三森 来夢―②―
その存在を知ってから2人は情報収集に奔走する。といってもSNSを活用して解析するくらいしか手段はなく、正体を突き止めるにはまだまだ時間がかかるだろうと思っていた矢先に久しぶりの飲み会があった。
「ところで~この娘ってどう思う?」
そして驚く。愛美が突然見せてくれた映像は間違いなく昔の美麗そのものだったのだ。こういう時存在感が薄く口数の少ない性格でよかったと静かに興奮する中、愛美は彼女が美麗の親族かどうかという話題を切り出す。
何故か翔子だけは酔いが回っていたのかその推論には小首を傾げていたがこれ程そっくりな人間が血縁外に存在するのだろうか?
(・・・もしかしてこの娘が『黒いピュアブルー』?)
今時乃中学校2年生なら適齢だし容姿そのものが昔のピュアブルーなのだから来夢の中では確定寄りの疑惑で針は止まった。
後は念の為愛美に画像を送って貰い、ホップンとも考察してみようと思っていたのだがその前に彼が反応した事で話は急展開を迎える。
「来夢来夢!何かがこっちに向かってるプン!」
何時もの居酒屋から解散し、帰宅途中に姿を隠していたホップンが懐かしい言葉を聞かせてくれると酔いは高揚に塗り替えられていく。
それは敵が近づいている合図で間違いない。来夢は14年ぶりの実戦に不安と緊張、そして歓喜を胸に小走りで建物の裏に身を滑らせた後変身を完了させるとまずは様子を伺う為に物陰から観察する。
そしてバッチリと敵の正体を目に捉えてから再び驚いた。
「え?あれって美麗プン?」
「・・・いえ、あれは氷山麗美ちゃんね。」
遠目ながらホップンもそう見えたのだからやはり似過ぎているのだろう。薄暗い公園に現れた彼女を見て2人がそんな会話を交わしているとそこに愛美まで現れる。
「あれ~?麗美ちゃん?中学生がこんな時間に出歩いちゃ駄目だよ~?怪我もしてるんだしお家に帰りなさい~?」
「・・・そうね。貴方を始末したら帰るわ。」
短いやり取りだが耳にした『ピュアグリーン』は疑惑から確信へ切り替えた。雰囲気からも察するに彼女が『黒いピュアブルー』で間違いない。
しかし何故彼女が愛美に襲い掛かるのか?何故愛美が彼女と接点を持っているのか?不可解な点は多いもののまずは友人を助けなければならない場面だろう。
ばきんっ!!
今までそれを受けた事は無かったが恐らくこれくらいの威力だと想像はしていた。そんな『黒いピュアブルー』のキックを受けた『ピュアグリーン』は久しぶりに走る体中の緊張に冷や汗を流す。
「・・・・・早く逃げて。」
正体はともかく『黒いピュアブルー』が相当な強さを持っているのだけは瞬時に理解したからだ。故にそう告げると愛美も感覚で理解したのか速足で後ろへと下がっていった。
そこからは本気の戦いだ。『ピュアグリーン』は防御に優れた戦士とはいえ仲間との戦い等想定した事は無かった。彼女らしいキック主体の立ち回りに何とか対応するもブランクもあってか反撃の余裕はない。
というか続ければ続ける程彼女が『ピュアブルー』なのだと思い知らされる。
(・・・どうなっているの?美麗が彼女?だなんてあり得る?)
昔の記憶からも同一人物だという結論まで達してしまった『ピュアグリーン』は疑いながらも心では別の可能性を願っていた。
もし自分の推測が正しければ美麗は麗美という中学生の姿を得て学校に通ってる事になるのだ。流石にそれはない。そんな羨ましい事はあってはならない。
「もう止めましょ?!プリピュア同士が戦うなんておかしいよ!」
そんな邪念が交わる戦いの中、愛美が悲痛な叫び声を上げると『黒いピュアブルー』も距離を離して動きを止める。ただこちらからはほとんど攻撃していなかった為相手が彼女の訴えに耳を傾けたのか他に理由があるのだろう。
「・・・あなた、強いわね。お名前は?」
「・・・・・『ピュアグリーン』」
意外すぎる質問に少し驚きながら名乗ると『黒いピュアブルー』は僅かに納得した様子を見せて高く後方へ飛んでビルの影へと消えていく。
それから愛美にぎゅっと腕を掴まれて逃げられないように動きを封じられると『ピュアグリーン』は速やかに彼女を抱えて建物の裏に身を滑り込ませて変身を解くのであった。
「何でもっと早くに教えてくれなかったのぉ!!」
説明するために自身の家に連れて帰ったはいいものの、愛美は感動から言動が中学生の頃まで戻っていた。
「・・・だって説明するにしても色々足りない事だらけだったし、ね?ホップン?」
「足りないのは来夢ちゃんの言葉だよぉ!!」
なるほど確かに。納得した様子でぽんと手を叩いていたが正体がバレた以上彼女にはしっかりと説明する必要がある。
まずは現在のプリピュアが日本の手によって支配されている事、それを打ち破るべくホップンが再び現れてくれた事、現在変身できる力は来夢だけだという事などなど。
途中のコンビニで買った缶ビールを片手に愛美もふんふんと熱心に聞いてくれていたがやはり自分が変身できない事実にはわかりやすく肩を落として落ち込んだ。
「で、でも『アツイタマシー』を一杯集めればきっと皆も変身出来るはずプン!!」
「そうなの?だったら来夢ちゃんの働きに期待だね?!」
「・・・任せて。」
これは来夢も望むところだった。出来れば皆とまたプリピュアをやりたい。そして再び世界を救う戦いに身を投じるのだ。
考えただけでもわくわくが止まらない来夢は心の中で一人熱い決意を燃やしていると愛美もぐびっとビールを飲み干した後、一気に素面の様子に戻る。
「・・・日本がプリピュアに干渉してる話ね、実は私に心当たりがあるの。」
そして意外な事を口走った事で今度はこちらが呆気にとられるのだった。
「・・・えっ?どういう事?」
ホップンと顔を見合わせた来夢は不思議そうに尋ねると愛美はより真剣な表情になって経緯を説明してくれる。
それはお水の世界に入って3年も経った頃に手に入れた噂話から始まったという。最初はお客様の冗談かと笑っていたが名声を高め、更なる上級国民を相手にしていく中で点と点が繋がっていったらしい。
「少なくともここ5年の敵対組織は国やそれに近い人物が関わっているわ。そもそもおかしいと思わない?何で突発的に現れた敵とプリピュアが戦う姿を生中継出来てたのか。」
「・・・確かに。」
「答えは敵対組織を牛耳る連中が情報を流していたから。そうする事でプリピュアを世界中に喧伝して莫大な利益を生んでいたのよ。」
もしこれがプリピュアと全く無関係の人物から語られていたら鼻で笑われていただろう。しかし彼女は元プリピュア、片方は現役に復帰しているプリピュアなのだ。
「え、えっと・・・利益プン?お金儲けプンか?それとも『アツイタマシー』を一杯回収出来るプン?」
精神年齢や知識的にも低年齢なホップンは愛美の凄みこそ伝わっていたようだが内容にはいまいちピンときていない。しかしこれは来夢も同じだった。
「・・・利益・・・おもちゃやグッズは沢山売れてるでしょうね。」
何となくしか思い浮かばなかった理由を呟いてみるが彼女が首を横に振っている所を見ると違うようだ。いや、それも少しは含まれているらしい。
「ホップンにも分かりやすく説明すると敵対組織に日本の悪を肩代わりさせてプリピュアに倒させる構図を作っているの。こうする事で国自体の不満を押し付けて解消してるって訳。」
「・・・えっ?そういう利用?」
ホップンはまだ難しいらしく考え込んでいたが来夢は意外過ぎる答えに思わず声を上げる。だが愛美の説明は終わらない。
「だって局地的とはいえ街を壊して回るような存在は脅威よ?それをプリピュアがやっつければ皆、彼女達を応援するのは分かりやすいでしょ?」
「・・・うん。」
「そうして国民の意識をそっちに向けながら国を蝕むお偉いさん達は自分達の都合が良い悪法を静かに組み立てて施行していく。このせいで今日本は貧富の格差どころじゃない。とんでもない裏取引がいくつも行われてるんだから。」
愛美の話ぶりからこれが本命の利益なのだろう。確かに自身達が14年前に変身して以降、プリピュアは毎年どこかで現れては敵対組織と戦っていた。
その期間も必ず1年と決められており先代が力を失うと綿密に打ち合わせしていたかのように次世代が誕生するのだから外部からの力があると考えても別段不思議ではない。
「後、個人的に気になるのは・・・プリピュアが性的に扱われている噂よね。」
流石にこれをホップンに聞かせるのは不味いだろう。来夢は静かに彼を膝の上に抱き寄せるとその両耳を手でふさぐ。
「・・・それも何か根拠があるの?」
「うん。何年か前から売春がパパ活とか言葉を濁して伝えられたり性犯罪の低年齢化が話題になったりしてるじゃない?あれはお偉いさんのお遊びをカモフラージュしてるのとその実態なの。」
「・・・ふむ。」
「それでお仕事中には現役を食べたとか引退後でも美味しいみたいな話題が時々出るんだけど、それってJKとかJCだけじゃなくてプリピュアも含まれているらしいのよね。何でも『もう一度プリピュアにしてあげる』みたいな感じで誘ったり敵対組織に捕まった時にクスリを使ったり・・・」
「・・・・・」
無口な来夢は更に言葉にならない。これが本当なら自分達の後輩は本当に文字通り搾取の対象となっているのか。というかそのパターンだと翔子が一番危ない気がする。
いや、若い女の子だけが狙われるのであれば大丈夫か?もう自分達も28歳なのだから見向きもされないだろうと捉えるべきか?
この国では権力者が簡単に法律を捻じ曲げてくるので裁きはとても軽くなる傾向にある。そして愛美が言う様に知らず知らずの内に悪法を通されていれば彼らを断罪に処するのはより難しいだろう。
「恐らくプロジェクトの雛型はもう完成してるのよ。だから放っておけばこれからもずっと同じ事が繰り返されるわ。来夢ちゃん、私はそれを壊滅させなきゃならないの。元プリピュアとして何も知らない少女達に悪夢を植え付けない為に。」
不思議だとは思っていた。何故愛美がお水の道を歩んでいたのか。決して綺麗な仕事ではないし苦労も多いはずなのに彼女は在学中からこの仕事を続けていたのだ。
その謎と確固たる決意を改めて教えてもらうと来夢も静かに頷く。
「・・・わかったわ。一緒に解決を目指しましょう。」
変身する力を失った後も1人孤独に戦っていた愛美。そんな彼女に敬意を払いつつ覚悟をしっかり口にするとやっとホップンの耳に当てた手がそのままな事に気が付いて2人は笑い合っていた。
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