歪め、世界
輪郭がぼやけた世界の中心にテレビを見つめる少女がいた。
テレビには世界に立ち向かう悪者と、悪から世界を救うヒーローが映っている。
その少女は楽しそうに、しかし真剣にヒーローを見ていた。
この少女はどうしようもなくヒーローに憧れているからだ。
……、懐かしい夢だ。
◇◇◇
揺れで目を覚ます。
最近は地震に起こされることが多いから慣れてしまった。
体を起こし仕事のなくなった目覚ましタイマーを止め、それから顔を洗って完璧に目を覚ます。
いつもより早く起きたこともあり、毎日朝のルーティーンを念入りにこなしつつ仕事に行く準備をしていると、突然激しい揺れに襲われる。
部屋にあるものが音を立て倒れたり落ちる。
これまでに体験したことのない強さの揺れに驚くのも束の間、その揺れ自体はすぐに収まる。
二波や余震念を警戒して念の為ガス栓を閉め、ブレーカーも落とし、同じアパートの住人の安否を確認しに行ことにした。
「瀬戸です!大丈夫ですか!」
私の呼びかけに対して「はぁ〜い」と少し気の抜けた返事と共にバタバタと何かが崩れ落ちる音が聞こえてきた。
この部屋の住人のことだから、きっと積まれていた本が倒れたのだろう。
「やっほ〜瀬戸ちゃん。大丈夫そうでなにより、こっちは本が倒れたくらいで特に問題ないよ」
出てきたのは体の線が細くメガネをかけた男性。
彼は電子書籍が主流の現代で紙の本に拘る変わり者でもある。
幸い本人が言った通り目立つ外傷は見つからなかった。
「無事そうでよかった。あと、貴方の部屋は燃えやすい物が多いですから、火事にはくれぐれも注意してくださいね。余裕があれば部屋片付けるの手伝いますから」
「大丈夫だよ、わざわざありがとねー」
次に隣の101号室に行く。
「瀬戸です!与那さん大丈夫ですか!」
彼の足音が聞こえるので無事そうでよかった。
「こんな時に誰じゃ……おぉ瀬戸ちゃんじゃないか、どうしたんだ?さっき地震があっての〜早起きしといてよかったわい」
さっきの地震が5時くらいに起きたからこのお爺さんならすでに起きていても不思議ではない。
「地震大丈夫でしたか?」
「おほほ、実はな。寝とったところの棚が倒れとったんじゃ!寝たままじゃあぶなかったわい」
「全然笑い事じゃないですよ!棚戻すの手伝いましょうか?」
「気にせんでええよ、昼の間は困らんからの。それに、一時間もすればあの……なんとかロボット?ちゅうもんも来るんじゃろ。それにやってもらうから、瀬戸さんは違う人を助けな」
「そうですか、分かりました。じゃあ与那さんも気をつけて!何が手伝える事があれば呼んでくださいね」
「勿論、隣の部屋の男のことではないぞ。あやつは自業自得だからの〜ふぉっふぉ!」
ここにひっこしてきてから何度も与那さんは不思議な人だなと思うことがある。
総じて与那さんが意味のわからないこと言う時は後々になって理解できることが多い。
その見透かしたような助言は与那さんの人生経験からくるものなのかそれとも。
助けが必要そうな家がないか一軒一軒確認しようとした矢先、凄く嫌な予感がした。
「どこで……」
私は私の勘を疑ったことはなかった、何故なら私の勘は外れたことがないから。
自分の勘に従い嫌な予感のする方へ駆けていると、大きな通りの方から助けを呼ぶ声が聞こえる。
予感は確信へと変わり、さらに一段ギアを上げ助けを求める声へ急ぐ。
助けを求めたであろう人物と棒を持った小柄な人影を見つけた。
恐怖で動けないおばさまに容赦なく振り下ろされる棍棒を横から弾く。
驚いたようにこちらを見上げる何か。
追撃の手を緩めず迅速に化け物を抑える。
体格に似合わない力の強さをもっていたけど力も技も私のほうが勝っている。
腕で抑えている化け物に事情を聞こうにもよくわからない声を発し抵抗を辞めないため首に一撃を入れ意識を刈り取った。
動かなくなったのを確認し、おばさまの安否確認をする。
「間に合ってよかったです。怪我とかないですか?」
「ええ、あなたのおかげで助かりました。本当にありがとうございます」
「いえ私、実は警察官なんですよ。なので当たり前のことをしたまでです。一応お名前と何があったのかを教えていただけますか」
手帳を取り出しメモの準備をする。
警察官になってからの三年間でしっかり癖づいてしまった。
「私は弐貝千夜と申します、難しい漢数字の二に貝殻の貝で弐貝、千の夜と書いて千夜です」
弐貝……か。
「ご協力ありがとうございます」
「あと何があったかですよね。先程地震が起きたじゃないですか、それで急いで帰ろうとしたのです。それで普段は通らない道に入って祠の前を通り過ぎようとした時、それがいきなり飛び出してきて、そして凄い形相で追ってくるものですから、咄嗟に逃げてしまいました。しかし、ここで追い付かれてしまいそこをあなたに助けていただきました」
「ちなみにこの人?について知ってることとかってありますかね」
悩む素振りをしながら千夜さんは首を横に振る。
私もこんな肌色の人間を見たことはないし、人じゃないと言われたほうがしっくりくる点は多々ある。
緑色の肌、小学生くらいの身長、筋肉質でアンバランスな体型、形容し難い顔面。最近似たようなのをどこかで見たような……。
「ああ!これ、息子が教えてくれたゴブリンっていうのに似ている気がします!」
千夜さんの放った一言で私の既視感の正体も分かった。同僚が無理矢理紹介してきた漫画やアニメに出ていたゴブリンに似ているんだ。
そう、漫画やアニメ等の創作の中だけに出てくるものにだ。
さっき取っ組み合って(一方的)分かっていたがアレは決してコスプレだとかで説明できるものではない。
死が直ぐ側で待機しているかのような、そんな嫌な予感がした。
「千夜さん、後のことは私にお任せください。今朝も地震があったばかりですから、速く帰られたほうが良いでしょう。お気を付けてくださいね」
「……そうね、確かに。お礼はまた今度させてもらいます」
やや早歩きで去って行く千夜さん。
その背を見ながらこれで良かったのだろうかと少し考え、考えても仕方のないことだと思うことにした。
それに弐貝グループの奥方なら防犯対策の一つや二つ持っていただろうし、もしかしたらもう迎えが来ているかもしれない。
ここを離れて確実に安全である保証は出来ないが、少なくともこのまま留まるよりは幾らかマシだろうとなんとなく予感していた。
とりあえず通常の対応として本部に連絡を入れようとしたが何故か繋がらなかった。
多少の通信障害はもろともしない国家無線のはずなのに。
立て続けに起こる違和感に凄まじい寒気を感じた。
最初は気の所為で済ませていたが、段々と寒気は脳内で痛みを伴い立つことも辛くなっていった。
そして脳内に声が響く。
『こほん、コホン。どーもーみなさーん。今回はお知らせがあってきましたー。
えっと〜、我々が君達の世界の理を変えちゃいましたー。
そのお蔭で「平和を望むもの」も「平和を憎むもの」も共存する世界になったよーぱちぱちー。
簡単に言うと、今までなかったものをたくさん増やしたってこと!ヤッタネ。
サラ二サらニ〜これからはー君達は君達が望んだ「何か」になることが容易くしたよ!ナニになるんだろー、楽しみ〜。
闘え!争え!抗え!奪え!戦え!苦しめ!死ね!生きろ!夢を見ろ!
君達ノする何もかもが我々にとっての娯楽だからね〜?
期待している我々の期待を裏切らないでね?
キタイシテルヨー、がんばってね!』
まるで楽しみを目の前にした子供の様な話し方、しかしどこか圧の感じるその言葉を私が理解してる意味が分からない。
私の頭が正常に働いているのならここに倒れているのは本物になる。
昨日までは創作の中でしかこの世界に存在しなかった怪物だ。
このまま放置なんてもっての外、ここで殺さなければ千夜さんの様に別の人が襲われることになるだろう。
あの声を聴く前までなら葛藤が生じていてもおかしくなかったけど不思議とそうはならなかった。
ゴブリンの首を折ろうと近づく。
しかしあと一歩の所で足元のアスファルトがまるで落とし穴でもあったかのように崩れ暗闇を彷徨った。
暗闇を落下し続けていたはずだけど気がつくと岩が剥き出しの部屋的な空間に居た。
私は体に落下の衝撃を感じはしたものの、体感の落下時間と比例した衝撃ではなかった。
そう、私は落下の衝撃を感じたはずなのに、この部屋の天井に穴は開いていない。
この様な不可解なことを説明するなら私が落ちる前に聞こえた「この世に無いもの」で、きっと「世界の平和を憎むもの」に関連したものなんだろう。
こんなときにあの同僚が居ればここが何なのか分かったかもしれない。
数分とこの部屋を捜索するまでもなく首を動かすだけでこの部屋には出入り口以外なにもないことが分かる。
そして出入り口は左右に1つずつあり、入口自体は人2人分くらいだけど、その奥はそこそこ広い通路になっていた。
すこし覗いたくらいでは両方に大差は感じられず、ヒントも知識もない私は勘に任せ道を進んだ。
暗く変わり映えのしない岩の通路を歩いていると、程なくして曲がり角の先にやつを見つけた。
それと同時に心の奥でこれまでの出来事をなんとなく否定していた私は消えて無くなる。
曲がり角の先、だいたい10mくらい先にいたのは地上で戦った奴と同じ特徴を持っている推定ゴブリン。
こいつは盾を持っていて、そのせいで地上での戦いと比べて単純に難しくなるだろうけど使わせなければそれは持っていないのと同じこと。
葛藤やらなんやらを無視して足に力を集中させる、呼吸を整え足を踏み出す。
ゴブリンが私の足音に気づき振り向くよりも先に回し蹴りをゴブリンの側頭部に当てる。
勢いよく壁に打ち付けられたゴブリンは声を発する事もできず完全に動かなくなる。
少しすると動かなくなったゴブリンは、キラキラと壁や床、空気に溶けるように消滅した。
目の前で起きた非科学的で非日常の出来事に驚いていると、
『人類最初のモンスターキルを確認』
システムチックな音声が耳から入ってきた。
何が何だかすっかり分からなっていると視界に文字が浮かんでいきた。
[レベルアップを確認、ステータス機能を開放します]
数秒もすると勝手に文字は消え私の頭の中は?で埋め尽くされた。
「ステータス機
シュイン
能って……」
ステータスという言葉に反応したらしい、半透明のボードのようなものがいきなりでてきた。
――――
【NANE】 瀬戸勇璃
【LV】 1
【ROLE】
【HP】 100/100
【MP】 10/10
【STR】 18
【VIT】 8
【INT】 2
【MND】 4
【DEX】 4
【AGI】 18
【LUK】 5
【BP】 0
【SKILL】
・体術
・刀術
・棒術
・闘術
・剣術
・槍術
・球術
・弓術
・斧術
・射術
・健康体
・Wake Up Your Desire
――――
え?なにこれ、書いてある文字も半分くらい理解できないし、AR技術みたいに見えるのも不思議。
全然分からないので上から順に確認していく。
【NANE】、これは普通に名前なんだと思うけど、どうして私の名前が載っているんだろう。
【LV】、もしかしてレベル、levelのlvかな?
【ROLE】、これは役割とかって意味だったはずだけど……役割って何、哲学?
【HP】〜【LUK】、は本当に分からない、【LV】の例から省略の類ではあるんだろうけどそれぞれの右に数字があるのは何を表しているのだろう。【HP】、【MP】のPはポイントのpなのかな、増減しそうな書き方だし。
【SKILL】、skillは技術とかって意味だけどそれでは説明のつかないものが何個かある。
それに最後だけ英語で「お前の欲望を目覚めさせろ」?
確かに、そんなようなことを脳に響いた声が言っていた気もする。
……、薄々思ってたけど、分かったところで?って話かもしれない。
でも逆に冷静にはなれたか、素数数えるみたいな感じで。
とりあえず全部を理解するのはここを出てからでも遅くないはず……よし、進もう。
進んでいく内に3体の盾持ちゴブリンと出会うが危なげなく倒すことが出来た。
しかし同時に気になることもできた、それは初めてのゴブリンとの戦闘より微妙に、本当に少しだけの差だけど体が良く動いたような気がする。
それに、3体目を倒したあと「レベルアップ」と言われたのでステータスを確認してみると【LV】2となっていてよくわからなかった数字もそれぞれ差はあれど大きくなっていた。
これは体の調子と関係しているのだろうか。
そして今は重厚な扉の前に居る。
洞窟のような空間の中で一際異質に映るこの扉は、圧倒的な存在感を感じさせている。
いくら私でも開けるのに苦労しそうだなと思いながら扉に触れると扉は一人でに動き始めた、まるで挑戦者を待っていたかのように。
扉の隙間から覗く限り暗闇で入ることを躊躇ってしまう……が本物のヒーローは暗闇程度では怯まないはずだ。
部屋に入り少し進むと扉が一人でに閉まり通路から漏れていた明かりが無くなった。
この部屋を緊張感と闇がさらに支配する。
この部屋が何なのか考えていると背後からの殺気を感知し、慌てて飛び退くが避けきれず右足に痛みが走る。
警戒していなかった訳では無いが、思考に気を取られていたせいか、それとも内心油断していたせいか。
しかし今反省をしている場合ではない、即座に活かせ。
暗闇の中では頼りにならない視界を自ら閉じる、代わりに他の感覚に集中する。
だけどこの部屋の全てを把握するにはまだ足りない。
そして敵は集中する時間を待ってくれない。
また背後からの奇襲、今度はズボンが切れるだけで済んけどこのままでは反撃など夢のまた夢だ。
思考すら制限し研ぎ澄ます。
20歩、ダガー、ゴブリン、軽装。
ゴブリンの奇襲に合わせて反撃をする。
低く構えられた武器を押さえ、力で殴る。
殴られたゴブリンは数度バウンドし光を放って溶けた。
すると、辺りの壁に次々と火が灯り、真っ暗だったこの部屋も次第に明るくなった。
[レベルアップ!]
[規定のレベルへの到達を確認、ROREステータスを開放]
[第■層のボスモンスターの討伐を確認、特定条件を満たしているため、ボーナスポイントを付与]
あ、またレベルアップした。これで4回目だ。
ROREステータス開放、とか気になること書いてあったし、少し確認しようか。
―――――
【NANE】 瀬戸勇璃
【LV】 5
【ROLE】
【HP】 500/500
【MP】 30/30
【STR】 67
【VIT】 43
【INT】 10
【MND】 39
【DEX】 26
【AGI】 70
【LUK】 9
【BP】 40
【SKILL】
……
――――
レベル5になってるってことは今ので2上がったことになる。
普通のゴブリンより明らかに強かったしレベルの上がり方も倒した相手の強さによって決まるのか。
それに謎の数字が最初の一桁ばっかの数字と比較したら結構上がってる。
それと【BP】ってのも増えてる、これがボーナスポイントのことかな。
ステータスから顔を上げ出口を探す。
ゴブリンが倒れたであろう場所にダガーが落ちているのを見つけ一応拾っておく。
そして階段も見つける事もできたが下りの階段であった
「下り……か。多分上を目指した方がいいだろうから……引き返すしかないか」
入ってきた扉は固く閉ざされたままだ。
そうして決意新たに引き返そうとした私は今階段を歩いている。
階段を降りても特に変わりなく洞窟のような景色が続いていたが結構広くなっていた。
このまま地上まで何も無ければ、と思っていた矢先に出会ってしまった。
私の2倍くらいの身長に鎧のように分厚い筋肉、鬼の形相と言ってい差し支えない顔の怪物に。
今までの奴らとは違う明らかに別格の強さだ。
それ故にこの怪物と対峙しているだけで武者震いが止まらない。
さっき拾ったダガーを構える。
ダガーの使用経験なんてお遊び程度にしかないから正直不安だけど、ないよりましだと思う。
右ストレートがとんでくる、力任せの大振りな一撃だがそれだけで人間に対しては十分な凶器となる。
躱しながら怪物の腕を斬りつけてもびくともせず、もはや弾かれたような気がする。
やはり無闇に攻撃しても筋肉の見た目をした鎧を越えられない。
ならば急所、比較的に柔らかい目に刃を当ててみるしかない。
次の攻撃を警戒してすぐさまバックステップで距離をとる。
案の定向かってきた左腕を横目に顔面を狙うも防がれた。
ここまでは想定内、正面が駄目なら背面から、って言っても簡単に横を通り抜けられない。
考えた末に攻撃を躱しながら思い付いた。
デカいならそれを利用すればいい。
攻撃を掻い潜り股を抜け、壁を蹴って肩に跳ぶ。
思い付いた私でも正気を疑うけど普通にやって勝てる相手じゃない。
簡単に振り落とされないよう首に足を回して体を固定し、両目を貫く。
「ガァアァァァ!!!」
怪物が痛みと怒りを叫ぶように咆哮する。
確かな手応えはあるが、これだけでは決定打にならない。
喉や顔を切りつけたりしても当然のように刃は浅くしか入らないのをどうしたものかと思考しながら、迫っていた拳を避ける為肩から降りる。
時間が過ぎていく。
終わらない死闘の中で両者共に疲労が蓄積する。
それが表に出るのは人間と怪物でどちらが早いかなどもはや議論するまでもない。
永遠に思えてしまう程、防戦一方の攻防を繰り返した。
目を潰したはずが殆ど正確にこちらを補足し攻撃し続け、さらに潰したはずの目が徐々に再生しているのに気づいた時は、やはり怪物には常識は通用しないのだなと考えを改めた。
怪物の腕を振り下ろす前動作を見て後ろに避けようとするも足が縺れ空中で体制を崩す。
このままではなんとか避けること自体は出来ても、まともな着地は出来ない。
変に着地するならいっそ完全に倒れて受け身を取って素早く立ち上がる、そこまで想像した。
しかし怪物は私が体制を崩したのをしっかりと見てからただの殴りに変更し、それによって私はろくに受け身も取れず殴り飛ばされた。
意識が遠くなる直前、怪物の顔が勝ち誇っているように見えた。
◆◇
あれ、何この空間、全部真っ白で自分の体も見えない。
もしかしてこれが死後の世界なのかな?
まあ、確かに最後に受けたやつはやばかった、万全で受けても立っていられたかどうか。
全部……終わったんだ。
(本当に?)
だって私は怪物に負けた、誰にも知られず表舞台にも出れずに、誰も守れず死んだ。
(もし、気を失ってるだけだとしたら?)
そうだとしたって、正直……勝てる気がしない。
私はヒーローに成れなかった唯の一般人だったってことだ。
(それで終わってもいいの?!私の憧れはその程度だったの?)
そんな訳ない、けど……。
でも私がどれだけ努力してきたかなんて私が一番分かってる。
でも努力が必ず実るなんて保証が無いことくらい分かるでしょ?
(いや、私は何もわかってない。でも、そうだよね、楽になってもいいんじゃない?きっと私の物語はここでおしまいなんだよ)
物語にすら出れなかったの間違いじゃなくて?
(それは少し見当違いだよ。瀬戸勇璃という人間は努力して、苦労して、誰にも負けない思いを背負って、自分より強大な敵に自ら挑んで死んだ。とても感動的なストーリーだよ。唯、後ろに守ってる人が居なかったり、仲間がいなくて助けに来なかっただけでそれ以外はヒーローの最後って感じだね)
……。
(それでも本当に満足?やり残したことはない?ないならそこの門をくぐって良いよ)
満足な訳無い!
満足してたらこんな自問自答を私がするわけ無い!
(……)
これ以上弱音なんて吐いてられない。
探せ、この危機を打破するための力を!
(大丈夫、やっておいてあげる。だからヒーローは前を見て、諦めることを忘れて。
……頑張って。)
◇◆
「はぁはぁ、生き……てるか」
怪物との距離的に時間もあまり経っていないはずだ。
「ハァッ!はぁはぁ」
立ち上がれたが上手く頭が回らない、それに骨も何本か折れてる気がする。
状況は絶望的だ。
でももう折れない!
何故なら私はヒーローだからだ!
怪物は立ち上がった私に驚いたのか歩みを止めたが満身創痍な立ち姿に気づいたのか再び歩き出す。
不思議と体から力が湧いてくる、頭が逝かれたのかそれとも火事場の馬鹿力なのか、それも今となってはどうでもいいことだ。
化け物との距離を詰める、ゆっくりと伸ばされた怪物の腕を駆け上がり顔面に渾身の一撃をいれる。
確かに肉を殴る感触を得た、次はこっちの番だ!
◆◆
対峙する人間に怪物と呼ばれているゴブリンチャンピオンは驚いていた。
自分が殴ったことで風前の灯火となった人間が立ち上がり、さらにその気配を濃くさせたから。
一瞬にして自分よりも弱かった存在が自分を凌駕する。
普通はありえない、でも目の前でそれが起きたらどうするべきか。
走った、しかし人間は倒れる前よりも明らかに速くゴブリンチャンピオンに向かってくる。
焦りのあまり本気で出した拳も踏み台のようにして人間は進む。
痛みによって殴られた事に気づく。
眼の前の人間が倒れる前は武器を使ってもたいしたダメージを与えられなかったはずなのに。
おかしい、今まで戦っていた人間と同じなのかと疑う間もなくゴブリンチャンピオンは倒れていた。
このままではマズいと本能を介さずとも分かる。
たまらず同種を呼んでいた。
◆◆
「ギィィィャァァァアアア!!!!」
怪物の叫び声は空間を震わせ、耳を押えていなければ鼓膜が破れてしまいそうなほどだった。
その声に反応するように唯の通路だったここが広くなり、目の前の怪物と瓜二つの怪物が5体以上歩いてきていた。
そうか、今のは仲間を喚ぶための……!
でも広くなったお陰で戦い易くはなってるし、それにまだ諦める道理はない。
我武者羅に戦い続けた。
この戦いの果に希望が有るのか分からないけど、戦えば戦うほど力が湧いて動きも冴えるから、諦められなかったから。
死闘のに次ぐ死闘の末、計15体の怪物を倒して私は立っていた。
[レベルアップ!]
「はぁはぁ、ヤッ、ヤッタァ!!……か、勝った。ど、どうだ見たか!もう二度と、諦めたなんて……言わせない!」
今更襲ってきた身体的、精神的疲労や痛みを無視することが出来ずその場に倒れ込む。
まだまだここから、終わった訳じゃないのに……安心したら気が抜け……て……。
◆◇◆◇
―――
【NAME】 瀬戸勇璃
【LV】 42
【ROLE】 有者
【HP】 1274/4200
【MP】 315/315
【STR】 518
【VIT】 524
【INT】 454
【MND】 526
【DEX】 507
【AGI】 687
【LUK】 46
【BP】 0
【SKILL】
・武技(統合)
・有者の一撃(new)
・有者の武器(new)
・身体強化(new)
・自動回復(new)
・健康体
・武闘会のワルツ(←Wake Up Your Desire)
―――
◇◆◇◆
サイレント修正:(2/8)
再び:ランダムスキルチケットなんてなかった。いいネ?JOBなんてない、ゴメン。
ガバ過ぎてごめん。