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いつかのはなし
月が鬱陶しい程に眩しい夜だった。
春になったばかりの風が馨しく吹き抜け、彼女の金色の髪を巻き上げていった。
その時、彼女は何を考えたのか。
差し出した手を握ることもせず、血濡れた唇で微笑んだのだ。
いつかのように、仕方のない子ね、とでも言いたげに。
弾丸が柔らかな胸を貫き、彼女はゆっくりと夜空を仰ぐように崩れ落ちた。
緑の草原に髪が散って、月光を跳ね返し輝く。
笑んだ形のままの瞳に、自分の無感動な顔が一瞬だけ映って消えた。
それだけが、その夜の確かな記憶だ。
後悔などなく、慙愧すらもなく。
ただ、この夜と彼女をそのうち忘れるだろうことだけ、確信があった。
薄情だと彼女は詰るだろうか。
むしろ、貴方らしいわねと笑うかもしれない。
今となっては分るはずもないが。
夜更け、彼女は死んだ。