二人の関係は?―④―
蒼炎 りんかは一人娘だ。父も母も多忙な為家にはいつも一人だったしそれが当たり前だと思っていた。そんな彼女とプリピュアの出会いはとてもありきたりなものだ。
幼少の頃、緊急ニュースと現地映像をテレビで観た時その可愛いコスチュームで戦う姿に心を奪われたのがきっかけであり、「いつかは自分も」と強く願うようになっていく。
普段は物静かな彼女が両親に頼んで買ってもらった玩具がプリピュアの変身アイテムだったのもより拍車をかけた。
そこから彼女らの経歴を調べて理解を深めていくと初代の活躍に目が留まり、よりしっかりとしたビジョンを持つようになる。
これこそが自身の目指すプリピュアだと。
天真爛漫でいつも前向きで、絶対に負けない強い心を持つピュアレッド。そうすれば自分もきっと素敵な仲間に囲まれる人生が見えてくるはずだと。
寂しさを寂しいと思いはしなかったが、それでも気心の知れた仲間というものには憧れていた。何でも相談し合えて笑い合える仲間とは一体どのようなものだろう?
きっと彼女のような人物になれば自然と得られる。そして皆で巨悪に立ち向かうのだ。そう信じて疑わなかった彼女の小学生時代は頑張って明るく振舞い、正義の心を大切にしていた。
ところが歳を重ねるにつれてりんかは異端とみられるようになってきた。
聡明な彼女はその理由も何となく察してはいた。原因は子供っぽさから来ているのだと。自我が芽生え、様々な経験を重ねて来た同級生からすると未だにプリピュアになりたいと心の底から願っているりんかはとても幼く、そして痛々しく思えただろう。
それに気が付いた時は既に孤立しており、あの時願ったような関係は一つも手に入れられないまま高学年へと差し掛かった時、りんかはネット上で年甲斐もなくコスプレをする『ピュアレッド』の姿を見つけたのだ。
明らかに成人している女性が毎年毎年お手製のコスチュームに身を包み、楽しそうにしている姿は画像からでも十分伝わって来る。
(・・・・・これなら・・・・・私だって。)
プリピュアは現実に存在する。それは間違いない。だが自分が選ばれる確率など0に等しいのだ。
何せ孤独な環境で育って来た為コミュニケーション能力が乏しく、小学5年生にもなって未だまともな対人関係を築けていない。こんな痛々しいぼっちが仲間と共に戦うなんて夢のまた夢だろう。
その日からりんかはコスチューム制作について一人で学び始め、いつか自分も憧れのピュアレッドになってイベントに参加したいという目標を掲げるようになった。
やがて痛々しさは鳴りを潜めたものの、今度はより内向的な性格へと成長していったりんかは同級生から忌諱の扱いを受けるようになってくる。
それでも手の届く目標を胸に抱いていた彼女は心の中では深く傷つきながらも平静を装い続けた。彼女が両親に懇願して公立中学校へ進学するその日まで。
「よっ!あたし紅蓮 ほむら!お前見た事ないな?どっから来たんだ?」
席が近かったのもあるだろうが彼女から声をかけられた時、りんかの心は高く弾んだ。それはまるでプリピュアになるべくして生まれて来たかのような存在だったからだ。入学初日から明るく接してくれたのもそうだし問題が起きる度にパンチやキックを放つ姿はとても美しかった。
「わ、私は蒼炎 りんか。井伊床乃小学校から来た・・・んです。」
「へぇ~!!って、どこ?」
ほむらの家は少し貧乏な為、私立の学校という存在自体も知らなかったらしい。それからすぐに火橙 あかねも紹介してもらうと3人でいる事が当たり前のようになっていった。
この人達と仲良くなりたい。生まれて初めてそう感じたりんかのキャラクターはこの出会い以降形成されていく。というのもほむらの印象ではりんかはクールな才女だと思われていたようなのだ。
初めての友達らしい友達の期待に応えるべく、最初こそ頑張って演じていたが今までと違う自分に迷走し始めるとよくわからなくなってくる。するとクールを越えて冷酷へと変貌を遂げたのだがほむらは普段通り明るく受け入れてくれるのだから気にしなくなった。
その結果自身がコスプレを勉強中だったりピュアレッドが大好きな点などを打ち明ける機会がなく月日は経ち、いつの間にか夢だったプリピュアの栄光を手にしていた。
「ブラッディ!!ジェネラルトルネードッ!!」
どうしても1人で戦うのには無理があったピュアフレイムは被害を最小限に抑えつつ友人達が到着する時間を稼いでいた。だがそこに意外な人物が現れるとカメラ姿の『アオラレン』を一撃で倒してくれたのだ。
「・・・へ?」
一瞬理解が追い付かなかったものの、そこには宿敵であるブラッディジェネラルが自慢のウィップを片手に決めポーズまで披露しているではないか。
「ごめんね。この『アオラレン』は私達の関係者じゃないの。だから迷惑かけるつもりはなかった・・・って言っても聞いてもらえないわよね。」
「・・・いえ。そんな事はありませ、ん。」
実際彼女のお蔭で敵を倒せたのだし、普段は小姑かパワハラ上司かと言わんばかりにマウントを取って来るブラッディジェネラルがとても大人しかった。なので今回はお互いが水に流す場面なのかもしれない。
今までのプリピュア戦歴を思い返しながら恐らくは初めての状況に内心嬉しくてドキドキしていると不意に彼女が近寄ってきたので思わず戦闘態勢に入る。そして甘すぎる見通しに喝を入れ直した。
そうだ。あくまで相手は敵であり彼女の強さは身に染みて知っている。
一対一で戦った場合ピュアフレイムに勝ち目はほぼ無いだろう。なのに仲間はおらず最悪の状況になりつつある。戦わねばならない状況に。
(ど、ど、どどどうしよう?!わ、私防御技しかないし・・・で、でも!)
ピュアレッドなら逃げたりしない。絶対に不可能を可能にする強い心で戦いに挑むだろう。そして今の自分もプリピュアなのだ。ならば間違っても諦めてはいけないはずだ。
だがいつまで経ってもブラッディジェネラルが攻撃を仕掛けてくる気配はなく、見れば自慢のウィップも姿を消していた。ではずんずん近づいてくる理由は一体?
じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
眼前まで迫ってきてじっとこちらの顔を見つめてくる。何だろう?何か自分の顔についているだろうか?不思議な行動に思わずこちらもブラッディジェネラルの顔を見つめ返すが28歳の割には皺が少ないな、というのが第一印象だ。
それから思っていた以上に可愛い顔をしているんだなという感想が芽生えると次にその香りが鼻孔を擽ってきた。というか香りが漂う程近づいてくるなんてどういうつもりだ?!
「うーん。よく見れば可愛いのは可愛いわね。減らず口だけは看過出来ないけど。」
「・・・・・貴方も歳の割には若く見えるわよ?赤い下着も納得ね?」
「な、ななな?!やっぱり生意気っ!!一瞬でも知ってる顔に見えたのが・・・あれ?でも確かあの子も毒舌・・・」
一方的にこちらを吟味するかのような言動を終えた後、むきになったブラッディジェネラルは軽く地団駄を踏んでから高く飛ぶ。
「今日はこれで引き上げるけど!!次までにその口汚いのを直しておきなさいよね?!」
それから普段のように姿を消したのだがまるで意味が分からない。一体あの行動にはどんな意味があったのか。
「わりぃ!!待たせたな!!って・・・あれ?『アオラレン』は?」
「遅いわよクリムゾン。もう倒したわ。」
「えっ?!フレイム一人でか?!凄いじゃないか!!」
ヒーローは遅れて登場するというセオリーすら破られた今日の戦いはこれで幕を閉じたのだが、りんかはまだコスプレ会場でのイベント真っただ中だった為駆けつけてくれた2人には先に帰ってもらうように頼む。
そして自分も変身を解いた後『ピュアレッド』の無事を確認するという理由で再びブースへとお邪魔したのだが、何故か先程の香りを感じた事でじっと彼女の顔を見つめてしまうのだった。
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