暴かれる事実―③―
何がどうなっているのかは後から考えよう。
まずは自分達が逃げ切る事を最優先に考えた暗人は翔子が驚愕の声を上げているのもスルーしてマントを蝙蝠の翼のように可変すると滑空しながら目立ちにくいビルの裏手へ下りる。
「ちょっと暗人君?!今の見た?!」
「・・・今はネクライトと呼んでください。」
自身の貞操が危なかったにも関わらず気にしていない様子を見て一先ず安心したネクライトだったがのんびりはしていられない。
今日の行動は上層部にどう判断されるか。
翔子はともかく自身は最大のスポンサーである五菱 助平の部屋に忍び込んで多少の乱闘に器物破損を犯してしまったのだ。
叔父への迷惑を考えるとこのまま姿を晦ますべきか?いや、『ダイエンジョウ』を囲む周囲の力は暗人が想像する以上に強大なのだ。
恐らく逃亡は難しい。ならば事の顛末をしっかり説明して責任を果たすべきだろう。それにいくら相手が五菱の会長とはいえ無理矢理女を犯そうだなんて間違っている。
「とにかく暗人君!戻りましょう!でないと氷山さんを残したままじゃいけないわ!!」
「・・・今はネクライトです。大丈夫です。氷山 麗美は『ピュアダーク』ですから。」
未だ頭と心の整理がついていないのに翔子がぎゃんぎゃんと喚き立てるので少しイラつきを抑えながら淡々と説明するが彼女はその事実を知らなかったのでまずは驚愕の表情を浮かべた。
しかしすぐに厳しい表情に変化すると抱きかかえられたままこちらの頬を両手で挟み込んできてきっと睨みつけて来る。
「・・・何で『ピュアダーク』が氷山さんなのかは後で聞くとして。あのままじゃ彼女、本当に酷い目に・・・いいえ、もしかするともう被害に合った後かもしれないのよ?!」
「・・・でももう翔子先輩には関係ありませんよ。」
「何でよ?!」
「・・・僕もブラッディジェネラルのコスチュームに妙な仕掛けがあるとは知りませんでした。あれを再び身に纏って戦うのは無理でしょう?」
身動きが取れなくなるくらいならいい。もしそれ以上の罠があったとしたら、もし守れなかったら悔やんでも悔やみきれないだろう。
「何言ってるの!それでも教え子を守らないと!!私あの子の先生なんだから!!」
だが翔子が折れる気配はない。むしろ無理矢理体を揺らして暗人の腕から降りた翔子はあの頃の、プリピュアだった時と同じ目をしている。
果たして彼女を説得するのは可能だろうか。
「駄目です。もう翔子先輩の手に負える領域ではありません。氷山 麗美は僕が何とかしますから変身ブレスレットも返してください。」
それでもやるしかない。
本来なら嬉々として送り出せばいいのも忘れてまず黒いブレスレットを外そうとしたが翔子はそれを拒否して振り払う。
「チェンジジェネラルッ!!」
「翔子先輩!!その姿で乗り込んでも良いように弄ばれるだけですよ?!わかっているでしょう?!」
「暗人君!!理屈じゃないの!!全てを乗り越えた先に私の望む未来がある!!そもそも元ピュアレッドの私に現場復帰させたあなたにも責任はあるでしょ?!ほら行くわよ!!」
無茶苦茶な理論に理解は追い付かないが彼女をこの道に引きずり込んだのは確かだ。しかしそれはあくまで復讐が目的であって彼女を危険な目に合わせる為ではない。
(・・・・・あれ?何かおかしいな・・・?)
復讐と恋心で目的を完全に見失っていた暗人がやっと疑問を脳裏に浮かべるも変身したブラッディジェネラルは再び高く跳んで五菱ビルへ戻っていく。
「・・・懲戒免職で済めばいいんですけどね。」
ここまで来たら一度も二度も変わらない。それに彼女と一緒に戻らねば危険を冒した意味がなくなってしまう。
先行きが全く見えない結末に不安しかなかったがブラッディジェネラルがビルの壁を走る後を地上から追う。そして再び戻って来た時、上空から先程の2人が激しい戦闘をしながら落下してくるのが見えた。
「『ピュアダーク』!!もう止めなさいっ!!!」
着地を待つ前に彼女が2人の間に飛び込むと『ピュアグリーン』は驚いてその手を止めたが『ピュアダーク』は逆にブラッディジェネラル目掛けて強力なキックを放った。
どっこぉぉぉぉぉんん・・・っ!!
するとアスファルトに巨大なクレーターが生まれる程の衝撃が走り周辺のビルが大きく傾く。その中央には2人が重なるように体をめり込ませていた。
「・・・・・いたた。あなたは・・・ブラッディジェネラル。」
「いった~い・・・あ、ご、ごめんね!すぐ離れるから!」
声から察するにあまり大きな怪我はしていないらしい。いや、見れば『ピュアグリーン』が何か防御技を使ったのだろう。2人の前には葉が象られた緑のシールドが展開されていた。
そしてブラッディジェネラルが『ピュアグリーン』の登場に一切触れていないのも気になる所だ。
(あれはまさか・・・見間違いではなかったのか?!)
むしろネクライトの方が大きく驚いていた。育ち切った体にかなり無理のある可愛くも小さなコスチュームに身を包む姿は何とも言えないものがある。
これなら翔子のコスプレの方がまだサイズをしっかり考えているだけマシかもしれない。最初にそんな失礼な事を思ったのだが本質はそこではないのだ。
何故初代プリピュアがここに登場しているのだろう。
真偽はわからないが必殺技を撃てた事や『ピュアダーク』と戦えている事実から実力は本物らしい。
「・・・ブラッディジェネラル。いつもいつも私の邪魔をして。いい加減目障りだから一緒に消えて。」
「あなたは騙されてるのよ!!学校で明るくて楽しそうだったあなたに戻って?!」
氷上 美麗=氷山 麗美の事実には辿り着けていないようだがそれでも彼女が何かしらの力に影響を受けているのは思う所があったのか。
『ピュアダーク』から放たれるキックを交わす事無く全て真正面から受け切るスタイルは元プリピュアならではだろう。
(・・・いや、違うな。あれは・・・)
よく見てみるとブラッディジェネラルの後ろではまだ『ピュアグリーン』が立ち上がっていない。動かなかった、動けなかったのは彼女を庇っていたからだ。
それを察したネクライトは迷わずに飛び込むと『ピュアグリーン』を抱きしめてその場を離れる。これでブラッディジェネラルも自由に戦えるはずだ。
「ありがとっ!」
感謝の声にも喜びと元気が溢れている。だから心配など微塵もしていなかった。
毎回『ピュアダーク』を諫めていたブラッディジェネラルの方が格上だと思い込んでいたからここから反撃に出るのだろうと信じて疑わなかった。
ぼぐっ!!ばきんっ!!!ずんずんずんずんずんずんずんっんんっ!!!!
ところが後顧の憂いを取り除いたにも関わらず彼女は『ピュアダーク』の鋭いキックを腹部に受けると大きくうずくまる。
そこに後頭部目掛けて上空から急降下してきた飛び蹴りが落とされるとうつ伏せにめり込んだブラッディジェネラル目掛けてその頭を何度も何度も何度も何度も踏みつけた。
突然過ぎる常軌を逸した光景を前にネクライトも抱きかかえていた『ピュアグリーン』の事を忘れて傍観し続けていたが大丈夫だ。
何故なら彼女は元ピュアレッドなのだから。
誰よりも強く、誰よりも心が真っ直ぐで純粋で、誰よりも人の為に戦ってきた真宝使 翔子が負けるはずがない。
しかしそんな彼の思いは一向に届く事は無く、ぴくりとも動かない彼女の頭部辺りにはいつの間にか夥しい血だまりが出来上がっていた。
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