二人の行方―④―
「そ、そうだ?!それで三森さん!!ほむらちゃんや麗美ちゃんの洗脳はどうすれば解けるんでしょう?!」
あれほど先生を遠ざけていたりんかが猛アタックをかけているのを尻目にあかねが話題を切り出すと三森 来夢もフォークを止めて少し考える様子を見せる。
「・・・正直よくわからない。確実なのは昨日見たネンリョウ=トウカっていうのを倒せばいいと思うんだけど彼がいつ何処に現れるのかわからないし。」
「それなら『ダイエンジョウ』の本部を叩けばいいプン!!」
小さく可愛らしい妖精のわりと過激な発言に納得はいくもだとすれば答えは身近にあるのかもしれない。
「真宝使先生。『ダイエンジョウ』の本部の場所を教えて下さい!私達、ほむらちゃんと麗美ちゃんを助けなきゃいけないんです!!」
「こ、こら!蒼炎さん落ち着きなさい!!今は大事な話の最中よ?!え、えっとね?!その本部の場所が今は変わっちゃったみたいで私もわからないの!!」
狭い部屋でプロレスのように両手を組み合う2人はこの非常時に何を考えているのか。後でしっかりと叱りつけねばと心に刻みつつがっかりするも三森 来夢には他の伝手もあるらしい。
「・・・一応その道のプロにも調べてもらってるんだけど相手が巨大だからね。一番現実的なのはやっぱり向こうが『アオラレン』を召喚して暴れている所を叩くのがいいと思う。」
「な、なるほど。」
となると『ダーククリムゾン』や『ピュアダーク』との戦闘は避けられないだろう。
そもそも『ピュアダーク』だけでも相当強いのに戦いになるのかどうかも怪しいが、今は正体がばれて協力してくれそうな人物がもう1人いる。
「先生。先生も元『ピュアレッド』なら手伝ってください!!・・・っていうか、何で元プリピュアなのに敵対組織に加担してるんですか?しかも生徒の模範となる先生が?!」
お願いすると同時にその違和感に辿り着いたあかねは早速説教モードに入るとりんかも並んで正座させられる。
「いや、ね?私の場合はその、暗人君に唆されたというか。彼が光落ちとか言って私に甘い言葉で誘ってきたから・・・」
「人のせいにしないで下さい!!全く・・・ん?暗人君?確か燃滓先生の名前が・・・」
「・・・そうね。彼も元『ダイエンジョウ』の役員よ。」
もう情報の錯綜っぷりが女子中学生の知識と能力で許容できる限界を軽く超えている。呆れや怒り、それに哀れみすら重なって真っ黒な感情は自身も『闇落ち』しかねない勢いだ。
「・・・でもあかねちゃん。私も復帰したのは最近だし、翔子の気持ちは痛いほどわかるの。」
そんなあかねを思ってか、三森 来夢が静かに割って入ると彼女は昔話を始める。
仲の良かった5人が突如伝説の戦士に選ばれて妖精の国を守る為、敵対組織と戦ってきた日々。
今まで考えた事もなかった力が手に入った事による軽い自惚れや高慢さが確かに生まれ、それでもお互いが協力して苦楽を乗り越えた日々。
それらは14年経った今でも色あせる事のない大切であり鮮烈な思い出として彼女達の心の中で生き続けているのだ。
「・・・あの時の喜びや達成感を得たくて一縷の望みに掛けた翔子の気持ちもわかってあげて。彼女は変身できなくても、三十路手前でも心は未だに『ピュアレッド』なの。」
「三十路手前は余計でしょ?!」
しんみりした話の最後に真宝使先生がツッコミを入れた後、何かを我慢していたのだろう。黙って据わったままうずうずしていたりんかが勢いよく立ち上がる。
「でしたらもう話は決まったも同然じゃないですか!!真宝使先生!!いえ、『ピュアレッド』さん!!私達と一緒に戦ってください!!そして『ダイエンジョウ』を滅ぼし!闇落ちした仲間を助け出し!フェニコ達の国を救うのです!!」
学校でもこれくらい熱く慕ってあげれば先生も喜ぶだろうになぁと呆れつつ、その意見自体に反対する要素は何一つない。
敵対組織の幹部『ブラッディジェネラル』として十分強かった彼女が『ピュアレッド』として復活し、共に戦う仲間となってくれればこれ程心強い事はないだろう。
「・・・それは無理プン。」
「何で?!」
ホップンの寂しそうな呟きにりんかが猛火の如く食い付いたのであかねもその両肩を押さえ込み無理矢理座らせる。
その様子から恐らく相当深く複雑な理由があるはずだ。例えば未だ悪の力を纏っていてプリピュアの力が届かないとか、大人だからだとか・・・いや、大人といえば三森 来夢は変身出来ているな。
「プリピュアに変身するには純潔な少女じゃなきゃ駄目なんだプン。僕もよくわからないけど翔子からはそれがもう失われているんだプン。」
「何々?何の話になってるの?」
これは本人には絶対聞かせないほうが良い内容だ。しかしそんな制限があるとは知らなかった。だから先輩プリピュア達も全て中学生前後の年代に収まっていたのか。
だがこの事実を聞いてあかねはふと三森 来夢を見やる。ホップンの話だと彼女はまだ純潔を守っているということらしい。
自身もいつかは恋に落ちて誰かと結ばれる日が来るのかもしれないが、それが原因でプリピュアの資格を奪われるというのも何とも酷な話だ。
「・・・つまりどちらも暗人君に奪われちゃったのか。これは絶対に責任を取ってもらわないとね。」
「へ?何で暗人君が出てくるの?」
三森 来夢の言葉から彼女が彼とお付き合いをしているのは何となく気がつけた。そして順序は知らないがそのせいで『ダイエンジョウ』に引き抜かれたのも間違いないだろう。
「・・・よし。明日はまず燃滓先生をぼこぼこにしよう。」
「ちょっと?!本当に何の話をしてるの?!」
あかねの過激すぎる発言にりんかも無言で頷いていたので唯一妖精の声が聞こえていない真宝使 翔子は慌てて2人を止めていたが三森 来夢はマイペースにホップンとチーズタルトを美味しく頂いていた。
まさかあの真宝使先生が『ブラッディジェネラル』だっただけでなく『ピュアレッド』だったとは。
その事実に一番喜んでいた蒼炎 りんかは帰宅途中スキップして喜んでいたが状況は全く進展していないのだ。
まず紅蓮 ほむらと氷山 麗美の洗脳を何とか解かねばならない。だがこれには1つ妙案を思い浮かんでいた。それが燃滓先生だ。
三森 来夢の部屋でさらりと聞かされたがどうやら彼も『ダイエンジョウ』の関係者らしいのだ。であればその本部の場所についてや洗脳の仕様に解除方法を何か知っているかもしれない。
先程は冗談っぽくぼこぼこにするとは言ったがもしかすると本当にある程度ぼこぼこにして聞きだす必要が出てくる。あかねはそんな危ない思考を密かに決意しながら帰宅した。
そして翌日。相変わらず普通に登校してくるほむらや麗美と一緒に通学しながら裏ではりんかと本日のプロジェクトを開始する。
内容は単純明快で2人と燃滓先生をなるべく遠ざけた後、隠している事実を全て教えてもらうというものだ。当然手段は選ばないという前提条件付きである。
「これは私がやるしかないわね。」
「えっ?!な、何で?りんかちゃんより私のほうが向いてるよ?!」
「あなたもう少し自己分析をしたほうがいいわよ?あかねに任せたらあの人本当にぼこぼこにされちゃうじゃない。」
仮面冷酷なりんかに注意を促されたのは納得いかなかったものの、あかねの場合ほむらの為なら冗談抜きで手を出す性格なのは十分自覚しているのだがら大丈夫、なはずだ。
それでもほむら達を引き付ける役も大切だと説得されたのでお昼休みにりんかだけが用事で抜けるという流れで話はまとまった。
「しかし真宝使せんせーってどこにいるんだろうな?」
「うん?急にどうしたの?」
登校時から授業中まで普段通りのほむらだったが3人だけになるといきなり妙な事を口走ったので尋ねてみると彼女はまた僅かに陰のある笑みを浮かべて答えてくる。
「いや、あの人『ブラッディジェネラル』じゃん?今のあたし達には必要なんだよ。特に上層部があの人を欲しがってるみたいでさ。あかね、何か知らないか?」
これはどういう事だろう?洗脳と正気の境界がわからない上に話している内容もおかしな事だらけで頭が混乱してきた。
真宝使先生が『ブラッディジェネラル』だという事実は洗脳されたから知ったのか、敵対組織の誰かに聞いたのか。そして彼女の居場所がわからないので探しているという事実をりんかはまだ知らない。
(これって不味いかも?!もし燃滓先生も真宝使先生の居場所を探してるのなら・・・りんかちゃんに教えなきゃ!)
何気なく手に入れた情報を伝えるべくあかねは急いでスマホを操作し始めたがその様子を怪しく思ったのは他の誰でもない氷山 麗美だった。
ぱしんっ!
一瞬の隙にそれを奪われて送信したばかりのメッセージ内容を確認した後、ほむらと少し嫌悪感のある笑みを浮かべると2人が無言で変身したのでこちらも仕方なくそれにあわせる形で対峙する事になってしまった。
そんなピュアマグマの戦いなど露知らず、りんかは職員室にいた燃滓先生を連れ出した後人気の無い中庭の隅で静かに事情を説明していた。
「ほう?まさかそこまでバレているとは・・・しかし本部の移転先は私も知らないのです。それにネンリョウ=トウカ閣下から連絡も来ていません。」
「そうですか・・・それ、信じていいんですよね?」
「はい。というかあなたこそいいんですか?私に正体をバラしてしまっても。」
「いいんです。貴方が『ピュアレッド』さんの選んだ人だから。」
とても強い私的な感情が入っている部分はあかねと変わらない。むしろあかね以上に『ピュアレッド』の役に立ちたいと熱く心を滾らせていたりんかはちょっとだけ残念そうな表情で早々に諦めようとした時、スマホに通知が届く。
と同時に屋上で激しい戦闘音が鳴り響くとりんかは直感で変身した後急いでそちらに向かうのだった。
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