第九話 結界師、告白する
「《集え、集え、集え――》」
城の屋根の上、シエルの後ろでフェンリィは詠唱する。
シエルの持つ水鉄砲に空いた穴に生成された水が集まっていく。
水鉄砲の水をフェンリィが補給し、シエルとシモはひたすら敵を撃ちまくる。理論上、フェンリィの魔力がなくなるまでシエルとシモは休みなしで撃ちつづけることができる。
ただでさえ結界に戸惑っている帝国兵は水の弾丸に対応できず、その数をみるみる減らしていく。
さらに追い打ちをかけるように城から大量の矢が放たれる。
「なんだ!? どこから矢が撃たれた!?」
結界から矢が出るまで帝国軍は矢を目視できない。帝国兵は突如現れた矢に撃ち抜かれていく。
「おい、なにか透明な壁があるぞ!」
「……駄目だ、生半可な攻撃じゃ壊れねぇ――うわぁ!!」
第一結界ライン、“壁”に足止めされている者たちは水と矢に撃ち抜かれていく。
「くそ! 飛竜が言うことを聞かん!」
「馬も駄目だ! 前に進まない!!」
第二結界ラインの“嫌”により飛竜と馬の足が止められる。その隙にシエルは飛竜の騎手を撃ち抜く。
(一番面倒なのは空から城に突っ込まれることだ。一番に空の刺客を警戒する)
「シエルさん! 第二結界ラインが突破されました!!」
第一結界ラインの“壁”と第二結界ラインの“嫌”を突破し、第三結界ラインに帝国兵が流れ込んでくる。無論、歩兵だ。
しかし第一結界ラインと第二結界ラインを突破するためにかなり疲弊していて足は遅い。
――恰好の的である。
「“消”、“沈”」
第三結界ラインの“沈”により、帝国兵は地面に平伏す。
「なんだよコレ!?」
「動けない……!」
平伏した帝国兵に大砲の弾が迫る。
「うわああああああああああああっっ!!!」
――一蹴。
(革命軍に居た頃を思い出すな……あの頃は結界を張って仕事は終わりだったけど、今は僕も防衛に参加できる)
帝国兵534名中、すでに322名を撃破。
20名が逃亡した。
初手で敵将を打ち取ったことで士気は低下。それからもシエルは指揮を執っている者を集中的に狙撃した。これにより指揮系統は滅茶苦茶になった。こんな混乱した軍隊でシエルの結界を全て突破することは不可能。
形勢は決まったと言っていい。
「こんなにも簡単に……」
フェンリィがそう驚くのも無理がない。シエル自身もあまりのスムーズさに驚きはある。
シエルの結界術に転生者シモを加えた防衛能力は1000人規模の要塞に匹敵する。
「敵軍、撤退を始めました!」
フェンリィが歓喜の叫びをあげる。
『夕飯はドン勝でござるな!』
「……シモさん、なにそれ?」
『バトロアで使う勝ち文句でござるよ』
こうして、防衛戦は新帝国軍が勝利した。
「やった! 勝ったぞ!!」
「ざまぁみやがれこの野郎!」
「すげぇ……あんな人数を、この数で……!」
城中から歓喜の声が上がる。
「さて、城の中に戻るかな」
シエルが城の中へ帰ろうとすると、
「シエルさん」
フェンリィがシエルを呼び止める。
「お願いがあります」
「なんですか?」
フェンリィはそっと自分の胸に手を当て、頭を下げた。
「どうか、私たち新帝国軍に入ってはいただけないでしょうか?」
あれだけの結界術を見せられれば誰でもシエルを自分の味方に引っ張り込みたいと思う。フェンリィの行動は自然の流れだった。
しかし、彼女は知らない。あのことを。
「此度の戦いで確信しました。あなたの結界術があれば、圧倒的不利も跳ね返せる。こんな崩壊寸前の我が軍にも光明が見えます! どうか! もちろん、それなりの地位を約束します!」
『悪くない誘いではないでござるか? 1人で戦うより、集団でいた方が好都合でござろう?』
シモはそう言うが、シエルは、
「ごめんね。僕は君たちの仲間にはなれない」
「……我々が、弱いからですか?」
「違うよ。僕には資格がないんだ」
「資格?」
シエルは言い淀む。
これを言ってしまえば、きっと、もう彼女は自分と会おうとすら思わないだろう。
それでも、シエルは決心して言う。
「僕は元々革命軍にいた」
「え……?」
「君のお父さんを殺すのに、僕は手を貸した。僕は――君のお父さんの仇だよ」
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