三森 来夢―①―
三森 来夢はプリピュア歴代の中でも1,2を争う程物静かな人物だ。普段自分から意見を述べる事はほとんどなく、そっと傍にいる存在。
そんな彼女を仲間達は快く受け入れてくれた。だから来夢も頑張ろうと心に誓った。インドア派で体を動かすのは苦手だが大切な仲間と妖精達の為に戦い抜くと。
その結果最終決戦では5人が力を合わせて敵対組織『ダークネスホープ』を壊滅させるに至ったのだ。あの時の思い出と達成感は誰よりも胸の奥へ刻まれたのものかもしれない。
以降は普通の中学生に戻り高校、大学へと進学する中、翔子だけは時々プリピュア時代を思い返してはあの頃に戻りたいとぼやいて皆で笑い合う。
どうも本気でそう思っていたらしいが普通に考えれば無理だろう。選ばれる世代はほとんど中学生で大人が選ばれる例などなかったし二度選ばれるという話は聞いた事がない。
それにプリピュアとは力を与えてくれる妖精達の願いから誕生するのだから自分の意思でなろうと思ってなれるものではないはずだ。来夢もそう割り切っていた。
とある転機が訪れるまでは。
それは今年に入ってからだった。何時もみたいに翔子が振られた話を肴に慰めの酒宴がお開きになった後、来夢は帰り道にふと母校の今時乃中学校へと立ち寄ったのだ。
今でこそこの中に堂々と入れるのは翔子だけだが昔は5人がここに登校し、学び、絆を深め合った。プリピュアの力を与えられたのも校内での話だった。
懐かしさにまだまだ寒い夜風を感じながら思いに耽る来夢。彼女も翔子のように素直な気持ちを口に出せる性格なら揃って『プリピュアになりたい。』『あの頃はよかった。』とぼやいていたかもしれない。
これは決して現状に不満があるからではなく、人よりも強烈な思春期を送った弊害なのだろう。自己顕示欲でもない、大人になってからは考えられないほどの濃密な充実と満足の毎日。
あれを再び手に出来るのであれば例え人の道から外れたとしても踏み込むかもしれない。しかしそう考えていた来夢が敵対組織からスカウトされる事は無かった。
「・・・来夢・・・来夢・・・」
何故ならこの時、聞き覚えのある声の主と先に接触出来たから。
14年ぶりではあるがそれを聞き間違えるはずはない。手のひらに収まる小さなぬいぐるみにも似た希望の妖精ホップンはその昔彼女ら5人にプリピュアの力を与えてくれた存在なのだ。
「・・・ホップン?ホップンなの?」
「ぁぁ・・・やっぱり来夢・・・僕だよ、ホップンだプン。」
丸々とした顔と手足、眉間から生える一本の丸く短い角も昔のままだ。光を纏って目の前にふわふわと落ちて来た彼を両手で優しく受け止めると思わず胸に抱き寄せる。
「・・・まさか、また会えるなんて思いもしなかった。ホップン・・・会えて嬉しい。」
「僕もプン!でも来夢、今は時間がないプン。聞いてくれるプン?僕の話を。」
無口な彼女が今年分の発言力を使い切った後、初めて出会った時のような緊張感を肌で感じながら首を縦に振ると少し人目のない場所へ移動して早速彼の話に耳を傾ける。
「驚かないで欲しいんだけど、今この世界は破滅へと向かっているプン。」
「・・・ふむ。」
短い説明に一瞬考えたが元プリピュアという立場のせいか、あまり悲壮感や驚愕はなかった。むしろ毎年のように新しいプリピュアが国内のどこかで目覚めては戦っているのだから逆に何もおかしな事は無い。
「あぁぁ!わ、わかってないプンね?!えっと・・・そうプンね。今この国によって世界が崩壊しようとしてるんだ!って言えば伝わるプン?」
「・・・さっきとあまり変わらなくない?」
久しぶりの再会と切羽詰まったやり取りに懐かしさこそ感じるものの彼の気持ちは全く伝わってこない。
何だろう?プリピュアが負けるとでもいうのか?だが今までもピンチは何度もあったがそれら全てを乗り越えて彼女らは勝利を得て来た。
むしろそこが醍醐味というか、その成長過程もプリピュア達に強烈な成功体験を植え付けてしまう。故に翔子のような人間が出来上がってしまう訳だ。
「そ、そうプンね。もっとわかりやすく説明しないとプン!えぇっと・・・じゃあ今のプリピュアがプリピュアじゃないって言えばわかってもらえるプン?」
「・・・・・」
元々無口な来夢はその話を聞いて言葉を失った。プリピュアがプリピュアじゃない?これはとんちの話だろうか?
「・・・ねぇホップン。まさかすぐに妖精界へ帰ったりしないわよね?今日は私の家に行こ?それで一杯話を聞かせて?」
そして一度考える事を放棄して話題を変えてみた。すると彼も納得してくれたので来夢は14年前の自分に戻って彼の話を静かに聞き入るのだった。
ただホップンも中学生か、それより下の年齢なので22時には眠りについた。まだまだ別れるつもりはなく、話をもっと一杯聞きたかった来夢は翌日、仕事からの帰宅途中に彼の好きなソフトクリームを買って帰る。
「おっかえりプン~!あ!いい匂いがするプン!」
「・・・ただいま。正解、ソフトクリーム買って来たよ。」
来夢が手渡すとホップンはそれを短い前足で掴み美味しそうに頬張る。この姿も14年ぶりだと思うと感慨深い。
それから無意識にスマホを取り出して写真を撮ってしまったのだが妖精の痕跡はこの世界に残してはならないという法則をすっかり忘れていた。
「・・・そっか。写真には写らないんだよね。」
過去にもそういった写真を撮ろうとしたが彼らだけは姿が消えてしまう。これはその存在がこの世のものではないという理由らしいが、来夢は少しがっかりした様子でそのデータを消去しようと指を伸ばして固まる。
「・・・・え?あれ?ホップン、写真に写ってるね?」
今までだったら宙に浮いたソフトクリームの写真となっていたはずが今はしっかりとその姿が保存されているではないか。
これは技術の進歩か。それとも別の要因か。不思議よりも嬉しくてついパシャパシャと連写してしまうが大好物を食べ終えたホップンは満足そうな笑みを浮かべた後驚愕の表情を浮かべてこちらの顔に飛び込んでくる。
「そうプン!!僕達の世界にすら干渉してきてるプン!!今の日本は!!」
やっと彼が慌てていた理由が少しだけわかるとここで彼女のお腹が鳴ったのでまずは夕食を用意してそれを頂く。それから一緒にお風呂に入って仕事の疲れを癒した後、再び聞く体制を整えた来夢はパジャマ姿で彼と向き合った。
「・・・ホップンの世界に干渉。つまりどういう事?また『ダークネスホープ』が復活したって事?」
「違うプン!『ダークネスホープ』じゃなくて今は日本が『プリピュア』の全てを操ってるんだプン!!」
「???」
「つまり!『プリピュア』を誰にするか、どこに誕生させてどこで戦わせるかを日本が全て決めてるんだプン!!」
「・・・そんな事出来るの?」
元々不思議な存在である妖精がより不思議な事を口にすると訳が分からなくなる。プリピュアとは異世界の力によって賜るという前提が頭にある為余計に混乱していたがホップンは小さな指を立てて自分の大きな顔を指した。
「出来てるんだプン!だから僕の姿も写真に写っちゃうプン!」
「・・・おお。納得。」
「だから来夢!お願いだからもう一度『プリピュア』になって戦って欲しいプン?!そして今度は『プリピュア』を操る奴をやっつけて欲しいんだプン!」
「・・・おっけぃ。」
彼と再会した時から、もしかするとその前から既に心は決まっていたのかもしれない。ホップンからの提案を二つ返事で了承すると彼は少し唖然としながらも喜んで胸に飛び込んでくる。
「で、でも前以上の死闘になるかもしれないプンよ?!ほ、本当にいいの?!」
「・・・大丈夫。私には頼りになる仲間がいる。」
死闘などの言葉を聞いたらきっと翔子辺りは舞い上がって喜ぶだろう。それを想像してつい口元が緩んでしまったが話には続きがあった。
「あ!ご、ごめんプン!今はその、変身する力が1人分しかなくて・・・来夢だけになっちゃうんだけど・・・それでもいいプン?」
一瞬驚きはしたものの決定を覆す要因にはならない。翔子と同等か、それ以上に過去の自分達を誇りに思い、大切にしてきた来夢が再び『プリピュア』として戦えるのであれば手を伸ばさない理由はないのだ。
「・・・いいよ。私に任せて。」
こうして彼女は大人のプリピュアとして暗躍し始めるとその活動内容はとても地味なものだ。
まず力を増やす為に自分達も今の後輩プリピュア達が戦って集めている『アツイタマシー』が必要だった。なので彼女らの戦場に足を運んでは回収時にこっそりと少しだけ横から吸収する。
更に国家規模であろう敵の正体を掴むべく方々に忍び込んだりと凡そ伝説の戦士らしからぬ行動ばかり続いていたが来夢は楽しくて幸せだった。
(・・・こんな仕事、翔子ちゃんじゃ飽きて投げ出してたかも。)
敵に必殺技を放って派手な殺陣を決めるのも爽快だ。しかし大人になった今、こうした戦い方にも納得はいく。むしろ存在感の薄さを活かす立ち回りに満足と充実感を得ていた程だ。
だが相手の全容が見えるにつれて進捗は遅れていく。
どうやら最初にホップンが言っていた国家規模が敵だというのは誇張ではなかったらしい。現代のプリピュアが敵対組織を滅ぼす前に何とか決着を付けたかった来夢とホップンは頭を悩ませていると遂にその糸口が見つかったのだ。
それが『黒いピュアブルー』の存在だった。
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