歳の差なんて―①―
プリピュアに選ばれるだけあって紫堂 司の可愛さは昔から申し分ない。だが当時は敵対組織との闘いに明け暮れていたので自身を着飾ろうなどと考える余裕はなかった。
それと剣道を続けていたのも影響があるのだろう。男の多い世界で武具を身に着け竹刀を振り回しては研鑽を重ねる日々におしゃれと触れ合う機会などほぼなかった為そちらに気づく事無く中学生活を終えていったのだ。
その結果、弊害は高校に入って如実に表れ始める。高校デビューという言葉があるように周囲は友人達も含めて一気に晴れやかな容姿へ進化すると流石に後れを感じた司も少しずつ身嗜みに気を遣うようになった。
だが異性との関わりや意識だけは明らかに経験不足で毎回非常に頭を悩ませていた。すぐに好意を持つ翔子の性格はどうなんだ?と疑問に感じていたが彼女はそれに向かって突き進む事が出来る。
比べて自身はまず好きになる機会がなかった。一応道場には年の近い異性もいたが彼らに特別な感情を抱いた事は無く、優しく接してきた1年上の先輩とお試し感覚で付き合いだしたものの彼は司のスレンダー且つ引き締まった体だけが目的だったらしい。
これには友人達が激高してその先輩をあらゆる意味でぼこぼこにしていたが正直自身は彼に体をゆだねてみてもよかったとも少し思っていた。
(男が女の体を求めるのってそんなに悪い事かな?ていうか皆も男の体を求めたり考えないのかな??)
男が多い剣道という環境である程度彼らの生態を本能的に察していたという部分もあるのだろう。更に今度は何時そういった男女の関係を作れるのだろうかと考えた時、だったら体験出来る時に体験しておきたい、といった彼女らしいさっぱりとした思考も関係していた。
しかし大学時代にこの考えは危険だと気づかされる事件が勃発した。
といってもよく聞く話、飲酒からの持ち帰り案件だ。その頃の司はミスコンに推薦される程の美しさと可愛さを保持していたので機会がある度あらゆる種類の男達から言い寄られていた。
そういった理由でちやほやされるのを毛嫌いしていた彼女は全てを断り学業と剣道に勤しんでいたのだが2年生の秋、その剣道関係者から飲み会の誘いが来てしまう。
こればかりは断るのも良くないし、同じ剣道を学ぶ者達が多数集まるのであればと参加してはみたものの、周囲は馬鹿な話と一緒にやたら酒を勧めてくるだけだ。
あまりにも無意味な時間に辟易した司は早々に切り上げようと考えたのだがどうも自身は酒に弱いらしい。飲み会が始まって30分も経たない内に意識が朦朧として体は火照っている。そして気持ちが高揚しているのか、つまらない話にもけらけらと笑いが止まらなくなっていた。
こうなると狼、いや、性犯罪者達の思う壺だ。
司の貞操を狙う3人程が家に送るという名目を掲げて店から連れ出すと一目散にラブホテルへと歩いていく。正直この辺りの記憶は一切無いのだがそれを救ってくれたのが他でもない現在は先輩である婦人警官だった。
「ちょっと君達?そういう場所は普通カップルで行くものよ?な~んで男が3人も雁首揃えてるのかな~?」
あまりも真っ当な指摘を受けて彼らは酷く狼狽していたらしいが司は既に夢の中だったのでこのやり取りは後から彼女に聞いたものだ。
それからすぐに保護された司は目が覚めると交番の中にある宿直室らしい部屋で眠っていた。
「あ。やっと起きたわね?ご両親から電話があったから私が答えておいたけどいいわよね?」
一体全体何の事かさっぱりわからなかったが温かい柚子湯を戴いてあっという間に心身がリラックスした後、何となく現状を察した司は正座した後申し訳なさそうに尋ねる。
「あ、あの・・・ここはどこですか?私・・・酔っぱらっててよく覚えてないんです。悪い事・・・しちゃいましたか?」
「あらら?そんなにまで飲んじゃってたのね。でも大丈夫、あなた自身に問題はないわ。あるとすればあなたを運んでいた男達ね。」
てっきり警察のお世話になるような真似をしたからここに連れて来られたのかと勘違いしていたがそうではないらしい。ほっと一安心したものの、飲み会の途中だった事と男達に運ばれていた事実を聞いて確信した。
「えっ?!わ、私その・・・お、お持ち帰りみたいな事、されちゃいました?」
「お持ち帰りだったらまだよかったかもね~?男3人がか弱い女子を犯す場合、普通は『強姦』ってカテゴリーだと思うわよ?」
「ぇぇぇぇ・・・・・」
記憶が無いというのは恐ろしい。慌てて自身の体と衣服を確認するも乱暴された様子はなかったが、話によると先輩2人と同級生1人が泥酔していた司をラブホに連れ込む寸前だったらしい。
「で、その3人の名前はしっかり確認しておいたわ。今後の為に教えといてあげるけど彼らにはすっとぼけて距離を置いた方がいいわよ。寸前で防げたとはいえほぼ犯罪者みたいなものだから。」
「は、はい。あ、ありがとうございます。」
話を聞かされる毎にこの婦警さんがいなければどうなっていたか・・・と心底恐ろしくなり、同時に大きな感謝と安堵が心を包み込んでいく。
「さて、それじゃ家まで送ってあげるから。一応さっきご両親の電話で住所は確認してあるけど細かい道は教えてね?」
既に深夜0時を回っている。自分よりもやや背の低く、そして愛嬌のある婦警はそういってパトカーに促すと司は改めて感謝を述べた翌朝、自身もその道を歩もうと考えるようになっていた。
元プリピュアなだけあって正義感は申し分なく、剣道を続けていたお蔭で難なく警官になれた司ではあったが彼女には1つだけ悩みがあった。
それは若干ながら男性恐怖症に陥っているという部分だ。
翔子が何かある度に呼び出しては慰める会が突如開催されるのでお酒に嫌悪感を持つことはなかったが、男がちらつくと未遂とはいえどうしてもあの日の事を思い出してしまう。
それまではむしろ性的な交流にも興味があり、機会があれば素敵な体験を是非と望んでいたのが嘘のようだ。更に問題なのはこれを友人達には話していないという点だ。
『強姦』という犯罪行為の未遂であった為関係者3人には酷い目にあって欲しい。その考えからいくと高校時代のように友人らへ打ち明けた方がいい気もするが自身が軽い男性恐怖症になっている事は隠したかったのだ。
故に誰にも話せないまま月日は流れ、警官へとなった当日、早速その悩みを打ち明けるべく憧れの先輩婦警の岬 塔子に連絡を入れたのだ。
お互いが非番の日を選んで個室のある居酒屋へ入ると塔子は少し寂しそうな表情を浮かべてまずは慰めてくれる。
「そっか。あの時はきょとんとした様子だったから気が付けなかったわ。ごめんね・・・そうよね。未遂とはいえ被害者になる所だったんだもんね。」
背の低い彼女が短い腕を伸ばして頭を撫でてくれるとこちらの心も一気に温かくなる。
「い、いえ。た、多分先輩が思っている程深い傷ではないと思うんですけど・・・やっぱりちょっとだけ怖いっていうか、警戒しちゃうっていうか。」
「わかる!!わかるわ~!!いや?!私が男性恐怖症とか過去にそんな経験をした訳じゃないんだけどね?!ただ男って本当にちゃんとした人を選ばないと絶対後悔するのよね!」
その話しっぷりからするとどうも経験があるように感じたが司もあまり触れられたくない理由を十分理解していたのでそこに言及する事は無い。
「ですよね。でも本当は私も恋人が欲しいしそういう経験もしてみたい。岬先輩、どうすれば克服出来るでしょうか?」
「・・・念のために聞くけど同性じゃ駄目?」
ビールジョッキを片手にじっと見つめてくる彼女の表情から察するにわりと本気で言っているらしい。これには少しうんざりした司であったがもう慣れっこだ。
「先輩。私にそういう気はありません。昔から同性に好かれやすいのは理解しているのですが・・・」
「そ、そうなんだ?!やっぱりそういうのってあるんだ?!どんな話?!ちょっと聞かせてよ?!」
話が大いに逸れ始めたが暗い相談だけではつまらないだろう。それに折角憧れの先輩とこうやって呑みあえる仲になったのだがら彼女の要望にも答えてあげたい。
そうして高校時代には3人程から、大学時代には5人くらいから告白されたりアプローチされたり、その内容を細かく教えてあげると塔子は目を輝かせて喜んでいた。
「そうか~・・・皆結構大胆だねぇ。そうか~・・・」
一通り聞き終えた塔子が完全燃焼した様子で呟きながらビールを流し込んで焼き鳥を一本摘まむと思い出したかのように真顔へ戻る。
「そうだった!司ちゃんの悩みがまだ何も解決してなかった!あのね、これは私・・・の友達の話なんだけど!」
まさかそんなテンプレな台詞を聞ける日が来るとは夢にも思わなかった。だがこれは司の為に自身の経験談を語ってくれようとしているのだから水を差してはいけない。
「そういう女性には年上の、しかも結構年の離れた男性がオススメなんだって!」
「へぇ~!そうなんですか!」
なので答えの内容はともかくまずは大いに驚く。そして脳内でその情報がしっかりと受理されると今度は本心で驚いた。
「うん!年が離れた男性って落ち着いていて女性を本当に大切にしてくれる人が多いの!だから若い男みたいに無理矢理体を求めてくるような真似は少ないしお金・・・は仕事によっては沢山持ってるし!」
お金の話を持ち出されると界隈を賑わせている売春を想像してしまったが先輩はまずその落ち着き払った部分を強調したいらしい。
「だから色んな意味でゆとりのある関係を持てると思うの!!・・・って友達が言ってたわ!!」
「・・・・・なるほど。」
確かに歳を重ねた男性であれば若い男のように頭の中が性欲だらけという事はなさそうな気もする。人生経験をしっかりと重ねていればそこに落ち着きも生まれてくるだろう。ただしそんなイケてるダンディが未婚のまま世に出回っているだろうか?
その部分だけは気になったものの塔子は見事に解決したような表情で美味しくビールを呑みほしていたので司もこの日はその答えを持ち帰り、翌日からその方向について真剣に考え始めた。
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