知り過ぎても尚―③―
午前中は翔子の顔をじっと眺めるだけ、午後はりんかの発言ばかりを考えて放課後になるとあかねはまだ得られていない回答を思い出した。
「ねぇりんかちゃん。コスプレイヤーの『ピュアレッド』さんってどんな人だった?やっぱり先生っぽい人?」
帰り道の途中、普段は会話をするのも敬遠していたりんかにあかねはぐいぐいと話しかけるとその傍ではほむらが嬉しそうに頷いている。
「・・・あのね。私もあの時初めてお会いしたから良くは知らないのよ?でもそうね・・・とっても優しそうな人だったわ。それこそ無能な教師とは雲泥の差よ。」
最後に普段のりんからしい毒舌がぽろりと漏れたが優しそうな人という感想はブラッディジェネラルのイメージと少し異なる気がする。となると幹部として戦っている時は洗脳されている可能性もあるのか?
過去のシリーズを思い返すとそんな事例も2つくらいはあったはずだ。普段の生活は支障なく過ごし、街を荒らす時だけ組織に操られる。うん、これならとても納得がいく。
ならば今後ブラッディジェネラルと相対した場合は戦うよりも説得に重きを置いた方がいいのか?
そうすれば敵の戦力を削ぐだけでなくこちらも無駄な戦いを回避できる。そもそも『ピュアレッド』のコスプレをするくらいプリピュアを好きなのであれば自ら敵対組織に与する訳が無いのだ。
自身のやるべき明確な答えが見つかってやっと心が軽くなったあかねだったがその直後に試練は訪れる。
ちゅどぉぉぉぉぉおおんん・・・っ!!
聞き覚えのある破壊音は間違いなく『アオラレン』のものだろう。ただし今回は3人が揃っていた上に現場はすぐ近くなので対処も容易だった。
「ったく!新学期早々かよ!!いくぜっ!!」
「「うんっ!!」」
この日はたまたま麗美が居なかった為ほむらも遠慮なく号令をかけ、あかねはもちろんりんかも今日に限っては妙にノリノリに答える。
こうして3人はプリピュアに変身して彼らが暴れるレンタルショップに向かうと、そこには大きなDVDかBDのモンスターが丸い手から円盤を射出して辺りを破壊していた。
「プリピュア!フェニックストルネードッ!!」
名乗り口上もなくいきなり必殺技を放って暴虐を止めるのはピュアクリムゾンならではだ。そこに負けじとピュアマグマも追撃を放つとピュアフレイムは民間人に退避を促す。
今日の自分達はとてもプリピュアをしている。それが嬉しくてより気分と力が漲って来たマグマは3人で息を合わせると早々に合体技の準備を始めた。
どっかぁ~~ぁんんっ!!!
ところがそこに今まで受けた事の無い衝撃が放たれて3人は大きく吹き飛ぶ。
一瞬理解出来なかったが少なくともブラッディジェネラルのウィップ攻撃ではなかったらしい。痛みに耐えながら立ち上がると見た事の無い人物がこちらを睨みつけている。
「・・・出て来たわね。プリピュア。」
そこには黒を基調とした少し露出の高いプリティなコスチュームに身を包んだ女の子がいた。一目で敵だとはわかるが背丈や外見的に自分達に似た印象を受けたのはマグマだけではないはずだ。
「んだてめぇ?!」
「私はピュアダーク。『ダイエンジョウ』のピュアダークよ。」
「ピュア・・・ダーク?」
その名と容姿からプリピュアを連想させるが新しい幹部なのか?そしてブラッディジェネラルはどうしたのだろう?はっきり敵意を向けられてはいるものの新しい敵があまりにもプリピュアっぽいフォルムのせいでマグマは戦いを躊躇していた。
「っしゃらくせぇ!!ってかプリピュアっぽい奴があたし達の邪魔をすんなよなっ!!」
こういう時、クリムゾンの存在は本当に助かるし心強い。彼女は深く考える前に跳び出すとピュアダークに向かって強力なパンチを放つ。しかし相手はこちらの想像を遥かに超える力を持っていたらしい。
ばこぉんっ!!どかっ!!どかどかどかっ!!!
見ている者に溜息を付かせてしまうような美しすぎる右のカウンターナックルを放つとクリムゾンが大きく吹き飛ばされてビルに叩きつけられる。更に一瞬で間合いを詰めると追撃を入れ始めた。
「プリピュア!!ファイアレターダントッ!!」
いつも以上の劣勢にフレイムが急いで援護に回るもその防御技も一瞬で破壊される。そこでやっと現状を理解したマグマも助けに入ったがとにかく敵が強い。強すぎる。
特に顕著だったのはその容赦の無さだ。ブラッディジェネラルと違いピュアダークの攻撃には闘志というより殺意的なものを感じるのだ。
「っやめろぉぉぉぉぉっ!!!」
マグマはプリピュアという立場も忘れて空手を駆使しながら拳を交えるが敵の流れるような動きに目や体が追い付かない。
ぼくぅっ!!ばきんっ!!ばきんっ!!!
小さな体に鋭いパンチやキックを受けながら、それでも大切な仲間を護る為必死で戦うマグマにフレイムも応戦してくれるが相手の体に触れる事すら許されなかった。
気が付けばいつの間にか3人とも倒れている。
なのにピュアダークは動く気配すらないクリムゾンに追撃を加え続けているのだ。無慈悲な打撃音だけが木霊する中、何としても止めねばとマグマも体に鞭打って再び立ち上がる。
・・・・・恐ろしい。
今までとは違う遠慮の無い敵に心が委縮してしまう。それでも仲間を助けねばならない。でないと・・・このままでは本当に・・・殺され・・・
ぱしぃんっ!!!!
そんな劣勢に助け船が入るとマグマの緊張は蜘蛛の糸よりもあっけなく切れる。同時にそれがブラッディジェネラルだとわかるとほんの少しだけ目に涙を浮かべてしまった。
「やり過ぎでしょ?それにあなたは誰?」
「・・・ピュアダーク。」
聞こえてきた2人のやり取りから考えるにお互いが初対面なのだろうか?ともかく彼女を止めてくれた事で何とか助かりそうだがピュアダークがブラッディジェネラルにも攻撃を始めたので開いた口が塞がらない。おかしい、彼女らは同じ『ダイエンジョウ』の仲間のはずなのに何故だ?
『ブラッディジェネラル』=真宝使 翔子だと知っていたマグマは心の中で自然と彼女を応援し始めるもすぐに自身も援護すべきだと何とか体を動かし始める。
それは自身の身をもってピュアダークの強さを体感したからだ。恐らくブラッディジェネラルでも彼女には負けるだろう。そう思っての行動だったがこれは自身の認識不足だったらしい。
何故なら彼女は無手で互角の勝負を展開し始めたからだ。
いつものウィップを使わずに体術だけでここまで戦えるとは。それとも同僚同士だからお互いが手心を加えている可能性も考えられるか。
しかし傍から見ている限りだとそのような様子ではない。2人とも真剣な表情で、それこそ命を賭けた戦いのような気迫と打撃音が伝わって来る。
この行く末はどうなるのだろう。プリピュアそっちのけで戦いを続ける彼女らにマグマもどうすればいいのかわからないでいると先にピュアダークの方が大きく後方に退いた。
「・・・ブラッディジェネラル。これは立派な反逆行為よ?」
「そう?私は甚振るのが好きじゃないから止めただけなんだけど?」
敵対しているこちらですらその意見には頷くしかない。それでもマグマは確信する。ブラッディジェネラルの洗脳は浅い、もしくは解けかかっていて本心ではこちらと戦いたくないか既に正気を取り戻しているはずだ。
だからこそ自分達を助けてくれたのだろう。そうとしか考えられない。何故ならブラッディジェネラルは『ピュアレッド』を大好きな真宝使 翔子なのだから。
そう考えると嬉しくて体中に走る痛みすら吹き飛んでいく。この希望の心こそがプリピュアの原動力なのか。ピュアダークがそのまま姿を消した後、マグマは急いで彼女に駆け寄ると思いの丈を声に出した。
「あ、ありがとうございます!!『ピュアレッド』さん!!いえ、真宝使先生ッ!!」
すると彼女からはぎこちない雰囲気と裏返った声が漏れて来たので思わず声を上げて笑ってしまうのだった。
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