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第一話 結界師、水鉄砲を使ってみる

「……」


 30センチほどの物体だ。

 シエルは知る(よし)もないが、これはこことは違う世界では“水鉄砲”と呼ばれるアイテムだ。

 銃弾の代わりに水を内包し、水を発射して対象を攻撃する――玩具である。


 シエルからすれば、得体の知れない喋る物体以外のなにものでもないのだが……。


『お! 貴殿、拙者の声が聞こえているでござるな!』


「……えーっと」


『拙者はFPSの猛者! ハンドルネーム“シモ=ヘイホー”でござる! おっと、これは申し訳ない。異世界人がFPSなど知るはずがなかった!』


 ハイテンションな口調。軽いが年季の感じる男の声だ。

 声から感じる年齢はシエルより10は上、30(なか)ばほど。


『なんとも巨大な体でござるが、もしや巨人族でござるな? すまないが一切体が動かん! 手を貸してはくれないだろうか!?』


 何らかの魔道具だろうか。

 明らかに超常のモノ。触れぬが安全か。


「よし!」


 シエルが選択した答えは――



◆◆◆




「すみません。これ買ってください」


 シエルは水鉄砲を拾い、その足で質屋に向かった。

 質屋のおじさんは水鉄砲を興味深く見る。


『なにを言ってるでござるかぁ!? ひょっとして貴殿は奴隷商人だったのか!? 拙者が身動き取れないことを良いことに、なんと悪逆非道な男なり!』


「見てくださいゴンさん、喋る魔道具ですよ。高く売れるんじゃないですか?」


 水鉄砲――シモはワーギャーと騒ぎ立てる。

 質屋のゴンは「なに言ってんだ?」と首を傾げた。


「コイツが喋る魔道具だと? 全然、声なんて聞こえないぜ」


「え?」


――それはおかしい。


 なぜならシモは店内に声が反響するレベルの大声を出している。

 ゴンがいくら高齢でも、聞き逃すはずがない。というか、自分の声が聞こえているのにシモの声が聞こえていないはずがないのだ。


(もしかして、僕にしか聞こえてないのか?)


 周囲の他の客も、この珍妙な物体に対して何のリアクションも取っていない。


「シエル、コイツはどうやって使うんだ?」


「それは……知りません」


 ゴンは数秒目を瞑り、


「見たことのない形状と素材だったから気にはなったが、使い方がわからない以上、売れる気がしねぇなぁ」


 ゴンはカウンター台にシモを置き、シエルの方へ押し返す。


「悪いが引き取ってくれ」


「そんな!? せめて500! いや300ゼラで買ってください! 今日のお昼の飯代だけでも……!」


「景気が悪いのはお前だけじゃねぇんだ」


「そこをなんとか!」


 床に額をこすりつけ、シエルは全力で頼み込む。


「もう三日もロクなもの食べてないんですぅ……」


 ゴンは「はぁ」とため息をつき、


「……俺だって明日の飯の種すら怪しいんだよ。全部、あの“開闢の矢”のせいでな」


「っ!?」


 “開闢の矢”。

 その単語を聞いた瞬間、シエルから勢いが消えた。


「あの矢のせいで革命は成され、そして……最悪の時代が始まった。元の時代が良かったわけじゃねぇが、今に比べりゃ平和だったな。これほどの重税、圧政はなかった」


 シエルの表情がみるみる暗くなる。


「まったく、今の皇帝様はなにを考えているやら。国民を苦しめて楽しいのかね」


『“開闢の矢”! なんとも拙者の中二心に響くワードでござるなぁ。一体どんな矢でござるか? シエル殿。シエル殿?』


 シエルは俯き、シモを回収する。


「……すみません。引き上げます」


「お、おう。そうか」


 いきなり意気消沈したシエルをゴンは疑問に感じたが、追及はしなかった。

 シエルは玄関に向かう。


 余談だが、シモの目は3つある。


 銃身の左右に1つずつと銃口に1つ。

 質屋の玄関先にある鏡を右の目からシモは見た。


『ぬわにぃ!?』


――鏡に映るカラフルなプラスティックな体。


 もしシモに人の体があったなら、全身から汗が止まらなかっただろう。

 なんせ、人に転生したと思っていた自分の体が水鉄砲になっていたのだから。


『もしかして、もしかして拙者――水鉄砲になってるぅ!?』


 その通りである。



◆◆◆



「それで、なんなの君」


 石垣から足をほっぽり出して、シエルは隣に転がるシモに語り掛ける。

 足の下には川が流れている。


『端的に言うならば、違う世界から転生してまいった元人間でござる』


「違う世界?」


『地球の日本という場所から来たでござる』


「にほん? 聞いたことないな。元々人間だったなら、歳はいくつ?」


『32でござる!』


「やっぱり僕より年上か」


――じゃあシモさんって呼ぶか。


『よもやよもやなり。まさか水鉄砲に転生するとは。たしかに女神殿は何に転生するかは言っていなかった』


「転生の次は女神か。本当なら『そんな存在認められるかー』ってツッコむところだけど、すでに目の前におかしな物があるから否定しきれない。もしかして、君の世界じゃ転生って結構当たり前だったりする?」


『転生など拙者も死ぬまで信じていなかったでござるよ。拙者が死んだ時、真っ白な空間で拙者は女神殿に会った。巨乳で、赤毛の女神殿……その美しさたるや名匠作りし彫刻像が動いているが如く』


「……一般的に僕らの想像する女神様と大差はなさそうだね」


『彼女はポテチを食べ、ソファーに寝転がっていた。その姿たるや、まるでGW最終日の予定を消化しきったJKが如く』


 ポテチ、JK、GW。どれもシエルの聞いたことのない単語だがとりあえずシエルはスルーした。


『彼女は言った。『100人の地球人を異世界に転生させる』と』


「100人!?」


『彼女は言った。『異世界を舞台に100人で殺し合い、最後に残った1人を好きな時代の地球に蘇生させる』と』


「……それが本当だとして、女神様はなんでそんなことをしたの?」


『彼女は腹を掻きながら言った……』


――暇つぶし。と。


 ガクン! とシエルは地面につけていた手を滑らせた。


「……暇つぶしに僕らの世界を使うな!」


『拙者としては不幸中の幸い。このバトルロイヤルに勝利し、そして! やるはずだった新作ゲーをやるのでござる! そこでシエル殿、どうか拙者にご助力願えんだろうか! どうやら拙者の声はシエル殿にしか届いていない様子、これは恐らくシエル殿が拙者のパートナーというパターン!』


「断る!」


『なんとぉ!?』


「僕に利益がない。そんな殺し合いに(きょう)じるなんてごめんだ。もしも君が物凄い武器とかだったなら、君を利用する()わりに手伝ってもよかったけど、そんなナリじゃねぇ……」


『ぬぬ……!』


「大体、君の今の姿って武器なの?」


『武器というより、玩具? でござる』


「へぇ。なにをする玩具なの?」


『水を噴射させ、ターゲットに浴びせる玩具でござる!』


 シエルは多少の興味を水鉄砲に宿した。


「一回だけ使ってみるかな。暇だし」


 シエルは水鉄砲を手に取る。


「どうやって使うの?」


『えっとでござるな……拙者の体のどこかに蓋がないでござるか?』


「ある」


 シエルは銃身上部後方についた白いポリエステルの蓋を回して外す。


「穴が空いてるよ」


『そこから水を入れるでござる』


 シエルは石垣から手を伸ばして川の水をすくいとる。


『入れたら蓋を締めて……持つ場所は――』


 シエルはシモの指示通りに動き、水鉄砲を構える。


「この穴から水が出るんだね?」


『そうでござる。真っすぐ出るでござるよ』


「ここを人差し指で引けば水が出ると」


『そうでござる。ちなみに、その部位の名称は引金でござるよ』


「引金ね。よし。じゃあ」


 その時、シエルの視界に空を飛ぶ鳥が入った。

 上空50メートルほどを飛ぶ鳥だ。蛙に似た顔をしている。


「あの鳥でも狙ってみようか。カエルドリって言って、脂が乗ってて美味しいんだよねぇ」


『ははは! シエル殿、水鉄砲の射程は10メートルもないでござる。当たるはずが――』


 シエルはカエルドリに銃口を向け引金を引く。


 ヒュン! と一筋の流れ星が空を彩った。


 水鉄砲からレーザービームのような水が発射され、カエルドリの顎から脳天を貫いた。

 その一撃がどれだけ強力だったか、異質だったか、戦場を渡り歩いていたシエルには理解できた。


 色んな情報を処理し終えたシエルは、口をあんぐりと開けた。


「~~~~~~~~っっ!!?(声にならない叫び)」


『~~~~~~~~~~~~っ!!!!!??(声にならない叫び)』

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― 新着の感想 ―
[良い点] アレですね、超高圧の水はダイヤモンドすら削る。
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