性懲りもなく
エイプリルフールにもってこいだと思ったのに間に合わなかったよよよ
・・・
『』〈ナレーション・道化 役者・道化〉
一人の道化が問う。
「ねえ道化、貴方はどうして道化なの?」
一人の道化は答える。
「それはね、貴方を愉しませる為、道化は道化だからだよ」
一人の道化が問う。
「貴方にとって道化はどんな存在なの?」
一人の道化は答える。
「道化にとって道化とは。貴方を愉しませ、道化を演じ、終幕を待つ存在だ」
一人の道化は考える。
「道化に観客は必要か?」
答えは決まっている。
「観客がいて道化がいて、そして初めて世界は演目になる。だろう?道化」
道化は一人。
『第一章 道化の思考』〈ナレーション・道化 役者・道化〉
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『第二章 道化の朝』〈ナレーション・道化 役者・道化〉
「ダンジョン……ねぇ」
意味もなく点け続けていたテレビから聞こえてくる単語に反応してしまった。「ダンジョンが出現した」それは11月27日から、正確にはその日の地震と超異常現象が起きた後から囁かれ始めた、現実的ではない事実の噂だった。
「気に入らない」
テレビに映っているのは、新宿中央公園に突如現れたダンジョンと思わしき巨塔を背景に、ニュースキャスターが通行人にインタビューを行っている様子だった。
「12月2日、天気は快晴、将来は不安定な今日の街頭インタビュー!お題はモチロン今世間を賑わしているあれ!ダンジョンについて聞いてー行きましょう!」
今世間の興味は、国家公認で行われるダンジョンの大々的な調査に向けられているようで、「結果次第では一般にも開放されるかもしれない」とか、「新時代の幕開けだ!」とか、様々な意見が飛び交っている。
「全く気に入らない、実に実にだ。近々道化の初舞台を予定していたのに、くぅー憎い!これじゃあ道化が出たって観客には空気のように見向きもされないじゃないか!」
苦いミルクティーを飲みながら今後について考える。中止か延期か強行か、それともこの騒動を利用してやるか。勿論悩むまでもなくすべきことは決まっている。道化が逃げても良いのは舞台の上でみっともなく退散するときだけなのだ。
「そうだ、ピンチはチャンスとも言うし大丈夫だ。幸い人は集まっているのだから目線さえ集めてしまえば……クックックヒャーハハハ。そうだな、視線を集めるためには……やはり自衛隊を利用しようか。だって道化の舞台を台無しにしようとしてくれてるんだから、こちらだってやり返してやらなきゃ可哀想だからねぇ」
一人の道化はテレビを見ながら不敵に笑った。
・・・
『第三章 道化の演目躍如』〈ナレーション・道化 役者・道化、瀬戸勇璃、自衛隊員、通行人ABCDEF
〉
塔と自衛隊を囲むように集まった野次馬はそれぞれが漠然とした不安を抱えていた。
「あいつらどうなると思う」
「メガネクイッ。ええ、現代武装は不思議な力で一切効かないお約束ですからな。ですから当然の如く、敗走でしょうな。クイッ」
「俺はまだ信じ切れてねぇよ、現代がファンタジー化しちまったなんて」
「日本の将来はどうなっちゃうんだろうね」
「別にどうなることはないでしょ。どうせ今だけだしこんなの、みんな大袈裟なんだよ」
「ノストラダムスの大予言が当たったんだ!きっとあぁきっとこれは神の天罰がうんタラで宇宙が侵食で鍵は火星人なんだ!」
「うち馬鹿だから分かんないけど多分違うと思うよ」
一人の道化が観客をかき分け、極々自然に警察の隣もすり抜ける。その堂々たる様は人々に疑問を抱かせず、現に隊列を組む自衛隊の前まで来てしまったのだから。
「エー、突然のことで恐縮ですが……皆様ご機嫌如何かな?ちなみに道化は今とても気分が良い」
道化が口を開いた途端、自衛隊も警察官も民衆も事の異常さに気が付いた。そもそも真っ白の上下スーツを着て赤の三角帽子を被る男が白昼堂々としていること自体がおかしいということに。
「おやおや~?その様子じゃあ道化の登場に満足してくれたらしいね。どお?ビックリした!?いやー道化自身、会心の出来だったと自負できるよ」
痛快な沈黙の空気が道化を見える範囲に広がる。
「道化一人でショーは成り立たない、ここはワンマンライブ会場じゃないから。……行った事無いけど!」
悲しいことに渾身の決め台詞が無視されてしまうのだった。
「何故出てきたのか分かりませんが、ここは危険です。なので警察のいる場所まで下がっていただけませんか」
最初に(決め台詞を無視して)声を出した若い女性はそれなりに(少なくとも自衛隊の隊員よりは)判断能力があるようで、道化に対して優しめに警告してくれている。きっと彼女は……。
「これは失礼。道化の名は道化という、以後お見知り置きを。若い女警さん、貴方の名前を教えて頂けますか」
恭しく膝をつく白スーツの道化は、悔しいが周囲の人間から見ればそこそこ様になっていた。
「私は瀬戸勇璃、あなたの言う通り警察官の端くれです。それでは、大人しく下がって頂けますか道化さん」
瀬戸勇璃の声色はまだ優しいの範疇だが、最初よりも少しキツくなっている。そんな瀬戸勇璃のオーラにあてられた自衛隊の方々も、少しずつ正気を取り戻していた。
「いやいや、道化に対して大人しく尻尾を巻いて逃げ帰れとおっしゃるのですかユウリさん?!折角これだけの観客の方々がいらっしゃるのに?それでは道化の名折れ、面目が立たないというもの。ですから……」
今にも踊り出しそうな道化の演説を遮り一人の隊員が怒鳴りだした。
「俺たちは遊びでここにいるんじゃないんだよ!動画のネタが作りたいんだったら人様の迷惑にならない他所でやんな!」
怒鳴った隊員に続き、他の隊員もそーだそーだと同調し始めた。正直に言えば、煩い事この上ない。と、思っていた直後、また別の隊員が道化の前に出てきた。
「おいらは紗崎ってもんだ。おいら力には自信があってな、成人男性くらいなら片手で軽々持ち上げられんだ。だからよお、へっへー恥かきたくなきゃ尻尾でも何でも巻いて帰んな」
道化としては「丁度良いのが釣れた」、と思う他なかった。すかさず道化は「きゃーこわいよー」と棒読みしながら手招きをする。すると紗崎はみるみる内に顔を真っ赤にして突進してきた。
「てめぇ!!」
―――そう叫びながら道化の手を捕り、持ち上げ……
「待ちなさい!」
―――あまりに遅い勇璃さんの制止も虚しく、道化は地面に立ち、紗崎さんは地面に横たわる事になってしまいました。
「あれ紗崎さんどうしちゃったの?なーんてね、ヒャーハハハ。おっかしーあーおもしろい。貴方は?」
虚空に向けられた問いは何処にも届かず。
「これ以上作戦の遅延をされては困りますので、武力を行使させていただきます。もしあなたが注意で済ませたいのなら、今が最後ですよ」
「道化は善意の注意に耳を傾けない、故に道化なのです」
「そうですか」
そう言い終わった瞬間、道化が反応するよりも速く勇璃は二者の距離を詰め、道化の腕を持ちながら後ろに回り押し倒す。そしてどこからか出した手錠によって手早く捕縛を完了させてしまった。
「えっ?」
誰かの口から驚きの音が漏れた。勇璃がやってのけた想像以上の神業に、騒がしかった客席すらも静まり返ってしまった。
……こんな呆気ない幕引きを誰が望むだろうか、いや誰も望まない。
「お見事、実にお見事です瀬戸勇璃さん。道化は大変感動致しました。素早い判断、大胆それでいて無駄のない身のこなし、そして悪への容赦の無さ。やはりあなたこそ道化の舞台の主人公ですよ」
さすがの主人公も驚きを隠せなかったのか、鉄仮面のような表情が崩れていた。
「どうやって逃れたのですか」
「ふふふ、どうやったんでしょうね?でもまあ、魔法の類だと思ってもらえればそれが一番簡単な説明ですね」
何か思い当たる事でもあるのか、ハッとしたような表情になった。
「魔法……ですか。もしかしてあなたは、ダンジョンに入った事がありますか」
「ダンジョン……ですか?すみません、道化はその手のものに関わらない生活をしていたものですから、ご期待に添えず申し訳ありません。仮に脱出トリックの仕組みを知りたいのでしたらお教えします「生きる世界線が違う」のですよ……あっ冗談です」
「そうですか」
「そうです」
二秒ほどの沈黙の後両者は同時に動き出し、道化がこけた。一切弁解の余地がない程盛大に地面とキスをし、幸運にも勇璃の掴みを避ける。―――が、寝転がってしまってはまともな抵抗も出来ないので、あっさり捕まってしまった。
「あれぇ、これってもしかしてですけどもう終わっちゃいました?」
「……私としても不本意ですがこれ以上隠し玉がないのなら終わりです」
二者は互いに困惑のまま立ち上がった。そして勇璃は警備に就いていた警官を一人呼び、手錠を掛けられた道化を引き渡して、謎の道化乱入騒ぎは収まった。
◇◇◇
勇璃率いる調査班計5名はダンジョン内を順調に進んでいた。
「それにしてもあいつ何だったんすかね。異常に強いやつかと思ったら最後はバカみたいな理由で捕まっちまったし」
「高名な体術家の隠し子とかどうだ」
「それかただ運がいいだけの人とか?」
「彼、道化は格闘術に関して全くの素人だと思いますよ。数分対峙してみての主観的な感想なので恐らくとは付いてしまいますが」
「でも肥満の紗崎があんな簡単に投げられるなんて相当ですよ!」
「おい!おいらの体形は肥満じゃなくて筋肉がいっぱい付いてるだけだぞ!毎度毎度この野郎ー!」
「ヒートアップもそこそこにして、そろそろ落ち着きましょうか。ここでは何が出てくるか分かりませんから」
「自衛隊って名乗るものですからもっと機械みたいな方々なのかと思っていましたけど、意外とそうでもありませんねぇ」
「何が出るか分からねぇつったってよ、こんなヨーロッパ風の内装から化け物が出てくるなんて俺はまだ信じらんねえな」
六人が歩みを進めるさなか、異変は訪れた。
「ん?ありゃなんだ」
六人の前に現れたのはベチャ、ベチャと音を鳴らしながら近づいてくるゼリー状の何かだった。
「これスライムじゃないですか?あのRPG最弱と名高い例の」
「なんだ樋口知ってんのか」
「ファンタジー系のゲームならほぼ確実に出てきますよ……って先輩方はゲームやんないですもんね。でも木平先輩ならわかりますよね」
「ああ、最弱でも有名だが、作品によって振れ幅の大きいモンスターでもある。核のようなものが見える、まず私が銃が効くか試してみよう」
そう言うと、アサルトライフルを構えスライムに向かって発砲した。発射された弾丸は木平の狙い通りスライムの核を貫くとスライムの動きは停止し、やがて光のように溶けて消えた。
「ん、なんだ?これ」
なんの冗談か、木平は何もない場所を見つめ「なんだこれは、俺の名前?もしや……」などと小声で呟き目線が不審に漂っていた。
「瀬戸さんもしかしてこれが、この目の前のボードが……」
「はい、私も詳しいことは分かりませんが、それがステータスボードというものらしいです。今私たちには見えませんが、意識すれば今朝私がやったように見せられるはずです」
「どうですか、これで見えますか」
木平のステータスボードを道化はまじまじと覗き見した。そして……
「何ですかこれ、なんとも奇怪な。文字が浮いてますよ」
「何故あなたがここにいるのか聞いてもいいですか、道化さん。あのとき私は確かに預けてきたはずですが?」
「やだなぁ勇璃さん、道化は最初からいましたよ?そもそも手錠の一つや二つくらいちょちょいで外せちゃいますし」
「うわっなんでおめぇここにいんだよ!」
そんな言葉を皮切りにして道化に四つの銃口が向いた。それに驚いたのか慌てだした道化は両膝をつき手を組みながら釈明を始めた。
「ちょっと待って待ってくださいまだ道化は何も悪いことはしてませんって。ちょっと面白そうだったから付いてきただけですよ本当に。皆さんに害をなす気はないです、もちろん他意もありません。信じて下さいよ~おねがいですから~」
「なんだこいつ……どうする」
「どうって言っても大丈夫なんじゃないですかこの人。スーツに不自然なふくらみもないですから丸腰でしょうし、仮に何かあっても五対一でこちらはARもありますから万が一もないと思いますよ神村先輩」
「つってもな、いつ後ろから刺されるかわかったもんじゃねえし一回帰ったほうがいいと思うんだが。どうだ?」
「無駄です。きっと彼何度地上に置いて行っても気づいたら後ろにいますよ。ですので彼は私が見張っています。なのでこのまま進みましょう、これ以上は時間の無駄です」
「了解した瀬戸さん。紗崎、次はお前が前を張れ。モンスターを倒したら次は神村、最後に樋口の順で前を変えろ。余裕があれば一層のマッピングを全て行い本作戦は完了となる」
「了解だぞ」
「了解」
「了解です」
木平の指揮の下一行は一層の調査を順調に終わらせ下層に繋がっているであろう階段を発見した。
「次層への階段……これで一層のマッピング終わりですかね。隠し扉でもなければ全ての道を探索したと思います」
「これにて作戦は完了だ、よって帰還する」
「皆さんの連携といいますか動きといいますか、兎に角手際がいいですねぇ。これなら日本の将来も安泰だぁ」
「おめえホントになんもしなかったな。絶対途中で邪魔すると思ってたんだがな」
「道化を何だと思ってるんですか?観客もいないのに命なんか張れませんよ。もしこの様子が全国的に放送されでもしてたら確実に邪魔しましたけど」
「おいらお前の言ってる意味が理解できねえよ」
「道化は人々を笑わせるためだけに存在するのです。それ以上でもそれ以下でもありません」
「そうかよ」
行きよりも少し明るい雰囲気になった一行の帰還中も無事何事もなく、全員が五体満足の状態で朝日を迎えることが出来た。
「いやーお疲れ様でした皆さん。今後も益々のご活躍心よりお祈り申し上げます。じゃっ!」
地上に出た途端にそれらしい言葉を残して道化は走り出した。想定外すぎて誰も追うものがいないかと思われたが、正義の化身になろうとする瀬戸勇璃は違った。勇璃は懐からロープに繋がった手錠を投げ……見事道化に命中し再び手錠が右手に喰いついた。走っていた道化の運動エネルギーはロープに引かれただけではゼロにならないので、ギャグ漫画みたいなすっころびを披露した。
「あなたには聞きたい事があるので一緒に署まで同行してもらいます」
そのまま捕らえられ抵抗も出来ずに黒のワンボックスカーに乗せられて、道化の長い長い昼が始まりを迎えました。
・・・
紗崎「紗の変換めんどいから別の呼び方ほしい 一番年上一番ばか、おいら!」
木平「歳は二番目樋口のゲーム仲間、自衛隊員歴が一番長い、クール口調?私」
神村「口調は悪いが良く喋る(しゃべらせやすい)俺」
樋口「一番末、後輩ポジを欲しいままにする男 僕」
(下の名前考えてない、募集中です。でももう出ないかも・・・)