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スパイと中学生―③―

 (いけない。流石にこのままではいけないわ。)

中学生活も4週間を過ぎた頃、『ダイエンジョウ』の任務が全く進んでいない事にやっと気が付いたのには理由がある。

それは給与の振り込みだ。

どういう訳か自身の口座には120万円もの大金が振り込まれていたのだ。これにより嬉しさよりも罪悪感に苛まれ、結果とても冷静な自分が戻って来たという訳だ。

日記のような報告書を提出する毎日と心の底から中学生活を満喫していただけの生活。なのに過剰すぎる給料を貰うのは社会人として申し訳が立たない。

根がまじめな彼女は反省すると共に早速中学校の名簿からその候補を割り出していく。

自身がプリピュアだった時は全員が同級生だったが今では1年や3年でも選ばれる可能性はあるらしい。3年生ともなると受験が控えているので選ばれるのは酷だなぁと感じるがこればかりは妖精達の都合なので仕方がない。

とにかく可愛くて純粋そうな子達に片っ端から目星を付けていく。プリピュアとはプリティでピュアなのだからその方針で間違いないだろう。しかしふと疑問が浮かんだ。


可愛いとは一体何だろう?


美的感覚は人それぞれであり万人が口をそろえて可愛いと呼べる子などそうそういない。十人十色という言葉があるように好みは細分化されるはずだ。

なのに美麗の感覚で可愛いを決めつけてしまっていいのだろうか?

今まで現実逃避を続けてきた結果、一切の調査が進んでいない事に加えて妙に哲学的な部分で頓挫してしまった彼女はベッドに飛び込むと仰向けで天井を見上げる。

自身を含めた元プリピュアの5人は皆タイプが違う可愛さを持っていた。それは今も昔も変わらない。

ただ『ダイエンジョウ』が用意してくれた歴代プリキュアの資料を調べてもその可愛さも千差万別だ。正直美麗から見て首を傾げるような子がいたのも事実だった。

ではどうするか・・・




「ねぇ佐藤君。この学校で一番可愛い子って誰だと思う?学年問わずにね。」


次の日、美麗はクラスの生徒達全員にアンケートを取るべく意見を募って回っていた。こういう場合は統計学に頼るに限る。

一クラス平均30名、各学年5クラスなので全員のデータを取るのに多少骨は折れそうではあるが今までサボっていたツケだと思えばこれくらいはこなすべきだろう。

「え?!え?!何々?!」

最初はあかねにも頼んで手伝ってもらおうかと迷ったがこれは自身の仕事だ。それに彼女は可愛いので恐らく相当な男子が返答に困ると考えた結果、自分1人で動く事を決めたのだ。

「あははっ!!こいつ氷上ん事が気になってるんだよ。だから答えは氷上 麗美!!」

「おいっ!!!そういう事言うなよ!!!」

「あら・・・・・」

どうやら自身もまんざらではないらしい。確かに昔はプリピュアとして選ばれていた訳だが14年経った今でもそういう判断をされるとなると2度目のプリピュアも現実味を帯びてくる。

「ごめんね。私今好きな人がいるから。でも気持ちは嬉しいよ!ありがとう!」

まさか自身が既婚者とは言えず、かといって変に照れたりすれば期待させてしまう事は28年の人生で十分に理解していた。なので告白された訳でもないが希望をすぱっと斬り捨てた後に営業スマイルと感謝を述べて次の生徒に質問していく。


「何だ何だ?また面白そうなことしてるじゃん!」


あのクレープの日以来、随分と気さくに話しかけて来るようになったほむらが興味津々といった様子でこちらに絡んでくる。

相変わらずその言動には粗暴さが目立つので色々と注意したい所だが彼女の事情も詳しく知らない為今は触れないでいた。

「面白い・・・かな。今はまじめに仕事してるの。後で相手してあげるからあかねちゃんの所に居ててね。」

口をとがらせて素直に引き下がる後ろ姿をほんの少しだけ可愛いと思いつつも美麗はこの日の内にほぼ全ての生徒から意見を集める事に成功したのだった。


それでも疲れを微塵も感じないのはやはり14歳という肉体的な若さ故だろう。


忙しすぎてあかねと絡む時間がなかったのだけは悔やまれたが早々に帰宅した美麗はその結果を前に唖然としていた。何故なら・・・

「・・・まさか私が1位とは・・・まだ転校してきて1か月弱よ?この学校どうなってるのかしら?」

元プリピュアとしての自負はある。一般的に見て可愛いという部類には入るのだろうとは自覚していた。だが自分が一位になる理由は皆目見当がつかない。

そもそも先輩後輩などとも絡みはなく同学年から見ても他クラスに友人などもいないのだ。不思議で仕方がなかったが調べてみるとこの年代は転校生マジックというものが存在するという。


つまり見慣れた周囲の面々とは違う『容姿の整った男女』が突然自身のテリトリーに加入する事によって皆がそちらに注目し、新たな審美眼に目覚めるらしい。


(なるほどねぇ・・・ま、それならそれでいいわ。私は省いてっと。)

一通り納得してからいよいよ本腰を入れて上位陣と自身がチェックしていた生徒を照らし合わせていく。するとかなりの数が合致していたので内心ほっとした。

ただ最近可愛いと思い始めていた紅蓮 ほむらが上位に食い込む事はなく、大のお気に入りでもあった火橙 あかねがギリギリベスト10入りだったのには少しだけ心がもやもやする。

(・・・おかしいな。あかねちゃんならベスト3に入ってもいいのに・・・)

最初に友達になったという贔屓目もあったからなのかな?と自身に言い聞かせはしつつもこの時彼女は気が付けなかった。


全生徒にアンケートを取ったのだ。同性での可愛いは異性のそれとはズレが生じるし、異性は異性で気恥ずかしさが上回る年代だ。


結果、可愛い美麗に尋ねられて素直に本心を明かせた人物はほとんどいなかった為リップサービス的な意味合いも多分に含まれていた故の回答だったのだがこの時の彼女はそれに気が付く事が出来ずにしばらく迷走する事になる。


いつもご愛読いただきありがとうございます。

本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。

あと登場人物を描いて上げたりしています。

よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)


https://twitter.com/@yoshioka_garyu

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