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第八話 結界師、要塞を作る


 迦楼羅率いる革命軍の一番の特徴はその防衛能力だった。


 例えそこが砂漠でも雪原でも沼地でも、彼らは防衛に回れば無類の強さを誇った。

 その大きな要因は1人の結界師の存在である。


 結界師の本領は拠点づくりにある。

 そもそも結界とは何かを守るためにあるモノ。

 結界による味方の強化や結界による罠など様々な効果を組み合わせ、巨大な結界の束を作られると攻めることは困難になる。


 そして、シエル=ホワイトアイはその結界師の中でも飛びぬけた存在。


 使える術式効果のバリエーションも同時に展開できる結界の量も、その作成にかかる時間も全て規格外だ。


――たった1晩でなにもない野原を、そこらの軍要塞を超える防衛基地にすることも可能なのだ。


 ◆◆◆


「要塞作りの前にやることがあります」


 シエルは真剣な面持ちで言う。


「それは一体なんでしょうか?」


 シエルはふらつき、その場に仰向けに倒れた。


「シエルさん!」


『シエル殿!?』


――グウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥ!!!!


 シエルの腹の虫が大きく鳴り響いた。

 フェンリィとフォルマンは目を点にする。


「……ご飯を、食べさせてください」


 シエルが本日、口にしたのはリスの齧りかけリンゴのみ。

 久方ぶりの膨大な運動量に度重なる出血、体力は限界を迎えていた。


 というわけで、晩御飯の時間だ。



 ◆◆◆



 新帝国軍は財政難だ。


 彼らの財源は根こそぎ帝国軍に奪われ、頼るところがない。

 その割に――シエルの前に出された料理は豪勢だった。

 オニオンスープ、鴨のコンフィ、ジビエ。


 他にもシエルの知らない料理が真っ白なテーブルクロスの上に並んでいる。フェンリィたちからすればシエルは命の恩人、その感謝の意を料理で示したのだ。ケチなフォルマンも文句は言わなかった。


 シエルは片っ端から料理を口にしていく。


「うばいうばい! ほれもひらないひょうりでふ!(うまいうまい! どれも知らない料理です!)」


「……」


 その食べっぷりに、新帝国軍の面々は唖然としている。

 皿が1つ、また1つと積み重なっていく。



 20人前を食べたところで、シエルはようやくフォークを止めた。



「ごちそうさまでした!」


「食い過ぎだ阿呆!!」


 フォルマンが怒鳴った。


「いやぁ、美味しかったです! これはどなたが作ったんですか?」


「私です。お口にあったようで良かったです」


 フェンリィは嬉しそうに口元を笑わせた。


『ぐぬぅ! 羨ましいでござる! 拙者もフェンリィ殿の手料理を食べたかったでござる!』


「それにしても一切見たことない料理でした。結構色んな料理を見てきたのですが……」


「この前、市場で私の知らない料理が数多く載った料理本を見つけまして、これらはその料理本に書いてあった料理です。著者の名前はたしか、アントナン=カレーム……だったと思います」


「アントナン=カレーム……知らない名前ですね」


「料理の話はこの辺りでいいでしょう」


 フェンリィの側に立つフォルマンが話を切り出す。


「貴様は言ったな、要塞を作ると。一体どうやって要塞を作るのだ?」


「僕は結界師です。結界で城と城の周囲の防御を固めます」


「結界師!? そうですか、あの奇妙な術が結界術なのですね」


 フォルマンはフェンリィの耳に唇を寄せる。


「……姫様、アレを普通の結界術と一緒にしてはダメです。彼の結界術の練度は、そこらの結界術の比になりません」


 フォルマンは皇族の居城で執事長を務めていた。皇族の居城となれば、当然専属の結界師が多数いた。

 帝国が誇る凄腕の結界師たちだ。だが、その誰もが、即席の結界にあれだけの効果を付けることはできなかった。

 フォルマンにはわかる、目の前の青年がどれだけ異質なのかが。


「僕は1つの結界に2つ術式効果を乗せられます。乗せられる術式効果の種類は全部で7種類。“消”、“壁”、“(ケン)”、“剛”、“隠”、“黙”、“沈”。魔道具があればあと3つ使える効果があるのですが、今は手元にないのでとりあえずこの7種で防備を固めます」


 準備さえあればシエルが使える術式効果は10種。即席ならば7種というわけだ。


「では、現状使える7種の術式効果をうまく組み合わせて、罠として設置していくというわけですね」


「はい。まず頭において欲しいルールが2つ。1つは結界は重複展開できないという点です。結界の中に結界を作る、ということができないというわけです。もう1つは結界の形は立方体オンリーということです。この2つのルールは絶対です」


「結界を並べて置くことは可能なのか?」


「できます。今回は城を囲むように結界を並べるつもりです。いま考えているのは4重結界ラインです。まず城を巨大な1つの結界で囲みます。この結界の術式効果は“剛”と“隠”を採用するつもりです」


「それぞれどういう効果なのですか?」


 フェンリィが聞く。


「“剛”は先ほど皆さんを囲った結界にも使った、結界内の僕が選んだ対象に剛力を与える効果です。“隠”は結界内の僕が選んだ対象を結界外から見えなくする術式効果です」


「ということは、城内の味方の能力を伸ばし、尚且つ姿を見えなくすることができるというわけか!」


「はい」


 フォルマンは驚きを隠せない。

 その2つの効果だけでもかなりの戦力アップに繋がる。


「次に第一結界ライン、一番外側の結界には“壁”と“消”を採用します。“壁”は結界を実体化させる効果、“消”は結界の魔力反応を消す術式効果です。“消”を使って魔力反応を消し、相手に悟られづらくした後で“壁”で阻みます。この結界には単純に壁として機能してもらいます。」


「物理的な足止めの結界で進路を妨害し、進軍を遅くさせるわけですね」

 

「その通り。

 第二結界ラインは“嫌”と“消”。“嫌”は結界に強烈な嫌悪感を与えます。動物や魔獣避けに使えますし、人間相手でもある程度の威圧感を与えられます。ただし、魔術で威圧感を演出されているとバレれば効果は薄まるので、“消”も併用します。騎兵はこれで潰せます」


「飛竜や馬を跳ねのけられるなら一気に楽になるな……!」


「第三結界ラインには“消”と“沈”を採用します。“沈”は結界内の重力を上げる術式効果、まず中に入れば並大抵の人間は地面にへばりつきます。もしそこまで来られたら僕が後出しで結界を起動し、相手の足を止めます。“消”で結界の探知をできないようにして“沈”の効果を確実に与えます」


 シエルは兵士の1人に紙とペンを用意してもらい、図で示す。


「これが全体図です」



□□□□□□□□□□□□□□

□■■■■■■■■■■■■□

□■◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇■□

□■◇        ◇■□

□■◇        ◇■□

□■◇   城    ◇■□

□■◇        ◇■□

□■◇        ◇■□

□■◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇■□

□■■■■■■■■■■■■□

□□□□□□□□□□□□□□


□→“消”、“壁”

■→“消”、“嫌”

◇→“消”、“沈”

城周辺→“剛”、“隠”


 フェンリィとフォルマンは図を見て息を呑む。

 たしかにこれだけ結界を敷き詰めれば、ここは要塞と呼んで差し支えないほどの防衛能力を得るだろう。


 だが、これほどの結界を同時に展開できる、この青年の魔力量は一体――


「基本的に使う武器は弓や大砲。それと遠距離魔術で、城から出ずに相手を狙えるものにしてください。城から一歩も出ず、敵を殲滅しましょう」


「話はわかりました。ですが、こんな量の結界、1晩で作れるのですか?」


「採血器具があれば問題なく作れると思います」


「たしか医務室に注射器があったはずです」


「じゃあ条件はクリアだ。早速取り掛かりましょう」

 


 ◆◆◆



 その男は齢10歳でクマを素手で絞め殺した。

 名はベアーエイジ。10歳で身長180cmを超え、現在32歳になると220cmという巨漢に育った。


 革命が成される前も成された後も彼は帝国軍に居続けた。彼にとって主君が誰であるかはどうでもよかった。彼が欲するは人間を殺す権利のみ。


 そんな彼は此度の黒竜討伐部隊の隊長に選ばれた。


 ベアーエイジは533名の大軍を従えて〈カルミナ城〉に向かった。カタストロフ率いる下見部隊からの連絡がそこで途絶えたからだ。


 ベアーエイジは軍の中団に居る。

 彼の体躯を支えるため、彼が乗る馬もまた巨大だ。周りも騎兵なのに、彼は頭2つ抜けて見えた。


「ベアーエイジ二級隊士。そろそろカタストロフが消息を絶った場所に着きます」


「わかった」


 彼らは目的地に到着した。


 カタストロフが居なくなった晩から13時間が経過している。

 すでに昼。太陽はギラギラに輝いていて視界は良好だ。

 


 なのに533名の兵士……ベアーエイジを入れて534名の兵士は目撃できなかった。



 そこにあるはずの巨城を、誰も見ることができなかった。


「なんだと!?」


 兵士の1人が声を上げる。


 おかしい。明らかな違和感を正面から感じる。

 目の前には木々が一切ない剥げた大地があるのみだ。

 なのに強烈な威圧感だけはたしかにある。


「全軍停止せよ」


 ベアーエイジの声で全軍が停止する。


「……ありえん、まさかっ!!」


 ベアーエイジは戦慄した。


 ベアーエイジはわかっていた、目の前に結界が張られていることを。


 なぜならベアーエイジはこのパターンを3度経験している。

 昔、彼は迦楼羅率いる革命軍の根城を3度襲ったことがある。その3度はどれも惨敗だった。絶対に勝てるという頭数を揃えて、なお敗北した。ベアーエイジは3度とも生死を彷徨うほどのダメージを受けた。


 ベアーエイジにとってのトラウマとも呼べるその3度の攻城戦。その時、革命軍の城を守っていた者の中には常に――彼が居た。あの白髪の結界師だ。


 自身の直感が、彼の存在を感じていた。


「ベアーエイジ様、どうなされました?」


「いかん……これはダメだ。奴が居るとしたら、準備が不足している! 全軍、てっ――」


 ベアーエイジが撤退の指示を出す前に、ベアーエイジの心臓が水の雫によって撃ち抜かれた。


(なっ!?)


 ベアーエイジはそのまま絶命し、落馬した。

 混乱する帝国軍を尻目に、透明の城の屋根の上で水鉄砲を構えた青年は呟く。



「敵将、打ち取ったり」


全体図のとこ見にくかったらすみません

頑張ったのでブクマと評価お願いします。

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