第七話 結界師、撃ちまくる
水鉄砲の容量は600ml。
1発の消費量は30ml。満タンなら単純計算で20発は撃てる。
シエルは結界の屋根の上で後ずさり、結界越しに水鉄砲を撃ち始めた。水の弾丸は結界を貫き、敵を貫く。
乱れ撃たれる水弾。しかしその精度は高く、的確に急所を撃ち抜いていく。
反撃として放たれる魔術。炎や雷、水。それらは結界の壁に阻まれシエルに届かない。
『強ポジから敵を撃ちまくるでござる!』
シエルの撃つ弾は結界に1cmの穴も残さない。この穴を通すことのできる魔術を帝国軍は持ち合わせていない。
透明な壁を挟み、一方的にシエルが敵の数を減らしていく。
「なんだ……なんなんだお前!?」
カタストロフの威勢が消える。
突如現れた青年に部下たちが蹂躙されていく。如何なる反撃もシエルには届かない。
(前まではロクな攻撃手段がなかった。誰かと組まないと十分な働きができなかった。でも今はシモさんがいる! 結界で安全圏を作り、シモさんで遠方から敵を撃ち抜ける!)
思わず笑みが零れる。
「僕たち、相性バッチリだね」
『ぬはは! そうでござるな! ソロプレイにはないこの安心感! デュオも悪くないでござる!』
パリン! と地上の剣士たちに結界の一部が壊され、結界の中に侵入される。
「姫様を奪え! それさえとればここに用はない!」
『シエル殿、援護を!』
「必要ない」
さっきまで押されっぱなしだった新帝国軍の兵士たちはあっという間に侵入してきた兵士を押し返した。
「オラァ! 軽い軽い!」
「なんだコレ! スゲー調子がいいぜ!」
“剛”は結界内のシエルが選んだ対象に剛力を与える。
結界による身体強化により、新帝国軍の兵士の能力が帝国軍の能力を上回った。
シエルは結界から出ようとする兵士に「待ってください!」と声をかける。
「結界から出たら強化が切れます! 中に籠っていてください!」
シエルはフォルマンに目配せする。結界に知識のあるフォルマンは頷く。
「総員! あの青年の言う通りにしろ! この立方体から出るな!」
『シエル殿! 6時の方向!』
「……っ!」
シエルの背後にダガーを持った兵士が迫る。結界の外を回り込み、のぼってきたのだ。
シエルは振り返らず、脇から水鉄砲の顔を出し、引き金を引く。
「ぐわ!」
水の弾丸が兵士の頭を撃ち抜いた。
『シエル殿! 10時の方向、翼の音が聞こえるでござる!』
「飛竜か!」
二階の窓を突き破りシエルに向かって飛んでくる飛竜が1匹。
待ち構えていたシエルは水弾で飛竜と兵士の頭を撃ち抜いた。
「シモさん、耳良いね」
『FPSで勝ち抜くためには、微かな足音や銃声から相手の位置を割り出す技術が必須でござるからな! 耳の良さは生存力に直結するでござる!』
渾身の攻めを押し返されたカタストロフは入口の方を見た。
シエルは左手の包帯を外し、ジーク戦でボロボロにした左手を晒す。
『シエル殿! それ以上の出血は……!』
「逃がすと面倒だ!」
シエルは兵士が落としたダガーを拾い、左手を傷つけ血を染み出させる。
そのまま血を水鉄砲に補給。
退散しようとするカタストロフ。
シエルは入口扉の周辺に4つの血弾を撃ち込む。
「“壁”!!」
扉に向かって走り出したカタストロフは扉を囲うように展開された結界にぶつかる。
「ちっ! また結界かよ!」
カタストロフ以外の逃げようとした兵士たちも結界に阻まれる。
その隙にシエルは結界を降り、先ほど敵兵士が空けた穴から結界内に入る。
「すみません、誰か水を持ってませんか?」
今の血弾で水鉄砲の中は空になった。
「私にお任せください!」
フェンリィが前に出る。
「《水の恵みよ、天より注げ!》」
フェンリィが言うと空から水が断続的に流れ落ちてきた。小さな滝のようだ。
(水の操霊術か! 良い術を持ってる!)
シエルは水を補給し、そして帝国兵に向ける。
「ひぃ!?」
振り返ったカタストロフはその場に崩れ落ちる。
放たれる無数の水弾。カタストロフ以外の兵士たちは水に撃ち抜かれ、倒れ込む。
「……勝負は決した」
シエルは小さく呟いた。
残されるはカタストロフ1人。
「後は、私がやります」
レイピアを抜き、フェンリィは結界から出てカタストロフに近づいていく。
「姫様! お待ちください!」
フェンリィを追おうとしたフォルマンを、シエルが掴み止めた。
シエルは首を横に振る。フォルマンはシエルの表情に諭され、結界の中に留まった。
「……私が終わらせる」
「箱入り娘が! この私に勝てるとでも!」
カタストロフは腰の剣を抜き、襲い掛かるが、フェンリィはレイピアの突きで相手の持ち手を穿った。
「いってぇ!!」
カタストロフは剣を手放し、結界に背を当て腰をついた。
「待て! 待ちましょう姫様! アレです! ほら! 忠誠誓いますぅ! すみませんでしたぁ!」
床に頭を擦りつけるカタストロフ。
フェンリィは呆れて言葉に詰まっている様子だ。
もはや言葉は不要だと判断したフェンリィは、レイピアを突き付ける。
「待ってください! 私を殺すと、もっと多くの大軍が攻めてきますよぉ!」
「……」
「嘘じゃ無いです! この辺りで出たらしい黒竜を捕縛するため、我が軍は隊を編成したのです! 我々はこの辺りの地理を把握する下見部隊でして! 私が戻らなければ本隊である500を超える人数が攻めてきます! 私がここへ向かったことは通達済みゆえ! 私が消息を絶てば黒竜がここに現れたと勘違いして、明日には押し寄せてきまするぞ!」
「……カタストロフ。ありがとう」
「では!」
「最後に、初めて役に立ったわね」
「ふへ?」
フェンリィはレイピアでカタストロフの胸の中心を貫いた。
「うっ、……あああぁ! うわああああああああああああっっっ!!」
カタストロフは痛みに悶える。
「いだいっ! いだいよぉ!! やだ、死にたくなぁい!」
地を這い、カタストロフは先ほど自分が落とした剣に手を伸ばす。
「……っ!」
フェンリィは唇を噛み、とどめの一撃を首筋に突き刺した。
フェンリィは尋常じゃない汗の量だ。彼女にとって、実はこれが初めての殺人なのである。
「姫様……」
「いつかは乗り越えなければならないことよ」
フェンリィはレイピアの血を払い、鞘に納める。
「問題は次に来る大軍よ。嘘の可能性もあるけれど、もし本当ならまずいわ。まだ怪我人を動かすのは無理でしょうし」
「こんな防衛設備のない城では、500をも軍勢を捌くのは不可能です。ここは、切り捨てる選択も視野に入れなくては……」
フォルマンの提案に、フェンリィは苦い顔をする。
切り捨てる選択。それは即ち怪我人を見捨てて、自分たちだけ逃げるということだ。
「撃退しましょう」
そう提案するはシエル。
「なにを言っている! こんなボロ城で対抗するのは不可能だ! 戦闘員だって30も居ないというのに!」
「要塞を作りましょう」
「はぁ?」
フェンリィは目を丸くして問う。
「要塞を作る……? ここに、軍が来るまでの間に?」
「はい。一日あれば足りるかと思いますよ? 僕に任せてください」
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