第二話 結界師、喋る竜に出会う
水鉄砲を知らないシエルより、水鉄砲を知っているシモの方が驚きは大きかった。
明らかにシモの知っている水鉄砲と威力が段違いだった。それどころか本物の銃よりも威力は大きかったかもしれない。
カエルドリはシエルの10メートル先に落下する。
シエルはカエルドリの死体に近づき、傷口を確認する。
(傷の穴、大きさは1センチもない、5ミリほどだな。しかしなんて綺麗な傷跡だ……! 傷跡から今の一撃の切れ味の高さがわかる)
シエルは先ほどまでカエルドリが飛んでいた方を見上げる。
(目視できないところまで水は飛んでいた。最低でも射程は500m以上! この威力で射程が500……?)
シエルは水鉄砲の銃口を空を飛ぶカエルドリに向ける。
(距離は300ってところか)
ヒュン!
水鉄砲から発射された水の弾丸はカエルドリの首筋を撃ち抜いた。
(これだ! 弓矢と違って弾道のブレも反動もない。
初めて使う僕でもこれだけの命中精度を出せる!)
カエルドリが落下する。
矢を消費する弓と違い、消費するのはたった少しの水だけ。それでこの殺傷能力。
「……なんて武器だ。これがあれば僕1人でも」
その時だった。
「《雷胞纏い、直進せよ》!」
背後から女性の声。
シエルは振り返らず、横に大きく飛んだ。
――ズドン!
シエルの残像を雷が貫く。
『ななな、何事でござるかぁ!?』
シエルは今の術を知っている。
(【雷の操霊術】か! 雷の精霊に指示を与え、雷を発生させる技。中々の威力だ……)
術を放った女性は鋭い目つきでシエルを見つめている。
「へぇ、今の避けるんだ。やるじゃん。さすがは転生者に選ばれただけある」
女は、胸部から口元にかけて守る奇妙な形をした鎧を着ていた。
プロポーションはいいが見た目に気は使っていないのだろう。せっかくの金の髪はくすみがかっており、爪はガタガタだ。目つきも悪い。身なりから雑な性格なのだとわかる。
彼女の右肩の上には可愛らしい、ぬいぐるみのような子竜が乗っている。
『まったく、初撃は私に任せればいいものを……』
子竜が喋った。
「アンタの攻撃は私より目立つでしょうが! 不意打ちならまだ私の方が適任よ。それにしても転生者の魔力反応ってわかりやすいわね。アンタとまったく同じなんですもの」
『我々の創造主は女神だ。いわば女神の魔力反応……似ていて当然だ』
喋る竜を凝視した後、シエルは手元の喋る水鉄砲に視線を送る。
「シモさん、あの竜まさか――!」
『喋る竜がこの世界に居ないのなら……恐らく、転生者でござるな』
でも、あんな小さな竜なら怖くない。
そうシエルは思ったが、すぐに改めることになる。
「それじゃジーク……暴れていいわよ」
『言われずともそうするさ』
そう、シモと同じだ。見た目に惑わされてはいけない。
ジークと呼ばれた竜は倍、また倍と体を大きくしていく。
「ちょ、ちょっと、冗談でしょ?」
やがて竜は建物の背を越える。
『はわわわわわっ……!?』
巨大な翼竜が女性の頭上に飛び上がった。
『まさか竜殺しと謳われた私が、このような姿になるとはな』