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第五話 結界師、尋問される

「それでは尋問を始めます。

 尋問はこの私“フォルマン=ゲルド”が担当します」


 薄暗い部屋。

 ロウソクに蠅がたかる汚い部屋で、シエルは頬のこけた中年の男――フォルマンと対峙していた。


「待って。フォルマン」


 新たに1人の女性が部屋に入ってくる。

 先ほどシエルに平手打ちを繰り出した女騎士だ。


「私が話すわ。2人にしてちょうだい」


「……姫様、それは」


(姫様?)


 女騎士はフォルマンと目を合わせる。

 女騎士の目には確固たる意志が見えた。フォルマンは呆れた様子でため息をつき、


「せめて、私も同伴させてください。こんな得体の知れない男と2人になるのは危険です!」


「いらない」


 女騎士の頑なな面持ちから、説得は不可能だと判断し、ブツブツと文句を垂れながらフォルマンは席を離れる。


「いいか貴様、この方に手を出たら臓物すべてに釘を刺すからな……!」


 目からビームを出しそうな勢いでフォルマンはシエルを一瞥し、退出した。

 シエルは女騎士と1対1になる。


「“フェンリィ=ラッツァ”です。よろしくお願いします」


「シエル=ホワイトアイです。よろしくお願いします」


 シエルは改めて彼女を観察する。


 青空を思わせるショートの青髪、髪の美しさに負けない綺麗な翡翠の瞳が特徴的だ。

 歳は15か16程、大人っぽい落ち着いた雰囲気を作ろうとしている努力は見えるが、子供っぽいあどけない空気が隠し切れていない。


 こんなオンボロの城には釣り合わない気品さが垣間見える。そんな女性だった。


「では話に――」


「フェンリィさん。話の前に1つ聞きたいのですが」


「なんでしょうか?」


「あなたたち、帝国軍じゃないですよね?」


 シエルは逃げようとすればいつでも逃げられた。なのになぜ逃げなかったか、それは彼女たちの軍服の紋章がシエルの知っている帝国軍のモノと違ったからだ。


「今の帝国軍の紋章は黄金の矢を背景にした黒鳥(こくちょう)の絵だ。でもあなたたちのマントに描かれている紋章は剣を背景にした青い鳥の紋章……見たことがない。似ている物で旧帝国軍の紋章があるけど、あれは盾を背景に赤い鳥の紋章だったはず」


「その通りです。まず最初に言っておきますが、我々は言わば旧帝国軍の残党です」


「……じゃあなんで」


「旧帝国軍の紋章を使わないか。それは昔の帝国軍に戻る気がないからです。我々は過去にも現在にも()らない、新たな帝国軍を作るために存在する。いわば、新帝国軍です」


「革命軍、とは違うのですか?」


 青髪の女性――フェンリィは口ごもりつつ、


「……性質は同じです」


 少しだけ躊躇いの見える言い方だった。


 過去のシエルと同じ立場。


 しかしシエルが居た革命軍と比べ、規模は小さい。連れてこられた城はオンボロで基地として設備は甘く、ここに来るまでにすれ違った人数的に人員は100を割っている。口ぶりは大層だが、軍を名乗れるほどの戦力ではない。


「この辺りは帝国の管轄外だから、あなたたちは動きやすいわけだ」


「それもありますが、帝国軍の代わりにこの地区を守護してるのです。帝国は階位番外の街は放置していますからね」


 帝国ではどれだけ国に貢献したかで街にランキングが付けられる。上位49までは帝国の守護を得られるが、それに入らない番外の街には帝国はノータッチなのだ。

 ゆえに、それぞれの街はランキングを目指して奮起する。これにより税収入を伸ばすことが帝国の狙いだ。


 シエルがルパート&ジークと戦った街〈フィルランド〉は番外の街。誰かが守らなければあっという間に魔獣や賊に支配される。

 これまでは人知れずシエルが守護していたのだが、


(そっか。ここ最近、治安が少しだけ戻りつつあったのはこの人たちがいたからか……てっきり帝国軍が兵を派遣してくれたのだと思ってた)


 シエルは帝国に対して落胆した。


「次はこちらが質問する番です。あの場でなにが起こったかを教えてください」


 恐らくドラゴンが現れたことは彼女たちも把握しているだろう。

 それを踏まえて、嘘を組み立てる。


「質屋に物を売りに行った帰りにドラゴンが暴れている現場に居合わせました。ドラゴンが空高く飛んで、炎を吐いてきたので咄嗟に川に飛び込びました。川からあがったらドラゴンの姿はすでになかったので、その場に座り込んで休んでました。休んでたらあなたに会ったというわけです」


「そういえばあなたは水浸しでしたね。なるほど……」


 フェンリィはシエルの言葉を信じた。


 そもそもフェンリィはドラゴンの出現を自然現象だと捉えている。尋問という(てい)だが、シエルをここへ呼んだのはシエルを追い詰めるためではなく、純粋にドラゴンの情報が欲しかったからだ。執拗に問い詰めることはない。


「次の質問です」


 フェンリィの本命は次にする質問だ。


「これは何ですか?」


 フェンリィはポーチバッグから水鉄砲、シモを取り出し、机に置いた。


(シモさん、そこに居たんだ)


『こんな美少女のバッグに入れるとは! ラッキーでござる!』


 シモはなぜか嬉しそうだ。


「私は骨董品や美術品、工芸品に詳しいですが、こんなモノ見たことがありません」


 フェンリィはシモを手に取り、その白い指で銃身を撫でる。


『ぬほぉ!?』



……恐らくこの世で最も汚い喘ぎ声が響いた。



「こんな材質を私は知りません。それにこのフォルム、実にそそられます……!」


 フェンリィの目はウットリとし、頬には恍惚の色が浮かぶ。


「フェンリィさん?」


 シエルの声で、フェンリィはハッとし、


「すみません。私は武器に目が無くて……あくまで勘ですが、これは武器の類に思えます。どうでしょうか?」


「えっと、それについては僕も詳しくないんです。海辺で拾った物でして」


「そうですか……では、製造方法も知らない、というわけですね」


「はい」


 フェンリィはそれはもう残念そうにため息をついた。あわよくば、自分にも作ってもらおうと考えていたのだろう。


「そちらから聞きたいことがなければ、これで尋問は終わりにします」


「聞きたいことは、ある」


 シエルはフェンリィの目を見る。


「あなたの素性についてです」


 シエルは汗を掻いていた。


「フェンリィさんの髪と瞳、どちらも覚えがあります」


 その髪はある女性に、

 その瞳はある男性に似ている。


 加えて帝国軍の残党から“姫”と呼ばれていたこと。

 革命戦争末期から姿を消していたある存在を、シエルは頭に浮かべていた。


――もしそうなら。


 この革命軍の価値は跳ね上がる。


「……もしかしてあなたは」


「そこから先は、口にしない方が賢明かと……」


 フェンリィは腰のレイピアに手を伸ばした。

 尋問室に緊張が走る。


「……」

「……」


――ガタン!


「大変です! 姫様!」


 部屋に籠った緊張感を破り、フォルマンが入ってきた。

 フォルマンは跪き、興奮しながらも冷静な口調で話し出す。


「帝国軍がここ〈カルミナ城〉を目指して進軍中! まもなく到着します!」

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