二人の行方―①―
暗人は忽然と姿を消してしまった叔父や従弟をさぞ心配しているだろう。だが予定外のいざこざに巻き込みたくなかったネンリョウ=トウカ閣下はあれ以降一切連絡を入れていなかった。
「やれやれ・・・あの男もしつこいな。」
真宝使 翔子の体を求めてあらゆる権力を行使してきた五菱 助平を躱すべく燃滓 投治も自身のコネクションを十全に使って衝突を避けているのだが1つだけ誤算があった。
それが『ピュアグリーン』の存在だ。
自分も五菱ビルで一瞬何かを見た気はしたがまさか14年も前に現役だった彼女だったとは夢にも思わなかった。
お蔭で2人は頑強な部屋から脱出出来たようだが翌日本部の医務室で休んでいた真宝使 翔子を連れ去られてしまう。
それもあって暗人を遠ざける事を選んだのだ。どうも彼は最初に誓っていた復讐の炎を別の炎へと塗り替えている節があるようで翔子がいなくなった事実を知れば再び暴走しかねない。
故に彼の身を案じて今時乃中学校の臨時教諭を継続させているのだ。息子も危険から遠ざける為にネンリョウ=ツイカの活動よりも学校や部活に集中させるようにした。
後はこの間に五菱 助平との和解と、そして兄を奪い、国を凶喜に陥らせたプリピュアの完全なる消滅を・・・・
「やぁ。待たせたね。」
「いいえ。私も今来たところです。」
そんな彼は現在元『ピュアパープル』の紫堂 司と交際を続けている。
控えめに言って彼女はとても美しく、男など引く手あまたの選り取り見取りな立場なのに何故?と不思議に感じていたが過去の経験から光に群がる羽虫よりも落ち葉の裏で過ごすような自分に惹かれてくれたらしい。
親子ほど年の離れた部分にさえ目を瞑れば投治からも特に不安は無く、交際も3年以上経過しているのに未だラブラブなのは相当に相性もいいのだろう。
「今日の映画は結構噂になってるらしくて同僚達からのネタバレを回避するのが大変でしたよ。」
「ほう?私もドラマは見ていたがふむ。楽しみだね。」
自然と腕を回して眩しい笑顔を見せる司はとても可愛い。と、同時にこのままの関係を続けていいのかの少しの葛藤もあった。
『ピュアグリーン』という存在が再び現れた以上、彼女もまた『ピュアパープル』に変身して自身の前に立ちはだかるかもしれない。
そうなる前に何か手を打つべきか、それとも利用する方法を模索しておくべきか。
暗人と違い年の功を感じさせる投治は息子が学校へ行っている間の逢瀬を楽しみつつ、自身の思い通りになる手駒についても情を挟まずに考えるのだった。
「どうなってんだ?!最近ヒマ過ぎんだろ?!」
『ダイエンジョウ』が大変な状態にある事等露知らず、紅蓮 ほむらは一か月もの間、全く戦闘がない事への苛立ちを爆発させていた。
「別にいいじゃない。私達も学業に専念出来るんだし、ね?」
「う、うん。そうだね。」
珍しく下校時に公園でクレープを食べていると2人が寒暖差の激しいやりとりを交わしている。そこに話を振られると火橙 あかねも適当な相槌を打つしかなかったのだが彼女だけは少し事情が違うのだ。
何故なら『ブラッディジェネラル』が真宝使 翔子だと確信しているから。
そんな先生が怪我により休んでいるとなるとそりゃ『ダイエンジョウ』の活動にも制限はかかるだろう。
一応ネンリョウ=ツイカという別幹部もいるのだが彼は最近めっきり見なくなったのでこれも組織内部で何かあったのかもしれない。
後は『ピュアダーク』の存在だ。
彼女はとても強く、そして残忍な性格をしている為決して一人では現れない。もし一人だったとしても必ず後から『ブラッディジェネラル』が駆けつけて仲裁してくれていた。
なので火橙 あかねの結論としては真宝使 翔子がしっかり全快したら激しい再び戦いが始まるのだろうと思い込んでいたのだがこちらも戦いが発生しないと1つだけ不都合が起こってしまう。
「ばっか!お前!このままじゃ『アツイタマシー』が全く回収出来ないんだぞ?!まぁフェニコがずっと傍に居てくれるのも嬉しいっちゃ嬉しいけど。」
そうなのだ。基本的に『ダイエンジョウ』側がアクションを起こして『アツクナレヨー』を生み出し、暴れるのを沈める為に戦った後『アツイタマシー』を回収するのが自分達の役目なのだ。
なのにその起点が全く発生しないのであればこちらも対処しようがない。むしろ世界が平和ならプリピュアも戦う必要もないんだなぁと考えさせられる程だ。
「でも油断しないでッピヨ!何だかずーーーっと嫌な予感がしてならないんだッピヨ!!」
そんな3人がベンチに座って歓談していると紅蓮 ほむらのカバンの中からひょっこり顔を覗かせてフェニコが厳しく諫めてくる。
彼は異世界の妖精で人間達とはまた違った力や能力を持っているのでこれはしっかりと胸に刻んでおかなければならないだろう。
「うん!そうだよね!しっかりしないとね!」
同意見だったあかねもがばっと立ち上がって強く握り拳を作る。それに季節ももうすぐ冬に差し掛かろうとしている。例年通りなら自分達がプリピュアとして戦っていられる期間も3か月弱しかないはずだ。
それまでに組織の幹部を全て駆逐し、『ダイエンジョウ』のボスを倒さなければならない。決意を新たに闘志を燃やしていると珍しく紅蓮 ほむらまでもが気圧されていたがそこに意外な人物から冷や水が浴びせられた。
「おや?君達、下校中に買い食いですか?」
「げっ?!燃滓?!」
「先生と呼びなさい。」
紅蓮 ほむらの家に近い公園だったので油断していた。突然制服姿の3人の前に臨時教諭の燃滓 暗人が現れたので思わず空気が固まる。
ただ蒼炎 りんかだけは何時ものすまし顔で平然とクレープを頬張っていたので感心するような呆れるような。
「・・・3人は仲が良いんですね。」
ところがてっきり多少のお叱りを受けるものだとばかり思っていたが燃滓先生は優しくそう告げたのであかねはほむらと顔を見合わせる。
真宝使 翔子の代わりとして既に一か月ほど教鞭を振るう彼だったがどうにも物静かというか根暗というか、授業内容にもそれがよく表れているのか、わかりやすいのだが静かで眠気を誘うものだった。
故にあまり生徒達との交流もなく、むしろ距離を置いている風にも感じていたので初めて彼から声を掛けてきた事にきょとんとしてしまった。
「ま、あたし達は固い絆で結ばれてるからな!ところで先生、この話は内緒にしといてもらえるよな?」
「ええ。構いませんよ。私の相談に乗って貰えるのならね。」
しかしほむらは持ち前の明るさとがさつさで乗り切ろうと立ち上がり、まるでキスでもするかのように美しくも可愛らしい顔を近づけてにらみを利かせるが燃滓 暗人の方は全く意に介していない。
むしろ相手から交換条件が持ち上がったので今度はりんかも含めて3人で目を合わせると先生はお構いなく近づいてくるとほむらが座っていた場所に腰を下ろした。
「あなた達は確か氷山 麗美さんと仲が良いとお聞きしていましたが。最近めっきり交流が少ないようですね?」
その名前を聞いて一番仲の良かったあかねはすぐ表情に出してしまったがりんかは再びしれっとした態度のまま再びクレープを頬張り始める。
「何だせんせー。あいつの事気にかけてくれてんのか?」
「ええ。真宝使先生からも夏休みが明けて以降どうも様子がおかしいと聞いていたものですから。」
流石は『ブラッディジェネラル』だ。いくらプリピュアの敵対組織に与していたとしても根っからの教師である彼女はしっかり生徒の事も考えていたらしい。
「って言っても私達も全然わからないわよ。何か突然話してこなくなったし近づく事もしなくなったしで訳が分からないのはこっちも同じなんだから。」
やっと打ち解けて来たりんかも思う所はあったのか。クレープを全て食べ終えた後口元の生クリームを紙ナプキンでふき取りながら状況を説明する。
すると前髪が長すぎて表情が読み取れない燃滓先生からも真剣な雰囲気と悩む様子が見えたので臨時とはいえやっぱり真宝使先生の後任なんだと感心した。
「・・・あなた達が仲の良いお友達だからこそお伝えします。彼女は少し複雑な家庭事情があるのです。」
「ほう?」
ベンチに座る3人の前で腕を組み仁王立ち状態だったほむらが興味深そうな声を漏らすと先生も話を続ける。
「彼女に両親はおらず、姉がいるものの実際は一人暮らしみたいなものです。ですから多分人には打ち明けられない、打ち明け辛い何かがあったのでしょう。」
「そ、そんな・・・」
「で、でもあの子のお姉さんはとても優しくて頼りがいがあって!!あの人が傍に居たらそんな事にはならないはずよ?!」
あかねの驚愕はりんかのスイッチが入った熱弁にかき消された。しかしこれにも答えはあったようだ。
「その姉もしばらく家には戻っていないそうです。何が理由かはわかりませんが。あ、言っておきますがここまでの話は全て秘密ですよ?真宝使先生にもお伝えしてませんから。」
何故一個人の詳しい事情をそんなにも知っているのかは謎だがあのお姉さんと何かあったり、そばに頼れる存在がいない事を考えればその変貌にも理解は出来る。
だったら猶更自分達がお節介で鬱陶しいくらいに近づいて見守る必要があるのでは。あかねはつい距離を感じてしまい疎遠な関係へ変わってしまった事を大いに後悔した。
「何だ何だ?!そんな事情があるなら話してくれればいいのにあいつ!!わかったよせんせ!!あたし達が何とかする!!」
「よかった。でも今の話は本人にも言わないであげて下さい。いつか自分から話した時には知らないふりをして優しく聞いてあげる流れでお願いします。」
静かなのか根暗なのかよくわからない人だと思っていたが今回の件で3人の中の燃滓 暗人という人物の株は爆上がりだ。
「おっしゃ!んじゃ早速連絡して・・・」
「駄目よ。今の話聞いてたでしょ?まずは学校で前みたいに接する所から始めましょう。」
ほむらの勇み足にしっかりブレーキをかけたりんかも少し勇気が持てたのか。冷静さを装いつつも双眸の奥には希望の光が確かに見えた。
「よろしくお願いします。もし関係がより拗れたりした場合のみ、私のせいにしてもらって構いませんから。」
彼もまた自己犠牲を惜しまない性格らしい。真宝使 翔子もそうだったが自分達は先生という存在には恵まれているようだ。
「あ、そういえば燃滓先生。真宝使先生のお怪我の具合ってどうなんですか?まだ完治に時間が掛かるんでしょうか?」
「・・・そうですね。まだ問題が残っているので復帰はもう少し先になるでしょう。ただ元気は元気です。」
3人で頷き合った後、燃滓 暗人が静かに去っていくので最後に真宝使先生の様子を尋ねてみると今日一で豊かな表情を見せながら静かに答えてくれた。
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