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第六話 結界師、人を助ける

「なんですって!?」


「……どうして帝国軍の接近がわかったんですか?」


 シエルの問いにフォルマンが正直に返すわけもなく、


「貴様には関係ない! 早く出ていけ!」


「いいわ。答えてあげて」


「姫様……!」


 フォルマンは言い争いする時間を省く。


「……監視役の私の使い魔が発見した。場所はここから西に2000m地点。数はおよそ100」


 2000m……相手が魔術師のチームなら10分かからない。


「すぐに防衛の準備を! 西側に砲台を集中させて!」


「御意!」


 フェンリィの指示を受けフォルマンは動き出す。


「こっちの人数は?」


「戦力になるのは精々30人程度です」


「そんな戦力で戦う気ですか? 無茶だ。逃げた方がいい!」


「この城内には魔獣との戦いで負傷した兵士や黒竜騒ぎで傷ついた市民がいます。彼らを連れて逃げるのは不可能です」


 シエルは言葉に詰まる。


「申し訳ありませんが、1人で帰っていただけますか? 東に走っていけば巻き込まれることはないと思います」


 そう言ってフェンリィは廊下を走っていった。


『シエル殿! 我々も加勢に!』


「……駄目だ」


『なぜ!?』


「僕らの目的は転生者の殲滅、帝国軍と戦うことじゃない。僕の存在が帝国軍に割れると動きがかなり制限される恐れがある」


『しかし……しかし!』


「僕は元々革命軍の幹部だったんだ。ここで彼らに協力すればA級の裏切者になる」


『……拙者はバッグの中からフェンリィ殿の行動を確認していたでござる! フェンリィ殿はジークの蛮行によって傷ついた者たちを1人1人手当して回っていた! フォルマン殿や他の者たちも同じでござる! 市民のピンチに駆けつけることすらしなかった帝国軍とフェンリィ殿たちのどちらが善かは明らかでござる!』


「彼らには申し訳ないけど、つまらない正義感に身を(ゆだ)ねる気はない!」


 シモは食い下がる。


『シエル殿がいまやろうとしてる転生者の殲滅とは、つまらない正義感から出た目標ではないのでござらぬか!?』


「……っ!」


『拙者の大好きなヒーローたちはいつだって! 己のつまらない正義感に命を賭けてきた! 否! つまらぬ正義感に命を賭けられる者こそヒーローと呼ばれるでござる! つまらない正義感に身を委ねることは決して、間違いではないで思うとござる……』


 シモの声がか細くなっていく。


『なんて、ヒキニートの拙者が言っても説得力の欠片もないでござるな』


「いや」


 シエルはシモを握りしめる。


「僕が間違ってた。ありがとうシモさん、僕はまた過ちを繰り返すところだった……」



 ◆◆◆



 〈カルミナ城〉一階、玄関広間。

 新帝国軍の兵士たちは隊列を組んで固まっている。隊列の最後尾はフェンリィとフォルマンだ。フォルマンはフェンリィを庇うようにして立っている。


 玄関には帝国の紋章をマントに刻んだロン毛の騎士が、兵を率いて侵入してきていた。


「おやおや~? まさかこんなところに居なさるとはねぇ~?」


 ロン毛の騎士はフェンリィを蛇のような目で見る。


「ようやく見つけましたよ。第23代皇帝“ダスティロン=グリンカムビ”が1人娘、“シェリア=グリンカムビ”様。お久しぶりです」


 ロン毛の騎士は丁寧な態度でお辞儀したが、フェンリィには挑発に思えた。


「どうやってここを見つけたのですか?」


「ここら周辺の地域で麗人を筆頭とした集団が慈善行為をしているという情報が入ってね、以前、帝国軍が使っていた城にまさかと思って来てみたらビンゴ! この地域には黒竜とやらの偵察で来たのですが、思わぬ副産物だ」


「カタストロフ! 貴様ぁ!!」


「これはこれはフォルマン執事長。貴方もお久しぶりですね」


「裏切り者め! 仕えていた主に刃を向けるとは、恥を知れ!!」


「私は私の利益になる者に仕えるのです。私に見返りを用意できなくなったそちらに非があるのでは? 忠誠心は通貨になりえない」


「くっ……!」


「シェリア様。おとなしくこちらへ。そうすれば、他の者たちには手を出しません」


 フェンリィはフォルマンの前に出る。


「姫様!」


「1つ聞かせてください。あなたの目的は皇族の血筋を根絶やしにすること?」


「いやいや違いますよ。私はあなた様を殺す気はありません。姫様、私は昔からあなたのことが好きでした。その高貴なプライド、屈しない心……いつかそれらを存分に辱めたいと願っていた」


 カタストロフは口角を裂き曲げらせ、下衆な笑顔を浮かべる。


「慰み者として、あなたを求めてきたのです」


 カタストロフの背後の兵士たちも笑い出す。

 彼らは全員、フェンリィに仕えていたことのある人間だ。性欲に満ちた視線がフェンリィに向けられる。


「貴様らに、貴様らに騎士のプライドはないのか……!」


 フォルマンが怒りに身を任せ前に出ようとするが、フェンリィがそれを制する。


「……それで他の者に手を出さないのなら、私は従う」


「姫様!?」


「はっはっは! ……やはり、あなたはいい! その気高い精神、存分に可愛がってあげますよ!!」


 フェンリィが兵士たちの間を歩いていく。


「みんな、私のわがままに付き合ってくれてありがとう。……せめて、幸せに生きて」


「姫様……!」


 新帝国兵の面々はフェンリィを止めようとしなかった。できなかった。

 ここでフェンリィを止めれば戦いになり、フェンリィ含め全員が殺されるのがオチだ。全員、それがわかっていた。


 止められない。この場に居る誰にも、フェンリィを止めることができない。

 フェンリィは悔しそうに唇を噛みしめる。


(こんな、ところで……!)


 フェンリィが兵士全員の前に出ようとした時だった。



――血のついた小石が新帝国軍の兵士たちの周囲に4つ落ちた。



「“(ゴウ)”、“(ヘキ)”」


 優雅な足取りで歩くフェンリィ、だが、


「ぶへっ!?」


 フェンリィは見えない壁に顔面をぶつけ、後ずさり、尻もちをついた。

 フェンリィは鼻を押さえながら周囲を見渡す。


「……な、なに!?」


 フェンリィは上から気配を感じ、天井を見上げる。フォルマン、カタストロフも同時に同じ場所を見た。


 そこには、浮遊する青年が1人。否、浮遊しているように見える青年が1人――シエル=ホワイトアイだ。


 彼は新帝国軍を囲んだ結界を足場に立っていた。


「シエルさん……!?」


 フォルマンは周囲に貼られた立方体の魔力の壁を見る。


「これは結界、か?」


 シエルは水鉄砲を構える。


「行くよシモさん」

『目指せ100キル!』

「――ゲームスタートだ!」

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