「え?!ま、まさか迷子に?!た、大変じゃない?!」

慌てる彼女を落ち着かせながら暗人はスマホからタッチペンアプリを起動してその答えを待つ。するとフェニコの方は愛美の身を守る為について行っているらしい。

一先ず安心した2人は今日一日の働きと成果に満足しながら乾杯する。そして食べた事の無い数々の料理を堪能しつつ会話と雰囲気を楽しもうとした。

「・・・必ず皆さんを救い出しましょうね。」

「当然よ!愛美もいるし私も一応アレを持ってるしね!!」

翔子の言うアレとは若返る薬の事だ。出来れば使用しないで解決を図りたいが果たして『ピュアイエロー』だけで可能だろうか。


・・・駄目だ。折角のクリスマスデートなのに暗雲立ち込める未来が脳裏を過ってしまい、最終的にはどうしてもそちらの方向に話題が進んでしまう。


その違和感と残念な様子は表面にも現れていたらしい。最後は翔子に気を遣わせるような形でレストランを後にすると2人とホップンは用意された部屋へ向かい、そしてその不安が吹き飛ぶ程驚いた。

「うわぁ・・・随分広いんだけど・・・夜景も素敵なんだけど・・・ぇぇぇ・・・愛美ってばこんな高そうな所を予約しなくても・・・」

彼女の茫然とした呟きとは別にホップンは室内を喜んで飛び回っている。

恐らくこちらが気を遣わないようにと1ランク下の部屋を選んでくれたのだろうがここは超超超一流のホテルなのでセミスイートでも十分過ぎるほど豪奢なのだ。

「しかし遠慮は余計に失礼です。僕達も愛美さんのお気持ちを有難く受け取りましょう。」


そう言って翔子を先にお風呂へ促すと暗人は早速ルームサービスで多少のお酒と軽食、ホップン用のデザートを頼んで先に一杯やり始める。

「ふぅ~まさか泳げそうなくらい大きなお風呂だとは思わなかった~って?!先に始めちゃってるし?!」

「まぁまぁ。では僕も失礼して入ってきますね。」

心の柵がなければもっと楽しめただろうに。ふと冷静さを取り戻すとそう考えずにはいられない暗人は既にバレバレなのを承知で隠すよう演じ続けていた。

明日は来るのだろうか。彼は翔子のいう大きな浴槽で体を浮かべては天井をしばらく眺め続けた後、酔いと悪い想像を若干醒ます。


「ホップンさん。こっちに来てください。」


「おぉ?」

そして湯上りに軽く晩酌を楽しんだ後、就寝時に彼を呼んだ事が意外だったらしい翔子から驚愕の声が漏れていたが今夜はこうしようと心に決めていたのだ。

キングサイズのベッドに2人が並んで横になるとその間にホップンが加わり、恐らく川の字のような感じになっているのだろう。

今夜は様々な意味で特別な夜なのだから翔子を守ってくれている彼を放って何かをするつもりはない。

「今日は楽しかったですね。」

「うん・・・そうだね。」

元を正せば日本政府が元凶であり妖精達や妖精界は利用される為にその世界を崩壊され、この地に無理矢理呼び出されてきた。

その事実を知ったからにはこれ以上彼らに甘えるのは良心が許さなかった。更に自身の心の奥底には父の本当の仇が見えてきている。

翔子との関係、そして愛を知った為一度は霧散したかに思われたが結論としては国家を討伐し『プリピュアプロジェクト』を完全に破壊する事こそが父への手向けになるのではと考えていたのだ。


その鬱屈から思った以上にデートを楽しめなかったのだけは心残りだが次の瞬間。


「大丈夫プン!今度は僕達がこの世界を救うプン!!」


初めて聞く声に思わず飛び起きたのは暗人だけではない。隣で横になっていた翔子も同時に身を起こし、暗い部屋の中で2人が驚愕の表情で顔を見合わせる。

「翔子先輩。今のは?」

「ま、間違いなくホップンの声よ!!」

それから同時に光を見つめるも以降は何の声も聞こえなかった。ただこちらと彼の決意は合致しているらしい。

それだけでも明るい未来を感じた暗人は再び翔子と横になり、布団の中では手をつなぎながら、頬の隣には目に見えない盟友を感じて深い眠りにつくのだった。








一方愛美は職場とは全く違う場所で久しぶりに変身出来た喜びに浸る間もなく緊張感のある話し合いを始める。


「えっと~。来夢ちゃんも厳しい感じ?」


「・・・うん。もうあなたを敵としか認識出来ない。」

そこは雑居ビルの裏手で人影は無い、婦女子には危険な場所だ。

「・・・だから滅ぼす。」

前回の戦いで敗れた『ピュアグリーン』は『闇落ち』している為衣装はそのままに黒色に染まっていた。そしてもう1人、薬の効果で氷山 麗美になっている『ピュアダーク』も一緒だ。

「う~~ん。でも私達って14年前に命を賭けて戦った仲間じゃない~?なのに洗脳か何か知らないけどそんなもので敵対しちゃうほど薄い絆なわけ~?」

「・・・全ては政府によって作られた筋書き。」

「・・・つまり最初から存在しない。」

元々静かな話し方だった来夢はともかく美麗の『闇落ち』具合は相当強いらしい。普段は翔子と同じくらい感情豊かだった彼女がこんなにも暗い話し方しか出来ないなんて。

「待ってて。今すぐあなた達を元に戻してあげるから!!」

悲しみで心がはち切れそうだった『ピュアイエロー』は久しぶりに戦闘態勢に入ると3人は早速互いの攻撃を繰り出す。

普通に考えると2対1で分は悪そうだが『ピュアイエロー』の中身は日本の繁華街を上り詰めた存在だ。

そんな彼女が勝算もなく2人を呼び出す愚行は犯さない。今の彼女には『ピュアイエロー』の力にフェニコから与えられたフェニックスの加護も得ている。ここに勝機を見出だしていたのだ。


「痛かったらごめんね!プリピュア!!ライトニングボルケーノォッ!!!」


14年前の最終形態と違い、今は炎の翼を背にした彼女が放つ雷を纏ったフェニックスは『闇落ち』した2人に一瞬で超弩級のダメージを与えると成す術もなく地面に落ちて来た。

これで意識が戻ってくれれば・・・一縷の望みをかけて2人が立ち上がるのを待っていると・・・

「ピ、『ピュアイエロー』・・・逃げ・・・」


どごぉんっ?!?!


突然背後から受けた事のない攻撃を食らった『ピュアイエロー』は思い切り吹き飛ぶ。一般人を巻き込まずに済んだのは運が良かったのかもしれないが今の不意打ちでビルの壁を貫通しながら繁華街のど真ん中で立ち上がった彼女はその攻撃してきた人物を見て唖然とした。


「・・・え?な、何で・・・?」


「決まっている。私が『ダイエンジョウ』の幹部、『バイオレットジェネラル』だからさ。」


それは決して不意を突かれた驚愕ではない。ただ目の前にいた、『ブラッディジェネラル』と似た服装の人物が間違いなく紫堂 司だったからだ。

しかし驚いている暇もなく『ピュアダーク』が蹴りを放って来たのでそれを躱すと今度は『バイオレットジェネラル』の攻撃が矢の雨のように飛んで来る。


どんどんどんどんどんっ!!!


かなり大きめのハンドガンがまるで砲撃のような音を鳴り響かせながら『ピュアイエロー』の周囲、特に一般人だけでなく『ピュアダーク』諸共吹き飛ばす勢いで攻撃してくるので迷っていられない。


どかかかっどっかぁぁぁん!!!


的を絞らせる為あえてその場に留まり、全ての攻撃を受け切った彼女は心身のダメージから片膝を付く。

それでも『闇落ち』した『ピュアダーク』からの追撃が迫って来た時。


がしんっ!!


「私達の任務は倒す事じゃない。連れて帰る事だ。そこをはき違えるな。」

「・・・はい。」

何故だ。何故司まで『ダイエンジョウ』に加担しているのだ?しかも彼女は他に『闇落ち』した子達と違い、翔子と同じような自己をしっかりと感じる。

既に満身創痍で戦うどころか動く事すら難しい『ピュアイエロー』は必死に思考だけを働かせるとまずは約束通りフェニコを翔子の下へ向かわせた。


少なくともこれで希望は繋がる筈だ。現役プリピュアが全員『闇落ち』しただけでなく、初代のメンバーがほぼ敵の手中に堕ちたとしても。


「・・・あと、はお願い、ね・・・」

最後は届くはずもないか細い声でそう言い残した『ピュアイエロー』は『バイオレットジェネラル』の攻撃と拘束により意識を失う。


翔子達がその事実を知るのは夜が明けてからだった。


いつもご愛読いただきありがとうございます。

本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。

あと登場人物を描いて上げたりしています。

よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)


https://twitter.com/@yoshioka_garyu

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