二人の行方―③―
普通に考えれば女子中学生誘拐事件で間違いない。
もし先輩の『ピュアグリーン』がいなければ警察への捜索願も家族への報告も決してスムーズに進まず大変な事になっていただろう。
しかし心配で一睡も出来ないまま翌朝登校すると更に度肝を抜かれる出来事があった。
「おっす!」
何と、敵対組織『ダイエンジョウ』に攫われたはずの紅蓮 ほむらといつもの時間のいつもの道でばったり出くわしたのだ。
「えっ?!お、おはよっ?!よかった!!無事だったんだね?!」
あの後何度かメッセージを送っては見たものの無反応だったのですっかり諦めていたのにまさか無事に帰ってきていたとは。
「全く。せめて返信くらいしてよね。びっくりしたわ。」
同時に現れた蒼炎 りんかも不機嫌そうに言い放つがほむらは持ち前の明るさで2人に軽い釈明だけで済ませる。そして4人目の少女が無言で姿を現すと例の作戦も彼女だけが遂行に移し始めたのだ。
「おっす!!いや~昨日は大変だったな?!」
「えっ?!あ、あの・・・ほむらちゃん?」
「・・・その子、『ピュアダーク』でしょ?」
肩を組んで体を密着させながら昨日の拉致事件を忘れているかのように振舞うほむら、『ピュアダーク』とバレているはずなのに普通に登校している氷山 麗美と全てがおかしい。
様々な違和感だらけの状況にあかねはりんかと目を合わせてしまうが思いは同じらしい。彼女もすぐスマホを取り出すと昨日教えてもらった『ピュアグリーン』に直ぐ連絡を入れてこの事実を伝えるのだった。
それから放課後までほむらと麗美の様子を遠巻きに観察していたが本当に何事もなかったかのように過ごす様子は嫌な予感と不気味さを感じずにはいられない。。
そして下校途中、『ピュアグリーン』である三森 来夢さんが現れたのだがその正体を知らないほむらは小首を傾げていた。
「・・・あなたが紅蓮 ほむらちゃんね。昨日『ダイエンジョウ』に攫われた事も覚えていないって本当?」
「うん?何だこのねぇちゃん。あたしが攫われた?」
あかね達が聞けなかった質問をストレートにぶつけても彼女は何の事だ?といった様子なのでより不安になってくる。そして既に正体がバレている『ピュアダーク』の氷山 麗美も特に何かを起こす気配は無い。
「き、気をつけるプン!!この子は何かおかしいプン?!」
ところが初めて見る妖精が三森 来夢の鞄から飛び出してくると激しく光を放った。
「おっと?!そうか!!あんたが『ピュアグリーン』だったのか!!」
するとまるで敵対組織の幹部みたいな悪い笑みを浮かべたほむらが一瞬で後方に飛ぶと人目も憚らずに変身したではないか。しかもその容姿こそ『ピュアクリムゾン』だが色は漆黒になっている。
「・・・任務を遂行する。」
同時に無反応だった氷山 麗美も静かに『ピュアダーク』へと変身したので2人は一通り慌てふためいた後急いで物陰に逃げ込んで変身してから再登場する。
「『ピュアクリムゾン』!あなたまさか・・・」
「洗脳・・・されてるの?!」
「おいおい。あたしはあたしのままさ。ただし、今は『ダーククリムゾン』って呼んでくれよな?」
やっぱりそうだ。闇落ちという言葉は色んなところで見聞きするもののまさか自分達の親友でありリーダーがそんな事になるなんて・・・しかももう1人の敵も氷山 麗美なのだ。
「・・・参ったわね。あの2人を相手に戦うのは骨が折れそう。」
『ピュアグリーン』はやれやれといった様子でこちらも人目を憚らずその場で変身を済ませるが果たして勝てるのだろうか?いや、この場合勝敗よりも何とか2人を正気に戻す方法を考えなければならない。
「2人とも目を覚まして!!あなた達は『ダイエンジョウ』に操られてるのよ?!」
ほむらは拉致という事実から簡単に想像できるが燃滓先生から教えてもらった身の上話から察するに氷山 麗美もその可能性がとても高い。まずは説得を試みるも闇落ちした『ダーククリムゾン』はむしろ普段のほむらっぽい荒々しさが良い意味で自然体を現している。
「何言ってんだよ?あたし達は立場こそ違えど『アツイタマシー』を求める伝説の戦士同士じゃないか。だったらつべこべ言わずに戦った方が総取り!!これしかないだろ!!」
「それじゃせめて『アオラレン』くらいは出現させたら?」
『ピュアフレイム】は逆に洗脳されているからまともに話し合いは出来ないと判断したのか。ツッコミから入ると『ダーククリムゾン』は『ピュアダーク』と顔を見合わせる。
「・・・そういえばあのアイテム、貰ってないな。お前、持ってる?」
「・・・私は戦うのが専門だから。」
「よし!じゃあ今日の所は引き上げるぞ!!お前達、また明日な?!」
言い終えた『ダーククリムゾン』は本当に洗脳されているのか怪しくなるほど普段の彼女らしい言動でその場を去ると『ピュアダーク』も逆に静かに変身を解いて何事も無かったかのように徒歩で帰っていく。
詳しい事情や状況は全く飲み込めていないが少なくともほむらの様子は割と変わらないようで少し安心した。
「こ、これは危険プン・・・は、早く何とかしないと・・・」
しかし『ピュアグリーン』の妖精であるホップンは相当な危機を覚えたのか。後輩である自分達にも慌てる様子を見せた後、ぺこりと小さくおじぎして自己紹介をしてくれる。
「・・・よし。じゃあ一度作戦会議ね。」
こうして3人は三森 来夢の家へ招待される事となったのだがそこでもまた驚きの連続が待っていた。
「おかえり~早かったわね?」
彼女の部屋から聞き覚えのある声が届いてきたのであかねとりんかは恐る恐る奥へ入っていくと何とそこには真宝使 翔子がだらしない部屋着でごろごろとしていたのだ。
「ま、真宝使先生?!こんな所で何やってるんですか?!」
「あ、あれ?!火燈さんと蒼炎さんじゃない?!何で来夢と一緒なの?!」
こちらは怪我で休養していると聞いて心配していたのに本人は至って健康、且つとても元気そうに見える。というか血色とだらしなさから既に仮病だと断定したあかねは若干腹が立ってきた。
お互いがお互いにどう接すればいいのか迷っている間、三森 来夢も妖精と少し相談してからまずはおやつにしようという事で冷蔵庫からチーズタルトを用意する。
それを4人で囲んでいただく流れになるとあかねは迷いながらも探りを入れ始めた。
「あ、あの。何で先生がここに?怪我をされたから燃滓先生が臨時で学校に来られてるのに・・・まさかサボリですか?」
彼女の正体は『ブラッディジェネラル』で間違いないはずだ。つまり『ピュアグリーン』に囚われているのか、逆に人質として捕えている関係が考えられる。
敵対組織の幹部である彼女が何故プリピュアと一緒にいるのか?年齢的に近いのでリアルな友人関係というのは想像出来るがまさか三森 来夢も友人が『ブラッディジェネラル』だとは夢にも思っていないはずだ。
「う、う~・・・え~っと・・・それならまず何であなた達が来夢と一緒にここに来たのかを先に教えてくれる?」
それは私達がプリピュアだからです。と告白できればどれ程楽だろうか。非常に答え辛い質問に思わずりんかと眼を合わせるが彼女はそのバトンを来夢へと繋いだ。
「・・・それは彼女達が今のプリピュアだから。」
すると誰にもバラした事の無い内容を呆気なく公開されてしまったので3人は唖然とする。そんな中来夢だけは妖精と美味しそうにチーズタルトを頬張っているのは流石レジェンドであり初代プリピュアの貫禄といったところか。
「ほ、本当に?本当にあなた達がプリピュアなの?!」
「え、えええ、ええっと・・・はい。」
りんかは完全に口を噤んでいたので仕方なくあかねが答える事になったがこちらも真宝使先生が『ブラッディジェネラル』だと知っているのだしこれでおあいこだろう。
「・・・あ、ちなみに翔子は『ブラッディジェネラル』だったんだけど今は引退してるの。一応元『ピュアレッド』よ。」
今日は一体何度驚かされたのか数えるのが馬鹿らしくなってきた。まだ出会って間もないが『ピュアグリーン』が嘘をつくとも思えないし『ピュアレッド』に憧れを持つりんかの表情も羨望と緊張でみるみる真っ赤になっていく。
「あの、それ、本当ですか?」
「・・・うん。あなた達にはホップンの姿も見えるしいつかはバレそうだから先に教えておくね。翔子もいいでしょ?」
「い、いやいや?!良くないわよ?!私ってば教え子と戦っていたなんて・・・しかも結構毎回けちょんけちょんにやっつけちゃってたし・・・」
「・・・まだでしゅ。まだわたしはみとめてましぇん!!せんせぇ!!ほんとうにぴゅあれっどならきめぽーずをみせてください!!!」
しかし過去の確執や戦績よりもその真偽を確かめたかったりんかはまるで幼女のような喋り方でねだって来たのだから真宝使先生も困り果てる。
「・・・いいじゃない。毎年コスプレ会場で散々やってるんだし。」
「ちょ?!?!」
「・・・えぇっ?!?!ま、まさか先生・・・ほ、本当に『ピュアレッド』さんなんですかっ?!?!」
そういえばりんかだけは写真を見ても彼女が真宝使先生だとわからない様子だった。本当に今日だけで一生分の驚愕を得られたのではないだろうか。
驚きの胸焼けでチーズタルトが一切口の中へ入れられなかったあかねは目の色を変えたりんかとたじろいでいる真宝使先生のやりとりを三森 来夢と静かに眺めながらここに集まった目的をゆっくりと思い出し始めた。
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