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香水を否む

 授業は数分で終わりを告げた。新島が来たタイミングが悪かったようだ。次の授業の支度をしていると、高田が新島の肩を叩いた。

「昨日の件で話しがある」

「どうした。昨日? 蜂被害者の?」

「そう、それ」

「何を話すんだ?」

「新島と部長の推論は間違っている可能性が高い」

「はぁ? くわしく説明しろ」

「カースト下位の者にも被害者が出た。驚くのはまだ早い。被害者は香水を使っていなかったらしい。匂いの強い香水を使っていたら、教職員にバレている。つまり、昨日の結論では駄目だということだ」

「マジかよ......。そのことは、すでに先輩に伝えてあるのか?」

「まだだ」

「今日、部室行ったら早速推理の続きをしよう。乗りかかった船だ。ここで降りるのはフェアじゃない」

「わかった。俺も参加させてもらう」

「部員なんだから当然だ。部室に着いたら、もう少しくわしい説明を頼む」

「それまでには手帳にまとめておく」

 高田は手帳を上に掲げて、自分の胸を叩いた。


 新島は帰りのホームルームを終えると、急いで高田の座る椅子まで走っていった。

「事件について、ちゃんとまとまったか?」

「あらかた、まとまったと思う」

「よし。部室に行こう」

 高田は相槌を打ち、カバンを持って新島と並んで教室を出た。

 A棟七階の奥から二番目に部室を構える文芸部。文芸部部室の手前側の隣りには職員室があり、部室の奥側の隣りは空き部屋になっている。その空き部屋は、以前は何に使用されていたかは不明だ(作者注:『日常探偵団』作中で説明有り)。

 部室に入ると、当然見慣れた光景が目の前に広がった。一学年と二学年の授業が終わる時間は同じだ。だが、いつも土方は彼らより早く部室にいる。眠っている時も多々ある。新島たちは授業が終わってすぐに部室に向かった。しかし、彼女はソファで毛布をかぶって寝ている。なぜだろう。まったく以て、不思議でたまらない。

「先輩! 起きろ! 重大なことが起こったんだ!」

 十秒間、無反応だ。なのに彼女は、はたと体を起き上がらせたのだ!

「どうした、新島。重大なこととは何だ?」

「昨日話して、香水が原因って結論で終わった蜂被害事件だが、推論が間違っていた可能性が高いかもしれない」

「それには」土方は眠そうにしていた目を大きく開いた。「ちゃんとした根拠があるのか?」

「そのことは高田がくわしく説明する」

 高田はすかさず手帳を開いた。「はいっす。......被害者は部長の言うとおり三年生女生徒だけ。ただ、カースト上位の人物だけが被害者というのは、調べてみたら納得出来かねるっすね。

 まず、匂いの強い香水を使っていた点。蜂を引き寄せるほどの匂いの香水なら、蜂被害者から話しを聞いた教職員が気づかないはずがない。

 次に、被害者を調べた結果っす。そしたら、いかにも香水を使わなさそうな人物や学校でおとなしい生徒なども被害者に混ざっていた。つまり、蜂に襲われる理由がない」

「私も一つ。蜂は服の色とかでも襲われると聞いたことがあるが?」

 新島は記憶を辿った。「その色とは、黒だろ?」

「そう」

「八坂中学校の制服は青色だ。ジャージの場合は黒い部分はあるが、帰る際は必ず制服に着替えなくてはいけないからジャージもない。となると、髪だけになる。髪を隠すことは小学校の頃から教わっているはずだから、カバンで隠しただろう」

「だが、ミツバチ以外の蜂は白黒で色を判断するから明度の低い色は黒と判断してしまうらしい」

「制服とジャージは明度低くないだろ? ん?」新島は深く考えを巡らせた。「明度は低くないはずだ」

「なら」高田はスマートフォンをスライドさせた。「あとは匂いの強い制汗剤とかかな」

「高田! 馬鹿! スマホをカバンに戻せ!」

「急にどうしたんだ、新島」

「八坂中学校はスマホ持ち込み禁止だ」

「えっ? マジ?」

「マジだよ。先公に露見する前に隠せ」

「わ、わかった......」

 高田はスマートフォンをマナーモードにして、カバンの奥に突っ込んだ。「話しを戻す。制汗剤の可能性についてだ。制汗剤は男は使わないから、部長! くわしく説明をお願いっす!」

「制汗剤は汗をかいたあとなどに、制汗剤を使う。基本的に女子なら匂いのあるものを使用するんだ。だが......」土方は生徒手帳の校則が事細かく記されたページを開いた。「八坂中学校の校則では、匂いのある制汗剤は駄目なんだ。まあ、その校則を破って匂いのある制汗剤を使って汗を拭う者の方が圧倒的に多い。全校女生徒の大半が匂いのある制汗剤使っている者が占める」

「たださ、匂いのある制汗剤も香水と同じで近づいたらわかるだろ?」

「匂いの強い制汗剤は多数ある。確かに、匂いのある制汗剤を使用したなら一瞬でわかるはずだ。新島の言ったとおり、プンプン匂ってくる」

「じゃあ、制汗剤の説も駄目だな......」

 新島は椅子に腰を下ろし、机に肘をついた。窓の外に見える青空を見ながら、蜂に襲われた被害者が多数現れた原因について思考を凝らす。

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