第十一話 結界師、旅を始める
城の前で、シエルは自分がした約束について後悔していた。
「はぁ……余計なお荷物抱えちゃったなぁ」
『そうでもないでござるよ』
ポケットに雑に突っ込まれているシモが言う。
『彼女の水を出す魔術は拙者と相性がいいでござる。シエル殿は水を出せないでござろう?』
「そうだけどさ」
「お荷物ですみませんね」
強い声色で、城から出てきたフェンリィが言った。
フェンリィは睨みつけるようにシエルを見ている。シエルが正体をばらしたことで、フェンリィからシエルへの信頼や尊敬はかなり低下したのだった。
「別にあなたに守ってもらわずとも、自分の身は自分で守れます!」
「……じゃあ1人で行けばいいんじゃない?」
「フォルマンがあなたについて行けとしつこく言うので、残念ながらあなたと一緒に居ることにします」
プイッとフェンリィは顔を背ける。
「随分嫌われちゃったなぁ」
――当然だけどさ。
「ところで、服装変えたんだね」
フェンリィの服装は一新されている。
新帝国軍の紋章がついたマントは外し、足や腰についた鎧もなくなっている。鎧は胸と腕だけに絞られており、軽装だ。傍から見れば冒険者の女剣士って感じだ。
「ええ。目立つわけにはいきませんからね」
『むほぉ! 鎧が薄くなってフェンリィ殿の魅力倍増でござる!!』
「似合ってるよ。できれば髪の色も変えてほしいけど」
「髪染めの道具がなくて。それに……あまりこの髪に手は加えたくないのです。お母様からもらったものですから」
フェンリィは寂しそうに言った。
シエルは自分の発言を反省する。
「……そっか。ごめん、無神経なこと言ったね」
「いえ、気になさらず。ただのわがままです」
シエルは後ろめたい気持ちを抱きつつ微笑んだ。
「あと君の素性がバレないよう、敬語とかは一切使わない気でいくから。先に謝っておくね」
「別に構いません。お姫様扱いは一切しないでいいですよ」
「言ったね? 今の言葉、ちゃんと覚えておきなよ」
シエルは言質を取った。
「どうやら、打ち解けたようですな」
城からフォルマンと部下たちがやってきた。
「別にそんなことはないわ」
フェンリィは否定する。
「シエル。我々がこの大陸に戻るまで、姫様を頼んだぞ」
「いつ頃戻ってくるんですか?」
「100日後に地下都市〈アヴァンギオン〉で落ち合おう」
シエルは腕を組み、〈アヴァンギオン〉の情報を頭に浮かべる。
「いいですね……あそこなら帝国の監視は緩い」
「〈アヴァンギオン〉の〈ローズヒップ〉という酒場は我々の仲間が経営している。その酒場に来てくれ。姫様の顔を見せれば匿ってくれる」
「わかりました。それでいきましょう」
話が終わったところでフェンリィが前に出た。
「フォルマン……」
フェンリィは涙ぐんでいる。
「姫様……どうかご無事で」
「ええ。あなたこそ、健康には気を付けなさい。いつも、あなたは自分のことをなおざりにするから」
フェンリィとフォルマンは抱きしめ合う。
親を失ったフェンリィと妻子を失ったフォルマン。2人の姿は父と子のようだった。まるでなにかを補うように抱きしめ合う。
「では、暫しの別れです」
「またね、フォルマン」
フォルマンとその部下たちは東の方へ歩いていく。
フェンリィは彼らの姿が見えなくなるまで、見つめ続けた。
「それじゃ、僕らも行こうか」
「はい!」
シエルとフェンリィは森の隙間を歩いていく。
彼らの旅を祝福するように、太陽が輝いていた。
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