二人の行方―⑦―
「おおっ?!マジで出て来やがった?!『ピュアフレイム』らしくないと疑って悪かったな!」
その姿を衆人の前に見せると待っていましたと言わんばかりに『ダーククリムゾン』も喜んで姿を現した。
「『ピュアフレイム』。あなたはもっと冷静な戦士だと思ってたけど・・・まぁいいわ。」
そこに『ピュアダーク』も現れると周囲は珍しい時間の戦いだなぁと疑問を浮かべつつ彼女達の戦いに巻き込まれないよう批難しながら皆がスマホで撮影を始めた。
これこそがピュアフレイムの狙いだったのだ。
わざわざ土曜日の夜の繁華街という場所を指定してほむらに挑戦状を送り付けた。自分が勝てば『ダイエンジョウ』の本部の場所を教えてもらうよう約束させ、『ピュアフレイム』が負けたら何でも言う事を聞くと。
「いや~でもあたしはわかってたよ?いつも物静かで冷静さを演じていたお前が一番熱い魂を持つプリピュアだって。」
「あら?ありがとう。だったらこっちも容赦なくいかないとね。何せピュアマグマも痛い目に合わされたんだし!!」
彼女たちの戦いは基本的に夕刻までと暗黙の了解があった。これは健全な女子中学生の生活を考慮してという建前とは別に明るい時間の方が撮影しやすいという大人の事情も絡んでいる。
しかしそんな国家ぐるみの事情など全く知らないりんかが何故日が落ちた後、わざわざ目立つ場所での戦いを選んだのか。
答えは簡単だ。それは一人でも多くの眼に止まって欲しかったから。歓楽街、不夜城とも揶揄されるここは明るい光源がそこかしこにあるので夜にしては撮影がとても捗る場所のはずだ。
願わくば自分が勝てた方がよい、勝ちたい。だが2人の強さからその先は想像出来ないのだ。勝ちを呼び込むには相当運が良いか何か奇跡が起きなければ。
そんな後ろ向きな考えが頭の中に過っていたのを相手も見抜いたのだろう。早速『ダーククリムゾン』が飛び込んでくると黒い炎を拳に宿して放って来る。
「プリピュア!!ファイアレターダントッ!!」
今まで彼女と戦うなんて想像した事もなかったし強さを比べた事もなかったのでまずはしっかり防御技で威力を確かめるとそれは彼女の想像を遥かに超えて来た。
ピュアフレイムの蒼い炎で作られた防御壁にはひびが入ると黒い炎の拳が構えていた彼女の両掌すら弾き飛ばして鳩尾近くに深く突き刺さったのだ。
一瞬で呼吸を奪われつつ大きく後方に吹き飛ばされたピュアフレイムは駅前の一番大きなビルの3階部分辺りに叩きつけられると間髪入れずに『ピュアダーク』の鋭いキックが追撃される。
流れるような連携に成す術のなかった彼女はそれも同じように腹部近くで受けるとビルを3つほど貫通して道路を走っていたバスの屋根にめしゃんと音を立てて落ちた。
「おいおい?呼び出しておいて全然じゃねーか?もっと本気だせよ?」
『ダーククリムゾン』が歩道橋の上から不満げに見下ろしてくるが元来こちらは防御特化の戦士なのだ。本気を出すにしても相手にダメージを与える事自体が難しく、しかも2人とも想像を遥かに超える程強い。
ただダメージ軽減率の高さだけが売りなので体中に痛みを感じつつもゆっくり立ち上がるピュアフレイムはどうやって戦うべきかを必死で考える。
(・・・こんな時2人がいれば・・・)
せめて『ピュアクリムゾン』『ピュアマグマ』と自分の3人でなら『ピュアダーク』1人を倒せない事もなかっただろう。しかしこの戦いは1人でやると決めていた。
何故なら負けた時、自分達も『ダイエンジョウ』によって『闇落ち』させられる危険があったから。
一応はイレギュラーとして大先輩の『ピュアグリーン』もいるがりんかとしては彼女に必要以上頼るのは良くないと判断し、そして友人をこれ以上危険な目に合わせたくなかった故の決断だったのだ。
その旨はフェニコに預けた手紙にも書いてきたし、最悪連れ去られたとしてもこれだけ衆人環視の眼があれば必ず『ダイエンジョウ』の本部を特定できるだろう。
唯一の心残りがあるとすればもし洗脳を受けた時、ほむらやあかね達との楽しかった記憶まで失われないだろうかという心配だけだ。
「・・・ねぇ『ダーククリムゾン』今年の夏休みの事覚えてる?」
「は?いきなり何だよ?」
「『阿曽山』の店長さんや氷山さんのお姉さんと行ったじゃない。あの時、私の人生でい一番楽しかった。あなたはどう?」
「そりゃあたしだって・・・あたしだっ・・・て・・・あ、あれ?何だ?そんな事あったっけ?い、いや、あったはずなのに・・・くそっ?!」
特に考えがあったり狙った訳ではないのだが彼女がとても苦しそうに藻掻く姿を見て心配すると共にまだ完全には洗脳されていない、『闇落ち』していないのではと希望を見た。
ところが同じ思い出を共有しているはずの『ピュアダーク』は一切動じることなく、『ダーククリムゾン』を心配する様子も見せずにこちらを見下ろしている。
「ねぇ『ピュアダーク』、あなたのお姉さん。とても素敵な人だったわ。私あなた達姉妹が羨ましい。」
「・・・私に姉妹などいないわ。」
こちらは駄目か。彼女は正体を知る前から拳を交わしてきたが本当に冷酷な人物へと変貌を遂げていた。恐らく過去の思い出なんかも全て抹消されているに違いない。
でなければあんな素敵なお姉さんを忘れるはずがないのだ。自分達よりもずっとずっと人生を共に過ごしてきた家族の事を。
「お前達。何を勝手に戦っているのだ?」
そこに今度は『ダイエンジョウ』のボス『ネンリョウ=トウカ』が現れた事でいよいよ自身の命運に終わりを見た。
(お願い皆・・・私達の・・・私の最後の姿をしっかり捉えておいて・・・)
数多の情報が錯綜する時代、ほんの少しの手がかりからでも彼らの本部を特定出来れば後は『ピュアグリーン』と『ピュアマグマ』に任せられる。
絶体絶命の中、逆に吹っ切れる事が出来た『ピュアフレイム』は軽い笑みさえ浮かべながら3人を睨みつつ最後の戦いに挑む。
「げ?!『ネンリョウ=トウカ』閣下!い、いや、だってあたし達が勝てば『ピュアフレイム』も仲間に出来るかな~って。そ、そういう約束してたから!閣下!!怖い顔で睨まないで?!
「・・・私も個人的に『ピュアフレイム』が何か悪巧みを考えていると感じたので殺・・・倒しにきたまでです。」
『ダーククリムゾン』の方はほむらの顔を覗かせて焦りを見せていたが『ピュアダーク』の方からは放送禁止用語が飛び出しそうになったのは聞き間違いだと思いたい。
「なるほど。では彼女も攫って行くか。2人とも、捕らえて本部へ送れ。」
「やったー!!閣下のお許しが出たぞ!!行くぜ『ピュアダーク』!!」
「・・・了解。」
遂に最も恐れていた事態に直面した『ピュアフレイム』は相手があまりにも簡単な作業だと言わんばかりの態度を取って来たので流石に少し頭に来る。
「やれるものならやってみなさいよ!!」
簡単には捕まらないしやられない。倒れたって何度でも立ち上がってやる。それがプリピュアだし先輩達から受け継いできた奇跡の軌跡なのだ。
諦めずに、そしてしっかりと周りにアピールする事を意識して立ち回る『ピュアフレイム』は『ダーククリムゾン』の激しい拳に必殺技を3度食らっても、体に穴が開きそうな程強烈な『ピュアダーク』のキックを貰っても決して諦めずに立ち上がり続ける。
夜とはいえ周囲と自分の体にはプリピュアらしからぬ流血で凄惨な光景が広がりつつあったがそれでも蒼き炎を絶やす事無く1時間以上も一方的に攻撃を受け続けた『ピュアフレイム』は『ピュアグリーン』と『ピュアマグマ』が辿り着いた頃には既に攫われた後だった。
「な、何で・・・何で私に相談してくれなかったの!!!何でよぉぉ!!!!」
家に戻った火橙 あかねはフェニコから渡された手紙を読んで涙を流す前に大声で叫ぶ。すると母親から心配そうな声を掛けられて若干の落ち着きを取り戻せたが理由を話せるはずも無かった。
「あ、あかね・・・落ち着くッピヨ。明日ホップン先輩に事情を説明して何かいい方法を教えてもらうッピヨ!」
フェニコも彼女の作戦内容は全く知らなかったのだろう。目に見えて悲しそうな表情を浮かべながらこちらを慰めてくれる姿にこの悲しみが自分だけの物でないとやっと気が付くと優しく抱きしめる。
その夜はりんかに何度もメッセージを送って一向に返って来ない返信を待ちながら悔しさと悲しみを胸に、両手はずっと拳をぎゅっと握りつつ机に突っ伏したまま朝を迎えた。
もし彼女をよく知る人物が見れば洗脳とは別に『闇落ち』してしまうかもしれない。
そう思わせる位沈んだ雰囲気を纏った火橙 あかねは朝食もそこそこに顔だけ洗うとまるで人形のような動きで家を出た。
もちろん行先は『ピュアグリーン』とホップンのいるアパートだ。今やプリピュアの現状と秘密を知っており、相談が出来るのは彼女達しかいない。ほむらにも何度かメッセージを送ってみたが相変わらず都合の悪い事だけは忘れているような感じだった。
今期のプリピュアが1人だけになってしまったショックはとても大きく、最初はあれほど苦手だったりんかの優しくも友を思いやる心に失ってから気が付いたあかねは三森 来夢のアパート近くに来てやっと異変に気が付く。
ちゅどぉぉぉぉぉんんん・・・・・
少し離れた場所から聞き慣れた破壊音が耳に届くと一瞬あっけに取られた後、りんかが『闇落ち』と『洗脳』を受けたことで真宝使 翔子の居場所がバレたのだと理解が追い付いたのだ。
こうなると悲しんでもいられない。自身も素早く身を潜めて変身した後急いで向かうとそこではすでに『ピュアグリーン』が3人の『闇落ち』したプリピュア達と死闘を繰り広げている最中だった。
「お?『ピュアマグマ』も来たって事は最初から全部わかってたんだな?!なのにブラジルとかとんでもない事言いやがって!おい『ダークフレイム』!お前のせいで閣下は随分苦労したんだぞ?!」
「あら?だってあの時の私は『ピュアフレイム』だったし。でも今更何で本部は『ブラッディジェネラル』に拘るのかしら?もう私達だけでも十分勝利を収められると思わない?」
『ピュアフレイム』の真っ黒な姿を見て悔しさより悲しみが勝ったのか、若干の涙が浮かんでしまうも『ピュアマグマ』は急いでそれを振り払って『ピュアグリーン』の助太刀に入る。
「『ピュアフレイム』!あなたも『ダイエンジョウ』に・・・洗脳されちゃったの?」
「洗脳ねぇ・・・どちらかっていうと本当の私を解放してもらったって言った方が正確かも。『ダーククリムゾン』もね?」
「だな。あたし達ってば細かい事考えるよりプリピュアになって戦いたい願望の方が強かったからさ。今は何も考えずに活躍出来るし性に合ってるっていうか、な?『ピュアダーク』?」
「・・・・・」
始まりはフェニコとの出会いとその世界を救う為にプリピュアの力に目覚めたのがきっかけだ。そして彼の世界を滅ぼした『ダイエンジョウ』と『アツイタマシー』を奪い合って戦ってきた。
つまり彼女達にはしっかりとした大義名分が存在したはずなのだ。
「違うっ!!私達はフェニコの世界を救う為に選ばれたんだよ?!ただ暴れるだけなんてそんなのプリピュアじゃない!!そんな事も忘れちゃったの?!」
「うん?そうだっけ?でもよくわからん妖精の世界とかあたし達に関係ないだろ?」
「そうね。私も『ピュアレッド』様に憧れてはいたけど背景には興味なかったし。あ、でも苦境を跳ね返すシチュエーションは欲しいわね。それこそプリピュアって感じでしょ?」
駄目だ。今の彼女達は完全に『闇落ち』してしまっている。まるで話にならない中、せめて真宝使 翔子だけは守らねばと『ピュアマグマ』も参戦するがどういう訳か、防御型だった『ピュアフレイム』の攻撃も相当強力なものへと変化しているのだ。
対してこちらは2人とも補助系のプリピュアなので相手を倒すというには少し不向きだがそれでもやるしかない。
「ふ、二人とも・・・いい加減に目を覚ますッピヨォ~~~~~ッ!!!」
そしてついにこの時がやってきた。プリピュアの妖精とはただ伝説の戦士を見つけて導くだけではない。必ずどこかのタイミングで彼ら自身の力を解放する瞬間が訪れるのだ。
今期のプリピュア達は負けに負け続けていたのでその機会が無かったのも全てはこの時の為だったのかもしれない。
フェニコが美しくも力強いフェニックスの姿に変化すると虹色の光と真っ赤に燃える炎を纏いながら『闇落ち』した3人に飛びこみ彼女達は一瞬で魂の炎で包まれてしまった。
いつもご愛読いただきありがとうございます。
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あと登場人物を描いて上げたりしています。
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