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疑惑―⑦―

 先週の接触から誰がプリピュアなのかをずっと考えていた美麗だが流石にそれを表面に出す程子供ではない。

「どうしたの?」

むしろ今は自分の事より可愛い友人の事が気掛かりで仕方なかった。週明けの月曜日。何故かあかねがとても暗い雰囲気で登校してきたのだ。

だが尋ねても言葉を濁すだけで答えてくれない。それがまた寂しくもあり悔しくもあった。

(私じゃ相談相手にはなれないのかな・・・)

その事に酷くショックを受けたのだがその傷はすぐに解消する。

「どしたどした?何かあったんだな?よし、あたしが聞いてやるよ!」

「・・・・・え?う、ううん。だ、大丈夫。何もないよ?」

何故ならあれ程懐いているほむらにすら打ち明けないのを目の当たりにしたのだ。であれば美麗に相談を持ちかけてくれないのも諦めがつく。というか彼女にすら打ち明けられないなんて一体何を抱え込んだのだろう?

「・・・話しにくいのならほむらちゃんとどっか2人きりになれる場所に行く?」

いつも明るく元気なあかねがこれでは折角の中学校生活も台無しになってしまう。なのでほむらに全てを任せようと提案してみたのだがこれにも耳を貸してくれなかった。


こうなってくるとその内容ではなく原因が気になってくる。


あかねの挙動がおかしいのを1人だけ全く気にせず普段通りに過ごしていたりんかを時折じっと睨み付けてはいたものの彼女が原因だという確証はない。

「何かしら?私の顔に何かついてる?」

「・・・いいえ。何も。」

それでもこの娘には色々と不審な部分がある。疑いを掛けるだけの理由は山ほどあるのだ。まず他校の生徒と揉めていた点。そしてあかねやほむらに何かを斡旋した点。それを自分にも勧めてきた点・・・

(・・・まさか・・・まさか?!に、妊娠とか?!)

司からも散々聞いていた。最近では売春の低年齢化に数も増えてきていて困っていると。

ほむらの家は貧乏だと言っていたしそんな彼女を慕っているあかねも自身のお小遣い以上の収入を求めているのだろう。

2人の気持ちを十分理解していたからこそ必要以上に彼女達の行動には口を挟めなかった。しかし今思えばあかねにも避妊くらいはしっかりとするよう助言すべきだったのかもしれない。




気を配った結果、最悪の事態になってしまったのではと勘違いした美麗は居ても経ってもいられなくなり放課後、あかねを廊下の片隅に呼び出した。


「ど、どうしたの?麗美ちゃん?」

激しい後悔が苦悶の表情となって現れていたのか。逆にあかねから心配そうな声をかけられたのだが今は彼女に事実確認を取る事が最優先だろう。

考えてみれば自身の周りに妊娠した友達などいなかった。むしろ自分が子を欲していたのにまさか未成年の友人がその第一号になるとは。

「・・・あかねちゃん。落ち着いて答えてね。今、あかねちゃんってその、妊娠、してたりする?」

「・・・・・へ?」

普段の彼女らしい可愛い声ときょとんとした表情がより美麗の心をぎゅっと締め付けてきた。恐らくこれは気取られないように、周りに迷惑をかけないようにと目一杯演じて嘘を隠し通そうとしているのだろう。

そんな優しさを考えると熱い気持ちが込み上げてくる。自然とあかねの両手を取った美麗は優しく自分の胸元に寄せてから優しく彼女を見つめた後、選んだ言葉で再び彼女に語りかけた。

「・・・でも早い時期ならその、堕ろせると思うの。うううん!!わかってる!!母性みたいなのが芽生えたら産みたいってなってるのかもしれない!!でもあかねちゃんはまだ中学生だし父親も責任なんて取ってくれないでしょ?!」

「あ、あの?!麗美ちゃん?!何言ってるの?!」

「わかってるから!大丈夫だから!!私誰にも言わないしほむらちゃんにだって内緒にするわ!!だから今は諦めて、もっと大人になって改めて大切な人と子育て出来る環境を整えてからね?!」

そうなのだ。彼女は可愛い。まだまだこの先素敵な出会いも待っているだろうし1回の過ちで人生を縛り付けられる必要はないはずだ。

ただ、今後は体を売るような稼ぎ方からは手を引いてもらいたい。もっと自分を大事にしてもらいたい。そうすればきっと必ず明るい未来が待っているに違いないから。


「あ、あの?もしかして私が妊娠?してるって思われてるの?」


「・・・・・ち、違うの?」

全力で説得しようという気持ちと後悔が混ざり合ってつい一方的な話し方で全てを語り終えた後あかねが不思議そうな、それでいて不機嫌そうな表情になっていたので美麗はやっと我に返る。

「何でそんな風に思ったの?私、その・・・経験もないし・・・中学生だし・・・ね?」

「・・・そ、そ、そ、そうよね?!まだ早いもんね?!あはははは!!」

本人の口から否定らしき意見を聞けて誤魔化すように笑ってみるも女というのは年齢に関係なく嘘を演じるのが上手い生き物なのだ。

それは自身も同じ女だからこそわかる。妊娠の件は誤解だったものの何かそちら方面での隠し事があるのを。

(ど、どうしよう?今日はもうやめとこうかな・・・)

いくら仲良しだと言えどこれ以上詮索すると2人の関係に亀裂が入りかねない。でも気になる。りんかから何を斡旋されてどんな卑猥な仕事をしているのか。今日一日暗かったのもそれが原因なのではないか?

聞きたい・・・聞きたいけど・・・


「・・・何かごめんね。今日の私、ちょっと考え事してたから・・・その、心配してくれてた、んだよね?」


「・・・・・う、うん。」

本当の中学生みたいにしょんぼり顔で頷くとあかねの表情はみるみる明るくなっていく。それが嬉しくて仕方なかった美麗も笑顔を零してお互いが笑いあった。

どうやらこちらが深く思い込みすぎてただけのようだ。それがわかっただけでも十分だろう。

「ありがとう麗美ちゃん!・・・あのさ。麗美ちゃんって秘密、を守ってくれる?」

「うん?!絶対誰にも言わない!!」

ところが今度はあかねから悩みを打ち明けてくれそうな雰囲気を作ってきた。これには鼻息を荒くして二つ返事で快諾するしかない。

しかしほむらよりも先に自分を相談相手として選んでくれるなんて・・・勘違いからの接触だったが勇気を振り絞ってよかった。


「じゃあ、ほむらちゃんやりんかちゃんには絶対内緒でお願いね?実はこれなんだけど・・・」


何故かよく一緒にいる2人には言わないで欲しいという。こうなってくると悩みの内容より信頼されているという事実が嬉しくて心はトランポリンのように弾んでいた。

だがあかねが取り出したスマホの画像を見た次の瞬間、美麗の心と思考はその活動を停止する。

「これって・・・絶対真宝使先生だよね?」


『うん。そうね。』


と、反射で返事をしてはいけないはずだ。辛うじて理性を呼び戻した美麗は小刻みに震える体を悟られないように呼吸を整えた後、この場で最も相応しい答えを告げた。

「えー?そうかなぁ?似て無くはない・・・けどぉ?」

「えぇ?わ、私には本人にしか見えないんだけど・・・麗美ちゃんには違うように見える?」

いや。それは紛れも無く自身の親友であり元プリピュアの翔子だ。画像を見た感じ割と最近の写真だろう。

そしてピュアレッドのコスプレをして楽しそうな表情を浮かべている。というかこいつ何してんだ?!

「うーん。そうねぇ?真宝使先生ってもっと太くない?こんな綺麗な体してないと思うよぉ?」

今時の中学生像を誇張したような喋り方で答えていたのはそうしないと驚きで叫びそうだったからだ。自身ですら聞いた事もなかった翔子の隠れた趣味。

以前から誰よりもプリピュア時代に憧れと誇りを持っていて事あるごとに回想に耽ってはあの頃に戻りたいと何度も言っていたが、まさかそれを実現していたとは。

「そ、そうか・・・私の考えすぎかな・・・?」

「そうよそうよぉ!翔子先生なんていっつもジャージ姿だし絶対私達が思っている以上にだらしない体をしてるんだってぇ!きっとそうよ~!!・・・ところでこの写真の人、名前とかわかる?」

「えっと、たしかレイヤーネームが『ピュアレッド』さんだって。」


「そのまんま過ぎでしょ?!?!?」


あの子隠す気ないのかしら?!と感情が爆発してついツッコミを入れてしまったがこれにはあかねが目を丸くしてこちらを見つめてきた。

「あ、あの~~~うん!!!私、この事を内緒にしてればいいのね?!でもこの人絶対翔子先生じゃないと思うなぁ?!」

「う、うん。そ、そうだよね・・・真宝使先生って変に真面目だもんね。うん?そういえば麗美ちゃんって真宝使先生の事翔子先生って呼ぶんだね。仲良いの?」

「そ、そんな事ないわよぉ?私まだ転校してきて2ヶ月くらいしか経ってないしぃ?それよりあかねちゃんが元気になってよかったわ!さぁ帰りましょ!!」

これ以上下手な演技と隠し事を続けていると頭がおかしくなりそうだ。焦りを誤魔化そうと話を無理矢理終わらせた美麗はあかねの手を引くと急いで玄関まで駆けて行った。




あれから翔子にその事実を確認すべきかどうか悩んだ美麗だったが恐らくコスプレの件は誰にも話していないのだろう。


であればこちらから無理に詮索する必要も無い。過去の輝かしい記憶を別の形で発散しているのであればこちらも見て見ぬ振りをしてあげるのもまた親友の形だ。

(でも生徒にばれるっていうのは・・・どうなのかしら?)

家のPCでも調べればいくらでも画像が出てくるので逆によく今まで隠してこれたものだと感心する。スキンケアがてら続けてマウスをぽちぽちとクリックしていると彼女を取り上げた記事があった。

最初期と比べるとコスチュームの出来が飛躍的に良くなっていっている部分や、中の人が可愛いという事で初参加時から一部の界隈では注目を集めていたらしい。

(それにしても・・・あの子妙な貞操観念を持ってるのによくやるわね・・・)

ピュアレッドの衣装は確かに可愛い。だがそれをより際立たせるためだろうか。プリピュアのコスチュームというのはそれらに比例してある程度の露出もあるのだ。

そのせいでネットにあがっている写真からは可愛さと同じくらいエロイズムを感じる。特に撮り手の手心が多分に加わっている写真などは下着なのか水着なのか。スカートの下がばっちり見えている事に本人は何も感じないのだろうか?


(・・・まぁ楽しんでるみたいだし、うん。見守ろう!)


最終的にそう判断したのは写真に写る彼女の笑顔がとても楽しそうだったからだ。であれば親友としてこの楽しいイベントを少しでも長く続けられるよう応援すべきだろう。

まずはあかねに絶対別人だと言い続ける必要がある。正直誤魔化せる自信など皆無であったがそれでも何もしないよりはましなはずだ。

後は他の生徒に知られないようこの話題を出さない事を徹底する。ただネット環境があれば誰でも閲覧出来るのだ。もしバレた時は諦めてもらおう。




こうしてその週は平穏に過ぎて行き、いよいよ待ちに待った体育祭当日。




(あれっ?!)

何故か『ダイエンジョウ』幹部であり翔子の後輩でもある暗人青年の姿があったので驚いた。

「先生ー。その人彼氏さんですか?旦那さんですか?」

こういう時リアルJCは強い。友人間では戸惑いそうな質問を気兼ねなくぶつけられるのだから。だがこの答えは美麗も気になったので少し離れた場所から聞き耳を立てて翔子の声に集中する。

「違うわよ。この人は私の後輩。」

「皆さんこんにちは。燃滓暗人です。先輩の後輩です。」

2人ともが先輩後輩だと紹介し合っているのでそれ以上の事は何もないらしい。

(勿体無いなぁ・・・)

自分が独身であれば何かしら接触を試みるのに・・・と深く考えずに心の中でぼやいていたのだがふと違和感を覚えた。


今日は日曜日で組織『ダイエンジョウ』も休業しているはずだ。なのに何故わざわざ翔子の学校に来ているのだろう?


「君いくつ?」

「12歳です!!」

暗人青年の従弟に質問しては可愛いと声を上げる同級生達。追人君という名前らしいが彼も翔子と顔見知りらしい。

「翔子お姉ちゃん!!頑張って!!」

「うん!!任せなさい!!」

教諭らによる二人三脚が始まる前にそんなやりとりが行われていた所をみるとかなり仲がよさそうだ・・・これってある意味家族ぐるみのお付き合いなのでは?

「では先生、いきましょうか。」

そこにやってきたのはお腹がでっぷりと出ていた中年の男性教師だ。恐らく彼が翔子のパートナーなのだろう。

だが美麗もこの学校で生活して2ヶ月以上が経つ。故にその男がセクハラ疑惑を多数持つ人物というのも知っていた。

(あの子昔から手が早いし・・・大丈夫かな?)

親友の被害よりむしろそっちを心配したのも長い付き合いがあるからだ。しかしそんな心配も杞憂に終わる。


「ぐあっ?!こ、腰がぁ・・・」


突然その男が膝から崩れ落ちるように倒れてしまったのだ。何故かその直前にバチッという音がした気もしたがこれは何も関係ないのだろう。

「大丈夫ですか?ぎっくり腰かもしれません。すぐに保健室へ向かいましょう。」

傍にいた暗人青年が肩を貸しながら運んだ後、男性教諭がリタイアした旨を伝えると翔子も一瞬リタイアするような発言をしていたが。


「でしたら僕が代わりに出場しますよ。」


・・・・・むむ?

随分と前向きな提案をしていた暗人青年に少し離れた場所からそれを眺めていた美麗は小首を傾げていたのだが本人が快諾したので話は成立する。

それから始まったレースは随分と楽しそうだった。周囲も若い2人を夫婦のように捉えていたのか掛け声の中には先生以外にも奥さんとか旦那さんとかが混じっていた。

(・・・まさか、ね?)

いや、それならそれで良い事だ。何せ翔子はフられやすいしその理由も暗人青年ならわかっているはずだ。

彼女も28歳。ここらで大きな転機を迎える事で今後の人生を見つめなおす良い機会にもなるかもしれない。


皆いつまでもあの頃のままではないのだ。年を重ねて、大人になっていく。


過去の栄光に浸り続けるのではなく、今とこれからの幸せを掴む為に人は生きていかねばならないのだから。

いつもご愛読いただきありがとうございます。

本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。

あと登場人物を描いて上げたりしています。

よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)


https://twitter.com/@yoshioka_garyu

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