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疑惑―③―

 今時乃中学校では連日体育祭に向けての準備が進められていた。そんな中突如校庭から巨大なバレーボールが姿を現したのだ。

逃げ惑う生徒達の波を掻き分けて進む美麗は懐かしい光景にほんの少しだけ感傷に浸るが今は最優先事項がある。


(よりによって私の学校に『アオラレン』を放つなんて!!あとで暗人青年に思いっきり文句を言ってやる!!・・・じゃなくて!!!)


つい自身を本物の中学生だと勘違いしてしまうが頭をぶんぶんと振った後この窮地に駆け付けるであろうプリピュアの姿を探し始めた。

といっても2か月近く本腰を入れずに捜索をしてきた。いざ現場に遭遇してからどうすべきか等も考えていなかった。行き当たりばったりで見つかるはずもなく今は一般人なのだと再認識した美麗は任務以上に大切な事を思い出す。

「・・・み、皆!!!逃げよう!!!」

過去の自身なら仲間と戦う為に変身すればよかったが今はそうではないのだ。まずは年下の友人達と一緒に安全な場所まで避難をしてからプリピュアを探すべきだろう。

そう思って後ろにいた3人に声をかけたのだが返事がない。振り向いてみると誰もおらず、いつの間にか自分だけが孤立していたので唖然とする。

(えっ?!ま、まさか皆私を置いて逃げちゃった?!)

まだ付き合いは短かったがそれでもあかねやほむらとはかなり仲良くなったと自負している。なのに彼女らは声すらかけずに一目散で逃げたというのか?

恐らく各々が自分の命を守る為に必死だったのだ。そこに深い意味はないのかもしれない。だが美麗の中では『裏切られた』ような気持ちがどうしても湧き出てしまう。


(・・・そうよ。あの子達なら大丈夫。)


元は28歳の若奥様であり彼女達とは文字通り住む世界が違うのだ。こんな事でへこんでいる場合ではない。

無理矢理自身の気持ちを押し殺して今度こそプリピュアを探そうと闇雲に探し回る。決して悲しみを紛らわす為に走っている訳ではない。これこそが自身の任務であり仕事なのだから。


ずずぅぅぅ・・・・ぅぅん


しかし変身しそうな生徒は見つからず人影がどんどん消えていく中、巨大なバレーボールモンスターだけが校庭から自由に攻撃を仕掛け始めていた。それによって校舎や街路樹、通りを挟んだ建物に車などが次々に破壊されていく。

(まだなの?まだ来ないの?!)

今までは自分達で対峙していた為こんな風に感じた事はなかったが現場では刻一刻と状況が悪化しているのだ。これを野放しにしていては学校や街がどんどんと破壊されてしまう。

(早く・・・早く来てっ!!)

いつの間にかプリピュアを探す事よりこの危機をどうにかしてほしいと強く願っていた美麗。そこに疲れもあったのだろう。駆けずり回っていた足が段々と失速してしまった所に『アオラレン』のバレーボール攻撃が飛んできて小さな体が吹っ飛んだ。

こういう時は絶対に直撃せず多少の傷を負う程度で済むのもお約束だが前提として彼女は『ダイエンジョウ』の人間だ。なのにこちらを攻撃してくるとはどういう・・・

「あっ!逃げ遅れた人?ごめんね?もうちょっと『アツイタマシー』を集めたら帰るからどっかに隠れてて?」

怒りをぶつけようと思ったがコスプレチックな少年がこちらを気遣う言葉をかけてくれたので少しだけ落ち着きを取り戻せた。そう、自身はスパイだ。もしかすると現場の人間はその事を知らないのかもしれない。

ならば大人しく避難すべきか?いやいや、いい加減調査も進展させないと給料泥棒まっしぐらだ。最悪の場合クビなどと言い渡されるかもしれない。


それだけは嫌だ!まだ楽しみたい!まだまだ皆と中学生活を満喫したい!これから楽しい行事が盛り沢山なのだから!


当初、夫の浮気による傷心を癒す為に引き受けたスパイ活動だったが今となっては自身が目一杯楽しむために全うしようとしか考えていない。その為には何としてでも仕事と私生活の両立を果たさねばならないのだ。

「た、助けてー!!プリピュアーっ!!」

その結果、恥も外聞も捨てた美麗は大声で叫ぶ。探しても見つからないのであればこちらから呼べば良い。丁度今の自分は無力な女子中学生でありそれが『アオラレン』という化け物に襲われている。

ここで駆けつけなければ現代のプリピュアは失格の烙印を押されるだろう。


「麗美ーー!!!大丈夫かーーっ!!」


だがその登場は想像と大分かけ離れたものだった。まず名前を呼ばれた違和感、そしてどこかで聞いた事のある声。フリフリの衣装に身を包んではいたものの明らかに見たことのある背格好。

ただし確証はなかった。そのどれもが微妙に違う感じがしたからだ。でももし紅蓮ほむらがこんな格好をすれば同じくらい可愛くなれるのかな?と不思議に思っていると。

「麗美ちゃ・・・生徒さん!!ここは私達に任せてどこかに隠れてて!!!」

いつの間に現れたのか隣には心配そうに手を差し伸べてくれる黄色いプリピュアも現れる。何故かこちらをちゃん付けで呼んでくれそうになったらしいがやはり彼女も今時乃中学の生徒なのだろうか。

「あなたってもっと上手く立ち回る人だと思ってたのにがっかりね・・・」

最後に現れた蒼いプリピュアには何故か失望されている。それだけは無性に腹が立った。


「やっと現れたわね?さて、早速だけど・・・イイわよ!!今日のあなた達はとてもイイ!!」


これまた聞き馴染みのある声が木霊すると巨大バレーボールモンスターの頂上には誰かが立っている。どうやらその人物が声を上げたらしい。

「うるせぇ!!いっつもいっつも人を値踏みするような真似しやがって!!あたし達はあたし達なりに戦うんだからつべこべ言うな!!」

「あらやだ?!またそんな口汚い事言って!!折角逃げ遅れてピンチだった生徒さんを助けたのに全部台無しでしょ?!」

どうやら『ダイエンジョウ』の幹部らしい。自身も所属しているとはいえ他の面々、特に現場に出張る人間とは面識も無ければ名前も知らないがそれは相手も同じだろう。

女性だという事しかわからなかった彼女は10メートルはある高さから勢いよく飛び降りると鞭を顕現させてぴしゃりと地面に叩きつける。


「『ダイエンジョウ』の幹部、ブラッディジェネラルが今日もあなた達を教育してあげるわ。ほらほら生徒さん、戦いにくいから早く逃げて逃げて。」


ところが彼女はまるでプリピュアの如く名乗りを上げるとか弱い美麗には逃げるよう促してきた。この場面、普通であれば人質にされてもおかしくないというのに随分と変わった幹部らしい。

更に先程のコスプレ少年はまるで観客みたいにブラッディジェネラルを応援している。いや一緒に戦いなさいよ、というツッコミ待ちだろうか?

「言っとくが今日のあたしは麗美・・・生徒を巻き込んだ攻撃に怒ってるんだ!!いつもみたいにやられると思ったら大間違いだぞ?!」

その言い草だとまるでいつも負けている風に聞こえるがまさかね?少し粗暴な感じもするが彼女達こそ正真正銘のプリピュアなのだ。断じて負けたりするはずがない。

あとはこの戦いをしっかりと見守り、最後には彼女らと再度接触して少しでも手掛かりを得なければ。

美麗は邪魔にならないよう急いで体育倉庫の影まで走っていくと顔をちょとっと覗かせてまずは外見からじっくりと観察し始めた。

紅いプリピュアがピュアクリムゾン。一番背が高く長い手足と燃えるような紅い髪が特徴であり言動がやや粗暴という事らしいがまさに寸分違わぬ情報通りといった印象だ。

(・・・・・なるほど。何か誰かに似ている気もするけど・・・うん。なるほど!!)

そして蒼いプリピュアがピュアフレイム。ぱっと見では水属性のように見える彼女も立派な蒼い炎を使う。ただ自分から戦うよりはサポートが多く、そして非常に陰湿な言動が垣間見える。

(・・・・・なるほど!!)

最後に小さな橙色のプリピュアがピュアマグマだ。背は一番小さく衣装も曲線が目立ち可愛さ全開といった感じだが見た芽とは裏腹に一番力持ちかもしれないという。

(・・・・・)

何だろう。この喉に小骨が刺さったかのような感情は。『ダイエンジョウ』から写真と情報を貰っていた為予備知識はあったはずだ。

なのに実際目の当たりにするとどうにも彼女らの姿が自身の小さな友人達と被ってしまう。だがプリピュアとは不思議な力で守られている為例え知人友人でもその正体を見抜くのは難しい。

憶測だけで決めつけるのは良くないな、と頭を切り替えるとそんな3人と華麗に戦う同僚の姿にも注目してみた。


ブラッディジェネラルと名乗っていた彼女は黒い軍服と帽子を身に着け、右手にある長い鞭をぶんぶんと振り回してプリピュアを圧倒している。


3人を相手に一歩も引かない所も凄まじいが少し動いただけで見えてしまいそうなミニスカート姿でよくあそこまで戦えるな・・・いや、動きが速すぎるだけで時々見えているのかもしれない。

そもそも何故あそこまで体のラインを強調する制服なのだろうか。どうにも何か意図を感じてしまうが中の人の美しさを引き立たせているのも事実だ。であれば他部署の自身が何か言う事もあるまい。

(・・・それにしても強いわね。戦い慣れてるというか誰かの戦い方に似てるというか・・・)

自身がプリピュアだった時代の敵対組織に女性はいなかった。なので女同士が戦っているという画は新鮮でもあったがそれ以上に既視感を覚えるのだ。更にあの赤い髪と時折見える楽しそうな表情。

(・・・・・今日の私は疲れてるのかな?まさかブラッディジェネラルが翔子に見えるなんてね・・・うん。疲れてるんだわ。)

親友の翔子は誰よりも純粋で可愛い女性だ。そして誰よりもプリピュア時代を大切にしている。そんな彼女が敵対組織に加わるなど天地がひっくり返っても洗脳されてもあり得ない。


「今日は本当に素晴らしいわ?!息もぴったりじゃない!」


ブラッディジェネラルが鞭を高速回転させた技を放つとピュアフレイムのシールドが受け止める。と同時にピュアクリムゾンとピュアマグマが迎撃するのだ。

自身の経験からするとセオリー通りの動きにしか見えないが敵の幹部は何故か子供のようにはしゃいでいる。

「るせえぇっ!!今日こそは勝たせてもらうぜっ!!いくぞマグマ!!プリピュア!!フェニックストルネード!!」

「うんっ!!プリピュア!!全力大噴火ーっ!!」

ピュアマグマがまるで地面を持ち上げるかのような動きをするとその場に活火山が現れて大噴火を見せた。その中に一度身を沈めたピュアクリムゾンが不死鳥の如く射出されるとその拳ごと突っ込んでいく。

相変わらずプリピュアの力というのは常識に囚われない動きをするなぁと感動していたがそんな隙の多い動きをブラッディジェネラルも真正面から受け止めたのだから驚かされた。

2人の合体技ともなれば威力は倍増しているだろうし幹部というのは普通自分の身を第一に考えるはずなのに。それこそ召喚した『アオラレン』を盾にしてもいいくらいだ。


ぼぼぼぼっぼっぼおおおおっ!!!ばきゃんっ!!!


熱い拳をその両掌で凌いでいたが流石プリピュアの必殺技だ。最後にはブラッディジェネラルの体が大きく後方に吹っ飛んでビルに大きな穴を開けていた。

下手をするとこの一撃が致命傷になるかもしれない。自身も今は『ダイエンジョウ』に身を置いている為複雑な心境で見守っていたが彼女の力はこちらの想像を軽く超えているようだ。


がらがらがら・・・・・


少しだけ重そうな動きを見せつつも瓦礫を軽々と押しのけて立ち上がるブラッディジェネラルにはまだ余裕を感じる。衣装に付いた埃をぱんぱんと払っているのがその証拠だろう。

この幹部、相当な強者だ。今度どんな人か聞いてみようと美麗が心に刻んでいると彼女は応援していた少年の方に素早く移動した。

「いい攻撃だったわ!!そうよ!それこそがプリピュアの真骨頂!!今日は熱い戦いに免じて退いてあげる!!次回もその気持ちを忘れないでね!!」

最初にピュアクリムゾンも言っていたがこのブラッディジェネラルという女性、まるでプリピュアの教師か師匠みたいな言動をしてくる。

自分の時代とは全く異質の存在に本当に敵なのかどうか、第三者の美麗ですら困惑してしまう程だったが敵が姿を消した後、プリピュア達は『アオラレン』を無事浄化すると『アツイタマシー』とやらを回収して大喜びしていた。


いつもご愛読いただきありがとうございます。

本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。

あと登場人物を描いて上げたりしています。

よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)


https://twitter.com/@yoshioka_garyu

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