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第十話 結界師、約束する

 フェンリィは咄嗟に腰のレイピアに手を伸ばした。


「……聞いたことがあります。

 迦楼羅の部下に、凄腕の結界師が居たと。それがあなただったのですね」


「そうだよ」


 フェンリィはレイピアを抜き、剣先をシエルに向けた。


「……私の父は暴君でした。圧政を敷き、民に不要な負担を与えた。エルフやドワーフのような異種族を必要以上に弾圧した。紛れもない悪君です……ですが」


 フェンリィは涙を浮かべ、顔を上げる。



「私には、優しかったのです……!」



 フェンリィはその端正な顔を歪ませ、殺意を向けてくる。


「……いいよ。その刃で僕の心臓を貫くんだ」


『シエル殿!?』


 シエルは刃を防ごうとも避けようともしない。


「君には僕を裁く権利がある」


「――っ!!」


 フェンリィは剣を引くことも押すこともしない。

 ただ悔しそうに、残念そうに、涙を流した。


「どうして……どうして! 私を、私たちを助けたのですか!? あなたは我々の宿敵のはずでしょう!!」


「……今も昔も、僕の信念は1つだ」


 シエルはそっと笑う。


「信じてもらえないかもしれないけど――僕はただ、優しい人が、善人が幸せになれる世界を作りたかっただけなんだ」


「っ!?」


 フェンリィはシエルの顔を見て、刃を鞘に納めた。


「……守ってくれたことには礼を言います。ですが、すぐにここから消えてください」


 そう冷たく言って、屋根窓からフェンリィは城の中に戻る。


『これで良かったでござるか?』


「……いいんだよ、これで」


 シエルは屋根上から飛び降りる。


 いま城を囲む結界には結界内の味方を強化する“剛”がかけてある。例え全8階ある城から飛び降りても、ダメージはない。


――ドン!!


 地面にヒビをつけて着地する。

 シエルは結界の外へ向けて歩いていく。


 すると――


「待ちたまえ」


 城壁に背を預けた細長の男――フォルマンが呼び止めた。


「フォルマンさん、なにか御用ですか?」


「貴殿に頼みがある」


 先ほどのフェンリィの姿がデジャブする。


「姫様の専属騎士になってほしい」


「……無理です。先ほど姫様に嫌われちゃったんで」


「ほう。もしや貴様が迦楼羅の部下であったことを話したのか?」


 シエルは目を見開く。


「知って、いたんですね……」


「一度貴様を見たことがある……が、結界術を見るまではわからなかった。なんせ私が見た時の貴様は仮面を付け、ローブのフードを深く被っていたからな。顔ではわからん」


 シモのいないシエルのタイマン能力はたかが知れている。

 準備する時間があればいいが、よーいドンで戦えと言われればそこらの魔術師にすら負ける。ゆえに、闇討ちなどを避けるため顔は隠していたのだ。


「知っていてなお、僕に彼女を預ける気ですか?」


「ああそうだ。貴様は貴様の旅をすればいい。その横に姫様を置いてくれ。我々と共に行動するよりはるかに安全だ」


「あなたたちはなにをする気ですか?」


「海を渡り、ある男に会いに行く。――旧帝国軍最強の戦士“ガロ”」


「なっ!? あの人、まだ生きてたんですか!?」


 革命軍時代、最もシエルたちを苦しめた存在、猛将ガロ。

 武器を持たず、己の肉体1つで何百という兵士をなぎ倒す男だ。


「長い船旅になる。海は逃げ場がないからな、いざという時、姫様だけ逃がすということができないのだ」


「あなたたちが居なくなったら、誰がこの地域は守るんですか?」


「今回の一件で帝国軍は間違いなくこの地域に拠点を建てるだろう。なんせ何百という兵士を倒されたのだからな。警戒して戦力を投入する。そうなれば当然、補給資源である付近の街を守るはずだ。心配はいらない」


「たしかに、そうですね……」


 シエルは一度俯き、顔を上げた。


「――なぜですか?」


 シエルは問う。


「僕は革命軍、あなたの国を壊した人間ですよ? そんな人間になぜ……憎しみはないんですか?」


「あるさ。――私の妻子は革命軍に殺された」


 ヒュン。と心臓が締め付けられた。

 罪悪感という重りが体に巻き付く。


「……私は帝国の危機に妻子ではなく姫様を優先した。この選択を後悔したくない。例え憎い相手でも、姫様を守るためなら、国を取り戻すためなら利用するさ」


 シエルは心からフォルマンという男を尊敬した。

 妻と子を殺され、その一味だった人間を前にして、これだけ主君のことを考えられるなんて……これが騎士道なのだと、シエルは理解した。


「シエルという男がどれだけ罪を認識しているかはこの短い間でわかった。貴様のその罪悪感に付け込むようで悪いが、己の(おこな)いを後悔しているのならせめて、我らの力になってくれ」


「でも、僕は……もうどこかの軍に属することはできません」


「別に新帝国軍に入れと言っているわけではない。ただ少しの間、姫様を守ってくれればそれでいい。……だがもし、姫様と旅をして、あの方に王の器があると思ったなら……」


 フォルマンは手を差し伸べる。


「どうか、仲間になってくれ」


 シエルは右手を上げて、フォルマンの手を握らずに下げた。 


「わかりました、彼女は僕が守ります。だけど、僕は僕で目的があるので、そちらを優先させていただきます」


 フォルマンは残念そうに手を下げた。


「――わかった。それでいい」


 途中から2人の会話を、少女は入口扉の影で聞いていた。

 少女は決心したように右手を握り、城内に戻っていった。

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