奇策は聖なる夜に―②―
温かい紅茶に妖精達が好きなソフトクリームとケーキを頂いた後、暗人は2つ目の計画を説明し始める。
といってもこちらは妖精達や翔子と事前に打ち合わせをしていたので知らないのは愛美だけだ。
「プリピュアに変身する為の『アツイタマシー』、これを一気に回収します。」
「ほほ~?って事は・・・暗人君が『アオラレン』を作り出すの?」
「いいえ。モンスター化させるアイテム『アツクナレヨー』は叔父、『ネンリョウ=トウカ閣下』が直接幹部に支給していたものなので僕には何も出来ません。」
「ほ~?じゃあどうやって集めるの~?」
愛美も不思議そうに小首を傾げていたがここで暗人は隣に座り直していた翔子と顔を合わせてニヤリと笑みを浮かべ合う。
「「名付けて!!『聖夜の大嫉妬&ラブラブ作戦』~~!!!」」
「・・・・・」
「ちょっと?!折角上手く発表出来たんだからもっと驚いて?!」
作戦名がかなりダイレクトなので恐らく彼女にもその真意は伝わっているはずなのだが。翔子が残念そうに問い詰める中、暗人は念の為にその詳細を説明する。
「つまりクリスマスが近いのでこれを機に、独り身でありながらも彼氏彼女がいない周囲のカップルに嫉妬する人々から『アオラレン』かそのレベルの『アツイタマシー』を回収しよう、という計画です。」
「ふ~~~ん。じゃあ私からも『アツイタマシー』がいっぱい回収出来そうねぇ~?」
「「あ・・・」」
これは実際よくある話で自分がリア充になると無意識の内にそのラブラブっぷりを見せつけて友人が呆れる、もしくは離れていくという事例は古今東西枚挙に暇がない。
故に普段も見せつけているつもりは全くないのだがどうやら愛美としてはそのイチャイチャぶりに若干思う所はあったらしい。
第三者の正確な指摘からもしかして取り返しのつかない方はこちらだったのかと今更気が付いた暗人は隣に座る翔子とあたふた慌てていたが愛美も妖精達と直接やりとりをすると呆れた笑みで頷く。
「まぁ確かに~?それを目的にわざわざ人目のつく場所で~?ちょ~っと目に余るスキンシップが許されるイベントでもあるよね~?」
「は、はい・・・仰る通りです。」
こういった空気はてっきり美麗の話題の時に訪れるものだとばかり思っていたので気まずくて仕方がない暗人は翔子と横目を合わせながら俯くしかない。
「でも本当に癪だわぁ~う~ん・・・じゃあこうしよう!私も暗人君とデートする!」
「何で?!?!」
突然の提案に彼女がとんでもない声で驚きを見せたのも納得だ。何せ2人は結婚を前提にお付き合いしている仲なのに何故いきなりそんな発想に至ったのだろう。
「ほら~!今のなんて2人が求めてた熱い嫉妬の魂そのものでしょ~?それだったら翔子ちゃんが傍にいる状態で私と暗人君がイチャイチャした方がより大きな『アツイタマシー』が回収出来ない~?むしろ翔子ちゃんが野生の『アオラレン』になっちゃったりして~?」
この女性、今や日本でその名を知らない程有名なホステスだが昔の資料からもそのあざとく強かな性格は十分読み取れていた。
だからといって彼女の提案だけは断じて認める訳にはいかない。
何故ならこれは2人にとって初めてのクリスマスを楽しく過ごそうというカムフラージュも含まれた偉大な作戦でもあったからだ。
しかしここで暗人側に不利な出来事が起こってしまう。
それは恐らくフェニコの光だろう。彼が激しく輝くと本当に翔子から『アツイタマシー』を回収してしまったのだ。
その事実に2人は唖然とするしかなく、愛美の方は満面の笑みを浮かべて勝ち誇る様子を見せている。
「さぁて、お二人さん。あなた達の提案と私の提案。どちらが有用かしらね~?」
あれから2週間後、学校も冬休みに入り街はすっかりクリスマスムードに包まれていた。
「遂に来たわね~クリスマスデート~!しっかり楽しまないとね~?」
「「・・・・・」」
自分達から提案してしまった手前路線変更が難しく、結局本当に3人でデート・・・いや、これはただ3人で遊ぶ会になりそうだ。
「ほらほら~あっちにサンタさんもいるよ~?行こっ?」
だが愛美だけは本当にデート気分らしく、周囲に妖精の光を2つ浮かべながらこちらの腕をぎゅっと掴んできたのだから堪ったものではない。
「あ、あ、あぁぁ・・・わ、私もっ?!」
そんなラブラブな2人を見かねた翔子が張り合う様に右腕を掴んでくる勘違いと嫉妬の行動には少し癒された。
「いや、これ何かおかしくないですか?」
冷静に考えれば何故恋人の方がそんな感情を抱いているのか、何故愛美はこんなにも余裕があるのか。
「え~そう~?ダブルデートってこういうものじゃないの~?」
「愛美!あなたわかっててからかってるでしょ?!」
両手に華とも言えなくはないが嬉しさより気まずさが勝って仕方がない暗人は左右から奪い合われるような構図に頭を悩ませる。
「・・・まぁ僕達の浮ついていた感情が原因でもありますから、今日はそういった部分を除いて純粋に楽しみましょう。あ、でも『アツイタマシー』の回収だけはきっちりお願いしますね。」
2人とも元プリピュアなだけあってそれなりに人目を惹く容姿をしているので成果は期待出来そうだ。
早速隣に歩く恋人そっちのけでこちらに視線を向けてくるカップルがいくつか確認出来るとそこから妖精達の力によって光が吸収されていく。
「うぅぅ・・・こ、こんなはずじゃなかったのにぃ・・・」
「あ~翔子ちゃんまだ未練があるの~?駄目よ~?私を置いて2人で楽しもうとしたんだから責任取って貰わないと~ね?」
まさか父の仇とこういった関係になるとは夢にも思わなかった。根暗な彼は異性に囲まれた経験などもなかったので恋心はさておき、貴重な経験だと割り切って本格的に行動を開始する。
「ではまず・・・クリスマス限定ランチに行きましょう。カップル割引もあってお得です。」
「あっ?!そ、そこは2人で行こうって相談してた所じゃない?!」
「ほっほぅ~?だったら猶更3人で行かないとね~?!」
翔子の悲痛な叫びは組まれている腕からも感じ取れたが来年まで待てる気がしない、というか来年が来る保障もないのだ。
今回の作戦で『ピュアイエロー』を復活させて日本政府と戦う。そこに翔子も加わる可能性を考えると自分達の将来を描ける程余裕はなかった。
「まぁまぁ。この埋め合わせはしますから。」
「おぉ~流石悪い男君!可愛い女の子を2人も連れて歩けるんだから気も大きくなってるのね~?」
「もう何とでも言って下さい。」
こうして目的のお店に辿り着いた3人はカップルと認められなかったものの美味しい昼食を堪能し、大忙しの妖精達にも限定パンケーキをごちそうすると再び街を歩き始める。
「ふんふん。思った以上に『アツイタマシー』が集まってるって~!」
周囲の眼もある為タブレットでのやり取りは出来ないが愛美の話だと相当順調にいっているらしい。だったらこの作戦も決行した甲斐があるというものだ。
街の活気というか、それこそ熱い気持ちに当てられた部分もあるのだろう。初めて迎えるリア充のクリスマスというのも拍車がかかり、暗人は気持ちが高揚してくると改めて彩られた街に感動を覚える。
(・・・皆が浮かれる気持ちもわかるな・・・)
根暗ではあるが決して嫉妬を抱かなかったのは単に他人への興味が薄かったからに過ぎない。それが今、生涯を誓い合う恋人とこうやって恋人達の一大イベントに参加出来ているのだから感慨深いものだ。
「・・・そうだ。即興でプレゼント交換してみませんか?」
「ほほぅ~?やる気だねぇ~?」
「・・・いいわね。こうなったら私だって楽しんでやるんだから!予算はどうする?」
翔子も遂にデートというこだわりを捨てて鼻息を荒くすると暗人も笑顔で頷く。
「では1時間後に駅前のスタボに集合で。」
『アツイタマシー』を集める目的がやや見失われつつあるが3人は意気揚々と思い思いの場所へ向かう。ちなみに妖精ホップンは翔子に、フェニコは愛美の傍についてもらった。
これで少なくとも『ダイエンジョウ』から狙われる心配はないだろう。
(しかしこれは無謀過ぎたかな・・・?)
暗人は久しぶりに1人になってからふと女性向けのプレゼントなど考えた事が無い人生を思い出した。
彼女達に何をあげれば喜ばれるのか。翔子へのプレゼントは既に用意してあるので今回は本当にパーティチックな選択を求められているはずだ。
必死に考えを巡らせるが制限時間が短すぎて断念すると最後はスマホで検索した中からそれっぽいものを店頭で購入する。それからスタボに向かう途中、更にプレゼントを2個用意すると自分が一番最後に集合場所へ到着するのだった。
「やっと空いたね~。さて、ではまず皆で買って来たのをテーブルに並べて、それからシャッフルシャッフル~!」
クリスマスだけあってどこのお店も大賑わいだったが幸い待ち時間は30分にも満たないで席に座れると早速愛美が仕切り始める。そして愛美が不意に暗人の誕生日を聞いて来た。
「1月31日生まれです。」
「あれっ?!そ、そういえば初めて聞いたかも・・・うん。覚えとくね!」
「まぁそこは2人で勝手にどうぞ~んじゃ1と3と1を足して5!時計回りに回そ~!」
惚気を軽く流されるといよいよその時がやって来た。正直何が貰えるかよりも自分のチョイスで相手ががっかりしなければいいが、という心配が強い。
「はい5回~じゃあ私から開けるよ~?」
右隣に座っていた愛美が宣言するとその包み紙は翔子ものらしい。他人がどんなものを選んだかも気になるのでその様子を眺めていると中から男性用のネクタイが出て来たではないか。
「ちょっと?翔子ちゃん?」
これを見て暗人は大いに安堵する。恐らく彼女はそれを自分に受け取って欲しかったのだろうが企みは見事に撃沈したようだ。
「え~だって他に思いつかなかったし~?愛美も将来の彼氏用に使えるでしょ?」
どうやら外れたら外れたでデートが出来なかった当て付けとしても考えていたらしい。若干女性の恐ろしさも同時に垣間見た暗人は両隣のひりつく空気の中、そこから逃げ出したくて次は自身がプレゼントを開封する。
「・・・え?」
するとこれまた中から男性用のキーホルダーが出て来たのだから茫然とするしかない。
「むっふっふ~それが私の気持ちだよ~!大事に使ってね~?」
「ちょっと?!愛美も何考えて・・・あっ?!しかもこれハイブランドじゃない?!絶対予算オーバーしてるでしょ?!」
こうなってくると真剣に考えた自分が馬鹿らしく思えて来た。名前こそ知っているがこだわりもなく興味も無かった数万円はするであろうキーホルダーを有難く頂戴すると喧々諤々とした空気を払拭する為に翔子のプレゼント開封を促す。
「あ、でもこれって暗人君のになるのか。う、う~ん・・・まぁこれが当たったのなら私の勝ちかな?」
知らない内に勝負事にまで発展していたようだ。中身は少し高級な紅茶の詰め合わせだったのだが内容物より暗人からのプレゼントという所に重きを置いて納得している。
ようやく発案者の想定していなかった戦いに決着がつくと最後に彼が小さなプレゼントを2つテーブルに置いた。
「さて、僕もあなた達の姿形を知らないので聞いた話からの想像で買ってきちゃいましたが、こちらがホップンさん、こちらはフェニコさんへのプレゼントです。いつも翔子先輩を護って下さってありがとうございます。」
「お~やるねぇ~悪い男がイケメンムーブをすると本当に私まで恋に落ちちゃいそう~?」
隣に座る愛美のブラックジョークを受け流し、ひとりでに包み紙が破れると中から人形用のマフラーが出て来た。
ただ彼らが物質に干渉すると物が宙に浮いた状態になる為、それらを身に着けて嬉しそうに飛び回る時間も一瞬で終わってしまう。
「よかった。同じものじゃなくて。実は私からも用意してあったの。フェニコの姿はわからないんだけどホップンとは長い付き合いだったしね。」
その様子を見ていた翔子も徐に小さなプレゼントを2個取り出すと妖精達に語り掛ける。そして再び包装がひとりでに破れて出て来たのは人形用の毛糸の帽子だ。
「やれやれ~2人の姿が見えないのはきっと私の前でいちゃいちゃするからだよ~?それじゃ私からも~はい、どうぞ~!」
やはり愛美も同じ事を考えていたらしい。最後に用意されたプレゼントはこれも人形用の手袋だ。
防寒具が一気に3種類も手に入った彼らはとても喜んで発光していたがやはり身に着けた姿を一目見たかった。
少し寂しい気持ちを抱いて見守っていると愛美が両手で顔を洗うかのようなポーズを取る。一瞬何をしているのかと思ったがなるほど。その手の平に妖精が降りて来て着替えた姿を披露しているようだ。
確かにそのポーズなら周囲から見える事は無いし唯一彼らの姿が見える愛美も笑顔で頷いていた。
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あと登場人物を描いて上げたりしています。
よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)
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