暴かれる事実―①―
氷山 美麗の『闇落ち』は燃滓 暗人の予想を超えて来ていた。
(・・・まさかピュアブルーに変身させるなんて・・・)
薬で若返らせるだけでなくきっちりと洗脳も仕込んで最大限利用するなど非常に敵対組織らしいやり方に感心もするが同時に不安も覚えたのだ。
彼女をプリピュアに変身させてよかったのだろうか、と。
正確には『闇落ち』したピュアブルーなのだが、これはプリピュアに戻る筋書きが立ったとも考えられる。もちろん全てが『ダイエンジョウ』側で統制されている為難しいだろうが決して0ではないはずだ。
後は翔子の心変わりも気になる所だ。親友が『光落ち』して以前の姿と力を取り戻した時、ブラッディジェネラルとして戦い続けてくれるだろうか?
いや、そもそも彼女こそ復讐の中心人物なのだから立ち直れないほどの強いショックを受けて欲しい。そして最後は後輩プリピュアにやられてしまえばいいのだ。
そうなれば暗人も結婚という口約束を果たす必要はなくなるしきっと清々しい気分で新たな人生を歩めるはずだ。
「ほらほら!もう一回乗ろっ?!」
なのに夢の国ディスティニーランドへ遊びに来ていた彼は翔子のはしゃぐ姿を見る度に思考は忘却の彼方へ消え去り、頬を緩ませながらその時間を楽しんでしまう。
(・・・いやいや、最近情に流され過ぎだぞ!しっかりしろ!俺!!)
一体どこから計画が狂ってしまったのか。彼女の初めてを奪うまでは順調だったはずだ。そこで偽りの婚約を餌にこちらも欲望を満たす為に彼女を利用する。
うむ。何度考えても非の打ち所がない作戦ではないか。むしろ何一つ狂ってなどいない。正に完璧な復讐劇の真っただ中と再認識出来たくらいだ。
「今日は何考えてるの?」
そんな翔子は時折こちちらを見透かすような目でいたずらな笑顔を浮かべながら顔を近づけてくる。彼女も夏休みが明けてからとても純粋な素振りを存分に見せてくれるようになった。
これがまた嬉しいのだ。いや違う、嬉しいというのは騙し通せてるなという意味であって喜びからの嬉しいではない。
今の所まんまと罠に嵌っている。うむ。この表現が正しいだろう。だからお願いだ、腕を絡めて胸に押し付けるのは虚勢と思考を激しく奪われるので止めて欲しい、いや、止めないで欲しい。
もはや自分の心が行方不明になっているのも気が付かず、欲望と妄想を交錯させていた暗人はその日遊園地デートを思う存分満喫するのであった。
思えば自身も初体験だったし初めて出来た恋人なのだから多少気が動転するも致し方ないといった所だろう。
10月に入ると暗人は季節と共に切り替えていく決意をする。まず翔子からの連絡に急いで飛びつくのは止めよう。もっとこう、忙しい男を演じて・・・いや、考えてみれば同じ職場だしこちらの職務内容は筒抜けだった。
であればせめて彼女を好き過ぎるアピールみたいな行動は控えよう。思えば時間が作れる度に会うのも悪影響な気がのでまずはそれを止めて、次に飽き気味のような倦怠感を意識していけば相手の不安を煽れるかもしれない。
(な、何て悪い発想なんだ・・・いや、プリピュアの敵対組織に勤めてるんだったらこれくらいは・・・)
今まで縁は無かったが世にいるクズ男というのはこういう行動を呼吸するかのようにこなすのだろう。そう考えると次にスカウトする時はその界隈から探すべきか。
だが『ダイエンジョウ』が活動を始めて既に8か月が過ぎている。例年通りだと来年の1月末までには決着がつくだろうし今は現メンバーでプリピュアを破り、歴代の悪い流れを断ち切る事に集中せねばならないはずだ。
(・・・来年か。)
他人はおろか、自身の命にさえ興味の無かった暗人はぼんやりと今後について考える。翔子との決別は何時にすべきか。演出もしっかりと組み立てなければならないだろう。
今日は会議が終わったらまた彼女の家に上がり込もうか。いや、たまにはラブホに行くのもいいかもしれない。次の休みは何処でデートしようかな。
敵対組織に就職するまでは決して考えた事の無かった内容が脳内を汚染しているのにも気が付かず、議題も最近のブラッディジェネラルは『ピュアダーク』の動きを邪魔し過ぎるから控える様にといった注意喚起で終わると暗人は彼女と一緒に退勤した。
こうして全ての事案を先延ばしにしていたが三森 来夢と黄崎 愛美が追い求めていた黒幕が動きを見せると事態は急展開を迎える。
それはとある平日だった。あの『五菱』の会長がブラッディジェネラルを呼び出したという話を小耳に挟んだので暗人は嫌な予感が頭を過ったのだ。
彼は財界の頂点であると同時にその人格も最低の頂点に君臨している。未成年を集めての乱交パーティなど日常茶飯事で欲望の為なら犯罪すら厭わないという噂は耳にタコが出来るほど聞いてきた。
それでも犯罪に問われないのは偏にその財力があらゆる組織の根幹を犯しているからに他ならない。結局のところ欲望に染まった根っこは茎も花も腐らせてしまうのだ。
しかし暗人にとってそんなのはどうでもいい。
今は自身の恋人であり、復讐すべき相手があの淫乱クソ老害に呼び出されたという事実は妙に腹立たしく、そして心配で仕事が手につかなかった。
確かにファーストコンタクトでは翔子の正義感が権力を返り討ちにしたお蔭で事なきを得たものの今回も上手く行くとは限らない。むしろ食えない老害だからこそ何かしら対策を講じている可能性を危惧すべきだ。
どうする?自分もついて行くべきか?そもそも呼び出された日時は何時なのだろう?モヤモヤが脳内を圧迫して仕事どころか呼吸すら苦しくなってくると顔色も真っ青になる。
そして辿り着いた答えが組織のボス、『ネンリョウ=トウカ』の息子にそれとなく聞き出せないかというものだった。
「え?ブラッディジェネラルがいつ呼び出されたのかって?確かついさっきだよ。」
よかった。この答えを聞いた暗人は早々に覚悟を決めると『ダイエンジョウ』を早退して後を追う。
ここでもう少し冷静さを保てていれば老害といえど敵対組織『ダイエンジョウ』の大手スポンサーだという事実から行動を躊躇ったかもしれない。
だが復讐相手である翔子に身と心のほとんどを奪われていた暗人は気持ちのアクセルから足を離す事無く、タクシーを拾うと真っ直ぐに『五菱』の会長がいるビルへと車を向かわせるのだった。
当然だが会長の五菱 助平はブラッディジェネラルと面会中の為、『ダイエンジョウ』の幹部であるネクライトが突然現れて面会を所望しても軽く門前払いを喰らうだろう。
なので選択の余地はない。暗人はタクシーを少し離れた場所で降りるとビル街の裏手に回る。そしてマンホールの1つを片手で軽々と持ち上げると滑り込むように体を沈ませた。
ここに辿り着く途中『五菱』ビルのセキュリティはしっかりと脳内に叩き込んだので後は手持ちの機器を駆使しつつ忍び込み、翔子を助け出す。
(・・・・・助け出す?)
凡そこの思考は復讐相手に持つべきものではないだろうし酷い目にあわすべき存在を何故そこまで気にかけているのか。
今自分が行っている行動は『ダイエンジョウ』への明確な反逆行為であり、何よりそんなリスクを冒す意味がわからない。一体全体自分はどうしてしまったのだ?
血迷った自覚を多少は持ちつつも決して立ち止まらなかった暗人は鍛え上げた肉体であらゆる場面をすいすいと突破して瞬く間に五菱 助平とブラッディジェネラルがいるであろう部屋まで辿り着く。
彼女は無事だろうか?
気持ちはその点だけに塗り替えられていたが今更疑問を浮かべる余地はない。かといって正面から扉を開けるのは流石に無謀だと判断して速やかに通気口へ身を潜めた暗人は部屋に侵入しつつ、いつでも彼女を助けられるよう準備を整え始めた。
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