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奇策は聖なる夜に―①―

 あらゆる欲求を満たした暗人は少しの気恥ずかしさを隠しつつ軽いキスを交わして翔子にシャワーを促した。

そして隣の部屋で大人しく待機しててくれたであろう妖精達に声を掛けるとうすぼんやりとした光が2つ、こちらに飛んでくる。

「ありがとうございました。お蔭で僕も翔子先輩も前を向けそうです。」

すると2つの光が喜びを表すかのようにくるくると回り出す。言葉や姿は見聞き出来ないのをわかって精一杯表現してくれているのだろう。

だが愛美がいなければ意思疎通すら難しいのも問題だ。この先しばらく翔子を守って貰わないといけないのもあるし何か良いアイディアは無いのか?

ベッドの周囲に脱ぎ散らかされてる衣類を綺麗にたたんで丸いテーブルの上に重ねながら、思えばここに来るのも久しぶりなんだなぁと辺りを見回す。

それから彼女の机の上にあった教科書や参考書の類を見て天啓が舞い降りた。

(・・・もしかすると・・・?)

妖精達は目に見えず声も聞こえない。だが三森 来夢の家で匿われてた時いつも持って行ってたお土産のケーキやソフトクリームはぱくぱくと食べていたではないか。


ならば物質にはしっかり干渉出来るのでは?


暗人は机の上にあった適当なノートとボールペンをテーブルの上に持ってくると光の方に声を掛ける。

「ホップンさん、フェニコさん。よければこのノートにペンで文字を書いてみてくれませんか?」

淡い期待と発想ではあったがもしこの方法が上手く行けば今後は愛美がいなくとも円滑なコミュニケーションが取れるはずだ。

まるで童心に返ったようなドキドキを胸に眺めていると思った通りボールペンが動いてしっかりと文字を描いてくれたので思わず握り拳と喜びの声が短く漏れる。

ただその速度はかなり遅く、文字も何とか読める程度だと理解した暗人は更なる改善策を思いつくと浴室から出たばかりの翔子に一声だけ掛けて外へ飛び出した。


ここまで想定通りなのだから後は小さく軽いペンを渡してあげればかなり精度があがるはずだ。


暗人はそう信じて100均や文具屋で手頃な商品を何本か手に入れた後、突発的に思いついたアイディアも試そうとそれも購入してから帰宅する。

「あっ?ど、どうしていきなり外に出ちゃったの?!っていうか、ほら?!見て見て!ホップンやフェニコが文字を書いてるの!!」

「ええ。それをより円滑に行えるアイテムを探してきました。まずはこれらを試してみて下さい。」

そう言いながら袋から取り出したのは子供用の細くて短いペンだ。周辺で探して来た中では最も軽く小さいもので、これなら彼らもさほど重さを感じないと信じたい。

「では『こんばんは』と、書いてもらえますか?」

翔子と並んで座った暗人は彼らに簡単な言葉をリクエストしてみると思った通り、先程とは比べ物にならない程、しかしそれでもゆっくりだがペンが宙を浮いて文字を書き起こしたのだ。

「や、やったね?!さっすが暗人君!!」

喜びのあまり抱き着いて来る翔子にこちらも色んな感情から腕を回すがもう1つの方が期待は大きいかもしれない。


「これで1つの壁を乗り越えられましたね。では次にこれを試してみて下さい。」


今度は先程のペンと違い若干大きな箱を取り出すと中から出て来たのはタブレットだ。それからタッチペンモードを起動すると彼は妖精達にその手?指?で直接触れながら文字を書くようお願いする。

彼らは物理的なものに触れる事は出来るのだからこちらでも可能かもしれない。買い物途中に閃いたアイディアだったがこれも想像通りの結果が出たので2人は更に喜んだ。

「しかしもう少し大きな文字でお願いします。若干・・・いや、かなり小さくて読み辛いので。」

「・・・う、う~ん。折角頑張って書いてくれてるんだけどごめんね?注文が多くて。でもこれでホップンやフェニコと会話が出来るようになったんだもの!!今日はお祝いよ?!」

こうして充電ケーブルに刺しっぱなしのタブレットをメインに会話をする事を決めた後は暗人が昼間に買ってきていた食材でささやかな宴会を開くと2人と2匹は多少のラグがある会話を楽しみつつ一夜を過ごした。




思えば昨日は良くも悪くも大きな出来事が重なり過ぎていた。

暗人はあの後自宅に戻り、『プリピュアプロジェクト』やそれに巻き込まれて『闇落ち』していった彼女達、1人で立ち向かおうとする『ピュアイエロー』の事を考える。

そして目が覚めた時、スッキリした頭の中にまだ自分には出来る事が2つある事と、やらなければいけない事が1つ残されているのに気が付けたのだ。

それには翔子の協力も必要だがまずは出勤して3人のプリピュア達がどんな様子かを確かめる必要があるだろう。

今までは『闇落ち』しながらも学校生活に支障はなかったが昨日の戦いで表向きは全滅している。つまり彼女達がこちらに遠慮する理由は一切なくなったのだ。

もしかすると今日は学校で自分が襲われるかもしれない。そんな可能性も考えると朝から翔子に電話をかけてその声を聞いた後、覚悟を決めて学校へ向かった。


「おっす!先生!」

「おはようございます。」

「お、おはようございます~。」


しかし紅蓮 ほむらと友人達は普段通りに元気な様子を見せている。相変わらず氷山 麗美だけは『闇落ち』レベルが高いのか以前の性格は全く顔を出さないがこれは暗人の責任だ。

「おはようございます。」

翔子との関係のみ円満に解決しているものの、その他の状況は相変わらず混沌としているし日本政府という敵を相手に残された手札で何が出来るのだろう。

いや、それでも何とかしてきたのがプリピュア達ではないか。気が付くと絶望に襲われそうな暗人は自身の策と翔子の笑顔を思い浮かべては希望を強く持つ。

学校では普段通りの態度で淡々と授業をこなし冬休みまで2週間を切った時、彼は翔子の家に愛美を呼ぶといよいよ最終決戦について話し合うのだった。




「こんにちは~!さ~て、悪い男君。今日はどんな話を聞かせてくれるのかな~?」

愛美は翔子との関係についてある程度察しているのか、ニヤニヤしながらこちらを品定めするように見て来るが今回はどうしても最初に解決しておかなければならない部分があるのだ。

なので前回と同じように食卓の同じ席に座るとまずは深呼吸。それから隣に座る翔子を少しだけ見つめた後、覚悟を胸にまず暗人が話題を切り出す。

「すみません。実はお2人に伝えていない事実が1つ残っています。それからお話させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「いいよ~」

「ど、どうしたの?そ、そんなに畏まって?私も知らない事?」

2人の対照的な様子に折角手にした関係がここで終わってしまうかもしれない。暗人だけがその重圧をひしひしと感じながらゆっくり頷くと謝罪の理由を述べる。


「実は現在今時乃中学校に通っている氷山 麗美。彼女は『ダイエンジョウ』の薬で若返っている氷上 美麗さんなのです。」


「あ、やっぱりそうなんだ~。」

「・・・ええぇっ?!?!」

ここでも対照的な反応を見せる2人にどう対応すべきか悩んでしまうが、続いて諜報員の話を持ち掛けたのが自分である事を告げると愛美は相変わらず何を考えているのかわからない様子で、そして翔子はショックの為にやや沈み込んでしまう。

しかし翔子の親友である美麗にそんな役回りをさせたのが恋人である暗人なのだと考えると当然の反応だろう。

だからここ数日は翔子との接触を控え、彼女から愛想を尽かされて別れ話を切り出される所までを何度も想定しては諦める覚悟をしていたのだ。

「・・・で?」

「・・・え?」

ところが愛美の方は終始ずっと同じ様子で感情的な部分を全く見せずに短く尋ねてくるのだからこちらも一文字で返す。

「だってあなたは敵対組織『ダイエンジョウ』の一員で私達初代の『プリピュア』が親の仇なんだからそういう行動に出るのもわかるわよ?でも今更謝られてもねぇ~?翔子ちゃん?」

「へっ?!あ、うん・・・そ、そうだよね。私達が仇なんだからそういう行動をしてても・・・う、うん。でも・・・私にだけは教えておいて欲しかったかな・・・?」

愛美に至ってはこちらの事情をよく理解してくれているらしく全く気に留めない様子であり、翔子の方はその事実をこの場ではなくまず自分に打ち明けて欲しかった所に引っかかっていたらしい。


「すみません、翔子先輩。これを伝えるとその、別れる、みたいな話になりそうだったので中々切り出せなくて・・・」


「お~熱いねぇ~?」

「愛美、茶化さないの!大丈夫、あの時言ってくれたでしょ?私はもう暗人君のものなんだから。絶対に、ぜーったいにそんな話はしないわ!」

覚悟を決めていた絶望は僅かに抱いていた希望により打ち砕かれる。その安心感は今までに味わった事がないほどで軽い溜息と天井を見上げて若干放心する程だった。

となるとこの後提案する予定だった計画も何とかなりそうだ。暗人は前以上に勇気で心が震えるのを感じながら姿勢を正すと再び口を開く。

「ありがとうございます。実はこの告白が僕から提案する1つ目の計画に繋がるのです。」

「「ほう?」」

今度は愛美さえも目をぱちくりとさせて驚く様子を見せていたので内心嬉しさが表情に出そうなのを抑えつつ丁寧にその内容を説明する。


「氷上 美麗さんは現在『ダイエンジョウ』の薬によって一日20時間という制限付きで14歳の体を保てています。そしてそれは彼女のマンション内に保管してあるので、まずはこれを借用します。」


「・・・・・うん?」

「え~~~?それって空き巣するって事だよね~?いくら覚悟を決めたからって暗人君、いよいよ最後の一線を越えるんだ~?」

「いいえ、これは翔子先輩にやってもらうつもりです。」

「何でっ?!?!?!?」

うん。分かりやすい驚愕に満足感を覚えた暗人はつい口元を緩めてしまい、先程と違って翔子からほっぺたをみょ~んと伸ばされる攻撃を受けるがそんな彼女を抱きしめて自分の膝の上に座らせると構わず理由を告げた。

「これは簡単な理屈です。今の翔子先輩にはホップンさんやフェニコさんの加護があるので『ダイエンジョウ』に発見されない。そして氷上 美麗さんは平日きちんと学校に通っています。」

「なるほど~。つまりその間、堂々と動ける翔子ちゃんが適役って訳か~。これにはお姉さんも納得~。」

「何で納得しちゃうの?!親友が犯罪者になろうとしてるのに?!あ?!も、もしかしてこれも暗人君の復讐劇なの?!」

「・・・そういう考え方もあるのか。おっと、何でもありません。僕としてはその親友のお宅にちょっとお邪魔して頂くだけだと認識していたものですから。更にこれによる利点は2つあります。」

「うむ。聞きましょう。」

相変わらず愛美だけは感情を排除して聞く姿勢を保ってくれている為、こちらも話しやすい。半面翔子も親友のお宅という言葉を聞いて少し落ち着きを取り戻したようだ。


「実は氷山 麗美が『ピュアダーク』として変身した時から疑問に思っていたのです。もしかするとあの薬を服用すれば体が完全に14歳の時に戻るのかも、と。つまり翔子先輩が服用すれば・・・」


「おお?!だったら翔子ちゃんが『ピュアレッド』になれる可能性があるって事ね?!」

「そうです。ただ、あの薬は『ダイエンジョウ』が開発したもの。つまり『闇落ち』や敵に利用される可能性も捨てきれません。」

ここが暗人の最も心配する所だった。もし翔子までもが本当に『闇落ち』してしまったら自分でもどんな自暴自棄な行動に出るか予想もつかないし、彼女をこれ以上危険な目に合わせたくない。

「・・・なのでその薬を拝借するまでは良いとして、服用するかどうかは今後の展開と翔子先輩の決断にお任せしようかと。」

「・・・・・なるほど。うん、それなら一度美麗のマンションに行ってみるのも悪くないわね。」


こうして1つ目の話がまとまると暗人は氷上 美麗のマンションの鍵を彼女に手渡して、3人と2匹は一息つくのだった。

いつもご愛読いただきありがとうございます。

本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。

あと登場人物を描いて上げたりしています。

よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)


https://twitter.com/@yoshioka_garyu

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