二人の行方―⑧―
(やったっ!!これで皆元に戻るっ!!!)
負けイベントのような戦いに幕が下りたと確信したピュアマグマは勝利の喜びに先輩の胸に飛び込んでいた。
歴代の妖精達も決してただのマスコットではない。伝説の戦士を見つけ出す能力はもちろん、彼女達に新たな力を与えたり、新たな力を生み出して成長していくものなのだ。
それがやっと、この12月という終盤で開花し、更に『闇落ち』した仲間が戻って来るのだとなれば彼女が感極まるのも無理はないだろう。
「あちちちちちちぃぃっ?!?!てっめぇ?!このクソヒヨコがぁぁっ?!」
「・・・相変わらず生意気ね?やっぱりからあげにしておくべきだったかしら?」
真っ赤な炎が消えていく中、2人の元気な声も聞こえて来た。恐らく既に正気には戻っているのだろうが相変わらず発言は過激なままだ。
「・・・どうしよう?妖精の扱いは命令の中に入っていないわ。でもここまで強力なら・・・絞めるべきね。」
だが『ピュアダーク』の発言で様子がおかしい事に気が付いたピュアマグマは『ピュアグリーン』の動きから『まさか』を察すると心が不安に染め上げられていく。
「・・・まだ。まだ終わっていない。」
「・・・・・そ、んな・・・・・」
フェニコの初めて見る不死鳥の姿とその熱い魂が篭った炎は絶対に彼女達を正気に戻せるだけの力があったはずだ。なのにまさか・・・
「お前ら?!大丈夫か?!」
「ええ。あの2人と戦う位の力は残ってるわ。何より最悪『ブラッディジェネラル』を連れ帰ればいいだけだしね。」
「・・・それじゃ足止めは任せる。」
3人はまるで昔から一緒に戦ってきたかのようなやり取りで計画を移そうと動き出す。
なのでこちらも言葉を交わすまでもなく、ダメージを負った2人をピュアマグマが、『ブラッディジェネラル』を攫おうとアパートの部屋に飛び込もうとした『ピュアダーク』を『ピュアグリーン』が迎え撃つ形になった。
しかし皆必死で忘れていた。この劣勢の中、もう1人だけ彼女達の味方をしてくれる存在を。
「先輩!早く!!」
この日、真宝使 翔子の後輩でもある燃滓 暗人がアパートにやってきていたのでいち早くその危機に気が付くと2人は姿を隠しながらその場から離れていたのだ。
「ま、待ってぇ・・・ずっと引きこもってたから体力がぁ・・・」
死闘を繰り広げる彼女らの視線を掻い潜って暗人の車に乗り込むと出来るだけ目立たないよう、静かに、まるで叔父の運転のようにゆっくりと逃走を開始した。
「ぜぇ、ぜぇ・・・ね、ねぇ暗人君。これからどこにいくの?どこか安全な場所ってあるの?」
「・・・・・正直無い、と思います。」
「えぇぇぇ?!だ、だったら戻って皆と戦いましょうよ?!」
「今の貴女は何の力もないのにどうやって?」
彼の車は三森 来夢しか知らない為、もしかするとこちらが上手く現場から立ち去ったのを察してくれているかもしれないがそうなると今度は妖精の加護がなくなり『ダイエンジョウ』に見つかる可能性も出てくるだろう。
なので暗人はその加護ギリギリの範囲内で車を停めるとまずは助手席の翔子をなるべく優しく抱きしめた後、ずっとお預けを食らっていた飢えた狼のようにその唇を貪る。
本当は最後までやってしまいたい所だがそこは理性で何とか抑え込むも彼女も激しすぎるキスを彼の首に腕を回しながら応えていた。
「・・・えへ。こういうの久しぶりだね?」
「・・・そうですね。」
こんな事をしている場合ではないのもわかっていたが暗人はどうしても彼女を諦めたくなかったのだ。復讐相手の中心人物として、そして恋人として。
今はプリピュア達の勝利を祈りつつ待つだけしか出来ない。2人はエンジンを止めた車内で手を握ったまま静かな時間をしばし過ごすも暗人は最後の選択をずっと考えていた。
もし翔子が『ダイエンジョウ』に連れ去られそうになった時は自分が死ぬ気で守るか、それともその時復讐を完遂させるべきかを。
真宝使 翔子の体を五菱 助平に好き勝手されるくらいなら・・・いっそこの手で・・・その命を・・・
「・・・翔子先輩。」
「ん?何?」
「・・・・・僕の、僕の父は・・・」
それを告げてどうする?いや、それを伝えておかなければ彼女に罪の意識を芽生えさせられないではないか。ただそのタイミングが今なのかどうかわからないまま、再び静かな時間が流れると翔子のスマホが鳴る。
そしてその画面を確認した彼女は苦悶の表情を浮かべたまま、自分のマンションに車を走らせるよう暗人に頼んでくるのだった。
三森 来夢のアパートを離れなければいけなかった理由など1つしかない。恐らく彼女達は『闇落ち』した3人に負けてしまったのだ。
こうなると翔子や暗人の居場所がバレるのも時間の問題か。いや、それにしても何故最もわかりやすい自身のマンションに向かおうと提案してきたのだろう。
「あ、やってきてくれたのね!ありがとう・・・本当にありがとう。」
すると突然翔子が誰かにお礼を言い始めたのだ。信号待ちで停まった時、一体何が起きているのかと不審に思って顔を向けると彼女の胸元に何か光るものがちらりと見えたではないか。
「・・・来夢がね。戦いに負けそうになった時、私を隠し通してくれるよう最後の最後にはホップンを送ってくれる約束だったの。もう私にか彼の声も姿も見えないけど・・・」
そうか。それで自身のマンションにも戻れると判断したのか。やっと納得した暗人は再び車を走らせ始めるが状況を整理していくとこの上なく最悪だと言えるだろう。
この日全てのプリピュアが敗れたのだ。
これから日本は、世界はどうなっていくのか。『ダイエンジョウ』が文字通り世界征服でも企むつもりか。しかしあの組織の長は叔父であり、彼はそんな事など一度も口にした事は無い。
今の暗人の心配は翔子にのみ注がれている。それだけを自覚していた彼は彼女を送り届けた後、一度近くで昼食や食材を買い込むと再び彼女のマンションへ足を運んでいた。
「あ~?!悪い男だ~!悪人だ~!!翔子ちゃ~ん!!まだこんなのと付き合ってるの?!」
すると僅かな間に黄崎 愛美が来訪していたらしい。こちらの姿を見るや鬼のような剣幕で責め立ててくるも翔子が慌てて仲裁に入る。
「ちょっとちょっと。彼は最後まで私を心配して庇ってくれたのよ?それに私の恋人をそんな風に言わないの!」
「・・・はぁ~~~。前から翔子ちゃんっていつか悪い男に騙されるかもって心配してたのよね~。それが現実になっちゃったか~。」
ほとんど面識がないにもかかわらず酷い言われ様にむしろ翔子の方が腹を立てていたが暗人からすれば全て当たっているのだからぐうの音も出ない。
そして2人の女性がやや言い合うような場面に移ったので今度は暗人が仲裁に入るとまずは現状の確認から始める事にした。
「まず来夢なんだけど・・・私を守る為に戦って・・・そして負けちゃったみたい。あとピュアマグマも。」
「そうなの~?!え?!ふんふ~ん・・・なるほど~。」
ところが話し合いが始まって間もない内から愛美の様子がおかしな事に気が付いた2人は目を丸くする。その行動はまるで自分達が見えていない妖精と会話しているような・・・
「えっと・・・あの、もしかして愛美、ホップンが見えてるの?」
「えっ?ホップンどころか今のプリピュア達の妖精フェニコもここにいるけど~・・・えっ?そっちの悪い人はともかく翔子ちゃん、見えてないの?!」
「ええっ?!」
「はい。どうやら僕達には未だ『ダイエンジョウ』の力に侵されているようで。しかしフェニコという妖精まで一緒に付いてきていたという事は・・・」
必然的に今季最後の希望だったピュアマグマも敗れたのだろう。そして恐らく皆と同じように『闇落ち』しているのは想像に難くない。
いよいよ絶望を実感し始めた頃、愛美はまず自身が差し入れとしてもってきた随分高級そうな肉を軽く焼いて食卓に並べる。そしてこれまた高級そうなお酒をグラスに注いで何故か乾杯の音頭を取り始めた。
良く分からないまま暗人の差し入れが霞むほど豪華な昼食を囲みつつ愛美が一気にそれを飲み干した後、何故こんなに上機嫌なのかをやっと説明してくれた。
「でも『ピュアフレイム』の活躍は決して無駄じゃなかった~。お蔭でやっと『ダイエンジョウ』の本部を見つけられたしね!」
「おおっ?!やったじゃない!!」
2人は喜んで立ち上がるとハイタッチで一気にお祝いムードと化すがここに水を差せるのが良くも悪くも暗人という男だ。
「それで、そこに誰が突撃するんですか?」
そうなのだ。既にプリピュアは全て敗れた、もしくは『闇落ち』して敵側に利用されている。例え真実を知ったとしても今の3人の中でそれを実行出来る者などいないのだ。
「もちろん私でしょっ?!」
そこに元気よく黄崎 愛美が親指を立てて自身を指したので2人は驚く。
「えっ?!それはまたホステスのコネクション的な何かを使って?」
「のんのんの~ん!私が『ピュアイエロー』になって!」
「「ええっ?!」」
というか彼女も『ピュアイエロー』になれるのなら『ダイエンジョウ』の本部を探るだけでなく最初から戦いの方面でも力を貸して欲しかった、と言えば怒涛の反論で心を抉られるだろうか?
意外な回答に思わず呆けていると昼間からお酒を飲んだのがいけなかったのか、翔子も元気よく挙手をして自分も『ピュアレッド』として戦うと宣言し出したのだ。
「いいんじゃな~い?!2人で、いや、司ちゃんや美麗ちゃんも誘って4人でやっちゃいましょう~!!え?!そ、そうなの?!」
しかし勢いよく同意した愛美が何か妖精とやり取りした後一気に意気消沈してしまったので暗人は翔子と顔を見合わせた後どうしたのかと尋ねる。
すると再び彼女の眼には憎悪が宿ると意味も解らずこちらを責め立てて来たのだから意味が分からない。だがその理由もすぐに知らされて納得すると同時に若干の後悔が生まれた。
「あのね~?!プリピュアに変身するには純潔じゃないと駄目なの~~~~!!全く!!あなたのせいで翔子ちゃんが変身出来なくなったのよ?!どうしてくれるのよ?!」
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