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歳の差なんて―⑦―

 「おお~!いいお店じゃないか!」


結果として選んだのは自分が昔からよく使っている御蕎麦屋だった。ネット的な評価も平均よりやや上くらいで大きな店でもないがここの御蕎麦は味も香りも濃く、汁に負けないので個人的にはかなりお気に入りなのだ。

「す、すみません。こんな所しか知らなくて・・・」

ただ、前回投治に連れて行ってもらった所と比べるとやはり庶民感が強すぎた。こんな場所にデートで連れて来られて喜ぶ人間がいるだろうか?と内心不安で仕方なかったがそこは年の功か素の性格なのか。彼の反応は司の想像と違うものを見せてくれる。

「何を言っているのかね?御蕎麦はいい食べ物だよ?私も大好きだし店構えからしてかなりの良店と見た。さぁ、何がオススメなんだい?今日は全てを君に委ねるよ。」

彼は大人なので気を使ってくれている可能性もあるだろう。だが目を輝かせている投治の姿はとても楽しそうであり演技には見えない。

(・・・こういう子供っぽい表情も見せてくれるんだ。)

そんな一面に甚く感動を覚えた司は自分の好みに全てを託して天ざるを頼む。すると彼はとても嬉しそうに、そして美味しそうにそれを平らげてくれた事でやっと彼女の心に安堵が降りて来た。




「ご馳走様。本当に美味しくて楽しかったよ。司君の『らしさ』も見れたしね。あ、でもこれじゃ私が楽しんだだけみたいになってるな・・・君の事が心配で食事に誘った筈なのに・・・」


約束通りに今日のお会計は司が払うと彼は感謝と共にぼやきも漏らしてくる。確かに愛美の提案からこういう形になっていたが本当に司自身は何も問題を抱えていないのだ。

となると話はここで終わってしまう・・・そう、終わってしまうかもしれない。

「あのっ!こ、今度はまた燃滓さんがお食事に連れて行って下さい!」

なので恥も外聞もない。羞恥より危機感が上回った司は必死に口にすると投治のほうは一瞬だけ目をぱちくりとさせた後、彼らしからぬ不敵な笑みを浮かべている。

「もちろんだ。このままでは私の株が下がったままだしね。しかしこの御蕎麦屋を超える所となると・・・ふーむ。手強いな。」

そんなにも司が選んだお店を気に入ってくれたのか。少々過大評価が過ぎる気もするがそれだけ喜んでもらえたと思えば些細な事だろう。それにまた彼との約束を取り付けられたのだから今日のデートは十分及第点のはずだ。

「・・・ディナーでもいいかい?」

「はいっ!!」


こうして何とか首の皮一枚で繋ぎ止めた達成感を胸に、帰宅した司はその夜も喜び勇んで愛美に報告する。


 『ふ~ん。そうなんだ~へ~。』

しかし今夜の愛美の反応は何だか楽しそうな、そしてからかうようなものが多い。

「な、何?あ、仕事の邪魔だったよね?!もう切るね?!」


『大丈夫~今日はお休みだから~。でもそっか~。ディナーか~。司ちゃん。とっておきの勝負服を用意しなきゃだね~?』


「・・・・・・・・・いやいやいやいや?!そ、そんな!!まだお付き合いもしてないのにそれはないって!!」

元プリピュアといえ、あれから12年近くが経っている。流石にその意味を理解した司は焦りと期待でドキドキしながら否定するも愛美は楽しそうにけしかけてくる。

『え~?だって燃滓さんも男だよ~?しかもイケオジだし司ちゃんは美人さんだし~お酒が入って流れで~なんて普通に考えられるでしょ~?』

それは普通なのか?大人になったとはいえ司の知る普通と随分かけ離れた内容に思わず言葉が詰まるも愛美は更に続けて来た。

『それに既成事実からお付き合い~て方法もあるんだし~?チャンスがあるならあるだけ手を伸ばす事も考えた方がいいと思うよ~?』

「う、うーん・・・そう、なの、かな?」

『そうだよ~ただでさえ『歳の差』がかなりあるんだからありきたりな流れを求めるのは難しいと思うよ~?燃滓さんには息子さんもいるし~?』

「な、なるほど・・・」

歳の差という部分は司的に全く気にしていないのだが相手の気持ちや立場も考えると真正面から当たるだけでは難しいのかもしれない。

かといって体を重ねる・・・紳士的な彼がいきなりそこに話を持って行ったりするだろうか?男を知らない司には愛美の話がいまいち信じられなかった。

だがチャンスに手を伸ばすという言葉には深く賛同する。彼との繋がりは奇跡に近い。ならば数少ないそれらを得る為の行動はしっかり意識すべきだろう。




こうして新たな決意をした司であったが次の休日、愛美に呼び出された彼女は行きつけのショップとやらで着せ替え人形のような扱いを受けていた。


「ぇぇぇ・・・ちょっと愛美。これは流石に派手すぎない?」

「何言ってるの~?勝負する為の服なんだからこれくらいは当然~ね?店員さん?」

「はいぃ!お客様!!とってもとってもお似合いですっ!!は~美人さんは本当に何を着ても映えますねぇ~・・・」

普段絶対袖を通さないドレスのような衣装が沢山展示されている店内は見る分には凄く楽しい。だが自身が身に着けるとなると妙な緊張が走ってしまうのだ。

「も、もう少し露出を抑えて欲しいかな・・・ほら、もう11月じゃない?大分寒くなって来てるしさ?」

「何言ってるの~?意中の男性を落とす為に気合い入れなきゃでしょ~ね?店員さん?」

「ほっほう?!そういう事ならもう少し攻めた方が・・・でもお客様は大変美しいのでむしろ抑え気味で、且つ強調出来るやつがいいかもしれませんっ!」

愛美に任せるととんでもない服を選ばれそうなのでここは店員さんのチョイスに期待する。すると色も見た目も大人しいシックなドレスを持ってきてくれたので心の底から安堵した。

ところが実際袖を通してみるとボディラインをしっかりと強調する作りに背中も大きく開いていたのでドン引きしてしまう。それでも他の、リオのカーニバルにでも参加するのか?レベルの衣装よりは幾分マシだろうと割り切って司はそれを選んだのだが。


「これかぁ~でもまぁ司ちゃんらしいっちゃらしいか~。じゃ次はインナーだね~。」


「・・・へ?」

やっと羞恥から逃れられたと思ったらそうではない。今度は下着まで選ぼうと言い出したのだから司は強く拒絶し始めた。

「ダメですよお客様!この服は規定のインナーを付けて頂かないとラインが崩れちゃうんです!しかも勝負されるのですよね?!でしたら猶更良いものを身に着けて頂かないと魅力が半減ですっ!!」

「ぇぇぇぇ・・・・・」

確かに試着した時にやや違和感はあったものの自分で確認した時にはよくわからなかった。店員はそこを指摘しているのだろうが彼女らが持ってきた紐に近いそれらを目の当たりにして自分は何故愛美に相談してしまったのかと激しく後悔する。


「司ちゃん?勝負だよ?昔も一杯戦ってきたでしょ~?」


しかし愛美が耳元でそっと囁いてくるとあの頃の記憶と闘志が蘇って来た。そうだ、様々な障害がある以上過酷な戦いを強いられるのは今も昔も変わらないのだ。それが己の羞恥心との戦いだったとしてもだ。

「すぅ~・・・はぁ~~~・・・っよし!そうだね!ここは気合いで乗り切ろう!!」

立ち止まる訳にも引き返すつもりもない司はまるで試合前のように深く深呼吸を繰り返して腹をくくる。この日、人生で最大の攻撃力を持つ装備を整えると今までとは異質のドキドキを胸に彼からの連絡を静かに待っていた。


いつもご愛読いただきありがとうございます。

本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。

あと登場人物を描いて上げたりしています。

よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)


https://twitter.com/@yoshioka_garyu

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