疑惑―②―
「大丈夫。私達が直接出向いて強く指導してくるから安心して。もしまた危険な目に遭いそうだったらすぐ連絡するんだよ?」
中学生相手にも一切手を抜く事無く職務をこなす司は格好良い。中性的な美しさも健在だしもし自分が異性愛者でなければ恋に落ちてもおかしくなかった。
(流石自慢の友人よね!!!・・・あれ?そういえば昨日って何であんなところに向かったんだっけ?)
蒼炎りんかがプリピュアだと疑っての突発的な行動だったがあんな連中と付き合いのある彼女にそんな可能性はないだろう。そんな事より今は悪い関係を断ち切るよう説得すべきか。
「おはよう。」
昨日の出来事が脳内に反芻していてあかねと楽しくおしゃべりしていたはずなのにその内容が全く頭に残っていない。なのに教室に入って来たりんかの声が一番耳によく届いてきたのだから嫌になる。
「おはよう蒼炎さん。」
座ったまま顔だけ向けて素っ気ない挨拶を返すと美麗の視線は無意識に彼女の体を舐め回すように観察していた。もしかすると痣が目立ったりしていないか気になったのだ。
「・・・何かイヤらしい視線ね?言っておくけど私そういう趣味はないわよ_」
ところがこちらの心配からくる行動を皮肉で返してきた。本当にこの子と関わると碌な事がない。
「そうなんだ?残念ね。」
「・・・・・麗美ちゃんはやっぱり女の子が好きなの?」
更にあかねも妙な勘違いをしている。自分は既婚者なのだと声を大にして言いたかったがこの場面で発言した所で冗談としか受け取られないだろう。
「うーん。そうね。でもやっぱり男の子が好きかな。」
仕方なく差しさわりのない返答をするも何故かあかねが納得いっていない様子にこちらまで困惑してしまう。
だがこのやりとりで決意は固まった。
放っておいてもモヤモヤが収まるはずもないのだ。であれば名前が出ていた本人にまずは探りを入れてみよう。
「ほむらちゃん。ちょっといい?」
次の休み時間に声をかけて教室を出て行く美麗とほむら。残された2人から何とも言えない視線が送られていたがそっちは後回しだ。
「何だ何だ?あたしに話って?」
あまり人目につきたくないので玄関口を出てすぐ右手の壁際まで移動してくると美麗は早速昨日の動画を見せてみた。
「これなんだけど・・・蒼炎さんって何か変な人達と関わってるの?」
「・・・・・」
するといつもは明るいほむらが画面を凝視したまま動かなくなる。表情は真剣そのもので何か知っているのか考えているのか。
もしリアルJCならここで答えを急かすかもしれないが実年齢28歳の美麗は相手が落ち着いて口を開くまで黙って見守る。
「・・・りんかを助けてくれたんだな。さんきゅ麗美!」
りんがかこちらの手をはたいて立ち去る所や警察が駆けつける所まで録画しっぱなしだったのでほむらも全てを理解したらしい。
しかし今は彼女らとの関係について少しでも情報が欲しいのだ。
「見た感じだと陰中と陽中の生徒って事しかわかんねぇよ。あたしも知らない奴らだし。ただ見かけたらぼこってやるぜ!」
「もう婦警さんが懲らしめてくれたから駄目!!」
それについて尋ねてみると血気盛んなセリフが飛んでくる。一応司がしっかりと釘を刺してはくれているはずだが、これも友人を思っての発言だと捉えると強くは否定しにくい。
ただその粗暴っぷりには翔子も手を焼いているようなのだ。出来ればこれ以上友人に負担をかけたくないしほむらにも危ない事はして欲しくない。
「でもあいつ、何でこんなのとつるんでるんだろうな・・・あたしにもわかんねぇし直接聞いてくるか。」
裏表のない彼女がそう言うのであれば本当なのだろう。なのでそこは見習おう。うじうじ悩んでいても仕方ない部分をどんどんと解消していこう。
「・・・そういえば蒼炎さんに何か斡旋?してもらったんだって?」
早速ほむらの言動を真似るべく気になっていたもう一点の疑問を素直にぶつけてみる。ほむらとなら多少意見の衝突があってもすぐに仲直りできるだろう。そう信じて切り出してみたのだ。
「えっ?!お、お前!!」
ところが予想を上回る慌てっぷりでこちらの口を塞いでくる。その様子からこれが答えなのかと少し寂しく思ったが彼女は貧乏だと言っていた。
であればお金は必要なのだろう。そう、生きる為に稼ぐのならいいではないか。遊ぶ金欲しさではないと捉えればこちらも前向きに受け止められる。
「大丈夫よ。誰にも言わないから。」
美麗は口元に当てられた手を優しく離しながら笑顔で答える。するとほむらは気まずそうな表情を浮かべているのだから面白い。
やはりこういう所に若さが出るなぁと実感していると彼女がそっと耳打ちしてきた。
「あ、あたしがバイトしてるのは絶対内緒な!!中学生は働いちゃ駄目なんだからな!!」
バイト・・・?売りってバイト感覚なのだろうか?よくわからないが必死で懇願している様子を見ていると相当な収入源なのだろう。
「はいはい。でも・・・無理しないでね?ちゃんと避妊するんだよ?」
「お?お、おう?ひ、ひにん??」
この時はまだ大いなるすれ違いに気づく事はなかったが社会は確かに乱れている。であれば美麗の勘違いも当然だったのかもしれない。
立て続けの出来事にまたも美麗はすっかり忘れていた。自身が何故薬を使ってまで中学生活を送っていたのかを。
あれからりんかに話を聞こうと何度か接触したものの相手はそれを察して避けてくる。そんなやりとりが何度か続いて迎えた金曜日。
4人が下校の最中にそれは起こった。
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