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一ヶ月に一度シーラがお城に行く機会に、レイフは魔道士の手帳をポケットに忍ばせてついていった。シーラの「いつものように、一緒にきて欲しい」という願いを断れず、この日はヨエルも一緒だった。彼はロバの背の荷物に器用につかまってウトウトとしている。
兵舎に着くと、アレクシスが待っていた。彼を見つけたシーラの頰は可愛く紅潮し、瞳はきらきらと輝く。到着の時に目を覚ましたヨエルは、ついてきたことを後悔しながらシーラから目を背けた。こんなに愛らしい表情を、彼は見たことがなかった。
一同が恭しく王子への挨拶を済ませると、アレクシスはまたシーラを誘って城内へと入っていった。ヨエルとレイフが魔女のかわりに魔法道具の納品の手続きを済ませ、後はシーラが戻ってくるのを待つばかりになった。
「私は眠いので、ロバの背にでもとまって寝てきます」
半分は本当で、半分はレイフと一緒にいるのが億劫で、ヨエルはその場から飛び立ってロバが繋いである厩の方へ飛んで行った。ヨエルを邪魔に思っていたレイフは、しめた、とばかりに、兵隊長との雑談をはじめた。兵隊長がアレクシス王子を良く思っていないことは、前回会った時になんとなく感じていたので、さりげなく反アレクシス派の勢力の情報を聞き出すつもりだった。
都合のいいことに、兵隊長はシーラの付き人というだけでレイフを信頼してくれたので、あっさりと彼も名実共に反アレクシス派に属していること、かなり中枢の人物であることが判明した。
「少し、場所を変えませんか。あまり、聞かれたくないことなんですが……」
レイフは兵隊長にそう切り出して、魔道士の手記の存在をこそっと耳打ちした。兵隊長は顔色を変えると、レイフを密談に最適な部屋に連れて行った。手記を読んだ隊長は興奮気味に言った。
「この手記が本物なら、間違いなくアレクシス王子を退けさせることができる! 軽くても追放……いや、十中八九処刑されるだろう。こんなものが残されていたなんて! ……しかし、あのフクロウさんがヨエル王子様かもしれないというのも、驚いたなぁ」
「隊長さんにお任せすれば、アレクシス王子を処刑までもっていけますか?」
「私だけの力では無理だが、当然全力を上げて取り組む。私達の悲願だからな。アレクシスを野放しにしておけば、そう遠くない未来に第三王子も殺されて、アレクシスが玉座に着く日が来てしまうかもしれない」
隊長は鼻息荒く、ただし小声で言った。そして「ただ……」と付け加える。
「この手記を持っている、手放したとしても内容を知っているあなたは、それだけで危険に晒されている。アレクシス派に知られれば、命を狙われる可能性もある。我々の仲間に入ってくれ。必ず守ろう。これは魔女もご存知なのか?」
「いえ、言っていません。彼女に関することも書かれていましたので。……ヨエルにも」
「なるほど……彼女も本当に、不憫な身の上だ」
レイフと隊長は後日また会うことを約束して、怪しまれないようさっさと兵舎に戻った。この王宮内のゴタゴタの決着には多少時間はかかるだろうが、まずは思った以上の収穫に、レイフは内心飛び跳ねるほどに喜んだ。