表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/92

夏と思い出―②―

 「てな訳でさ。麗美も海行かね?」

何がどういう訳なのか。メッセージで送られてきた前後の文面を読み返しても全く理解出来なかった美麗はこの夜ほむらに直電した。

「い、いや。居酒屋の店長がお盆の最中は海の家を開くらしいんだよ。んで一週間程店も休むみたいだからあたしバイトしに行こうかなって。交通費も飯も泊まるところも用意してくれるっていうんだぜ?お得だろ?!」

こちらの機嫌が少し悪いのを感じ取ったのか。普段の明るく粗暴な感じを抑えつつ説明してくれるとある程度納得はいく。

だがほむらは中学生でありバイトが出来る年齢ではないのだ。いくら家族の為とはいえ白昼堂々と人の集まる場所で働いて良い訳がない。

結果としてその店長とやらの顔を拝む意味も含めて美麗も決意を固めるとすぐに返事をした。




そして目的の海へたどり着いた当日。


「この人、あたしの親戚なんだ。」

ほむらが少し恥ずかしそうに紹介した中年男性が例の店長らしい。想像していたより随分と小柄で優しそうな人物だったのであの時の怒りが霧のように消えていく。

むしろ隠し事の部類だったはずなのに何故あかねがいるのだろう?

「だ、だって折角海に行けるんだからさ!ほら、皆で遊びたいじゃん?」

この辺りはやはり現役中学生か。バイトの件は口止めしてあるのだろうけどいつぽろっと漏れないかを心配する日々を過ごしそうだ。

「ところで・・・あなたは氷山さんの・・・お母さん、にしては若すぎるような・・・?」

そんな中りんかがいつもの仏頂面で不思議そうに尋ねて来たがもちろん理由は考えてある。


「いつも妹がお世話になってるわね。私は姉の美麗よ。」


本来の姿を姉と偽る事で今回は姉妹で海に来た事にしたのだ。初日こそ保護者として店長や皆と顔合わせの為に姿を現したが自身は仕事の関係で忙しいとも伝えてある。

これで麗美が皆と宿泊するリスクを避けられるし中身が28歳だとバレる心配もないだろう。以降は夜以外麗美だけで皆と合流しても問題ないはずだ。

なので挨拶もそこそこに早速部屋に帰って中学生姿に戻ろうと考えていたのだが美麗の存在は思いの外反響が大きかったらしい。

「あ、あのっ!あたし、お姉さんの服いっぱいもらってその!ありがとうごっざいますっ!!」

ほむらはプレゼントした夏服に身を包みとても愛くるしい笑顔でぺこぺこと頭を下げてくる。意外な一面を見れてその可愛さをじっくりと堪能出来なかったのが心残りだがこれは後から麗美として合流してからでも可能だろう。

「お姉さんはお忙しいのでしょうか?もしよければ一緒に遊びたい・・・いえ!その・・・ご無理を言ってすみません。」

りんかも非常に少女っぽい仕草と願望を出してきたので何事かと目を丸くした。それにしても普段素っ気ない彼女が恥ずかしそうに頬を染めている姿はこちらの庇護欲をとてもそそられてしまう。

「・・・きっと麗美ちゃんもお姉さんみたいになるんですね。いいなぁ・・・」

あかねはただただ羨ましそうな様子だったがそもそも麗美=美麗なのだから当然と言えば当然なのだ。


3人が色んな顔を覗かせてくれる。それはとても新鮮でまた面白くもあったが同時に自身を顧みる事にもなった。




そうだ。自身は『ダイエンジョウ』としてスパイ活動をしているのだと。それを言い訳に彼女達を騙しているのだ・・・と。




「じゃ、じゃあ私は忙しいのでこれで失礼するわね!すぐ麗美を呼んで来るから!!」

居たたまれなくなった美麗は逃げるようにそそくさと去っていく。今までは完全に自身が中学二年生だと思い込んでいたがそんなのはまやかしだ。

本当の自分は28歳であり本来の生活もある。それらから逃避する為に軽い気持ちで引き受けたこの仕事だったが純粋な少女らの反応を見てやっと現実を認識し始めたらしい。

(・・・このままじゃいけない。あんなピュアな女の子達を騙したままなんて・・・)

思えば1学期は薬の関係上日中はほとんど中学生の姿で生活していたし本来の自身の事を考える時間など一切なかった。

毎日が楽しくて楽しくて、プリピュアの正体を探る活動もドキドキとわくわくでいっぱいだった。本当に心の底からあの頃に戻ったのだと感じていた。


どうしよう?どんな顔で皆と向き合えばいいんだろう?


不安で心が押しつぶされそうなのを薬で何とか誤魔化そうとする美麗。すると心も中学生へと退行してしまうのだから恐ろしい。

だが今回ばかりは心の奥底に僅かな罪悪感が残ったままだったのでその後皆と合流するもどうにもぎこちない言動を繰り返してしまう。


それからは地獄だった。


「ねぇ氷山さん。お姉さんは来られないの?」


何故かりんかが一番美麗を気に入ったらしく何度もそう尋ねられるのだからその都度現実に引き戻されるのだ。

しかも彼女らのピュアな反応が脳裏を過り今まで見たいに冷たくあしらうのを躊躇ってしまう。なのでひきつった笑顔で毎回断りを入れるしかなかったがそれでも限度はある。

「あの、蒼炎さんってお姉ちゃんに会うの初めてだよね?結構人見知りする人だと思ってたのに意外ね。」

「え、えっと・・・その、だって凄く素敵じゃない?美麗さん。だから色々お話を聞いたりしてみたいなぁって。」

そう言われると悪い気はしない。だがここで気を緩めては駄目だ。何せ美麗と麗美は一人二役。同時に登場は物理的に不可能なのだから。

それ以降も随分と褒めちぎって来るりんかの言葉に何とか耐えつつ相槌を打っていたつもりだったがそれは美麗の思い込みだったらしい。

「何か麗美ちゃん、自分が褒められてるみたいに嬉しそうだね。」

「そ、そうね?!うん?!やっぱりお姉ちゃんを褒めてもらえるのは嬉しいしね?!」

あかねに指摘されると慌てて頬を両手で叩いた後こねくり回して表情をリセットしてみるが効果は今一つといった所か。


最終的には心を無にしつつ海での時間を過ごすとあっという間に日は暮れていく。ただほむらは一日バイトに勤しんでいた為遊ぶ暇はなかった。

「ねぇほむらちゃん。明日は私も手伝ってみていい?」

決して更なる現実逃避を考えていた訳ではない。折角皆と海に来ているのに彼女だけが遊べないのを心苦しく思っただけだ。

そもそもあまり大きな海の家ではないにしても店長の他に従業員はおらず、バイトもほむら1人だけというのは傍から見てて無理があった。

「お?いいけど・・・何だ、お前もバイト代が欲しいのか?」

「うううん。私が働いている間はほむらちゃんが皆と遊べばいいと思っただけよ。だって皆で海に来てるのにほむらちゃんだけ遊んでないのは勿体ないでしょ?」

「お、お前・・・さすがあかねが懐くだけあるなぁ!姉ちゃんもいい人だし!!サンキューな!!」

親指を立ててとても嬉しそうな彼女を見るとこちらも嬉しくなる。しかし一度取り戻した罪悪感が消える事は無い。何をやってもほむら達に隠し事をしている事実は消えないのだ。

それを十分に理解しているからこそ美麗はその夜まるで翔子のように悪い呑み方をして過ごしていた。


いつもご愛読いただきありがとうございます。

本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。

あと登場人物を描いて上げたりしています。

よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)


https://twitter.com/@yoshioka_garyu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ