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『弟みたい』と言わないで!  作者: 碌手 梨詩
1/3

恋愛対象に僕をして!

 ラブコメディ初挑戦です。ほのぼのした感じで書き進めていきますので、ぜひ読んでいっていただけると嬉しいです。



 始業式が終わり、学校から帰る。


 高校2年生になったらしいが実感はない。一年たったら急に背が伸びるとか、顔が大人っぽくなるとかがあればわかりやすいんだけどそんなことはあり得なかった。


 狭い道路を進み、雨上がりの道の水たまりを踏まないように歩く。こう、横から自動車が通ったときに水しぶきを飛ばすやつ。あれどうにかならないだろうか。雨の次の日はいっつもビクビクしていなきゃいけない。


 古臭い駄菓子屋の角を曲がって、大きなスーパーを過ぎる。小川というにはあまりに水の足りてない川に掛かる小さな橋を渡って、青とか赤とかソーラーパネルとか色々特徴のある屋根ばかりの住宅街を抜けた。


 するといよいよ目的地が見えてくる。愛しき我が家……ではない。そこは一人暮らしを始めたばかりの人が住みそうなアパート。家具付きーとか敷金0円ーとか謳っている某会社の建物だ。


 階段を上がって三番目の部屋、カメラ付きのインターフォンを押す。ピンポーンと大きな音が鳴り、


「はーい!」


 という声が中から聞こえた。足音が近づいてくる。ドキドキする胸を落ち着かせるため深呼吸を大きくした。ちょうど息を吸ったタイミングでドアが開く。


「あ、瑠衣くん!よかった、雨降らなかったんだね!じゃ、上がって上がって!」


 寝巻き姿で、右肩がシャツから出てしまっている黒髪ロングのお姉さんーー凛姉はそう言って僕を部屋に招き入れた。


 僕こと、咲間瑠衣(さくま るい)は恋をしている。同級生に、ではない。別に同い年が恋愛対象じゃないとかがあるわけではないけど。ただ好きな人は自分より四歳上の、言ってしまえばお姉さんだった。


 花巻凛(はなまき りん)。通称凛姉は市内の大学に通う、大学三年生だ。勉強が好きで真面目な人。他人への面倒見も良くて、小さい子から好かれやすそうだというのが僕の中でのイメージだ。いや、実はだらしないところもあるんだけど。


 身長は僕より少し高くて、長くて艶めいた黒髪は肩甲骨辺りまで伸びている。前髪は自然な感じで目までかかっていない。


 目元は少し下がっていて、大人しそうな雰囲気を出していた。唇は薄いピンク色。優しそうな顔立ちだから微笑みがよく似合う。


 プロポーションも多分いい。ウエスト細くて、胸大きいから。誤解しないでほしい、別に特別胸が好きだから言っているのではなくて客観的に見てもそうだから言っているのだ。包容力があるっていうか、その、そんな感じ。


 出会ったのは小学生の時。花巻さん家がうちのマンションの隣の部屋に越してきたときだ。僕が小学一年で凛姉は小学五年生。初めて話したとき、とにかく大人に見えたのを覚えている。


 それからよく、凛姉の部屋で遊んだりどこかに出かけたりした。言うなれば幼馴染という関係性なのかもしれない。


 近所のおばさん達なんかは昔よく僕らを見て、


「仲良いわねぇ。まるで姉弟みたい」


 と言っていた。それが気に食わなかった。だって僕は凛姉と対等になりたかったし認められたくもあったから。だからその度に、


「はい、瑠衣くんは私の弟みたいなものですから」


 そう答える凛姉の言葉に落ち込んでいた記憶がある。弟じゃなくて男として見てもらいたかったのに。当時の葛藤は忘れることができないだろう。


 時間は流れ、現在。高校2年生になった僕は一人暮らしを始めた凛姉の部屋に遊びに来ていた。年でいえば十七歳。もう立派な大人だ。だけど。


「瑠衣くんも、もう高校2年生だね〜。すっかりかっこいいお兄ちゃんになっちゃって!」


 えいえいと脇腹の辺りを指で突っつかれる。


「ちょ、やめてよ!そこ弱いんだから!」


 完全にまだ子供扱い。ここまで募らせた恋心は何の進展も生まず、二人の距離は『弟みたい』と言われていた頃と何にも変わっていなかった。


 正直ため息の一つもつきたくなる。恋愛対象として全く見られていない。だっていくら高校生だからと言って、部屋に男を上げるのにこの格好はないだろう。肩にはシャツをかけ直したものの半袖にハーフパンツなんて完璧に寝巻きだし、目のやり場に困る。太腿とか胸とか気になっちゃうし。


「あれ?どうしたの?瑠衣くんなんか顔赤いけど」


「えっ、いや……。急に突っついてくるからびっくりしただけ!凛姉のせい!」


 危ない。見てはいけないところに目を向けていた。こんなことがバレて変態だと思われたくはない。平静を取り戻そう、深呼吸……深呼吸……。


「あはは!ごめんごめん、今ジュース持ってくから奥で座っててね」


「うん、わかった」


 言われた通りに部屋の中に入る。別に初めて来たわけではないけれど、どうしても緊張してしまった。熊の大きなぬいぐるみが置かれていたり、可愛い写真たてが置かれていたりするから。そして何よりこの、石鹸みたいな仄かに香る匂い。これのせいでせっかく落ち着かせたはずの心臓がまたガンガン鳴り始めてしまうのだ。女の人の部屋に入ったって意識してしまう。


 覚悟を決めて中に踏み出し、背の低いテーブルの側にあぐらをかいて座る。すると凛姉がキッチン……というか廊下からやってきた。うん、あそこをキッチンと呼ぶにはあまりに狭い。


「お待たせ〜。はい、ぶどうジュース。氷は無しでいいんだよね?」


「うん。ありがとう」


 なみなみと注がれたジュースを口に含む。


「昔っから好きだよね。ぶどうジュース」


 ニコニコしながら凛姉が言う。それに、


「小さい頃、初めて凛姉の部屋で一緒に飲んだ思い出の飲み物だからね」


 とは言えるはずもなく。


「うん、好きだよ。美味しいからね」


 そんな素っ気ない返事になってしまった。我ながらどうして思ったことを言えないのだろう。もしかしたら今の一言で何か変わるかもしれないのにぃぃぃ。けれど自分を責めてみてもダメなものはダメ。今の簡単な言葉ですら僕にとってはヘソで茶を沸かすくらい難しいのだ。

 

「私も好きだから、なんか嬉しいかも」


 正座から女の子座りに崩しながら凛姉は言う。もうなんでこう、いちいちドキドキさせるようなことを言ってくるのか。


「そう?じゃあ、僕も嬉しい」


 そしてなんでこうまともな返しができないのだろう。今の返答は明らか100点中2点。会話も繋がらなければよく意味もわからない。コミュ障全開だ。


「ふふふ」


 口元を隠して凛姉が小さく笑う。


「何?」


「なんでもないよ」


 笑みを隠すみたいに凛姉もコップに口をつけた。喉に少しずつジュースが流れていくのが見えるような気がする。頑張って飲んでいるみたいに見える感じがとてもかわいかった。


「そう言えば、今日新学期ならクラス発表あったんでしょ?どうだったー?可愛い子いたー?」


 コップを置くとニヤニヤしながら聞いてくる。


「いないよ、別に」


「ダメだよー、せっかく高校生なんだから恋しなくっちゃ。相談ならお姉さんがいくらでも聞いたげるからね」


 いやアンタだ。アンタ。僕が好きなの。どうやって相談せいっちゅうんじゃ。


「はいはい。凛姉こそどうなの。彼氏とか、作んないの?」


 なんとなく聞けそうな雰囲気を感じて聞いてみる。予想外の答えが返ってこないか内心冷や汗ものだ。


「そうだなぁ……。友達とかみんな作ってるし私もそろそろ真剣に出会いを探そうかなぁ……」


 僕の思考に戦慄が走る。それはまずい。それだけは絶対に防がなくちゃいけない。


「!?いやいやいや凛姉にはまだ早いって!いや早いって言うか……そう!勉強とかの支障になっても嫌でしょ!?だからあんまり真剣に考えないほうがいいよ!!」


 思いつく限りを必死に言葉に変えて、止めようとする。割と額から汗が出かけていた。


「うーん……。それもそうだね!変に考えすぎない方がいっか!」


 ホッと一息、安心する。とりあえず最悪の事態にはならなかったらしい。凛姉は美人だから探し始めたら彼氏などすぐにできてしまうだろう。それは絶対に阻止しなくてはならない。何があっても。


「でも社会人になる前に一度くらい、ときめく恋がしてみたいなぁ……」


 誰に向けるでもなく凛姉が呟く。それを僕は聞き逃さなかった。社会人になる前に、の部分を強く胸に刻み付ける。


 その後、しばらく話した後凛姉がバイトの時間になったため家に帰ることになった。外まで見送りに出てきてくれている凛姉に手を振り帰路に着く。帰ったらすぐにありがとうとメッセージを送っておこうと思った。


 帰り道、僕は今日の凛姉の言葉を思い出す。「社会人になる前に一度くらい、ときめく恋がしてみたい」と言っていた。


 凛姉が大学を卒業するまで後二年。僕が高校を卒業するまでも後二年。新学期早々、残りの高校生活の目標が見つかった。


「凛姉をときめかせて、絶対付き合ってみせる」


 誰もいない道で呟く。


 11年間の想いを伝える覚悟を決めた。


 もう『弟みたい』とは言わせない!


 夕暮れに染まる空の下、僕は人生で一番大切な誓いを立てたのだった。



 早いペースを目指しますが、日常ものの難しさを感じました……。よければ次回もお付き合いください。

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