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知り過ぎても尚―④―

 プリピュアは妖精の加護を受けている為基本的に負傷を持ち越す事は無い。

「いてて・・・くそ・・・っ」

しかし一番こっ酷くやられたほむらは翌日生傷を残したまま登校してきた。一応隠す為に全身を包帯で巻いていたのだが余計に痛々しさを増している。

「ちょ、ちょっと?!紅蓮さんその怪我どうしたのっ?!」

すると真っ先に遠慮なく質問してきたのは『ブラッディジェネラル』こと真宝使 翔子だ。担任教師というのもあってか教室に入って来た瞬間心配そうな声を上げたのであかねは嬉しかった。

「せんせーには関係ねーよ。」

この時ほむらはいつも通り素っ気ない返事で誤魔化そうとするが全てを知っているあかねは少しだけ心が痛む。

「ほむらちゃん!先生は心配してくれてるんだからそんな言い方しないの!」

「「えっ?!」」

なのでつい彼女を諭すような、むしろ先生側の発言をすると2人からは意外そうな声が漏れていた。

逆に氷上 麗美が一切話題に出さなかったのも気になる。彼女もほむらとはかなり仲が良いはずなのに最近は少し陰があるというか、よそよそしい。


(でも今はその方がいいのかも。)


自分達がプリピュアだという話は絶対に秘密なのだから怪我の説明は難しいし何より真宝使先生の『ブラッディジェネラル』を超える強敵が現れたのだ。

その情け容赦ない残忍な性格に確かな強さを併せ持つ『ピュアダーク』。当面はこの難敵を打ち破る為に集中しなければならないだろう。


「っん・・・」


「だ、大丈夫?」

昨日の激戦で傷を負ったのはほむらだけじゃない。他の2人も隠してはいるものの体中の痛みは治まりを見せていないのだ。

ただ空手を習っているあかねやけんか慣れしているほむらと違い、インテリ系インドア派のりんかは痛みに不慣れなのでより辛そうだ。今度いつあの強敵が現れるか分からない中、この状態はとても危うい。

(何とかしなきゃ・・・でもどうすれば・・・)

悩めば悩むほどほむらの視線は自然と真宝使 翔子に釘付けになる。昨日の戦いを見て『ブラッディジェネラル』なら『ピュアダーク』に対抗出来るのだと知っているから。

だが最近は『ダイエンジョウ』から2人も幹部が送られてくる事など珍しく、基本的には幹部1人に『アオラレン』一体の構図だ。

であれば再び『ブラッディジェネラル』が割って入ってくれるような期待はすべきではない。そもそも自分達はこの世界を守るプリピュアなのだから純粋に真っ直ぐな力で活路を見出さねばならないだろう。


それでも全てを知ってしまったあかねは考えてしまう。何とか先生をこちら側に引き込めないかを。


今のプリピュア達だけでは『ピュアダーク』はおろか『ブラッディジェネラル』でさえ倒せていない。つまり『ダイエンジョウ』の戦力を大幅に削るという意味でも非常に有効な手段のはずだ。

(・・・・・あれ?でも『ブラッディジェネラル』のままこちらに味方なんて出来るのかな?)

彼らは独自のシステムによって変身なり変化をしているとなると裏切った時点で全てを奪われるのは想像に容易い。

何より実行に移す場合、あかねは自身の正体を告げずにそれをやり遂げねばならないのだ。果たしてそんな事が可能なのか?


「あ、あぁ、あのぅ?火橙さん?せ、先生の顔に何かついて、る?」


授業中にも関わらずいつの間にか深く考え込んでいたあかねはとても怖い顔で真宝使 翔子を睨みつけるように凝視していたらしい。

「・・・先生。本当にもっとしっかりしてください!!」

「は、はひぃっ!!」

何故コスプレするほどプリピュア好きな先生が敵の幹部に成り下がってしまったのか。その原因に思考が向く事は無くあかねは以前と同じように嘘偽りない気持ちを放つと翔子は情けない声で返事をしていた。




特に取り決めがあった訳ではないのだがプリピュアが戦う周期というのは昔から大体週に一回と決まっていた。


もしかしてそれは疲れや傷を癒す期間を考えての事かもしれない。あかねは逆境の中、暗黙のルールに心から感謝しつつ下校していると不意にりんかの携帯が鳴る。

「・・・皆は先に帰ってて。私は少し寄り道していくから。」

彼女の趣味がコスプレだと知った時からだろうか。とても純粋な一面を知って以来りんかの事も気に掛けるようになっていたあかねは寂しくも険しい表情を見逃さない。

痛い体を無理して速足で大通りへ向かって行く背中に嫌な予感を覚えると知らず知らずの内に2人はその後を追いかける。

「・・・大丈夫。私が見て来るからほむらちゃんは家でゆっくりしてて。」

「何言ってんだ?あたしらは友達だろ?」

その言葉が胸に響く。やっぱりほむらやりんかとプリピュアをやっててよかった、自分は仲間に恵まれていると喜びが込み上げてくる。

「じゃあ一緒に行こ。でも痛みが酷くなったら先に帰っ・・・てぇえ?!タ、タクシーに乗るの?!」

「ぉ、ぉぃい?!あれめっちゃ高い乗り物だろ?!ど、どど、どうし・・・」

りんかの家は確かに裕福だ。かといって学校帰りにタクシーを拾うなど普通は考えられない。自分達の常識を打ち破る行動に一瞬唖然としたが引き返す訳にもいかない。


「・・・し、仕方ない!!ほむらちゃん!!変身よ!!」


どうしても資金面での踏ん切りがつかなかったあかねは最終手段を提案するとほむらも嬉しそうに驚きながらビルの影に入り、2人は戦闘以外の目的でその超人的な力を振るう選択をした。




それにしてもどこへ向かっているのか。高く跳躍してビルの壁や天井に飛び移りながら目的の車を追っているとそれは駅前で停まる。

その駅は繁華街で賑わう有名な場所だ。しかしあかね達中学生が来るには場違い感が凄い。それでもりんかが降りたのだから何か用事があるのだろう。

既に何人かは上空から見下ろすプリピュア達の存在に気が付いていたが今は彼女の動向を見届けるのが先だ。

「こんな場所にあいつが?何だろうな?」

ピュアクリムゾンも不思議そうに呟いていたが態蔵というインフルエンサーとの繋がりを持つピュアマグマはほんの少しだけ嫌な想像をしてしまう。

「まさか・・・・・いいえ、だってりんかちゃんがお金に困ってるとは思えないし。」

噂では聞いている。今は売春の低年齢化が進んでおり小学生ですらそういう行為に走るという耳を疑う話を。しかしりんかの恵まれた環境を考えるとこんなお金の稼ぎ方をする必要はないはずだ。

しかし彼女はどんどんと人気の少ない裏路地に入って行った。その怪しい行動にはピュアクリムゾンも緊張した面持ちを浮かべている。

「・・・まだ、まだ決まった訳じゃない・・・」

やっと気心を許せるようになったのに過酷な現実を見せつけて欲しくない。悪い方向へと思考が進む中、2人は勘違いであって欲しいと願いつつその裏路地を観察していると他校の女子中学生だろうか?

3人と2人がりんかの前後に素早く現れるとその中でもリーダー格っぽい高身長の少女が清楚な見た目から想像がつかない程の冷たい威圧感を放った。


「ねぇりんか?あなたも『売り』に参加している以上勝手な真似は困るって何度も忠告したわよね?」


(・・・・・『売り』って・・・・・え?!)

プリピュアに変身している時は様々な感性も研ぎ澄まされる。故に距離が離れていたとしても聞き間違いではないはずだ。まさかりんかがそんなものに手を?

「・・・そうね。私も反省しているの。私がやって来た事って貴女達のとは根本的に違うんだって、もっと早くに断っておくべきだった。」

少し声が震えているのは恐怖からだろう。ピュアマグマは今すぐにでも助けに入りたかったが何故かピュアクリムゾンがそれを制止してくる。

「ま、待て。あいつ、何かをやり遂げるつもりだぞ。」

自身よりも仲良く接してきた彼女にはその覚悟が伝わっていたらしい。そう言われるとマグマも心配ながら様子を伺うしかないが危険な雰囲気はまさに一触即発、もし彼女の身に何かあってからでは遅いのだ。


(・・・それでも。プリピュアの力を使ってでもりんかちゃんは守って見せる!)


こちらも今まで敬遠しがちだった友人との関係を取り戻したい一心で意思を固める。しかしプリピュアは本来敵対組織との戦いでしか力を振るってはならないというこれも暗黙のルールが存在する。

もし破った場合どうなるのか?今の彼女にそんな事を考える余裕はなく、危ない連中に囲まれたりんかは再び口を開いた。


「・・・私は友人を助けたくて父の顧客様を頼ったの。見栄や欲望の為に尊厳を切り売りするようなあなた達と一緒にしないでくれる?」


普段の冷酷さに本当の彼女らしさが詰まった言葉は嘘偽りなどないのだろう。最初態蔵を紹介された時は酷く軽蔑したが本心を聞けたピュアマグマは一直線に彼女らの間に降り立った。

「は~いそこまでよ~?全く、最近の若い子はどうなってるのかしら?」

しかしこちらが声を上げる前に見知らぬ女性が不良生徒達の後ろから突然姿を現す。

「本当にね。確か木元 りんさんと小金井 しるばさんだよね?前に注意したにも関わらずまだいけない事に手を染めてるの?」

更に反対側からは女性警官が現れた。というか名前を呼ばれているということはこの不良生徒らは以前から目を付けられていたのか。


それにしてもどちらも初めて見る女性のはずなのに、しかも大人のはずなのにその登場シーンと立ち姿にプリピュアを感じたのは何故だろう。


「・・・婦警さん。その証拠はあります?そもそも私達はただお話してただけですよ。ね?りんかさん?と・・・え?プ、プリピュア?」

こちらがまだ名乗りを上げていなかった為いつの間にか登場していたピュアマグマを見て木元 りんは驚愕の表情を浮かべていた。

「あ?!本当だ~わ~久しぶりに生で見た~。そっか~今のプリピュアってあなた達なのね~?」

対して助け船を出してくれた派手な衣装を身に纏っていた女性は子供のようにはしゃぎながらこちらに近づいて来る。

「おお。何年たってもやっぱり中学生が選ばれるんだね。ところで・・・何でプリピュアがこんな所に?まさか近くで騒ぎでも起きてるの?」

女性警官の方もよく知っている風な口調で感心していたがこちらは公私混同で動いていた為すぐに言葉が出てこない。


ちゅどぉぉぉおん・・・っ!!


そこにまさかの爆発音が聞こえてくると皆が駅の方を振り向いた。

(嘘?!これって・・・まさか二日連続で?!)

誤魔化す手間が省けた喜びよりも満身創痍で戦いを強いられる場面にピュアマグマは冷や汗を流す。今日の敵は誰だ?『ブラッディジェネラル』ならまだ手心を加えてくれそうだが果たして・・・

「お~始まったね~いってらっしゃ~い。さて、君たちは~ちょ~っとお灸をすえなきゃね~?」

しかし大人びた女性がこの場を収めてくれるというのであれば自分達も責務を果たさなくてはならない。女性警官もいる事だし悪いようにはならない筈だ。


「仕方ねぇ・・・いこうマグマ!!」


いつの間に降り立ったのかクリムゾンもこちらとりんかにアイコンタクトを入れた後駅前へと跳んだのでマグマも若干後ろ髪を引かれる思いを残しつつ彼らを後にした。


いつもご愛読いただきありがとうございます。

本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。

あと登場人物を描いて上げたりしています。

よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)


https://twitter.com/@yoshioka_garyu

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