水着と海―③―
それにどう反応すればいいのだろう?完全防水のはずだが海水につけた事で壊れてしまったのか?色んなことを考えていると暗人と追人も海から上がると慌ててこちらに戻って来た。
「どうやら野生の『アオラレン』が近くに出現したようです。」
「・・・ぇぇぇ?そんな事ってあるの??」
酔っぱらっている翔子をからかっているのでは?と思えるほど酔狂な発言に呆れた顔で聞き返すが暗人の表情は至って真面目だ。
「しょっちゅうありますよ。ちなみに『アツイタマシー』が許容範囲を超えると爆発して手が付けられなくなります。世間を揺るがす大事件の真相はほぼ全てそれらが原因なのです。」
「ええっ?!じゃ、じゃあ早く止めにいかないと!!」
「で、でも大丈夫かな?野生の『アオラレン』ってその、普通の人、なんだよね?」
「えっ?!そ、そうなの?!」
追人ですらその存在は知っているらしい。普段と違って少し怯えた様子で従兄に確認していた。
「ええ。組織の力を使わずに暴走しているただの人間です。しかしそこに『アツイタマシー』が宿ってしまっている為モンスターではなく狂人みたいになるのが一般的ですね。」
そうなってくると本当に危ないだろう。組織が関わっていないのであれば警察という国家組織に任せるべきなのかもしれないが彼らは犠牲が出てからじゃないと動かない印象が強い。
「・・・よし!!折角のバカンスを邪魔される前にやっつけちゃいましょ!!」
決してアルコールを摂取してしまい海に近づく事を禁止された憂さ晴らしではない。根が真面目だからこそ、プリピュアの敵対組織であったとしても人々に犠牲が及ぶのを許せなかっただけだ。
「いや?!話聞いてました?!野生の『アオラレン』はほぼ人間なんです!!僕らが介入せずとも自滅するか警察に任せるべきで・・・」
「チェンジジェネラルッ!!!」
酔っていた為その秘匿性をすっかり忘れていた翔子をフォローすべく、止まらないと悟った従兄コンビは慌ててパラソルとタオルで彼女の周囲を隠す。
お蔭で注目されたり変身を見られるような事はなかったものの、当事者達はその衣装が普段と少し違っていたのにすぐ気づけなかった。
「お?わかるわ。相手の位置が。それじゃぱぱっと終わらせて来るから2人は待っててね!!」
勢いそのままに砂浜を蹴って現場へ向かうブラッディジェネラル。呆気に取られた2人はただ顔を見合わせる事しか出来なかった。
ブレスレットが反応した場所は先程翔子達が購入した隣の海の家らしい。
「オラオラァッ!!どいつもこいつもイチャイチャしやがってよぉ?!海はそんな場所じゃねぇぞぉ?!」
かなりガタイの良い男が周囲の人々に怒声をまき散らしつつ店の備品を壊したり食べ物を暴食したりと好き放題している。見た目に変化がない為ただの酔っ払いくらいにしか見えないがブラッディジェネラルは確かに『アツイタマシー』を感じ取った。
「ちょっ・・・」
「おいっ!!!人の店で何暴れてんだごるぁっ?!?!」
少し懲らしめてから回収しようと思っていたら何故か聞いた事のある声によってこちらの第一声を阻まれる。
野次馬達と同じようにブラッディジェネラルもそちらに顔を向けると1人の女の子が暴れている男と同じくらいの怒りを表情に浮かべて力強く近づいて行くではないか。
「んだてめぇ・・・惜しいな!あと3年経ったら相手してやる・・・いや、もう今でもいいか!!お前!!俺の女になれっ!!」
すらりと伸びた手足と整った顔立ちに白いビキニがよく似合う。燃えるような赤い髪と瞳は夏の海がより一層際立たせているようだ。唯一気になる点といえば胸がまだ発展途上だという所か。
素性さえ知らなければかなりの異性が振り向くであろう美少女に狂人と化した男が公衆の面前などお構いなしに押し倒そうとしてきた。
「このクソ野郎がぁっ!!おととい来やがれっ!!!」
折角の容姿を台無しにする口の悪さはいつ見ても喪失感が凄い。だが今日はその粗暴な面によってこの騒動が沈静化するかもしれないのだ。
変身していたにも関わらず完全に傍観者と成り下がっていたブラッディジェネラルが心の中で声援を送るも相手の素性をすっかり失念していた。見た目は人間でも『アオラレン』と化したモンスターなのだ。
ぱしんっ!!
細身から放たれた鋭い拳は軽く受け止められるとそのまま砂地に押し倒そうとしてくる。慌てた紅蓮 ほむらが反撃の蹴りを出すも間合いも体勢も悪いせいか全く効いていない。
「いいぜぇ!!!生意気な女を公の場で犯すっていうのがこんなにも興奮するなんてなぁ!!!いっひっひひひぃ!!!」
「ほむらちゃんから離れろっ!!!」
すると今度は小さな少女が聞いた事のないドスの効いた声で叫びながら狂人に向かっていった。そこから正拳突きを放ったのだが普通ではない相手にそれが当たったとしても効果は薄いようだ。
「うーんん?お前は・・・お前は流石にまだ早いな!!5年後に相手してやるっ!!!」
精神だけでなく肉体もモンスター化しているのか、後ろから横から殴られ蹴られてもびくともしない狂人は火橙 あかねに酷い台詞を投げつけた後もほむらを犯そうと体を動かし続けている。
ばしゃんっ!!
「あつっ?!な、なんだこれっ?!」
「あちちっ?!」
まさかとは思ったがやはり蒼炎 りんかもこの海に来ていたらしい。しかもバケツには熱湯を入れて来たのか、それを狂人の頭からぶっかけた。
すると体の位置的にも押し倒されていたほむらに少し掛かってしまう。同じような悲鳴を上げていたがこれはコラテラルダメージという奴だ。うん、これは仕方ない。
「ほ、ほむらから離れなさいっ!!」
確かに紅蓮 ほむらと仲が良いのは知っていたがまさか身の危険を冒してまで助けようと行動するなんて。深く感動を覚えたブラッディジェネラルは何故自分がこの場所にやって来たのかすら忘れてその勇姿に見とれていた。
「てめぇらっ!!全員犯してやるぅっ!!!」
『アオラレン』化しているとはいえ流石にこの行動には業を煮やしたらしい。押し倒していたほむらの腰を片手で締めあげつつ身動きを封じながら立ち上がると遂に助けに入った2人にも襲い掛かって来た。
「お巡りさん!!こっちです!!はやくっ!!」
そこでやっと自身の役目を思い出したブラッディジェネラルが動き出そうとすると最後は氷上 麗美が警官を引き連れてやってくる。感情に身をゆだねるのではなく冷静に対応する彼女はとても中学二年生とは思えない。まるで友人の美麗を彷彿とさせる。
だが相手は普通の人間ではないのだ。恐らく彼らではあの狂人をどうにかするのは不可能だろう。
びしゅんっ!!
傍観者に成り下がっていた訳でもないしタイミングを見計らっていた訳でもない。たまたま全ての対処方法が出尽くした後、自身のやるべき事を思い出したから動いたまでだ。
ブラッディジェネラルはウィップを顕現させると背後から無言でほむらを抱きかかえた狂人の首に巻き付ける。
「はいはい。おいたはそこまでよ?」
それを思いっきり引っ張って締め上げると流石に彼も抵抗せざるを得なかったのか、人質のほむらから手を放してその鞭をほどこうと動いた。
当然ブラッディジェネラルがその隙を許すはずもなく、問題は多いが自身の受け持つ生徒達を酷い目に合わせた狂人を懲らしめる意味を多分に含めてくんっと空へ吊り上げた。そしてそのまま人気のない砂浜目掛けて引き落とす。
ずずんんっ!!!!
爆風と砂埃が立ち込めて辺り一帯の視界が奪われる中トドメとして高く跳び上がった後、急降下軍靴ヒールキックを放ったのだがその時やっと自身の姿がおかしな事に気が付いた。
(あれ?なんでビーチサンダル履いてるの?)
見れば足元は素足のままだし腰も水着のままだ。酔っぱらっているせいなのかな?とも思ったが力はしっかりとブラッディジェネラルのものを纏っている。
べきゃんっ!!
必殺の蹴り技が砂浜に埋もれている狂人の顔面にめり込んだ後、その突風で砂埃が一気に晴れる前に素早く『アツイタマシー』を回収すると彼女は一先ず砂塵に紛れてその場を後にした。
それから暗人達のパラソル付近まで戻ってくると変身を解く前に改めて自身の姿を見返して愕然とする。
トレードマークの制帽はある。というよりその部分しか変身していなかった。他の部位は水着やらビーチサンダルやらで遊んでいた時と変わっていなかった。
傍から見ればおかしな・・・いや、海水浴場で軍服姿も相当おかしいのでどちらにしてもおかしな人だと思われていただろう。しかし酔っぱらっていた翔子からすればそんな些細な事などどうでもよかった。
(・・・な、なんで・・・ま、まぁいっか!!生徒達も助けられたんだし!!うんうん!!!)
何より各々が友達を大切にしている場面を目撃出来たのだ。これは新学期以降彼女らの認識を改める必要がある。特に蒼炎 りんか。あの子が他人の為に動ける人間だとは思いもしなかった。
(相変わらず紅蓮さんの口汚さだけは看過出来ないけどあれだけ仲が良いのなら4人ともプリピュアにだってなれるわよ。うん。)
変身を解いた翔子は『アツイタマシー』の回収以上の収穫に熱い友情を垣間見れた喜びに羞恥を忘れ、酔った体で激しく動いた事によって思考がふわふわしたまま2人の場所まで戻ってくるとその喜びからか思わず暗人に抱き着いていた。
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