知り過ぎても尚―①―
「何か最近麗美ちゃん元気なくない?」
「そう?私はいつも通りなんだけど・・・そんな風に見える?」
火橙 あかねが心配そうに尋ねても彼女は力のない笑顔でそう答えるだけだ。2学期が始まって久しぶりにあった時、麗美は何かを悩んでいるようだった。
しかし翌日には解決したのか、明るい様子を見せてくれたのだがあかねはまずそこに違和感を覚えていた。
何というか、明るさが上っ面にしか感じなかったのだ。
おしゃべりしていても心から話していないし聞いてもいない。目は何処か虚ろなようにさえ見えて体調不良を疑う程だった。それに麗美がこんな状態だと例の相談もしていいものかどうか。
彼女にしか打ち明けていなかったあかねはやや後悔しながらある夏の日の事を思い返す。
それは夏休み中、とある場所に『アオラレン』が現れたとりんかから連絡があった時の事だ。
前から気にはなっていたものの確認する方法がなかったあかねは現場がコスプレ会場だと知って密かに心を躍らせる。
(もしかするとブラッディジェネラルの正体がわかるかもしれない。)
実はレイヤーネーム『ピュアレッド』が毎年このイベントに参加しているまでは調べていたのだが年齢での入場制限があった為諦めていた。そんな折この緊急招集は願ったり叶ったりだったのだ。
まずは速やかに『アオラレン』を討伐した後こっそり会場に紛れ込んで『ピュアレッド』に会う、もしくは近くまで行ければいい。要は彼女が担任教師の真宝使 翔子かどうかさえこの目で確認出来れば後は多少叱られるのも覚悟の上だった。
「今日は来てくれてありがとう。」
ところが『アオラレン』はブラッディジェネラルの手によって倒された後であり、珍しく、というか初めてりんかが眩しい笑顔と共に心から感謝を述べてくれたので嬉しさから妙に高揚した。
しかし本来の目的を忘れてはならない。プリピュアとしての責務は宙ぶらりんで終わったがこのチャンスをものにすべく、あかねは2人に用事があるからと断りを入れて会場から離れる姿を見せつける。
そして参加者が戻って来るのに混じって素知らぬ顔で会場入りすると早速『ピュアレッド』の姿を探し始めたのだ。これも事前知識だけは持ち合わせていたのでプリピュアブースなる所へ足を運ぶとまずは遠巻きにその様子を観察する。
ちなみに初代はかなりの人気こそあるものの、コスプレテーマとしては使い古されており現在それのコスに身を包む人物は少ない。なのですぐに『ピュアレッド』を発見する事は出来たのだが。
(・・・・・・・・・・・・・・・・あれって、りんかちゃんだよね?)
目的の人物より前にいる少し造りの荒いコスチュームに身を包んだ少女の方が先に目が行ってしまった。それこそ遠目からでもわかる。間違いなく蒼炎 りんかだ。
その事実をしっかりと認識してあかねは腑に落ちる。随分と遠方からの緊急招集だった理由はこれだったのだ。それにしても彼女にそのような一面があるとは意外だ。
とても楽しそうに『ピュアレッド』と話しているし大好きな気持ちがこちらまで伝わって来る。だが当の本人は少し気まずそうなのは・・・・・
(・・・わかった!!相手が蒼炎さんだからだ!!そりゃ生徒と先生がこんな所で出会ったら気まずいよね?!)
その結論に達すると同時に彼女をよく観察して間違いなく真宝使 翔子だと断定する。2人の表情や声まで聞き取れそうな位置からしっかり確認したあかねは鼻息を抑えるのに必死だ。
唯一気になる点があるとすればあのりんかが見せた事の無い眩しい笑顔で彼女と話している所か。
(もしかしてりんかちゃん、最初から先生の事知っていたのかな?)
だとすれば麗美だけでなく彼女やほむらにもあの写真を見せておけばよかったな。少し後悔の過る結論となったが帰宅途中、蒼炎 りんかが『ブラッディジェネラル』=コスプレイヤー『ピュアレッド』を知った時、どれほどショックを受けるかと考えるとあかねは再び大きな苦悩に苛まれる。
(駄目だ。一人じゃ答えが出てこないよ・・・)
担任教師の真宝使 翔子がコスプレイヤー『ピュアレッド』なのは間違いない。残す問題はブラッディジェネラルの下半身から特定した態蔵の判断が正しいかどうかだ。
これを確認するのは難しい。何せ下半身だけを見て同一人物だと言うには動かぬ証拠が必要になるからだ。
そもそも態蔵はどうやってブラッディジェネラル=『ピュアレッド』だと結論付けたのだろう?確かに彼もコスプレ系に関わっていると言えば関わっているが。
(・・・・・仕方ない。また連絡しよう。)
あと少しで事実に辿り着きそうな誘惑に負けた彼女は早速態蔵にメッセージを送る。それからいつもの場所に向かうと彼はまず対価を求めて来たのだがこれは仕方ない。
確たる目的意識のあったあかねは手早く済ます為、彼の家に到着すると初めてこちらから催促するのだった。
ばしぃぃんっ!!
「いいね!!今日のあかねちゃんはとてもやる気に満ち溢れているね?!」
少し露出のある改造された道着に着替えたあかねは態蔵へ容赦のない攻撃を放つと彼は悦びながら畳の上で悶え苦しむ。
非常に特殊な趣味を持つ彼はこれでも全国的に有名な空手家なのだ。ただ若い頃に殴られ過ぎたらしく、今では殴るより殴られる悦びを得る為に『殴り屋』を雇うようになった。
しかも相手が少女じゃなければ駄目だという尖りっぷりは正直気持ち悪くて仕方がない。それでも腕は確かであかねは彼から空手を学ぶだけでなく、きちんと謝礼も貰っていたのだ。
もちろん中学生のアルバイトが禁止なのもわかっていたがほむらの助けになるとりんかに唆されてつい流れに身を任せて今に至る。
それに態蔵もこれは『謝礼』であって『給金』じゃないから、と息を荒げて説得してきたのがここでも流されていた。いつまで経っても流される自身の性格もそろそろ見直す時期が来ているのかもしれない。
お互いが良し悪しの別れる汗を十分にかいた後、シャワーを浴びてさっぱりとすると態蔵は軽めのプロテインを用意してくれている。
「でも本当にどうしたの?あかねちゃんにしては随分と乱暴というか、拳からは優しさより悩みから来るストレス的なものを感じたんだけど?僕で良ければ何でも頼ってくれていいよ?」
軽い会話の中にも態蔵が只者ではない事が窺える。流石は元高名な、いや、今でも高名ではある空手家だ。
「・・・あの。態蔵さん。ま、前にブラッディジェネラルとコスプレイヤーの『ピュアレッド』さんが同一人物だって言ってたじゃないですか?そ、それの理由を教えてもらっていいですか?」
「ああ~そんな事か。答えから言うと彼女の脚の付け根だね。その右内ももにほくろがあるんだよ。」
「えぇぇぇ・・・」
その発言から更なる変態なのだと再認識するが一方的な立ち合い稽古が終わった後の彼はその蔑む視線に悦びを感じながらも真面目に答えている。
「あぁ。確かに俺は特殊なアレを持ってはいるけどこれはそういうエロい・・・いや、エロい目でも見てるけどやっぱり空手家なんだよ。だから身体の特徴なんかはすぐに見えちゃうんだ。」
そう言われると少しだけ感心が生まれる。確かに稽古の話でも相手の動きだけでなく体格の特徴をしっかりと捉えるよういつも教えられていた。ちなみに多少拡大しないと見にくいそうなのでこれは後ほど自分の目で実際確認しようと心に留めておく。
「あ、ありがとうございました。じゃあ今日はこれで帰ります。」
「そう?また何か聞きたい事があれば何時でも言ってよね。あかねちゃんは俺のお気に入りだし何でも答えちゃうよ。」
態蔵には他にも殴って貰える少女らとの関係が存在する故の発言だろう。というかいくら父親の伝手とはいえりんかはよくこんな変態を紹介してくれたものだ。
ただ空手家としての腕は確かなのも事実だ。かなり特殊な性癖を持ってはいるもののこちらに危害を加えた事は無いし食事もしっかり用意してくれる。あかね自身もここでの稽古はそれなりに身を結んではいるのだ。
「は、はい。またどうしても、ど~しても困った時はこちらから連絡しますね。」
それでも嫌悪感の方が勝る。故に今後二度と近づきたくはないなぁという本音が駄々洩れの挨拶を交わすとあかねは彼の家を後にした。
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